第29章 ── 第16話
セリソリアはケントに向き直り覚悟を決めたような顔になった。
「貴方様はどなたなのですか?」
「名前を聞いているワケじゃないよね……」
俺はあくまでも人間のつもりだが、そう言い張っても信じてはもらえないだろう。
まあ、だからといって神として君臨してるわけではないからなぁ。
何と言えばいいのやら……
そこでアモンがフッと挑発的な笑みと共に呟いた。
「君たち古代竜は魂の色を見ることは出来ないんですね。
その程度で我らの主を侮ったとは聞いて呆れます」
男性古代竜たちはムッとした顔に一瞬だけなったが、原初の魔族、それもカリス四天王における武の象徴に見境なく手を出すほど馬鹿ではないようだ。
確かにステータスを盗み見ると、マリスの父親キールの竜形態はレベル八〇を超えているし、ヤヌスに至ってはレベル九二だ。
人間形態はそれほどではなく、キールは六三でヤヌスは七四だ。
他の二人、母親のセリソリアは竜形態でレベル九〇、人間形態でレベル六九となっていて、ゲーリアは竜形態だとレベル六〇で、人間ではレベル五八だ。
この竜形態と人間形態のレベル差が無ければ無いほど頑張り屋さんである。
なのでゲーリアはかなり優秀だと見て良い。
ちなみにマリスですが、人間形態で一〇〇になったので、竜形態もレベル一〇〇のようです。
実はマリスが現在の古代竜最強かもしれん。
ベヒモスとテレジアは秩序の神ラーマの加護持ちではあるが、それだけだからねぇ。
俺とアイゼンとアースラの三つの加護を受けているマリスは、加護の補正でステータスが爆上りしているので、多分だけど秩序の守護者の古代竜よりステータスは上の可能性が高い。
本気を出されたら俺も勝てない気がします。
他の仲間も似たりよったりなので、実はパーティ内で俺が最弱なんじゃないかと不安になります。
まあ、神の権能を仕えば負けることはないけど、純粋なステータスのみで模擬戦したら敵わないだろうな……
セリソリアは目を見開いて俺を凝視する。
美女の目力はすげぇので、流石にドギマギしてしまいます……
「ま、まさか……」
「ようやく気づきましたか、ニズヘルグの新たなる当主よ?
初代から代を重ねて……貴女で四代目? 五代目ですか?
代が進むとそれだけ時間が掛かるのですね」
「この方からはカリスの魂を感じます……」
「それだけでなく、あの御方の魂まで……!?」
ティエルローゼを破壊せんと企んだ首魁のカリスの魂が俺の中にあるというのはハイヤーヴェルも言っていたが、やはり他人にそう言われると居心地は悪い。
俺の魂はハイヤーヴェルによれば創造神と破壊神のハイブリッドらしいんだが、本当にそうなのかは俺には解らない。
それを信じるにしろ信じないにしろ、何らかの力があることはのは間違いないのでそうなんだろうとハイヤーヴェルの言葉を信じただけだ。
「貴女は創造神ハイヤーヴェルの魂も感じ取れるのですか。いくらか優秀ですね」
アモンが「少し意外です」と驚いている。
俺には魂の色とやらが神でもないに見える彼女の方がすごいと思うんですけどね。
「そう、我らが主の本質は創破の権能を持つ新たなる世界の支配者であらせられる。
本来なら貴方たちが対等に口を利ける御方ではないのですよ」
あんまりプレッシャーを掛け過ぎても困るんだが……
「いや、対等に口を聞いてもらって構わないよ。
堅苦しいのは苦手だし、まだ俺は神になるつもりはないからね」
俺がそういうと「また、あのようなことを仰っしゃられる……」と魔族連は深く溜め息を吐く。
俺に早く神として全ての者の上に君臨してほしいんだろうけど、そうはいかない。
そんな面倒な事は御免被りたいのだ。
「ケントは力も知識も全てが一級じゃが、全く偉ぶらんのじゃ。
ついでに料理の腕は天下一品じゃ! 我の嫁にしなければ気がすまん!」
「あら、コラクスが言ったじゃない。
貴女たち古代竜では対等に口を利けないほどの立場だって。
少しくらい態度を改めたらどうかしら?」
マリスが自慢げに胸を張っていると、エマが横から毒舌を吐く。
「何じゃと!?」
「何よ!」
マリスとエマが額を突き合わせてグヌヌとかやっているけど、いつものじゃれ合いですな。
本気でやってるワケじゃないんで気にしたら負けだ。
「そのような御方がなぜ我らの住処においでになる事に……」
「いや、特に用事は……世界樹観光かな?
マリスが実家を案内したがったってのもありますが」
「うむ。我が生まれ育った場所を見せておきたいと思ったのじゃ」
エマとやりあっていても口を挟める余裕があるんだから、やっぱりやりあってる振りですな。
エマも席に戻ってお茶を飲み始めてるし。
「マリソリア……そういう事は事前に知らせてくれなくては」
「母上よ。
我は今、冒険者をしておってマリソリアではない。
冒険者の時はマリストリア・ニルズヘルグと名乗っておる。
愛称はマリスじゃ。そう呼んでくれぬかの?」
マリスは俺たちといる時は、マリストリアなりマリスと呼ばれたがるんだよね。
マリソリアでも良い気がするんだけど、冒険者として名を馳せたので人間名に愛着が湧いたのかな。
「マリストリアね、解りました。
でも、どちらだとしても『マリたん』だから問題ないわね?」
そういや、マリたんって呼んでたな。
家族呼びってヤツですかね。
俺も小さい頃、母親に「ケンちゃん」って呼ばれてたしなぁ。
「少々気恥ずかしい気もするのじゃが、それでよい。
ところで母上よ。当主になったのであろう?
じゃから今、権限は母上にあるはずじゃし、そろそろ我を成長させるべきなのじゃ」
「駄目です。
まだ貴女は四〇〇〇歳にもなってないのですよ?」
「じゃが、グランドーラは既に若竜のような姿であったのじゃぞ?
我も少しは成長するべきじゃ」
「グランドーラ……ああ、ズライグの娘だったわね」
「うむ。
これを見るが良い。
我も強うなったのじゃし、そろそろ成長を認めてもらわねばならぬと思うのじゃ」
マリスは
怒られて押し黙っていた男性陣も興味深そうにそれを見た。
そして、みるみるウチに顔面が蒼白になる。
「レ、レベル……一〇〇……?」
「ば、馬鹿な……」
「マリソリア……たった五年で……?」
当然セリソリアも唖然とした顔だ。
「た、確かに幼竜のレベルじゃないわね……」
「じゃろう? 成竜にしろとは言わんが、若竜にはしてもらわぬと妹分に示しがつかぬ」
「よ、よろしいでしょう。
今から貴女は若竜となります。
古代竜としてその名に恥じぬ行いを」
「肝に銘じるのじゃ」
そのやり取りを何気なく見ていたのだが、突然マリスの身体が淡く光り出して数秒後に唐突に消えた。
「ぬ。何も変わらぬのじゃが?」
「まだ、成長した姿を頭の中で固められていないからですよ。
成長した時の姿をしっかり考えておきなさい」
「うむ。
我はボン・キュッ・ボンを目指すのじゃ!」
うーむ。マリスがボン・キュッ・ボンになるのか。
いや、グランドーラくらいの背格好でボン・キュッ・ボンだと、相当ヤバいんじゃねぇか?
それに装備の調整とかもあるし、どの程度に成長するのか判らんと後で困るな。
「ケント、楽しみにしておれよ。
ニシシシシ」
怪しい笑い方をするマリスである。
まあ、巨乳は好きですが、それを武器に迫ってこられるとかなり困った事になる。
童貞にエロヤバい事をすると脳がオーバーヒートするからね!
後でしっかり自重するように言い聞かせねばならん。
「なるほど、我が孫を完全に篭絡しておるということか」
ヤヌスがぼそりと呟く。
「ええのう。
ワシが五年もマリソリア分を摂取しておらぬ間に、其方様は毎日摂取しておられる」
マリソリア分とは俗に糖分などと同じように使われる例のアレか?
オタク御用達の言い回しだと持っていたんだけど、古代竜にもその言い回しの文化があるのか?
「何じゃおじじ、そのマリソリア分というのは?」
マリスが怪訝な顔でヤヌスに聞く。
「マリソリア分はマリソリアと接することで充填できる我らの指標」
「よく解らぬが……兄者よ。兄者にもそのような指標があるのかや?」
「ある……かな?
多分、父上にもあるよ」
「うむ。あるな」
あるのかよ!!
心の中でツッコミを入れていると、テーブルの一番端っこに座っていたハリスが必至に笑いをこらえているのが見えた。
まあ、今のは確かに笑うところだったかもしれないな。
どうも笑う前にツッコミを入れる癖が付いた気がしてならない。
「我らはマリソリアと戯れるからこそ生きていける。
それを其方様たちだけで独占されては……」
モフモフ分を補充する感じに似てますな。
まあ、マリスも女の子なので触り心地はプニップニですから解らんでもありません。
色気はありませんが。
成長した後のマリスがこれまでのようにスキンシップを取ってくるとすると……さっきも言ったが相当ヤバい。
もう少し恥じらい的なモノを学んで頂きたいのだが。
セリソリアが興味深そうにマリスと俺を交互に見ているのが気になりますが、良く漫画とかアニメで見る母親特有の勘ぐりってヤツですかね。
俺の親は毒親だったし、他人の母親ながらリアル勘ぐりは初めて見るので興味深いですな。
マリスの私室に招かれたりしたら、お茶とお菓子を持ってやって来たりするんでしょうか?
そういう一般的なイベントに憧れを持つ俺は少し変なのかもしれんね。
それにしても、一向に話が進まんな。
外野が好き勝手に口を挟みすぎなんだよ。
仲間たちも古代竜もフリーダムすぎる。
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