第29章 ── 第13話
しばらくするとゲーリアが戻ってきた。
彼の後ろには、二人の新キャラがついて来ている。
「父さんと母さんを連れてきたよ!」
「義父上、何か不届きな事が起きていると聞き参上しましたが」
「人型に変化してついて来るように言われたのだけれども……
あら? 人がこんなにたくさん?
どちらの方の変化です?」
ヤヌスの前でガッカリとしていたマリスが新キャラ二人の声を聞いて弾かれたように顔を上げた
どうも話の内容やマリスの態度から判断するに、マリスのご両親のようだ。
「父上! 母上!!」
マリスは嬉しそうに二人の前に走っていく。
「あら? その声は……マリソリアなの? まぁまぁ可愛いわね!」
「おお、マリたんも人型を覚えたのか? やはりマリたんは優秀だな。
俺が変化を覚えたのだって4〇〇〇歳を過ぎてからだというのに」
父親らしいく黒ひげの逞しい中年がマリス抱き上げる。
母親らしい美人はマリスと似た笑顔で抱き上げられているマリスの手を取った。
「父上も母上も元気そうでなりよりじゃ」
「マリたんは、どこかに出かけていたような事を言うね。
危険だからまだ外には出てはいけないよ?」
どうやら両親はマリスが冒険の旅に出ていた事は知らないようだ。
子供に関心がない人たちなの?
ネグレクトってヤツ?
「そ、それはですね……」
ゲーリアが少し慌てたように口を開いたが、時すでに遅し……
「何を言っておるのじゃ。
我はもう五年も冒険の旅に出ておるのじゃぞ?」
母親はキョトンとし、父親は鳩が豆鉄砲でも食らったような表情になる。
「それはどういう……」
「我は伝説の冒険者になる為に人型に身をやつして外を旅して歩いていたのじゃ」
ニッコリと笑顔になった両親が、ゲーリアに顔を向けた。
「ちょっとゲーリア。聞いていませんよ」
「マリたんの面倒を見るように言っておいたはずだぞ?」
笑っているが背後に黒いオーラが見えそうな雰囲気の両親が怖い。
「いや、あの……マリソリアが望んだので……」
「そうじゃぞ、我が望んだのじゃ。
兄上を責めては可哀想なのじゃぞ?」
マリスがそう言うと暗黒オーラは四散した。
「そう。マリソリアが出たいって言い出したの……
それでは仕方ないわね」
「ゲーリア。ちゃんと護衛についていったのだろうな?」
「いえ、それが……」
父親の言葉にマリスが少しムッとする。
「何を言っておるのじゃ父上。
冒険に旅立つのに誰かについてきてもらうなぞ、恥ずかしいではないか!
遠出とは違うのじゃぞ!?」
母親が驚いた表情になる。
「じゃあ、マリソリアは一人で外に出たと」
「い、入り口まではついていきました……」
ゲーリアの言い訳に父親の目が赤く爛々と光り始めたように見えた。
「ゲーリア。マリソリアは次代のニズヘルグ家を継ぐ者ですよ。
護衛もなしに外に出す事はまかりなりません。
解っているでしょうね?」
ん?
ゲーリアは
マリスが
「心得ておりますが……」
「研究とやらに現を抜かすのは止めはせんが、マリたんを守らぬのならば住処から出ていってもらうぞ?」
両親がゲーリアを責めるのを聞いていたマリスが癇癪を起こし掛けて顔が真っ赤だ。
「あー、済みませんが、ちょっと良いですかね?」
俺は堪りかねて口を挟んだ。
ジロリとマリスの両親の目がこちらに向いた。
瞳孔が縦に割れているのが見えた。
超怖ぇ……
「名乗りもせず済みません。俺は冒険者のケント・クサナギと申します」
「冒険者……?」
マリスの父親の眼力が半端ない。
「どなたかの変化ではないのですか?」
マリスの母親がさらに目を細め、瞳孔はもう針のようだ。
「いえ、一応人間ですが……」
父親の手が俺に伸びかけた瞬間、バシーンと父親の顔面にマリスの平手打ちが炸裂した。
突然の事にマリスの父親は「うぐっ」と唸り声を上げて抱いていたマリスを取り落とす。
「マリソリア!?」
「とうっ!!」
落ちかけたマリスは父親の胸板を軽く蹴って宙を舞う。
クルリと回転しつつ俺の近くへと着地した。
「まあ! 危ない真似をしてはなりません!」
いや、うずくまってる旦那を心配した方がいいんではないですかね、奥さん……
「二人ともお黙りなされ!」
マリスは毅然とした態度で両親に向き直る。
「まずは落ち着いて人の話を聞くのじゃ!」
鼻血こそ出なかったようだが、かなりの強打だったようで父親の顔面の真ん中がマリスの小さい手のひらの形に赤くなっていた。
マリスは両親にも手を挙げる子でした……
「マリス」
俺は謹厳そうなしかめっ面を作ってマリスに話しかけた。
マリスは褒められると思ったのか笑顔で俺の方に向いたのだが、俺の表情を見てピシリと凍りついた。
「な、何じゃ? 我は何かまずい事を言ったかや……?」
「いや、そうじゃない。
マリス。
今、お父さんに手を上げたね?」
「ケントに手を出そうとしたからじゃぞ?
それを阻止する為じゃった」
言い訳は良いんだ。
「マリス、お兄さんに手を挙げるのは兄妹喧嘩だろうから目を瞑るが、目上の者であるお父さんに手を挙げるのは駄目だよ。
まあ、お爺さんはアナベルに手を出したんだから投げられて当然だが……」
マリスが涙目になる。
「ごめんなのじゃ……」
「俺に謝るんじゃない。お父さんに謝りなさい」
俺にそう言われ、マリスは素直に父親の前に行く。
赤くなった顔面を摩りながら、今の情景を驚いた顔で見ているご両親。
「いきなり叩いてごめんなさいなのじゃ……」
マリスはペコリと頭を下げた。
「こ、これは……」
「ワガママ放題だったマリソリアが立派に……」
あまりの事に父親は言葉にならず、母親は涙ぐむ。
いや、本来なら躾は親の仕事だからね?
「はっ!?」
ゲーリアが何かを思い出したように顔を上げた。
「そ、そういう事は後にして下さい!
今はそれどころではありません!」
「これ以上に重要なことがあるワケあるまい!」
「そうですよ! マリソリアの成長こそ、至高の命題です!」
「いえ! 祖父上が人族の者に負けました!
就寝中の父上と母上をお起こししたのはその為です!」
二人の目が大きく見開かれる。
「何だと!? 義父上が負けただと!?」
「ありえませんよ、ゲーリア。
父上は我がニズヘルグ家の当主。
人族に遅れを取るなどあってはなりません」
「それが、あったのです!
僕はこの目でしかと見ました!」
両親の目が祖父であるヤヌスに向かう。
ヤヌスは、二人の視線を感じて項垂れていた顔を背けた。
その仕草を見たマリスの両親は驚愕の表情となった。
「ば、バカな……最強門番頭と名を馳せた義父上が……」
マリスの母親が「ふう」と大きく息を吐いた。
「それが事実ならば父上には引退して頂きます。
門を守れぬ竜には隠居がお似合いです」
「で、では次の当主は……」
ゲーリアがマリスに目を向けた。
「いいえ。マリソリアではなく、
「おう? そうなのかや?
昔からおじじの次は我とか言っておった気がしたのじゃが?」
「貴女はまだ青竜にもなっておりません。
当主は無理です。
私が中継ぎを致します」
マリスはコクリと頷くと満面の笑みを作る。。
「そうじゃな。我はまだ当主などという退屈な役目にはなりとうないのじゃ。
じゃから、母上がやるのに賛成じゃ!」
マリスの笑顔に両親の顔がほっこりしたものになる。
どうやらアナベルがヤヌスをやり込めた事は、結構重要な案件だったようだね。
まあ、人に化けているといえど、古代竜が人族に負けたとなれば大事なのは仕方のない事なのかもしれない。
マリスの一族は世界樹の入り口を守護するのが代々の役目らしいし、その当主が負けた場合、世代交代するのが習わしなんだろう。
それで「これは一大事だ」とゲーリアは両親を連れてきたワケだね。
何やら俺たちは置いてけぼりにされているけど、そういう事情なら仕方ないか。
「で、じゃ。
我は今、人として冒険者を生業にしておるし、当分母上が一族の中心となられるが良い」
「冒険者?」
父親の目がマリスと俺を行き来する。
「で、では、私の予想なのだが、この人族がマリソリアと一緒に冒険の旅をしておる……という事で間違いないのだな?」
「そうじゃ。ここにいる人族やエルフは我の仲間なのじゃ。
事情も知らずに手を出す事は罷りならん」
「マリソリアと一緒に?」
再び父親は同じ事を聞き返す。
「じゃからそう申しておるのじゃ!」
「夜も昼も?」
父親の目が爛々と赤く輝く。
「よし、アガリス。ワシも手を貸そう」
立ち上がったヤヌスはそう言うとマリスの父親の横に立つ。
「やりますか! 父上!」
ゲーリアまでもそれに倣う。
それを見た仲間たちは静かに動き出し、戦闘陣形を整え始めた。
マリスも俺の一歩前に進み出て、
あれ? これってどういう流れ?
ちょっと意味解らない。
話はひとまず落ち着いたって感じじゃなかったっけ?
誰か説明して!?
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