第29章 ── 第4話
およそ一週間ほどで世界樹の近くまでやってくることができた。
その間、様々な出来事が起きた。
まず、モンスターの遭遇が一日に三~四回あった。
これは夜も含めてなので、野営時は二人以上の見張りを置かなければならなかった。
今回の冒険の旅は人数が九人もいるのでこういう時に助かるね。
こういう冒険の旅は人数が多い方が危険を分散できるのでパーティプレイが重要なんだよね。
さて、遭遇するのはモンスターだけではない。
機会はグッと少なくなるが人類種と遭遇することもある。
こんな危険な地域に脆弱な人類種が住み着いても何らメリットがないと思うんだが、世界樹の森には知的生命体の代表格ともいえる人族も数多く住み着いている。
そういった者たちには情報や物の交換を申し込んでくる友好的な奴らもいたりする。
まあ、世界樹の森で友好的に他のグループに話しかけてくるのは相当な物好きか何か企んでいるって輩が多いのは否めないが。
現実世界の文明人だとして、アマゾンのジャングル奥深くに住み着く理由ってなんかある?
旅行するとかじゃなく住み着く理由だよ?
生態系の調査とか理由があるならともかく普通はないよな。
しかし、ティエルローゼでは少し事情が異なる。
強力なモンスターから穫れる素材は防具や武器、錬金術の材料として優秀だったりする。
要は世界樹の森のような地域では、安全な世界では手に入らない貴重品を手に入れる為に必要不可欠な場所なんだね。
現実世界で例えると金鉱山みたいなもんかな。
まあ、金鉱山には危険なモンスターは出ませんけどね……
まあ、現実世界だったら、こんなところに住み着くなんて考えられないよ。
ここだと多分装甲車に乗ってても安全じゃないからねぇ。
野生動物でも戦車くらいぶっ潰すパワー持ってたりするんだよ。
世界樹の森、マジパネェ。
それにしてもティエルローゼでは、危険であれば危険であるほど貴重な品が手に入るという法則が成り立っていると思える。
現実世界でこういうシステムなのはゲームの世界だけである。
現実世界での生物や物品は、必然性など関係なくランダムで配置される。
そこに何者かの意思は存在しない。
それが当たり前だ。
だが、ティエルローゼでは、その辺りの事情が全く違う。
ティエルローゼは創造神が作り出した人工的な世界である。
そこには神々がいて、この地に住む生物が住みやすいように管理を行っている。
もちろん、ただ管理しているだけではなく、神々は人々の成長を促す為に試練を課す事を是としている。
それが高いリスクには高いリターンが設定されている理由だ。
貴重な素材で思い出したんだが、このティエルローゼって世界は凄い不思議世界なんですよね。
人間種が生きていく上で必要とする物質がある程度自動で補充されたりするという変な法則があるのだ。
例えば人類種が道具や武器を作るのに使う鉄鉱石は、鉱山から堀り尽くされるような事がない。
短いスパンで大量に掘り出されれば減ったりするが、時間が経つと徐々に採掘量が戻っていく。
要はゲーム世界のようにリスポーンしているのだ。。
先程の鉄の例で説明すると、グノームやノーミーデスと言われる土の精霊力が結晶化して鉄鉱石に変異するらしい。
他の物質などもこれに準じる仕組みらしいんだが、これが本当だとすると、この世界の物質はどんどん増えて肥大化していってしまう。
質量保存の法則やらエネルギー保存の法則やらの知識を持っている者には、盛大に首を傾げてしまう不思議法則としか思えない。
ただ、そうなると無限に世界が肥大していく事になりはしないか?
神々が管理するティエルローゼのシステムには、これを解決するシステムが存在している。
それが破壊神システムである。
増えた分を破壊神によって無に戻すというシステムだそうだ。
殆ど力を失っているハイヤーヴェルに代わって俺が創造神の地位を受け継ぐことになったので今は大した問題ではないらしいが、人魔大戦以降ティエルローゼには破壊神がいなかった。
だからこそ神界の神々は魔族という存在を滅ぼさずに放置していたという。
増えていく物質……そこには人々の身体も含まれていて、それを破壊して無に帰す存在である魔族を神々は便利に使っていた。
必要以上に破壊をさせない為に神界からつぶさに監視しコントロールしていたという事だ。
神々の肉体再生の作業をしていた頃に秩序神ラーマから聞いたので間違いない。
衝撃的な内容に俺も相当なショックを受けたが、そういう法則なんだから仕方ないのだそうだ。
神々の手でそれを行うと神の存在が否定されかねないし、利用できるモノは利用するべきだと判断されているらしい。
まあ、そんな状況でもアルコーンの計画は、神々の目論見を崩壊しかねない事だったそうで、俺という存在をぶつける事で問題解決に繋げる計画だったんだとさ。
ただ、俺の存在は創造神が後継の為に呼び込んだらしくて、それを知ったラーマは血の気が引く思いだったと言っていた。
下手したら俺がアルコーンに殺されたりする可能性もあったワケじゃん?
本来ならすぐにでも神界に強制連行されてもおかしくない俺が、下界に人として存在できるのも、冒険を楽しめるのも全てはコレのお陰なのですよ。
ティエルローゼの管理者筆頭である秩序神ラーマが、俺のワガママを無条件で受け入れている理由ですからね。
さて、俺の放置が容認されているのにはもう一つ理由がある。
それは、ベリアルが神に就任した事も影響している。
彼は破壊の天使なので破壊神的な力を当然ながら持っております。
彼がアーネンエルベを破壊し尽くした事を思い出せば理解できるよね?
創造神ハイヤーヴェルが生み出した存在のベリアルにそんな力があるってのも不思議な話だけど、神々の能力は大小の違いはあれど基本的にオールマイティらしいので、神であればある程度何でも出来るのだそうだ。
だから創造の力に特化しているはずのハイヤーヴェルにも破壊の力があったし、破壊特化型の神カリスにも創造の力があった。
アラクネイアの生命を創造する力が、いい例でしょう?
ベリアルにしろアラクネイアたちにしろ、ハイヤーヴェルやカリスの力を分け与えられて作られた存在だし、当然といえば当然なんだけどね。
という事で、ベリアルが神界で破壊神の役割りを担った事で、増大するティエルローゼの物質やエネルギーを世界に影響のない範囲で崩壊させる事ができるようになったワケ。
神々が神経をすり減らして魔族を監視する必要性が薄れたとも言えるかな。
俺という存在が現れて創造神の後継となった事で、増え続ける物質やエネルギーの抑制も可能ではあるんだけど、ベリアルの破壊の力は世界に猶予を与えるモノであったって事ですかね。
ちなみに、増え続ける物質やエネルギーを抑制しないで放置しているとどうなるか。
増大する自重に耐えかねてティエルローゼはブラックホール化するそうです。
怖いですねぇ……世界の終焉ってヤツですよ。
よく現実世界の宗教で終末論が称えられるのって、太古の昔に現実世界に訪れていた異界の神々の生まれ故郷プールガートーリアが、ハイヤーヴェルの作り上げたティエルローゼと同じ法則で動いていたからかもしれませんね。
現実の宇宙空間は彼らの知る物理法則とは違う法則が作用しているので、物質がどんどん増え続けて崩壊するような事はもちろんないとは思います。
いや、待て。
現在の地球人が観測、認識できていないだけで、ティエルローゼやプールガートーリアと同じ法則で世界が成り立っているという可能性も否定できませんが。
何はともあれ、そういう壮大な話は、まだ人である俺には関係がないので意識の隅へ追いやっておきましょうかね。
俺は頭上に茂る木々の枝の隙間に見え隠れする世界樹を見上げる。
「でけぇな……」
「ああ。私もここまで来たのは初めてだから、感動すら覚える」
俺の隣に騎乗ゴーレムを並べているトリシアも感無量らしい。
彼女は自然や木々を信奉するエルフなので、世界樹という場所は宗教で言うところの「聖地」みたいなモンなんだろう。
「胴回りはどのくらいあるんでしょう?」
アナベルが首を傾げながら疑問を口にする。
「アレを住処にしておる我ら一族でも多分知らぬ事じゃろな。測っておらぬだろうし」
マリスも知らないんじゃ、ここにいる者で知る者はいないだろうね。
「大マップ画面でし調べてみると幹の直径がおよそ一〇キロほどだから、ある程度は計算で導き出せるね」
「そんな事できるの?」
「ああ、直径が一〇キロなんだから三一キロちょいだね。
正確な数字じゃないけど、世界樹の幹はほぼ円形だし大凡そのくらいだろう」
直径に円周率を掛ければいいので楽ちんですね。
現代数学の勝利です。
「一瞬で答えを導き出すとは、我が主の素晴らしき事」
「当然です。何を今更」
フラウロスが大仰に俺を褒め称え、俺の後ろに乗っているアラクネイアがそれを鼻で笑う。
「主様の言う事です。間違いないでしょう」
「いや、そこは疑って掛かろう?
さすがに万能じゃないんだから、間違うこともあるよ?」
「フフ……まさか」
アモンが自信たっぷりに肯定するので流石に俺も否定したんですけど、微塵も疑わずに笑う彼に不安を覚えます。
主人を無条件に全肯定するのって暴君を生み出す温床のような気がしてならないのですが、大丈夫ですか君たち?
ま、周囲が気を付けてくれないなら、自分で気をつけるしかない。
横にいるトリシアを見たら、彼女も苦笑してたので俺の気持ちを解ってくれたようだ。
「円周率知ってれば普通に計算できるからな」
「だよな。日本なら小学校高学年の義務教育仮定で誰でも習うしねぇ」
「こればかりは世界が変わっても不変だろうからな」
いかに物理法則が違っても、変わらないモノもあるという事ですな。
「この辺まで来ると危険な野獣も殆ど出会わないわね」
エマが危険がないか周囲を見回して言う。
「マリスから聞くところ、世界樹は数種類の古代竜の一族が根城にしているとか聞いたし、そんな所をうろつく野獣はいないだろうね。
自分より確実に危険な生物の住処に近づく野生動物は、普通いないからな」
いるとするならば、ある程度理性で本能を抑え込めるような知的生命体か、知能が全くないスライムみたいな生物じゃないかな。
「よし、皆の者。
我が一族の住処はもうすぐじゃ。
付いて参るが良い」
マリスが意気揚々とフェンリルに歩を進ませる。
その後ろをエマが自分で作った騎乗ゴーレムで付いて行く。
皆の騎乗ゴーレムを作成する時に彼女には手伝ってもらったので、騎乗ゴーレムの作成も普通にこなせるようになっているんだよね。
ミスリルの加工は彼女にはまだ難しいけど、工房にはマストールも詰めてたからねぇ。
多分、造形はマストールによるんじゃないかな。
ちなみにエマの騎乗ゴーレムの形状は空の飛べないダチョウみたいな鳥のようだ。
羽じゃなくて腕が付いているから鳥じゃないかもしれないんだけど、俺にはどう見てもダチョウにしか見えない。
まあ、騎乗ゴーレムとしては申し分ない能力を備えているようだし、何の問題もなかろう。
素材がミスリルらしいので、俺たちのゴーレムに合わせて用意していたのかもしれないね。
その材料の出どころは俺の工房の在庫からだろうけどな。
ま、現実世界なら立派な横領事件になりかねないが、異世界の俺の領地での出来事なので目を瞑りますよ。
そこまでケチくさい男ではないし、あの程度の量のミスリル・インゴットなら大した金額じゃないからな。
彼女の貢献度から考えれば当然のボーナスとして計上するべき案件だ。
今度、フィルにも作ってやってくれないかな。
この姉弟には魔法道具作成やら錬金役やらで世話になりっぱなしなので、多少のワガママは聞いてやらないといけないよね。
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