第29章 ── 第3話
フォックの案内で中央森林に入った。
流石に森の中では馬車には乗れないので、騎乗ゴーレムに乗って森を進むことに。
人数分の騎乗ゴーレムがいないので困っていると、フラウロスが騎乗できるグランデ・パンテーラを二匹同時に召喚できるらしいので呼び出してもらう。
この二匹はアモンとフラウロスが乗ることになった。
アラクネイアにはアモンとタンデムしてもらおうと思ったんだけど、ドレスが毛で汚れるのが嫌だというので、仕方ないから俺の後ろに乗ってもらった。
ちなみにフォックは、マリスと一緒にフェンリルの上に乗ってるよ。
森の中を進んでいて驚いたが、他の森と比べて木々が異様に大きく育っている。
神の目を使ってみると、木の精霊力と土の精霊力が非常に色濃く漂っていて、水の精霊力も比較的多いようだ。
木々からは生命の精霊力が漏れ出ているし、空から光の精霊力が降り注いでいる。
少々蒸し暑い気もするけど、熱帯雨林みたいな環境ではない。
植物には天国みたいな環境だろう。
世界樹はリサドリュアスと繋がってるだし、その影響もあるんじゃないかな?
そんな折、先頭を走っていたフェンリルが止まった。
「フォックが消えたのじゃ!」
マリスがフェンリルの上でわたわたしていた。
「ああ、敵の気配を察知して隠れたんだろう」
俺のミニマップに赤い光点が見えた。
走ってきた俺たちを罠に掛けるつもりだったに違いない。
平面図に表示されるただの光点なので敵の場所が詳しく解らないので、大マップ画面を開き三次元立体表示にしてみる。
すると三〇メートルくらい前方の木の上に光点があるのに気づいた。
マップと見比べて位置を割り出して、剣を抜いて場所を指し示す。
「あの辺りの木の上だ。えーと……げっ」
俺は光点をクリックして無意識に少し怯んだ。
『サーペント・ドレイク
レベル:六〇
脅威度:小
体長三〇メートルを越える蛇型の毒のブレスを吐くドラゴン種。
主に森に住んでおり、保護色を生かして獲物を狩る』
俺は目を凝らして敵のいる辺りを良く観察してみた。
「ああ……なるほど、確かに保護色だな」
俺が凝視している辺りの木々の葉っぱによく似た色の大きな頭が見えた。
その頭には黄色の瞳があり、俺たちをジッと見つめている。
それにしても光点って頭が起点なんだな。
サーペント・ドレイクの身体は頭を支えつつ、木々を跨いであちこちの幹に巻き付いていた。
確かに身体全体をマップに表示させようとしたら巨大な光点になるし、実用的ではないね。
見上げていたトリシアが眉間にシワを寄せた。
「あれは……東洋的なドラゴンか?」
「そう見えるよな? でも西洋的な特徴もあるようだ。
毒のブレスを吐くらしい」
トリシアは「なるほど」と頷き、ライフルを背中から下ろした。
「アナベル、耐性上昇魔法を。
毒といっても色々あるから、各種耐性上げておいた方がいいだろう。」
「りょうかーいなのです!」
トリシアの指示を聞いたアナベルが耐性アップの魔法を唱え始めた。
そういや、アナベルがクラス・チェンジしてたよ。
その
ドーンヴァース内で確認された
彼女らはリアルでフレンドらしくクランを組んでいた。
その名も「プリティ・エンジェルズ」……
シンジが「俺の嫁」と言っていたアニメの元ネタといえば解りやすいかもしれない。
彼女らはドーンヴァースのマスコット・アイドル的な立ち位置を確立した有名プレイヤーたちだった。
転職条件は彼女らに秘匿されてしまい、その境地に到達した他のプレイヤーは一人もいない。
運営も彼女らの人気にあやかったようで、転職条件はずっと秘密のままだった。
レイドや特殊クエストなど、条件への色々な憶測が飛び交ったが、終ぞ判明にいたらなかったのだから相当特殊な条件だったのだろう。
「……レジス・ラクステラ・オーセンス・アルラトリビスト。
虹色の光の粒が仲間たちに降り注ぐ。
耐性が付いたのを確認するとトリシアが号令を掛ける。
「みんな、指示通りに頼む。では始めよう」
あ、
ごめん、みんな。
ドーンヴァース時代の特殊職業の生がが懐かしかったもんで……
「ピアシング・スナイプ!」
トリシアの狙撃がサーペント・ドレイクの眉間を撃ち抜……けなかった。
ガギーンという凄まじい音と共に鉛の弾丸が弾け飛んで火花が散った。
「通常弾ではスキルを乗せても抜けんか。やはりドラゴンという事だな」
「ドラゴンといっても下級じゃがのう。防御力はピカイチじゃろう?」
そう言うとマリスがフェンリルと共に飛び出した。
その動きをサーペント・ドレイクの黄色い瞳が追う。
マリスたちは不用意に敵の間合いに突進しているように見える。
サーペント・ドレイクはその隙を見逃さず、巨大な身体をくねらせて地面へと落ちてきた。
「バック・ステップ! アクセラレート!」
サーペント・ドレイクはマリスの身体に巻き付くように巨大な団子状になっていく。
しかし、既にマリスはそこにいなかった。
走り出した最初の場所あたりに一瞬で戻っていた。
時間でも巻き戻ったように見えるが、スキルを複合的に使った結果である。
移動スキルの「バック・ステップ」で回避行動に移りつつ、
マリスはニヤニヤ笑いながら「伸びよ
「チャージ・ステップ! 突貫じゃ!!」
マリスとフェンリルのペアが青白いオーラを纏いつつ走り出す。
「決めるのじゃ! フェンリル!!」
「ウォォォン!!」
「フェンリル・チャージ!!」
青い軌跡を残し、サーペント・ドレイクに突っ込んでいくマリスたち。
敵との距離は一瞬で詰まり、青い閃光がサーペント・ドレイクに突き刺さった。
──ガギギギズギャルルル! ドーン!!
何とも言えない金属が擦れるような音と共に大きな衝突音が周囲に鳴り響いた。
サーペント・ドレイクのマリスたちが衝突したあたりの身体には綺麗に穴が穿たれていた。
既に血は飛び散ってしまったのか、傷口からポタポタと滴り落ちる程度しか見受けられない。
「ふむ……マリスだけで終わってしまうか……。
私たちは相当強くなったみたいだな」
トリシアが拍子抜けして頭を掻いている。
「え? もう終わりなの? 私の出番がないじゃない」
エマは少しおかんむりだ。
「何だよ終わりかよ。私も殴りに行きたかったぜ」
ダイアナに切り替わったアナベルも不満げだった。
「レベル一〇〇の……攻撃だ……生き残れる生物は……普通はいない……」
ハリスが苦笑をしつつ肩を竦めた。
「マリス殿、お見事ですな」
フラウロスがニヤリと笑うとアモンが鼻を鳴らした。
「当然ですよ。私が教授して差し上げているのですから。
スキルの複合技も上手く扱えているようで何より」
なるほど、スキルを合体させて使う技術とか、いつの間にかモノにしているなと思ってたけど、アモン君の仕業でしたか。
以前にも合体技らしきモノを使う様子は見てきたけど、今のは非常に洗練された技に昇華しているし、以前とは比べ物にならない。
そういった技術体系を型にしたのはアモンに間違い無さそうだ。
さすがは武の体現者を名乗るだけの事はある。
もしかして「フェンリル・チャージ」もスキル化しちゃってる?
サーペント・ドレイクの死体の上にマリスとフェンリルが飛び乗ってポーズを決めている。
血みどろかと思ったけど、さっきの青いオーラのおかげなのか鎧にもマントにも血のシミ一つない。
「一人でも下級ドラゴンを狩れるほど強くなったのじゃ!!」
「アォォォン!!」
マリスの叫びにフェンリルが雄叫びを被せた。
ランス状に光る魔法の剣を掲げる自信満々なマリスと、顔をもたげて遠吠えをするフェンリルの勇姿が格好良い。
うん、良い絵です。
カメラに納めておきたいですな。
インベントリ・バッグを漁りガンマイクカメラを取り出して撮影しておく。
ティエルローゼではガンマイクカメラの小さい画面でしか確認できないけど、大きい画面で見たければドーンヴァースに行けば問題はない。
いちいちドーンヴァースに行かなくちゃならないのが面倒だけども。
「よし、素材回収だ! 腐ってもドラゴン種だ! 一財産だぞ!」
「「「おう!!!」」」
俺の号令で仲間たちがサーペント・ドレイクの死体に群がった。
細長いけど三〇メートル級なので、相当な金額になるに違いない。
鱗も骨も肉も血も全て回収しなければ。
「刀技!
ドラゴン種には悪魔の技に見える例のスキルを使う。
流石に三〇メートルもあるので一気に剥がないと時間がかかりすぎて鮮度が落ちますからな。
「ヒィイィィ!」
未だサーペント・ドレイクの上にいたマリスが、俺のスキルを見てムンクの叫びみたいなポーズになっている。
ははは!
いつまでもドラゴンを倒した余韻に浸っているからだ。
マリスの
このマリスの
この後、世界樹に到着するまで、ドラゴン系の敵が一切現れなくなってしまったのは言うまでもない。
あの
詳しくは解らないが儲け口が減ってしまった事に気づいた俺は少し苦い思いをしたのであった。
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