第28章 ── 幕間 ── セイファード・ペールゼン
やあ、久しぶり。
セイファード・ペールゼンだよ。
って、誰に挨拶しているのか判らんが、メタ存在に自己紹介するのは厨二病の為せる技だろう?
ケントから知り得た情報を分析整理して気づいたんだけど、この異世界に転生してきたプレイヤーはご多分に漏れず厨二病の疑惑があるんだよ。
もちろん、俺も含めてだよ?
俺はケントと同じように厨二病の自覚が一応あるんで。
まあ、そんなことはどうでもいいんだ。
実のところ、ケントに頼まれて新たな部下を雇い入れたのだが、こいつは思ったことを不用意に口に出す困ったちゃんである事が判明した。
俺はソフィアさんのご厚意でホネホネな見た目から、少々イケメンなドーンヴァースのキャラデザインに変えてもらっていたワケだ。
んで、ケントに連れられてきた「リニス」とかいうリッチが、こともあろうに姫……いや、嫁のサーシャの前で「いやぁ、イケメン主君に仕えられて幸せですわ(ハート)」とか色目使って来たんだよ。
もちろん、サーシャは目を吊り上げた。
「セイちゃんに色目を使うなんて、恐れ知らずな骨っ子ですわね!」
俺の知る生前のサーシャはこんな顔した事なかったしちょっとビビった。
女性って存在はいつもミステリアスです。
さて、この程度は大した事ではないんだ。
問題があるとすると、ウチの幹部ペルージアやローハンもリニスに良い感情を持っていないという事だ。
アゼルバードとかいう国の遺跡でケントの相棒であるハリスさんに会ったらしく「超イケメンだった」とか「腕に抱きついた」とか口走ったら、ペルージア女爵がそれ以来不機嫌なんだよね。
ペルージアさんってハリスさんにラブだったの?
ローハンに至っては、リニスが「あんな冴えない男(ケントの事だ)の持ち物とか言われて正直ガックリ来たんですけど、ここに送られて幸運でしたよ」などと言った為、見た目には静かに……そして内側では激しく怒り始めてしまったんだよ。
実のところローハン伯爵は、俺に嫁を連れてきたケントに相当感謝しているらしく、彼をバカにする発言にかなりご立腹らしい。
確かにケントは平凡な顔立ちだが、中身が半端ないからな。
俺も彼女の「冴えない男」発言を聞いてカチンと来たことを白状しておくよ。
ただ、他人が自分以上に怒っているのを見たら、自分の怒りがどっかにいってしまった。
という事で、数少ない幹部と俺のマイハニー……所謂ペールゼン王国の幹部全員を怒らせてしまったワケだ。
ケントについての発言をやめるように言えばいいんだろうけど、王が部下に対して何かを禁止するという事は言論統制になってしまうので些か躊躇している。
ほら、この世界って王政だったり帝政だったりと専制君主制が基本じゃない?
民主主義国家である日本出身の俺としては何百年経っても専制君主として命令する事に抵抗感というか違和感があるんだよ。
今はどうやって黙らせるか悩んでいるってワケ。
このまま放置した場合、ケントから預かったリニスが、闇に消されかねないと思っている。
口は禍の元とはよく言ったモノだ。
たった一週間でこの状況なんだから、全く始末に負えないよ……
さて、このリニスとかいうリッチなんだけど、ケントが送り込んできただけあって彼女の能力は相当に優れていることがすぐに解った。
まず、評価できる点は魔法能力。
彼女は
死体にエンチャント系の魔法を使うのが得意なだけで、死人の魂を使うような
彼女に説明を受けて、ケントが以前教えてくれた触媒魔法に似ているなと思ったよ。
ちなみに、俺が使役しているスケルトンやゾンビなどのアンデッドは、死霊術系の魔法によって作ったモノなので、他の国では間違いなく俺は邪悪な
ま、「我が両の手は血に染まっている……」とか言いながら死体をアンデッドに変えているんで邪悪にしか見えませんが。
ほら、そういうセリフ吐きながらの方が気分が出るでしょ?
それに比べてリニスが作り出すアンデッドもどきは、どちらかというとゴーレムなんだよね。
だから彼女のスケルトンには
逆に
これは戦闘において非常に有効的な情報錯誤を生み出すことになる。
アンデッドだと思って対処したら全く効果なしなんだから、確実に相手は混乱に陥る。
ウチのような国においては、こういう小手技の方が役に立つ。
二つ目が、最も有能だと思える理由だ。
彼女の魔法はウチの主兵力であるアンデッドたちをアップグレードするにも使えそうなんだよ。
どう使うかって?
俺や幹部たちも含め、ウチの軍事力は全部アンデッドだし、基本的に身体は死体なワケだ。
という事は、彼女の技で死体を改変すれば、色々と器用な改造が可能って事だ。
幹部連中を改造するのは控えるにしても、雑兵であるスケルトンやゾンビには遠慮はいらないだろ?
なので、足の早いゾンビとか、変形するスケルトンとか思いのままに作り出せるという事だよ。
レベル一〇程度なら余裕で相手にできるゾンビやスケルトンは雑魚扱いで大抵はカモられるワケだけど、改造アンデッドならばどうだろうか?
我が国はリニスという
まあ、周辺国家で襲ってきそうなのは北のダルスカル小王国だけなんだけどね。
でも世の中は何が起こるか判らんし、自軍の強化計画は立てておくのが王の役目でしょ。
そういう理由でリニスを闇に葬られるワケにはいかないんだけど、さりとて幹部やマイハニーに手出しするなと命令するのも俺の性分に合わない。
さて、どうしたものか……
俺は手首に装着した小型通信機のボタンを指先で撫でる。
ケントに相談すれば必ず助けてくれるはずだ。
だが、大恩あるケントにまた助けてもらうのか?
今のペールゼン王国は、ケントの領地であるトリエンと貿易が行われるようになり、自国民に十分な食料や物資が行き渡るようになった。
そのお陰で人口が増えつつあると報告されている。
たった二年ほどで一割程度の人口増だ。
人口が増えるということは、長い目で見て国家運営に割けるリソースが増えて行くという事だ。
リソースが増えれば、それを活用してより効率的な生産や運用が行えるようになる。
それは国家や国民に余裕が生まれることに他ならない。
余裕のない国家には文化は生まれない。
今までカツカツでやってきたペールゼン王国に文化らしいものは生まれなかった。
だが、これからは何か独自の文化が生まれる可能性があるんだ。
これは、三〇〇年代わり映えしなかったペールゼン王国に新たなる時代がやってくるって事だ。
全てはケントのお陰なんだ。
なのにまたケントに助けてもらうのか?
ケントをバカにする発言をしたリニスを助ける為に?
あぁ、やっぱり俺もリニスの失言に腹立ててるっぽいな。
でも、王たる者は、国益の為に感情をコントロールしなければならないんだ。
薄暗い謁見室の王座に腰掛けて「ハァ」と小さく溜め息を吐いていると、問題の当人が意気揚々と歩いてきた。
その後ろには何やら大きなスケルトンが付き従っている。
「陛下!
ご希望どおりに
見れば、大きなスケルトンは双頭で、腕も四本、尻尾も二本生えていた。
支配下にあるアンデッドの能力は、凝視するだけで正確に感じ取れるので、俺はじっと合体
脳裏に流れ込んできた情報によれば、従来の
マジか……
通常の
魔法の武具を装備させているから、レベル五〇くらいのモンスターを単体で相手できるって事だ……
「これは凄い……
よくやった、マークス。
褒美を与えよう。何が欲しい?」
リニスが顎をカクカクさせ始めた。
「ご褒美は……リニスと呼んでくだされば」
リニスがそう言ったのは謁見室にマイハニーが入ってきたと同時だった。
途端にサーシャが目を吊り上げたのは言うまでもない。
「貴女!! また私のセイちゃんに色目使ってるの!?」
「これは妃さま!
色目というか、イケメンには名前で呼ばれたいなと思いまして」
「それが色目だと言っているの!」
ああ、ケントよ……我が心の友よ……
俺に静かなひとときを……
この直後、セイファードはケントに助けを求め、ケントの助力と救援によって事なきを得た。
セイファードはまたもやケントに助けてもらい、どうやって恩に報いるか考えていたが、リニス自身が厄災な気がするので、この件に関しては報いなくてもいいんじゃないかと思い始めるのであった。
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