第28章 ── 第54話

 俺はペールゼンの王城の謁見の間へと魔法門マジック・ゲートをつなげた。


 それを見たリニスが顎をカクカクさせて何か騒いでいる。


「凄い! 無詠唱で!

 それ転移門ゲートですよね!?

 とうとう個人用転移門ゲート魔法が実用化されたのかぁ!」


 騒ぎすぎ。

 まあ、アーネンエルベ魔導文明時代であっても魔法門マジック・ゲートは個人レベルで使用できる魔法として実用化できなかったって事だ。



「普通なら大型の魔蔵機か一〇数人で詠唱が必要なのに!」


 なるほど、そういう事ね。

 アーネンエルベでは魔導バッテリーの事を魔蔵機っていうらしい。


「いや、俺はイルシスの加護があるから魔力が無尽蔵ってだけだよ。

 普通なら儀式魔法が必須だろうね」

「あ、そうなんですねー。

 って、イルシス神様の加護!?

 とんでもないパワーワードが出ましたっ! はい!」

「ぶっ! パワーワード!?」


 イルシスの加護持ちは俺が知るだけでも複数人いるんだが。

 アーネンエルベって魔導文明とか言われてる割りに加護持ち少なかったんか?


「加護持ちって結構いるだろ?」

「は?

 一人でも存在が確認されたら大騒ぎになるレベルですけど?

 加護持ちで感覚麻痺してるんじゃないですか?」


 俺は仲間たちに目を向ける。


「はい。加護持ちの人、挙手」


 俺が号令すると仲間たち全員が手を上げた。


「最近気づきましたけど、私もケントさんの加護ついてました」


 アリーゼも手を上げた。


 君も俺の加護持ちだったのね。

 おい、俺よ。

 やはり大盤振る舞いすぎる。

 自重しないとね。


 俺の仲間や仲の良い知り合いには、大抵の場合「ケントの加護」が与えられている状況なので、現在ティエルローゼは加護持ちインフレが起こっていたりする。

 最近は増やさないように気をつけているが、気を抜くとバラ撒いてしまうんだよね。


「まあ、いいや。

 転移するから付いてきて」

「は、はい!」


 転移門ゲートを潜れば、一瞬でペールゼン王城の謁見の間だ。

 既にセイファードは玉座に座って待っていた。

 今日はサーシャ姫はいないようだ。


「お待たせ」

「久しぶりだな、ケント。

 で、俺に引き取ってほしい人材ってのは?」


 セイファードが少々性急ですな。

 ちょうどリニスが転移門ゲートを潜り抜けてきたところなんだが。


「ああリニス、紹介しよう。

 ペールゼン王国の国王セイファード・ペールゼン陛下だ」


 国王を紹介され、流石のリニスも膝を突いた。


死体使役者コープス・ハンドラーリニス・マークス、御前に馳せ参じましてございます」

死体使役者コープス・ハンドラー

 死霊術師ネクロマンサーとは違うのか?」


 セイファード、その下りは既にやったんだよ……

 だが、国王を紹介されたリニスは嫌がりもせずに、俺たちに説明した事を再びセイファードに聞かせている。


「ほう。面白いね。

 魂に影響を与えないってのは悪くない。

 我が国の軍勢のアップグレードに使えるかもしれないね」


 え?

 もしかしてセイファードは民に嫌悪を与えない死体使役者の活用方法を思いついた?

 俺は全く思いつかなかったんだが。


「面白い使い方を思いついたのか?」

死体使役者コープス・ハンドラーってのは死体を使ったり弄ったりするんだろう?」


 俺の問いかけにセイファードはリニスに確認を取る。

 リニスはカクカクと頭蓋骨を上下に動かした。


「ならば、ある。

 というか、我が国でなければ無理だと思うよ」

「何に使うつもりなんだ?」

「我が国の兵士の強化に使いたいかな?」

「兵士の強化……?」


 ペールゼン王国の兵士は例外なくアンデッドだ。

 どのアンデッドがどういう割合で編成されているのかは知らないが、基本的にはスケルトン、ゾンビなどが下級兵として使われている。

 他にも喋るスケルトン・シャーマンとか竜牙兵ドラゴン・ツース・ウォリアーなんかもいて、指揮官クラスだったり近衛的なエリート兵として配備されてもいる。


「アンデッドは既に死体だからね。

 別の死体から持ってきたパーツを増設したりもできるんじゃないか?」


 セイファードの説明に俺はポンと手を叩いた。


「なるほど。六本腕のスケルトンとか現れたらかなりビックリするな」

「だろ?

 適応するパーツを探すのが大変そうだけど、我が国なら色々実験ができるだろうね」

「面白い発想です、陛下!」


 骨なので表情は解らないがリニスは大いにやる気満々になっている気がする。

 というか、必要以上にセイファードにへりくだっているように見えるのは、寄ってくるアンデッドを勝手に支配してしまうという特殊能力の所為だろうか。


 この様子だと大丈夫そうだねぇ。

 セイファードならリニスを上手く活用できるだろう。


 利用価値も相当高いだろうし、そのうちトリエンとしのぎを削る魔法道具生産国になるかもしれないね。

 それはそれで楽しみだ。


 やはり生産活動は競い合ってこそ技術発展が望めると思うし、現代知識を持っている転生者と競うのなら躍進できそうな気がしてきた。


「んじゃ、彼女は置いていくので後はよろしく」

「うん。頼まれた」


 リニアは俺にくるりと振り向くと、ペコリと丁寧に挨拶した。

 身振りは女の子っぽいんだが、全身骸骨だとやっぱり不気味だ。


 俺は開きっぱなしにしてあった転移門ゲートを潜り、再び遺跡へと戻った。


 戻ってみると、アリーゼを筆頭にハリスとマリス、トリシアの姿が見えない。

 今ここにいるのは魔族三人衆とアナベルだけだ。


「あれ? 他の人は?」

「一階の探索に出ましてございます」


 フラウロスが恭しくお辞儀をしながら答える。


「えい、やぁ!」


 あっちではアモンがアナベルに模擬戦稽古を付けてやっている。


 やはり同レベル帯ではあっても接近戦闘特化型にとんがった状態で生み出されたアモンは、こういう戦闘においてはマリオン神官プリーストも軽くあしらえるワケか。


 マリオン教徒も相当戦闘特化型に身体を鍛えているが、素が汎用型である人族では、生まれから特化型のアモンには及ぶべくもない。

 まあ、人間の強みはどんな状況にも適応できる汎用性なんだから、特化型では対応出来ない部分で形勢を窺うべきなのだが、アナベルはまだまだ接近戦で対応する事に囚われているね。


 ウチのパーティで一番均整が取れているのはトリシアだろう。

 今は射撃のみで戦闘しているが、剣、弓、銃、魔法と大抵の戦闘様式をこなせるステータス編成だ。

 それに比べてマリスはタンク特化だし、ハリスはもうワケ解んない感じだからねぇ。

 アナベルも最近は神聖魔法も頑張っちゃいるが、やはり近接戦をやりたがる癖が抜けてない。


 階下を探索している仲間たちが戻ってきた時に一息入れられるようにお湯を沸かしてお茶の準備をしておく。


 それを見たアナベルと模擬戦中のアモンが「自分の仕事が!」という絶望の表情をしていたが、揺れるオッパイをガン見できるポジションにいる羨ましさから無視してやった。

 ざまあみろ。


 ついでにカップケーキも作っておいたので出しておく。

 果物の汁を絞って生地に練り込んでみたのでフルーツの良い香りがして美味そうだ。


 突然、訓練の喧騒が止んでトタトタという足音がしたので振り返ると、訓練していたはずのアナベルが鼻をクンクンやりながら近づいてきた。

 食いしん坊チームの屋台担当の面目躍如でありますな。

 さすがのアモンも苦笑しているよ。


 この分だと一階探索組も香りに釣られて早めに探索を切り上げて来そうだな。


 案の定、一〇分もしないうちにドタドタと足音を鳴らしながら、マリスとトリシアが走ってきた。

 少し遅れてアリーゼとハリスも戻ってくる。


「何やら美味そうな匂いが漂ってきたのでな。

 早々に戻ってきたのじゃ」

「ご苦労さん。

 何か発見はあったか?」

「一階は、他の階と違って住居となる部屋は半分くらいだな。

 さっき骨女が言っていた魔蔵機ってヤツらしきモノが置かれた部屋など、生活インフラ用の装置が置かれた部屋が半分ってところか」

「それは興味深いね。

 お茶を飲み終わったら調べてみよう」


 生活インフラの程度を見れば、文明レベルが知れるというもの。

 まあ、今までの探索で十分だが、魔法装置関連の技術レベルは知っておきたいからね。


 打倒アーネンエルベってワケではないけど、やはり後発組の俺としては現代技術が古代文明に負けてられないっていうか何というか。


 妙な対抗心を持つべきではないんだが、やっぱ少しくらい自分の技術力と比べてみたいじゃん?

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