第28章 ── 第51話

 居間らしき部屋に戻り、仲間が見つけた戦利品を見せてもらう。


「見ろ。これは鑑定したところ、食物を粉砕する魔法道具らしい。

 フードプロセッサの事だろう」


 ほう。

 その手の魔法道具も開発していたのか。


 ただ、MPが少ない人でも使えるように設計されているためか、壁に据え付けられた魔力導線に接続できるようにコンセント・プラグと巻取りコードが装備されていた。

 分解して魔力供給部分を改造しないと使えない代物って事だ。


 こういう設計を見ると、魔法の蛇口の性能の良さを実感する。

 シャーリーの寿命一〇〇〇年分の価値はあったという事だな。


 精霊石をコアとして使用するのを考慮して設計できれば楽なんだろうが、ティエルローゼの精霊石はウルトラ・レア……いやエピックを超えてレジェンドクラスの希少鉱石だ。

 俺が知る限り、精霊石がある場所は二箇所だと思う。


 一つは水の精霊石で、ヤマタノオロチが管理しているあのデカイヤツだ。

 まあ、魔法道具のコアに使うには砕く必要があるし、オロチと死闘を繰り広げて奪取しなければならくなるだろう。

 奪取が成功してもトラリアも水不足で滅ぶかもだし、冒険者としては禁じ手だろうな。


 二つ目は、実物を見たことがないのでなんとも言えないんだが、ハンマールの地下で採掘できるらしき精霊が作り出すとか言う魔法鉱石というヤツだ。

 どういった形で採掘されるのかも解らないので色々と謎の鉱物だ。


 俺の推測では、この鉱石は精霊石の一種なんじゃないかと思っている。

 ノミデスがいた地下坑道だし、土の精霊石かもしれないね。


 他にも電子レンジ、冷蔵庫、魔法のコンロなど、現代社会なら当たり前の家電をトリシアは発見してきていた。


「白物家電のオンパレードだな」

「全部魔法道具だがな」


 トリシアは集めてきた魔法道具を前でドヤ顔だ。


「ケント、これらを改造したら新しい売り物になるんじゃないか?」


 確かに現代社会における白物家電をトリエンで量産すれば大儲け間違いなしなんだが、ちょっと便利すぎる気がする。


「いきなり生活レベルが向上すると色々と齟齬が発生しそうな気がするな。

 使う人間は楽ができるようになるだろうけど……」


 売り出したとしてティエルローゼで売れるかどうか解らない。

 周囲に漂う魔力を使う場合、大気中に拡散している魔力を根こそぎ使うようになると大気中の魔力が枯渇しないかが心配だ。

 大気魔力の管理は風の精霊が管轄しているはずなので、暁月坊を呼び出して聞いてみようかな。


「高すぎて庶民には売れないだろうがな。

 最初は貴族相手が順当だろう」


 ふむ。それなら小さな問題程度で収まりそうではあるな。


「ぶっちゃけ、便利すぎる道具が出現すると職を追われる人が出てくる気がするから気が引けるんだけど……

 まあ、この系列の道具なら職を奪うようなことはないか。

 ちょっと考えておくよ」


 トリシアが見つけてきた道具は台所用品だし問題はないかもね。

 料理関連の魔法道具なら料理人から職を奪うほどではないと思えるし。


 異世界に転生して数年、この世界の技術レベルの中で生活するのに慣れてしまった所為か、現実世界の生活レベルに戻したいという欲求は皆無だ。

 作った各種魔法道具で十分な生活が維持できてるからな。


 現実世界でも生きていく上で必要なモノ以外の便利アイテムをほしいと思ったことがないってのもあるかも。

 ミニマリストってほどではないけどね。


「これはどうじゃ!?」


 次はマリスだ。

 マリスが集めてきたものを床に広げて置いていく。


 どれどれ……


 マリスが集めてきたモノは何やら置物や調度品的なヤツばかりだ。


「これはタダの置物だな……これは魔法道具っぽい」


 殆どが魔法道具じゃないガラクタばかりで、何に使う道具なのかは物品鑑定の魔法で調べてもサッパリ解らない代物が多い。


 ダイアログに『プルーマの投手が使用するレキオース。アーネンエルベ魔導文明最終モデル』とかフレーバーテキストが表示されるが、専門用語で意味解んないよ。

 なんとなくスポーツ関連の品だと推測できたくらいか。

 アーネンエルベ時代のスポーツで「投手」ってあるから野球みたいな球技かもしれん。


 いくつか魔法道具っぽいヤツを鑑定してみる。


『プルーマの攻手が被るヘルメット。

 頭を守る防具、キールの魔力を完全に弾ける。

 アーネンエルベ文明最終モデル』


 ふむ。コレ、頭を守る防具として使えるぞ。

 魔弾系の魔法を反射する魔法付与が施されているよ。

 物理防御力も普通の革製の防止くらいある。


 他の魔法道具は付与魔法が揮発していたが、こいつは付与魔法が維持されたままなのが珍しい。


「こいつは防具として使えるな。

 魔法が揮発していないよ」

「どんな防具なのじゃ?」

「魔弾系の魔法を完全に弾くらしいね」

「魔弾?」

火球ファイア・ボールとかの事だな」

火球ファイア・ボールを弾くのかや!?」

「物品鑑定で判明した性能では……そうなってるね。


 多分、込められた魔力からするとレベル八くらいまでの魔弾は反射すると思う。

 火球ファイア・ボールはレベル五の魔法なので余裕で弾くだろう。


「それはそれで凄いな」


 トリシアが悔しげに魔法のヘルメットを見る。


「まあ、物理防御力が低めなので前衛の装備じゃないけどな」

「我は前衛じゃからいらん装備じゃな……」

「まあ、アナベルとかハリスが使えばいいんじゃないか?」

「要らん……」


 ハリスは即座に断りの言葉を口にした。


「なんで? このフィンが気に入らないからか?」


 確かに忍者が装備するにはちょっと派手かもしれん。

 頭頂部に鶏冠みたいなフィンが二枚付いているしね。

 この形に意味があるのかは解らないが、プルーマというスポーツのレギュレーション的に必須のデザインなのかもしれない。


「私も却下です。

 視野が狭くなりそうですし」


 ふむ。

 目の高さの左右に何やらピカピカの金属板がせり出てるのがお気に召さないか。

 確かに左右からの攻撃が見えなくなる気もするな。


「んじゃ、これは売りに出す品にカウントしておこう」


 誰も装備したがらないんじゃ仕方ないね。


 他にも手袋とブーツが魔法道具だが、例のプルーマというスポーツ用の装備らしい。

 どれも魔力を弾く魔法付与が施されているので、プルーマは魔法弾を打ち合うような競技なんだろうね。

 レキオースとやらの正体は依然不明のままだが。


 他のメンバーも色々持ってきたが、目ぼしい魔法道具は見つからなかった。

 価値のありそうなモノとしては以下の通り。


 金で出来た大きなゴブレットが数個。

 何か塔を模したような銀製の置物が一〇個くらい。

 非常に透明度の高いクリスタル製の置物が三つ。

 大きめの人型の彫像(関節が動かせるスグレモノ)が一体。


「価値のありそうな物はこれくらいか」

「これはマネキンかもしれんな」


 トリシアは人型の彫像の関節を動かして調べている。

 確かにランドールが作ってた球体関節人形に似ていなくもない。

 アレもコレもマネキンに使えそうではあるね。


「シンジに引き取ってもらうか」

「うむ。そうしよう:


 トリシアは頷くと自分の無限鞄ホールディング・バッグに人型の彫像を仕舞い込む。


「他は材質としての価値だな」


 一応物品鑑定をしてみると、プルーマの優勝トロフィーとか参加記念の置物とからしい。


 以上の事から、この部屋の住人はプルーマというスポーツの選手だったと思われる。

 まあ、プルーマとかいうスポーツが今でも盛んに行われてれば、かなりの価値があったかもしれないが、得体のしれない競技のトロフィーに俺は価値を見いだせない。


「両替屋とかで換金してしまおう」


 インベントリ・バッグに「発掘品(不用品)」フォルダを作って、集めた物品を入れておく。

 ガラクタを選り分けておくと売るときに簡単だしね。


 トリシアが持ってきた白物家電は「発掘品(魔法道具)」フォルダに分けて入れたよ。

 これは付与し直してちゃんと動くようにして新製品開発のアイデアに使わせてもらう予定だ。

 ちなみに、他に調べてみたら洗濯機らしき魔法道具もあったよ。


 一世帯分の区画の物色が完了したので廊下に出た。

 大マップ画面で確認したところ、いくつかの部屋には赤い光点があるので、警戒を怠らないように隊列を組んで他の部屋へと向かう。




 今いるフロアのすべての部屋を調べるのに三時間ほど掛かり、既に正午近い時間帯になっていた。

 休憩の為、地上へのロープが降りている部屋まで戻った。


 赤い光点は二つしかなかったし、非戦闘員がいる状態で殆ど危険無く探索できたのは楽だった。

 ちなみに赤い光点はスケルトンだったよ。レベル三~五くらいの冒険者ならソロで相手できるアンデッドだね。

 それが一体ずつ別の部屋でカタカタしてただけだったんだよ。楽でしょ?


 戦利品も売れそうな物がかなり手に入った。

 まずは無限鞄ホールディング・バッグ各種だ。

 下級が三七個、中級が二四個、上級が一〇個も手に入った。

 こいつはかなり美味しい。市場に流せばウハウハですよ。

 濡れ手に粟とはこの事ですなぁ。


 だが、俺はケチくさい男ではない。

 仲間たちに渡してある無限鞄ホールディング・バッグは下級ばかりなので、今回手に入れた上級無限鞄ホールディング・バッグを渡しておくことにする。


 最初から上級持ちのマリスは何も貰えず貧乏くじになりそうなので、下級を一つプレゼント。

 無限鞄ホールディング・バッグを複数装備してはならない理由はないからな。


 トリシアも中級を自前で持っていたので、上級を一つプレゼントして、中級は下級と交換して貰おうかね。


 これで仲間は全員上級と下級の無限鞄ホールディング・バッグを一つずつ持っている体制になったな。

 使い方は各自ご自由に。

 俺なら小さい方は武器や防具、弾薬用にして、大きい方はその他の物を入れる感じにするかな。


 インベントリ・バッグほど便利ではなくても、大量の物資を運べるって事は冒険上で大きなアドバンテージになるからね。


 他にも、武器、防具、衣類、家具などの魔法道具が手に入ったが、俺たちが使いたいと思うほどのアイテムはなかったとだけ言っておこう。


 素材がミスリルばかりだし、性能も俺が作ったヤツの方が上なので市場に流すモノとしてカウントしておく。


 白物家電も相当数が集まった。

 シャーリーが開発した魔力供給方式に改造すればそれなりに売れるだろう。


 たった一フロア、それも単身者とかが住みそうなアパートでこれだけ掘り出せたのだから、砂漠全体を発掘したら相当な財産になりそうだ。

 というか、今日手に入れたヤツを全部一度に売り出すだけでも無限鞄ホールディング・バッグの市場価格が確実に暴落する量だよな。

 少しずつ市場に流すべきだろうなぁ……


 この辺りはエマードソン伯爵に任せるのが楽ちんなんだが、無尽蔵に近いレベルでアーネンエルベ製の魔法道具を手に入れられる事を知られると粘着されそうで怖いな。

 それでなくても無限鞄ホールディング・バッグは商人たちには引っ張りダコのベストセラー・アイテムだからな。


 ああ、レオンハート商会にも幾つか卸すとしましょうか。

 ヴィクトールのところも幾つか持っているそうだけど、彼のところのように大きい商会は無限鞄ホールディング・バッグの保持数が売上額に直結するので、あるだけ欲しがるだろうし。


 金額は要相談かな。

 安めに卸するもりだけど。

 ヴィクトールの商会を優遇しすぎると他の商人や商会に気取られる可能性もあるからね。


 アリーゼに聞いたんだけど、アーネンエルベの新しい遺跡が発見されたという噂だけでゴールドラッシュよろしく山師やら冒険者が集まるらしいんだよね。


 レオンハート商会の職員が今まで持ってなかった無限鞄ホールディング・バッグを多数所持しているなんて情報が流れたら「新しい遺跡が発掘されたのではないか」と憶測を呼びそうだろ?

 そういうリスクは封じておくに限るワケですよ。


 リスクヘッジというかセルフディフェンスというか……


 まあ、考えすぎても商機を逃すので、まずは昼飯を食べて午後の探索につなげましょうかね!

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