第28章 ── 第49話

 食後にアリーゼを連れて発掘ポイントの選定を始めた。


「この砂丘の下に多分遺跡があると思うんだが」

「多分ですか?」


 エルデシア大トンネルからセントブリーグまで飛行自動車で移動した時に砂丘から突き出た尖塔らしき建物を見た事を話す。


「やはり建物の上あたりに砂丘が出来てるパターンが多いと思うんだよね」


 砂丘の全部が全部そうだとは言わないが、確率は高いだろう。


「そうですねぇ。

 私のカンだと、あっちの砂丘の西側の下が怪しい感じです」

「随分と場所が具体的だな」


 アリーゼは顎に指を当てて首を捻る。


「あの砂丘の西の稜線、アーネンエルベの屋根に使われる建築様式の一つに形が似ている気がするんです」


 うっは。

 学者が裸足で逃げ出すレベルの推測ですな。


 俺はアーネンエルベの遺跡ってのは見たことないので、アリーゼの知識を信用するべきだろう。


「おっけー。まずはあそこね」


 俺はアリーゼの指差したポイントに旗を立てる。


「あそこも怪しいですね。

 アーネンエルベの典型的街構造からすると、あそこも~」


 俺は指示通りにどんどん地面に旗を立てていく。


「こんなところでしょうか?」


 七箇所ほど旗が立ったところでアリーゼが満足した。


「随分多いな」

「これがアーネンエルベの一般的な街の様式ですよ?

 大抵はこの構造様式が一定間隔で並んでいるんです。

 多分、各構造体に別々の役割があって、それを組み合わせる事で都市機能を形成していると思われるんですよねぇ。

 機能の復元ができればハッキリするんですが、私には無理だったんです。

 そもそも材質すら良く解らないもので、正確な機能予測も……」


 ベラベラと長年研究してきた事を捲し立てるアリーゼは間違いなくオタクです。

 魔法も使えないのに、よくまあここまで研究してきたもんだね。


 話を聞いて思い当たるのは、現実世界でも建物に見られる機能パターンだ。

 電流受信装置や無停電電源装置、上下水処理装置、各種ネットワーク制御装置など、生活に必要なインフラは大抵の建築物に標準的に備え付けられている。

 これと同じように、アーネンエルベの都市はブロック毎に標準機能を備えた区画で構成されているのではないだろうか。


 アリーゼの推測はあながち間違っていないと俺も思う。

 魔導文明と言われているだけあって現代都市と設計思想が似通っているのかもしれない。


「よし、発掘は明日からだ。

 今日はゆっくり休んで英気を養ってくれ」

「はい! 了解です!」




 翌日の朝に俺の予測通り、少量ながらも朝露が降りてベース・キャンプの周囲には薄い毒の大気層ができていた。

 だがエア・スクリーンの効果は絶大で、毒はスクリーン内部に全く侵入していなかった。


 周囲を見渡すとハリスがベース・キャンプ内を散歩という名のパトロール活動中らしい。

 砂丘の切れ間、麓のの向こう側に魔獣の死体がチラリと見えた。

 分身体も動員して一晩中やってたようだな。


 死体の光点をチェックしたら、レベル五五のサンド・バジリスクだったよ……

 有能イケメン、マジパネェ……


 朝食の準備をしているとトリシアが随分とエロい寝間着姿でテントから出てきた。


「清々しい朝だな、ケント」

「なんちゅう格好で出てくるんだよ。さっさと着替えろ」

「はははは、見せつけてるに決まっているだろう。

 どうだ? 良いものだろうが」


 クネクネとポーズを取るトリシアがエロいが、口調が男言葉なので微妙にしっくりこない。

 そこは前世モードでやるとグッと来ると思うんだが、残念美人が炸裂している。


 気づくとトリシアの隣でマリスが「ワハハ」と笑いながら可愛い寝間着姿でトリシアのマネをしてクネクネしているが、幼女では全くそそられません。


 目を伏せて小さく「ハァ」と溜め息を付いてから朝食の準備に戻ると、「チッ」とトリシアが舌打ちしたようだが無視しておく。


 味噌汁を作る段階で、香りに釣られてエマとアナベルが起きてきた。


 やはり食いしん坊四人衆はメシに反応しますなぁ。


 さて朝食ですが、昨晩のカレーをベースにしたカレーうどん、カレーをタネに練り込んだカレーコロッケ、味噌汁、漬物、サラダです。

 昨日のトッピングの残りもお好みでどうぞ。



 アリーゼは前掛けをカレーうどんの汁の呪いで汚しまくっているが、仲間たちは回避して食している。

 俺もアリーゼ同様に前掛けで汁の呪いを回避している。

 仲間たちが俺より凄いのだが、どうなっているのか。

 ティエルローゼと現実世界では汁の呪い強度が違うとでもいうのだろうか。


 食休みを挟んでから発掘作業を開始した。


 エマとアラクネイア以外の仲間には俺特製のシャベルやつるはしを握らせ、発掘地点である旗に振り分ける。

 なんとなくエマとアラクネイアに発掘道具って似合わない感じなので渡さなかったんだが、依怙贔屓に見えたらどうしよう……

 ま、肉体労働は俺や男に任せておけばいい。

 マリスとアナベルは女だけど自分からやりたがったので仕方ない。

 トリシアは言動からオッサン枠でいいよな。


 土魔法で発掘地点の砂を予め固めてからシャベルで掘るという手順で発掘をすすめる。

 こうしないと穴に砂が流れ込んで全然掘れないからね。


 仲間たちと二時間ほど掘り進めると、第一発掘地点から屋根板らしき構造物が現れた。

 構造物の材質は木でも焼き物でもなく、石膏やコンクリートのような素材を薄く伸ばした感じの代物だ。

 楽に剥がせるし、破壊も簡単みたいだ。


 一応慎重に屋根板らしき物体を剥がしに掛かる。

 丁寧に剥がして人が潜れる大きさに穴を開ける。


 穴にランタンを下ろして中を覗き込んでみると、やはり屋根裏のような空間が現れる。

 梁や柱がミスリル製で、そこには何やら電線のようなものが張り巡らされている。

 鑑定してみたら「魔力導線」って代物らしい。

 大量の魔力を伝達させるモノだそうで、現実世界でいうところの電線の役割をする仕組みだ。


 さすが魔力を基礎とした文明の遺跡だと感心したが、アリーゼはもっと興奮している。


「こ、こんな仕組みの遺跡は初めて見ます!

 他の地域のアーネンエルベの遺跡は基本的に石造りなんですよ!」


 どうやら相当近代的な建築物を掘り当てたようだ。

 まあ、屋根裏だけに、それ以上の遺物は出てこない。


 ロープで吊り下げてもらって天井板の強度を調べると、やはり薄いボード製で人が乗れるほどの強度がない。

 ナイフを取り出してボードの隅をこじって隙間に刃を差し込む。

 そのままグィッとボードを引き剥がすと、ポッカリと真っ黒な空間が現れる。

 少々すえた臭いが籠もっているが、空気に毒性は無さそうだ。


 構造物が俺に認識された段階でミニマップに地形が適応されるので、大マップを開いて、下の構造物をチェックする。

 三次元マップに表示を切り替えて建物全体を表示してみると、三階建ての建物らしい事が解る。

 一階ごとに大小の部屋が二五個ほど存在し、幾つかの部屋に赤い光点が表示されている。

 光点を確認するとスケルトンやマミーといったアンデッドだった。

 ゾンビやグールのようなキモイヤツはいなくてホッとした。

 ちなみに真下の部屋には光点はない。


「真下の部屋には危険は無さそうだ。

 ハリス、下ろしてくれ」

「承知……」


 俺が縛り付けられているロープがゆっくりと降ろされていく。

 一応、剣を抜いて緊急事態に備えるが、床に降り立っても何も起きなかった。

 ランタンを床に下ろし、腰に縛り付けられているロープを外してクイクイと二回引いて合図を送る。


 ランタンを拾い上げて降りた部屋の内部を調べておく。

 どうも居間のようだ。

 金属製のテーブルは腐って崩れている。

 本棚もあるが中は空っぽにしか見えない。

 やはり古すぎて本は崩れてしまったみたいだ。

 ソファは革製でなんとか形を保っているがホコリだらけで座ったら潰れそうではある。


 小さな棚の上にテレビ・パネルのようなデバイスが置いてあるが、これは鑑定したら魔法道具だった。

 機能としてはテレビ電話だな。

 単体では機能せず、例の魔力導線から本体内に魔力を引き込んで動力を得るように作られている。

 ますます家電みたいだ。


 調べていると、完全武装のマリスが先に降ろされてくる。


「お待たせなのじゃ。暗闇で心細かったかや?」


 ぬふふと笑うマリスにチョップを落としつつ、物色を続ける。

 タンスのような構造物が崩れずに残っていたので調べてみる。


 一つの引き出しから、いくつかのアクセサリーらしいアイテムが見つかる。

 銀や銅、真鍮製なので高価なモノではなさそうだ。


 魔力も籠もってなさそうだけど、一応鑑定しておく。

 結果、指輪の一つが魔法の指輪だった形跡を示した。


 しかし付与魔法が揮発してしまい、ただの銀の指輪になってしまっている。

 名称が「愛の指輪」だったので恋人に送られたモノじゃないかと思われる。

 効果は恋人がどこにいるか解るってヤツらしい。


 送られた人は浮気性だったのかもしれない。

 いつでも位置を確認されるってのはそういう事だよね?

 恋人いたことないから解らんけど、そんなイメージしか思いつかない。


 他は普通のアクセサリーだ。


 その他にアーネンエルベの硬貨が何枚か見つかったよ。

 金貨、銀貨、銅貨というシンプルなモノだ。

 銅貨一〇枚で銀貨一枚、銀貨一〇枚で金貨一枚という換算率で使われていた事が判明。

 現在のティエルローゼで使われている換算率と違って凄い解りやすくて羨ましい。

 一応、重さなどから判断して、現在の通貨に換算すると以下のようになる。

 アーネンエルベ金貨は、オーファンラント金貨の二枚分の価値だ。

 アーネンエルベ銀貨は、オーファンラント銀貨四枚分の価値。

 アーネンエルベ銅貨は、オーファンラント銅貨五枚分の価値となる。


 ティエルローゼの通貨価値は重さが基本となってるので、比べてみるとかなり大ぶりな事が解るね。


 古銭、もしくは美術品としての価値はないのかな?

 マルエスト侯爵に見せたら高く売れるかも?

 まあ、両替商に持っていって重さで換金してもらうのが一番楽ですが。


 俺の行動を見たマリスも物色を開始。

 遺跡の調査にしては豪快にテーブルをひっくり返したりするのでビックリです。

 続いてトリシア、アナベル、エマ、アリーゼという順番で降ろされて来る。

 マリスの所業を見てアリーゼが悲鳴を上げた。

 その後、マリスはアリーゼにこっぴどく叱られて泣きそうな顔になったのは言うまでもない。


 続いてアラクネイア、フラウロス、アモンが降ろされ、最後はハリスが軽業師の如き身のこなしで降りてきた。


 いちいちカッコいいハリスに少々嫉妬を覚えました、はい。

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