第28章 ── 第46話

 ファーディヤとヴィクトールと俺で様々な事を取り決めると、俺の口を出す事案はなくなった。

 後はヴィクトールの采配で国の復興事業が始まる事になる。

 もちろん俺が口を出すのは終わったが、俺のやるべき事は終わっていない。


 まず、俺はファーディヤの装備を作ることから初めた。

 彼女の警護については今は俺の仲間たちが担っているが、俺たちがこの地を離れた後の事を考えねばならない。

 彼女の身柄が何らかの危機に陥れば、アゼルバードの再興は簡単に崩壊してしまう程度でしかない。

 よって普段から彼女の身を守れるようなモノが必要になる。


 俺の背中に装備されている攻性防壁球ガード・スフィアの様なアイテムが望ましいが、あそこまで強力である必要はない。

 装備していると寝転がれないってのもあるしな。


 よって嵩張かさばらない装備しやすいモノが良いだろう。


 本来なら下着に防衛魔法を付与する感じが好ましいが、さすがにソレをデザインする勇気は俺にはない。

 よってその上に着る肌着となるようなシャツに魔法術式を施そう。


 今回はミスリル・チェインをベースとしたチェイン・シャツにしましょうか。

 対刃性能も上がるし、術式を施しやすい素材でもある。


 セントブリーグの幾つかある鍛冶屋で。商会に一番近い工房の隅を借りて鍛冶仕事を開始する。


 もちろん、こんな場所の炉ではミスリルは扱えないので、俺の携帯型魔法炉を取り出して使う。

 この魔法の炉であればアダマンチウムまで加工可能になるからね。

 ちなみに、オリハルコンの加工はトリエンの魔法工房にいかなければ無理だ。

 一応、オリハルコンの加工技術は習ったけど、神力が必要になるので、世間一般の人々がいる前では仕事をしたくない。


 俺は創造神の後継になったお陰で、創造神信仰から来る神力を使えるのでオリハルコンを扱えるようになった。

 マストールも普通にオリハルコンを扱っているが、それが出来る理由としては彼がヘパーエストを信仰する聖騎士パラディンだからだ。


 聖騎士パラディン神官プリーストなどは神々の力を借りて魔法などを行使する。

 この神々の力は神力が元になっているわけです。


 マストールの鍛冶仕事は現在、神事というニュアンスが色濃くなっているので、ヘパーエストの神力を利用したオリハルコン加工が可能なのだ。

 ヘパーエストが降臨した時にしっかりと神に師事しているから仕方ないね。


 ただ、オリハルコン製品は作ると後々面倒に巻き込まれる可能性が高いので、マストールには俺が必要とするもの以外に作らないように言い渡してある。

 もちろん神が欲すれば別だが、神が使うモノはヘパーエストが作るだろうからマストールの出番はないはずだしね。


 俺が鍛冶屋の片隅でトンテンカンとハンマーを打ち下ろしていると、鍛冶工房内の職人が見学しても良いかと聞いてくる。

 別に構わんが、素材がミスリルなだけで鍛冶師として、やることは一緒なんだが。


 俺は細い鎖をどんどん繋げて行く。

 その作業速度は驚異的速さらしく、職人たちは溜息をつくばかり。

 まあ、鍛冶レベルが一〇になれば普通にこのくらいはできると思うよ。


 チェイン・シャツの他に、髪飾り、腕輪、足輪、イヤリング、ネックレスなども用意する。

 これは普段遣い用のモノ。


 これの他に手甲ガントレット脛当てグリーブ、サークレット、ブレスト・アーマー、円盾ラウンド・シールド、メイスを作る。

 これは戦闘用として用意する。

 何かあった時に装着すれば防備は万全という感じになればよし。


 今回作っている装備は全部ミスリル製だが、しっかりとステータスを調べてみるとファーディヤは長年の放浪生活のお陰か、装備制限のレベル二五を普通に越えているので問題はない。

 もともとは四レベルとかだった気がするが、俺の加護で自然と上がったのか、神を自覚し始めた事で神としてのレベルに近づいた可能性もあるかも。


 ま、あれだけの美貌の持ち主が一人でフラフラしてても悪漢どもの餌食になっていない段階で、実は高レベルでしたってのはありえる推測ではあるよね?


 ただ、王女レベル二九ってのがどういう職業クラスで、どういう特性を持っているのかはサッパリ解りませんが。


 それに女王として戴冠したら女王という職業クラスにクラス・チェンジするんだろうか?

 チェンジしたらレベルは一から? それとも従来通りの二九からですかね?


 色々と謎が尽きないな。


 ちなみに、この鍛冶仕事にはアリーゼが付いてきています。

 魔法道具を作るという事で見学したいと強く希望されたからですが。


 ま、邪魔しないといっていたので許したけど、隅に椅子を持ってきて座ってジッと見ているだけなので気にしないことにした。

 見学の職人も多数いる事だし気にしたら負けでしょう。


 全ての装備を作るのに三日を要しました。

 いつもより時間がかかっているのは承知の上。

 まがりなりにも女王が身につける装具なので、それなりに豪華絢爛なデザインが必要になるから仕方ありませんな。


 美術的意匠ってのはずっと言ってるように苦手なので、必死に作りました。

 まあ、俺としては中々芸術的ではないかと思います。

 周囲の反応も悪くないし、

 様子を見に来たヴィクトールに見せてみたら絶賛してくれたので……もしかしたらお世辞かもしれないが……


 という事でこれから魔化作業となります。

 アリーゼが見たかった工程はここからだろう。

 魔法付与に関しては、普通に付与魔法を唱えるだけでもいいけども、術式の揮発化防止を考えると彫り込むのが順当です。

 もちろん彫り込んでも揮発化は進行します。

 それを維持する為にはシャーリーの揮発化防止技術を使うワケですね。


 ミスリルのチェイン・シャツには防御の基本魔法を付与しておきます。

 不意の一撃にも絶えうるように常時発動する防御魔法を付与しておこう。

 耐毒、耐刃、耐衝撃、耐刺突、耐精神くらいを付与すれば問題ないかな?

 ちなみにこの五つの効果が常時発動なので一日で二六〇〇ほどのMPを消費します。


 消費MPが膨大なので、腕輪には周囲の魔力を吸収して蓄電池のように溜め込むの魔導バッテリーとします。

 左右の腕輪二つで四〇〇〇ポイントほどの魔力を常に溜め込んでおける感じにしましょう。

 これだけあれば、チェイン・シャツは二四時間余裕を持って問題なく付与魔法を発動できるでしょう。


 足輪アンクレット速足スイフト・フットの魔法と跳躍ジャンプの魔法を付与しておこうか。

 ネックレスには生命維持サステナンスを、右のイヤリングには魔法反射マジック・リフレクション、左のイヤリングには射撃防御プロテクション・ミサイルをそれぞれ付与する。


 これらの付与魔法は使いたい時に使えるようにしておこう。

 発動方法はコマンド・ワードが一番簡単だけど、直ぐに使えるのがいいだろうし思考で使用のオン/オフを切り替えられるようにするのが順当か。


 彫り込んだ魔法術式に魔力を通していくと、魔法道具特有の燐光が発生しはじめる。

 この燐光を抑えるように付与するのが普通なんだけども、ここはあえて光らせたままにしよう。

 ファーディヤの神秘性を上げる演出効果になるからね。


 続いて戦闘武具関連。


 左右の手甲ガントレットには腕輪と同じように魔力を溜める機構を施す。

 腕輪の魔力では足りなくなるような事態が起きないようにする為だ。

 武具を装備する段階で緊急事態に陥っているだろうから、膨大な魔力は必要になるだろう。

 ちなみに、この手甲ガントレットを装備することで、片方五〇〇〇ポイント、計一〇〇〇〇ポイント分のMPが蓄えられます。

 全部合わせて一四〇〇〇ポイントというのは、魔法工房の運営魔力の二ヶ月分くらいに匹敵しますね。


 ブレスト・アーマーは物理防御最強の魔法、完全防御パーフェクト・プロテクションを実装。

 消費MPが凄いことになるが、ファーディヤだけは絶対に傷つかない。


 サークレットには感覚系強化魔法を付与しましょう。

 まずは直感度をブーストするエンチャント。

 ついでに視力強化、暗視能力も付与しておきましょうか。

 対閃光防御の魔法もオマケしておきます。


 脛当てグリーブには敏捷度を上げる魔法を付与。

 装備するだけで敏捷度が通常の三倍に。なんだか赤く塗りたくなりますね。


 円盾ラウンド・シールドには器用度を上げていただきましょうか。

 ついでに受け流しパリーのスキルが付与される感じの付与も施します。


 メイスには筋力度が上がる付与を行います。

 ついでに何でも粉砕できるようにダメージ・アップもしておきますよ。


 なお、これら武器や防具を装備した時、先に上げた装飾品などに干渉しないようにデザインしてあるので同時着用が可能です。


 ちなみにこの武器や防具には金色の縁取りや装飾などを施してあるので、全て装備すると物凄い金ピカ装備になる。

 これに魔法道具の燐光まで加わるとどうなることやら……


 術式の彫り込みや魔法の付与などで二日ほど要したので、鍛冶と付与で合計五日。


「これで全部完成だな」


 俺がそう言うと、横で見ていたアリーゼが「ふへぇ」と変な声を出しながらテーブルの上に崩れ落ちた。


 何でお前が?


「いやはや……息をするのも困難な緻密な作業でしたぁ……」


 どうやら細かい作業も多かったので勝手に緊張して勝手に疲れてたらしい。


「で、魔法道具作成を見て何か解ったか?」

「いえ、サッパリ」


 クィッと眼鏡を上げ、アリーゼがキッパリと言い放つ。


 君は一体全体何の為に見学していたのだ?


 どうやら、彼女は遺物アーティファクトマニアというだけで、その仕組や作成方法を理解したいという気概はあまりないようだ。

 ただ単に見るのが好きってヤツですね。


 これには「発掘業務を任せられるんだろうか?」という疑問がふつふつと湧き上がる感覚を覚えました。


 それでも俺は彼女の装備を作らねばならないのです。


 さて、ファーディヤ装備は作成完了したので、見学しているアリーゼの装備の開発に移ります。

 アリーゼに発掘に必要な道具をリストアップさせていたので、その中で魔法道具なら便利だろうというモノを作ることにします。


 書いてなくても俺が必要だと思うものは作りますよ。

 

 基本的には砂から出る有毒性の気体から身を守る装備が必要でしょう。

 金属でガチガチに固めると発掘の邪魔になるので革製防具くらいがいいかな。


 ガスマスクと革鎧に色々と魔法を付与するとしよう。

 他にはツルハシ、シャベル、ロープ、照明器具が必要ですかね。

 魔法道具で用意するのはこの辺りまででいいかな。


 くさびと小ハンマーに魔法の付与はいらんだろう?

 寝袋とかテント、調理器具に食器などにもな。


 さて、ガスマスクとさっき書いたが、魔法がある世界で物々しい現実世界と同様のガスマスクは必要ない。

 基本的には革製の頭部用防具だ。

 ゴーグル付きのトラッパー帽イメージしたんだが、どうだろうか?

 額付近にジョイント用の金具を付けておく。

 両手が自由になるように魔法の脱着式ライトを装備できるのだ。


 革鎧の方は通常のモノと防御力は変わらないが、有毒ガスなどの毒素からは完全に守られるように魔法の付与を行う。

 体全体を覆うように空気の膜を纏わせる。

 毒気はコレに吹き飛ばされてアリーゼには届かない仕様だ。

 空気の膜なので体を動かす事を妨げない。


 ツルハシには筋力上昇と破砕効果を上げる付与をしておく。

 シャベルも同様に筋力上昇、どんな硬い地面にも突き立てられるように貫通力を付与だ。


 ロープは伸縮自在の不思議ロープを開発しようと思案する。

 実は冒険にしろ何にしろ、ロープほど役に立つ道具はないのだが、いかんせん長いロープを用意すると重いし非常に嵩張かさばるのである。

 俺はこれを打破するために、自由に伸びたり縮んだりするロープを開発しようと思うのだ!


 開発の苦労などを書いても仕方ないので結論だけ申し上げる。

 開発に失敗した。

 とても実用可能なモノは作れなかった。


 伸び縮みはするものの、伸ばすと細く、縮むと太くなる不格好なモノが出来た。

 ロープ自身の体積が変わらないので、長くすれば長くするほど細くなってしまうし強度も下がる。

 そんなロープが役に立つはずがない。


 仕方ないので飛行フライの腕輪でお茶を濁した。

 ロープは既存の丈夫なモノを無限鞄ホールディング・バッグに入れておいてくれ。


 照明器具に至っては立脚が付いたモノ一〇本、どこにでも設置可能なモノを一〇個作った。

 これだけあれば問題なかろう。


 最後にアリーゼは戦闘力が皆無なのでどんな敵が出てきても大丈夫なようにアダマンチウム・ゴーレムを一〇体用意した。


 大型のモノではなく、トリエンのゴーレム部隊と同じモノだ。素材がアダマンチウムなので相当に強い。

 レベル五五の前衛型ゴーレムが五体、レベル六〇の射撃型ゴーレムが三体、レベル七〇の魔導ゴーレムが二体だ。

 下手な魔族くらいを相手しても戦える戦力ですな。


 基本的に遺跡発掘は機密事項なのでアリーゼは単独行動をしなければならない。

 これくらいの戦力は付けてやるべきだ。


 彼女がゴーレムを引き連れて砂漠に消えていくのも考えものなので、ゴーレムには隠蔽機能を付けてある。

 透明化ではなく認識阻害なので普通に目に見えているんだが、気にされない機能です。

 もちろん、攻撃した相手などには普通に認識されるようになるので、絶対的なモノではない。


 ゴーレムたちを無限鞄ホールディング・バッグに仕舞えればいいんだが、アダマンチウム製って段階で重すぎて不可能です。

 上級無限鞄ホールディング・バッグでも小型のミスリル・ゴーレムを収納するのが精一杯なんだから、どだい無理なんですけどね。

 だから、仲間たちのゴーレム・ホースは俺のインベントリ・バッグ内に預かっているんだからね。


 これら装備を作るのには一週間も掛かりました。

 自在ロープの開発失敗が痛かったですかね。


 まあ、約二週間ほど仲間たちやファーディヤを放っておいたので寂しそうにしていたみたいですが、ようやく開発作業は完了ですかね。

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