第28章 ── 第22話
コソーッとトリシアの影から様子を窺う姿勢に面白みを感じたのだろう、マリスが真似して俺の後ろに陣取りコソーッと顔を半分出す。
さすがに某黒いトライ・スター的なことを多人数でやればバレるのは当たり前。
しかし、船長たちのリアクションはレベルが違った。
先頭のハイレディン船長の後ろに、残りの三人が隠れてコソーッと半分顔を出してきたのだ。
何というノリの良さか……
服装が革鎧などで全体的にブラウンっぽいので、茶色いクアドラプル・スターと名付けるべき案件かもしれん。
その様子を見ていた周囲の客たちが唖然とするのも当然というモノ。
一番焦っているのはヴィクトールだったけどね。
「せ、船長!! 何をしているんですか!?」
「いや、これは英雄の流儀に合わせているのだが?」
俺が顔を引っ込めるとマリスも三船長も引っ込める。
またチラッと顔を出すと、マリスと三船長も出す。
先頭のトリシアとハイレディン船長が得意げに鼻を鳴らす。
「どうだ。こんなヤツ見たことないだろう」
「強さの秘訣は、ここに有るということですな」
「常識で捉えては駄目だ……という事だな」
なぜお前たちは意気投合しているのか。
俺は至って常識的ですけど?
不意に俺は姿勢を正して立ち上がった。
「コホン。遊びはこのくらいにしておこう」
「何じゃ、もう終わりかや?」
「マリスはタンクなんだから前に出なきゃ駄目だろ」
「久々の素敵用語じゃが、それは俗に言う前衛盾役というヤツの素敵用語じゃな?」
この世界の戦車は装甲された例の戦車とは違うので説明に困る。
「まあ、そんな感じだな。
ウチの自動車二号を思い出すといい。
一号や三号と比べてデカイし丈夫そうだろう」
「盾役ならHPが多い方が良いじゃろうし、そういうのをタンクというのかや?」
語源なんだっけ?
「アッチの話になるが……」
戦車がタンクと言われ初めたのは第一次世界大戦の折、新兵器であるマークI戦車の
ウォーター・キャリアなどとも一部では呼ばれていたそうだが、従来の
四角い箱が動くのだし「タンク」という言葉は割としっくりと当てはまったのだろうね。
そして、戦場の花形となった
ファイターやパラディンなどの防御特化型の前衛職は、
実際、歩兵による戦車の利用方法は弾除けだしな。
などという素敵用語講座をマリスだけでなく、船長たちも並んで受講していた。
「素晴らしい。そんな兵器がこの世に存在するなんて」
「王国のトリエン地方は海岸沿いに都市がないのが悔やまれますなぁ」
「噂によると、トリエン軍の駐屯地は一般公開しておるようですしな」
「一度は見に行きたいものですなぁ……ゴーレム軍団」
「そのタンクをトリエンには導入しないのかや?」
一瞬でマリスと船長たち、仲良くなりやがった。
「いや、俗に言う
「それがあればドラゴンとも戦える気がするのじゃがのう」
無理です。空中戦力に戦車で対抗するのは自殺行為です。
「対空装備搭載した戦車でも分が悪い気がするな……」
俺の言葉に船長たちが口々に納得の言葉を漏らす。
「やはりドラゴンは地上最強ですか……」
「無理もない。トリ・エンティル様ですら倒せぬ生物ですからな」
「空を飛べないというルールを設定できればあるいは……」
「いや、我々の有利になるルール設定をドラゴンが受けてくれるはずはないではないか」
「空を飛べぬドラゴン種もこの世にはおるがのう?」
マリスの言葉に船長たちがポンと手を叩く。
「それですな。それを狙いましょう」
「やはり英雄にはドラゴン・スレイヤーの称号こそが相応しいですしな!」
ソファに座って聞いていたトリシアが「フン」と鼻を鳴らした。
「もうドラゴンは倒したが?」
「「「は?」」」
船長たちが間抜けな声色で聞き返した。
「そうなのです。
ドワーフ王国の地下深く、封印された坑道で私たちはドラゴンを倒したのですよ」
船長たちが信じられないモノを見るように俺の様子を窺っているので苦笑しつつ頷いた。
「まあ、毒を撒き散らすヤツでしたが、浄化効果を付与した魔法道具装備で固めてたので何とかなったかな」
「あれはドラゴンにとって恐怖の攻撃であったわ……」
マリスが例の鱗剥ぎ攻撃を思い出して身震いしている。
「トドメはハリスたちだったろ」
「ケント、しかしのう……鱗のあるモノにアレはないのじゃ。
ケントが言っておった……ほれ、ドMとかいう性質のモノでもドン引きじゃぞ」
人聞きの悪い。
ドラゴンは鱗が非常に固いので、先に対処しないとダメージすら通すのが難しいんだ。
先に剥いでしまいたいと思うのは当然ではないか。
「戦術としてはアリだ。
アルシュア山の赤き悪魔と呼ばれたグランドーラと戦った頃の私のレベルでは難しかっただろうが……」
トリシアが今ならどう戦うかという視点から俺の戦術を擁護する。
「まあ、確かにアダマンチウム製の武器でも通常攻撃で対処するのは難しいからのう。スキルを乗せてやっと鱗数枚じゃったしな」
あのアモンですら一撃で一枚ずつという非効率極まりない状態だったんだ。
刀技
「あの技の流麗なること……」
何気にアモンがウットリとしはじめた。
「まあ、敵の体に沿って刀身を操るなど……
そこらの
あの戦いに参加していた者たちの証言が次々に飛び出し、船長たちはポカーンと口を開けて呆けたまま聞いている。
「そういや、あのドラゴンの素材ってまだ売り出してないよな?」
俺がふと思い出して口に出すとマリスはコクコクと頷いた。
「そう言えばそうじゃな」
だが、トリシアが首を振る。
「売り出せるわけないだろう。
並のドラゴンならともかく、古代竜種の素材だぞ。天井知らず過ぎて市場が崩壊するのは目に見えている」
トリシアのしかめっ面に俺も事態を把握した。
確かに、古代竜の素材など一点物過ぎて市場には出回らない。
古代竜ではない一般的な種類のドラゴン素材が出回ることは無いことはないのだが、とんでもない金額が付くらしく、素材として使用するよりも観賞用として扱われるのが相場だと聞く。
錬金素材としてマリスの汗をフィルに渡したけど、アレってポーション作るよりも観賞用に売り飛ばす方が都市運営とか財政の為になったって事か?
トリシアによれば、彼女たちはグランドーラ戦で半壊状態になった合同パーティを撤退させる時に赤い鱗を数枚回収したそうだ。
グランドーラから剥がれ落ちたであろうソレは市場に出した時、とんでもない金額で買われていったらしい。
たった数枚で俺がワイバーンで稼いだ金額の一〇〇倍は下らない値段になったそうだ。
生き残ったにしろ、戦死したにしろ、その金は彼女らの合同パーティの参加者には役立ったそうだ。
頭数で割った金額を仲間、そして遺族に配ったそうだが、ひとり頭白金貨一〇〇〇枚以上という金額にその後の人生は一変したこと間違いなしでしょうね。
トリシアは半額をマストールに渡して義手開発を任せ、残りでファルエンケールの軍事力増強に当てたとか。
マストールは自分の工房の建て替えと第二工房の準備金にしたらしい。
他に知っている参加者といえば、ハイヤヌスだろうか。
彼はギルドマスターになるために使ったっぽい気がするのだが……後で聞いてみよう。
それと忘れてはならないのはリヒャルトさんだな。
彼も参加者の一人らしいと噂では聞いている。
本人に確認はとってないけど、彼の物腰や仕草などから感じ取れる
彼は何に白金貨一〇〇〇枚使ったのかな?
存外、使わずに未だに持っている可能性も否定できないのは俺だけだろうか。
などと考え事をしていると、船長たちが食いつくのは当然ながら、近くで聞いていたヴィクトールが予想以上の食いつきを見せる。
「そ、その素材……今もお持ちということでしょうか!?」
「……ああ。持ってるよ」
「少しお売り願えないでしょうか!?」
「買いたい分にもよるし、利用目的次第では売らなくもないが?」
「おお、ありがたい!!」
俺の言葉にヴィクトールが顔を輝かせる。
「トリシアが言ってたように、相当な値段になると思うけど払えるの?」
「そこは……なんとかなると思います。値段によりますが……」
これから浪費の王様たる戦争をやるとしたら、とても購いきれない気がするんだけどなぁ。
ただ、市場に普通は出回らないモノがあると聞かされたら商人がこんな反応になるのは仕方ない事だろうと理解はできる。
「その辺りは商談だな?
こんなパーティの席でやる話じゃないと思うけど?」
「そ、そうでした……
申し訳ありません、我を忘れてしまいました」
ま、顔に出さないロボットみたいな商談相手よりは、人間味があっていいとは思いますけどね。
「では、晩餐会の後に一席設けさせていただきます」
「了解。そん時、今後の話もさせてもらおうかな」
「今後……ですか?」
「ああ、君が俺たちをどう利用するつもりなのか、そこに俺たちがどう関わっていけるのかを考えなくてはねぇ。
まあ、そういう色々な事だよ」
俺がそう言いながらニッコリ笑うと、ヴィクトールの顔から少し血の気が引いたように見えた。
ま、神々に比肩する俺たちを利用するんだから、それなりの見返りが必要になるのは当然ですよ。
ちゃんと釣り合うモノを用意してもらいますからね
それがギブ・アンド・テイクの精神です。
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