第28章 ── 第11話
まず俺は、アースラに念話を繋げた。
該当する神に直接繋げる前に他の神々が、この少女の件をどのように認識しているのか知りたいってのも理由の一つだ。
「よう、ケントか」
「ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「何だ? ワイフと娘の事なら今のところ問題になってないぞ?」
「それじゃねぇよ」
アースラはドーンヴァースへ繋げられるようになってから、結構な頻度で工房にやってきてはドーンヴァースへ
奥さんとのメールを出してから、色々とやり取りが続いているそうだ。
最初はイタズラと思われたようだが、夫婦の間でしか知り得ない事も当然知ってるアースラを本物と認めたらしい。
「そうか。最近、娘がドーンヴァースにインするようになってな。一緒にプレイするなんて事にもなってるんだよ」
娘の話をするアースラはただの親バカだ。完全に典型的だよな。
「その話は後だ。
アースラはアゼルバードの王女の話を知ってるか?」
「アゼルバードの王女? あの国はもう滅んでるだろ」
「まあ、国の体裁じゃないのは確かだけど。
一応、第二王女ってのが四柱の神の加護を受けているんだ」
「四柱の加護? 初耳だが、随分と俺たちに見込まれているヤツがいるんだな。」
「いやぁ、それがさ」
俺はファーディヤの事を簡単に説明する。
「厄介なことになってるな。
普通はそんな事にはならないはずなんだが……」
神の加護は他の神の加護には干渉しないという。
そのあたりは何柱もの加護をもらっている俺や仲間たちで立証済み。
俺は八柱の神の加護を受けているし、トリシア、マリス、ハリス、アナベルは三柱の加護を受けているけど何のデバフも受けていない。
ちなみに、魔族三人衆は今のところ俺の加護だけなので考慮する必要はない。
「アースラはこの四柱の神たちの事は知ってるんだよな?」
「そりゃ知ってるさ。
一番知ってるのはデュリアだな。
俺がこの世界に転生して最初に加護を受けたのはデュリアからだった。
あいつは確率をいじるから、加護を受けた当時は何でも成功しやすくなって助かったよ」
なるほど……そりゃ会心の一撃出し放題っぽい加護ですな。
「あいつは戦闘系だけでなく、鍛冶などのクラフト系にも関わってくる神だから結構な力を持ってるぞ。
悪戯の神なんて側面もあるから気をつけないと波乱万丈の人生を歩まされることになる」
アナベルも嫌そうな顔で悪戯の神だって言ってたもんな。
何かひどい目に合わされたりした経験があるのかねぇ。
「他の神は?」
「ダナは元素神で凄い気分屋だから、下手に怒らせると風でふっ飛ばされるから気をつけろ。
エウレーナはメガネ美人だな。話が合わんので詳しくはない。イルシスが彼女の眷属だぞ。
テレイアは……メンヘラ気味だな……関わると面倒だ」
他の神は随分大味に説明しやがったな。
「その四柱を念話会議に呼んでくれ」
「は? 俺がか?」
「そうだよ。俺、その四柱と話したことないもん。念話リストに乗ってねぇし」
「うーむ。仕方ないな。呼んだら俺は抜けていいか?」
アースラめ面倒だから逃げようとしてるな?
「いや、繋いどけよ。問題が起きたら仲裁してくれ」
「マジか……」
アースラは頼まれると断れない性格っぽいから、こう言っておけば逃げることはないだろう。
「では、呼ぶぞ」
アースラがそう言ってしばらく黙った。
「アースラ、ご機嫌よう。私を念話に呼ぶなんて珍しいわね?」
「テレイア、今日は創造神の後継に選ばれたケントがお前たちに用事だそうだ」
「ケント様が?」
最初に繋がったのは美と豊穣の女神テレイアだ。
俺からのお声掛かりと聞いて声が弾んでいる。
「初めましてかな?」
「ケント様の夢の中でお会いしておりますが……少々神の数が多すぎたかもしれませんね」
俺の言に少し寂しそうな声になるテレイアだった。
「今日は君と……」
「アースラ~♪ マイハニー♪」
突然あまったれたような声色が念話に入ってきた。
「俺はお前のハニーじゃねぇ! 何度言ったら解るんだよ! 俺には最愛の妻がいるんだ」
「あっちの世界の話じゃない。こっちの世界ならいいでしょ?」
「良くねぇ!」
突然の痴話喧嘩に何事かと俺は驚く。
「やれやれね。ケント様、デュリアまで呼んだの?」
「ああ、他に二人呼んでもらってるよ」
「あら? テレイアも来てるの? それとこの声……どなた?」
「デュリア、ケント様に失礼よ」
テレイアがそういうとデュリアが息を呑んだ。
「ケント様ですって!? ああ、マイマスター♪ やっとお声をお掛け下さっるのですね?」
「いい加減にしなさい、デュリア。誰彼構わず色目を使うのは止めなさい。はしたないわよ」
テレイアが窘める。
美の女神なので、美学みたいなものがあるのかもな。
「何か煩いですね。アースラ、多人数念話なの?」
「ダナ、そうなんだ。今日はケントに頼まれて君らを呼んだんだ」
また別の声が入ってきた。
風の神ダナの登場だ。
「ケント? お世継ぎ様がいらっしゃるの?」
「あ、はい。初めまして?」
「これはご丁寧に。
「これはどうも……」
慇懃な挨拶に俺はつい頭を下げる。
顔を突き合わせてるわけでもないのに、ついペコペコしてしまうのは日本人特有の仕草だ。
「他に誰がいらっしゃいますの?」
「今、来てもらってるのはテレイアとデュリアだね。あと一人、エウレーナも呼んでもらってるんだけど……」
「エウレーナ、お呼びと伺い罷り越しました」
お、知恵の女神も来たみたいだね。
「みんな、忙しいところ呼び立てて申し訳ない」
全員集まったところで、俺はそう言ってまた頭を下げた。
「嫌ですわ。ケント様がお声を掛けて下さったなら、我らいつでも参上致しましてよ?」
テレイアが「フフフ」と艶のある声で笑う。
「この顔ぶれをお呼びという事は……例の件の裁定を下さいますのでしょうか?」
エウレーナが呼ばれた神々の顔ぶれから何か推測したようだ。
「ちょっと待ってくれ。裁定ってのは何だ?
君たちはファーディヤに関し何か争っていたのかい?」
俺が質問すると、四柱の女神が黙り込んだ。
少しの間の沈黙の後、ダナが代表して口を開いた。
「ファーディヤとは巫女の事で間違いありませんね?
ならばその通りです。
我らは彼女の所属について争っております」
「所属?」
「はい。巫女の中におる魂は元々神界の者です。
今、下界にて生まれましたが、死後神界にて神に戻る予定の者なのです」
「ちょ、ファーディヤの話だよな?」
「左様でございます」
ダナの話によるとファーディヤは元々眷属神だったらしい。
何の因果か知らないが、その神の魂は人間としてファーディヤとして生まれ変わった。
その神が神界に戻った時、どの陣営に戻るのかという事で、この四柱の神が争っているらしい。
「どういう事だ?
君たち、それぞれが自分の陣営の神だと主張しているって事か?」
「そうなりますが、彼女は私の眷属神でございますよ」
ダナの言葉に他の神が騒ぎ始める。
「いいえ! 彼女は私の眷属です!」
「私ですわ!」
「彼女の力は我の力と同種のモノですが?」
テレイアもデュリアもエウレーナも引き下がらない。
こいつは面倒な事になってるな……
そもそも神が人に生まれ変わるとか、そんな事象が起こってる事自体がビックリ仰天ですけども。
ま、人間の俺が創造神の後継になってる方が可笑しい事ではあるが。
「お世継ぎ様の御前ですよ。静まりなさい」
ダナが威厳たっぷりに他の神を諌める。
「ああ、一つ質問が。
ファーディヤによると、アゼルバード王国の守護神はブリギーデって神だと聞いたんだが、その上のダナが加護を与えている理由は?」
「ブリギーデの生まれ変わりが巫女でございますよ、お世継ぎ様」
「なんだと!?」
「違います。彼女は我が眷属メティシアの生まれ変わりです」
「何を言っておられるのです? 彼女は末の妹のプロセナスです」
「彼女はフォルナなのに……」
収集がつかねぇ……
俺は頭を抱えた。
彼女らの主張を整理しよう。
まず、ファーディヤは、彼女自身にその自覚はなさそうだが、何かの加減で神の魂が人間に生まれ変わった存在らしい。
んで、四柱の神たちの主張はこうなる。
ダナが言うには、踊りと歌の神ブリギーデが生まれ変わったのが彼女だそうだ。
だが、エウレーナは彼女をメティシアという知恵の眷属神だと主張している。
テレイアが言うにはプロセナスという末の妹で、春の息吹を司る女神だという。
デュリアの主張では、眷属神の幸運の女神フォルナの生まれ変わりに間違いないらしい。
それぞれが主張する生まれ変わった神の特徴を見ると、全部違う権能だよね。
権能が似ているなら勘違いとかも考えられるが、全く違うのに何で四柱もの神が自分の眷属神だと主張するハメになったのか。
マジで解かんねぇよ!
というか神々の相関図とか誰かまとめてくれると助かるんだが……
全部把握するの大変だし、マジで混乱してしまう。
たった四柱の神々の問題でこの状態ですからな。
多神教の問題は神々が多すぎるって事だな。
こいつは当の本人も念話会議に呼んでみるか?
いや、さらなる混乱が目に見える気がするな。
生まれの所為か、ファーディヤは引っ込み思案気味みたいだし、こんなに押しの強い女神たちにあれこれ言われたら泣き出すかもしれん。
さあ、困りました。
マジでどうしましょう……
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