第28章 ── 第10話
助けてやりたいのは山々ではあるが、一体何がどうなってファーディヤの周囲に不幸が撒き散らされるのか、その原因や仕組みを知らねば対処する事は難しい。
神に念話する前に、もっとデータを集めておきたい。
まず呪いについてだが、
何らかのデバフが掛かっているならステータスを調べれば一発で判明するのだが、それも皆無だ。
一体全体どうなっているのか、ますます解らない。
身体の異常の治癒や
「どうだ?」
ファーディヤを診断しているアナベルが渋い顔をしている。
「これはいけませんね。私では何もできません」
「どういうことだ?」
アナベルの重苦しい声色にファーディヤは一層不安そうな顔になった。
「これは神々の呪いというより祝福からくる弊害だと思うのですよ」
「は?」
「ファーちゃんには、様々な神からの恩恵……いわゆる『加護』が複数与えられています」
「うん。それは俺も調べたんで解ってるよ」
複数の加護と聞いてファーディヤは首をかしげる。
「神々の加護ですか……?」
「ああ。俺も調べてみて判ったけど、君には四柱の神の加護が与えられてるね。
一柱目はダナって神だね。」
それを聞いたファーディヤは少し納得の表情をした。
「心当たりがあるのかい?」
「なんとなくですが……我が家というか、この国には風の加護があると信じられてきました。
およそ二〇〇〇年ほど前に滅んだアーネンエルベ魔導王国の守護神とされてきたのが、風の女神ダナの眷属神です」
その眷属神は踊りと歌の女神「ブリギーデ」だそうで、アーネンエルベの滅んだ後に興ったアゼルバード王国でも守護神として祀っていたらしい。
祭などでは歌と踊りで神々に感謝を送るのが習わしだったとか。
そして、ファーディヤはその踊りの巫女の役割を担うはずだったと乳母から聞いたことがあるという。
「なるほど……眷属神を信仰している土地柄で、なおかつ巫女ねぇ……」
アナベルのような
ただ、眷属神ではなく、その上の神の加護なのは何故か?
「二柱目はデュリアという神なんだが……」
ファーディヤは首を傾げたが、アナベルが凄い嫌そうな顔をした。
「悪戯の女神ですよ!」
「はあ。それで、アナベルは、なんでそんなに嫌そうなんだ?」
アナベルによれば、戦闘において攻撃が失敗するのは悪戯の女神の所為なんだとか。
俗に言う、クリティカル・ファンブル、クリティカル・ヒットなどの大失敗、大成功がおきる原因の神らしい。
それって悪戯の神じゃねぇだろ?
多分、ファンブルの嫌な印象があって、アナベルの中で「悪戯」って側面だけが大きくクローズアップされてるような気がする。
いわゆる確率の女神ってヤツなんだと俺は理解した。
ゲームとかギャンブルなどで、一か八かの大勝負の時に神に祈る場合は、この女神に祈るのだろう。
「三柱目はエウレーナって神だけど何の神?」
「知恵ですよ。さまざまな思いつきとか閃きを象徴しています。そこから転じて芸術や発明なんかの神でもありますね」
ふむ。ギリシャ神話の「アテナ」や「メーティス」みたいなもんか。
エジプトの神話ならトキの頭の「トト神」かね?
日本神道では「
どの神話でも強力な神様だったりするねぇ。
ちなみに女神イルシスは、このエウレーナの眷属神らしい。
「知恵の女神は知りませんが、深慮遠謀を司る神も古くからこの地では信仰されております。
アーネンエルベが滅んだのは深慮遠謀がなかった所為と言われていますので」
アゼルバード王国は、この地でアーネンエルベ魔導王国が滅んだ事を教訓としていたんろうね。
「んで、四柱目がテレイアか」
「それは女神ラーシュさまの双子の女神さまですよ」
美と豊穣を司る女神「ラーシュ」には双子の女神がいるらしく、それが「テレイア」と呼ばれる女神だ。
「双子って事は同じような神様なの?」
「いいえ」
アナベルがキッパリと首を横にふる。
え? 何? 姉妹なのに似てないの?
イワナガヒメとサクヤヒメみたいな?
「ラーシュさまを可憐とするなら、テレイアさまは妖艶といいましょうか。
大人の女性を目指すならテレイアさまの加護が欲しいと思うのではないでしょうか」
美に頓着しないアナベルは興味がなさそうだが、確かに美しさというものには色んな種類が存在するからな。
その方向性の違いが神として別れた理由なのかもしれないな。
女神ラーシュに似た名前の神様で愛の女神「ラーシャ」ってのがいますが、コレはアイゼンの奥さんの一人だったりします。
そして、このラーシャは女神ラーシュの眷属神ではなく、テレイアの眷属神なんだそうだよ。
「あと女神テレイアは非常に嫉妬深い神様として有名なのですが……」
また、不穏な言葉が出てきた。
嫉妬の神と聞くと、俺はギリシャ神話の「ヘラ」を思い出すのだが間違っているのだろうか。
ゼウスが好色過ぎていつも怒っているイメージで、ほんと可哀想な女神さまなんだよね。
すごい美人のはずなのにいつも眉間にシワがよってるような感じなんだろうか。
俺は美人には笑っていて欲しいんですけどね。
それと似た性質を持っているとすると、感情が激しいタイプなのかもしれない。
「とまあ、君は四つの神の加護を与えられている」
「そう言われましても……
心当たりは最初の女神ダナ以外にはありませんし、女神ダナについても眷属神関連くらいしか思い当たる節がないのですが……」
確かにね。
これは神々に話を聞いてみるべきかもしれんが、今は事情聴取中なので後回し。
「そもそも君、称号に「第二王女」ってあるね?」
ファーディヤがピキリと固まる。
「な、何で知って……」
「俺は、人のステータスを覗けるスキル持ちなんだよ」
ニヤリと笑うとファーディヤが泣きそうな顔になる。
「ど、どうか……それは秘密でお願いいたします……」
どうもさっきから出自を濁して話していると思ったが、やはり神々の呪いに関係していたらしい。
この「呪い」がアゼルバード王国を滅ぼしたとこの国の民は本気で思っているらしい。
アゼルバード王国は、アーネンエルベが滅んで砂漠と化した後に出来た小さな国だったし、人口も二〇〇〇年以上大きく増えなかった。
産物ないんだから発展しようもないんだよ。
農作物は海岸近辺の非常に狭い範囲でしか収穫できないし、他の天然資源もアーネンエルベ時代に掘り尽くされているらしい。
砂に埋まった遺跡が大量にあるらしいので、時々発掘される魔法道具を他国に売り飛ばすのが外貨獲得の手段だとか。
そんな建国から細々と続いてきたアゼルバードが滅んだ原因が、ファーディヤだと思われていると。
神々の加護を四つも与えられている事を理由としたんだろうけど、滅亡の原因をこの少女一人に押し付けるのはどうかと思うな。
確かに四柱も神が関係したら国が滅ぶほどの力ではあるが……
ファーディヤがこの「第二王女」という部分を隠して俺たちに説明したのは俺たちに知られて虐げられるのを恐れてだろう。
生まれた時から疎まれて育ったとすると、精神的に萎縮した性格になってしまうのは頷ける。
俺も自分の人生を振り返って見れば似たような経験をしているので気持ちは理解できる。
この「萎縮」が自分の行動を制限してしまうのだ。
周囲は誰も助けてくれない。
自分が我慢して飲み込みさえすれば騒ぎにはならない。
そんな考えが頭の中でグルグル回って、必要以上に小さく萎縮してしまうわけ。
いい子と認めてもらいたい。
注目してもらいたい。
そんな欲求が生まれることもある。
俺が勉強を頑張った理由だし、砂井がカースト上位に上り詰めた理由もそういう
俺は自分の性格はねじ曲がっていると理解をしているので、それが表に出ないように気をつけて人生を歩いてきたから多少マシな感じだけど、砂井を見れば解ると思うけど、クソミソな人生に転落するのはちょっとした感情が原因だったりするんだよ。
彼女の場合、ずっと虐げられてきた「第二王女」って称号は忌むべき対象でしかないのだな。
なんとかしてやりたいところですな。
彼女の人生に見られる周囲に不幸を振りまくというデバフはステータスに認識できなかったので加護関連の影響を調べてみよう。
俺は目に創造神の力を宿してみる。
コレは、色々と不思議由来のモノを見るのに便利なので。
するととんでもないものが見えた。
うげぇ……こ、こいつは……
俺の目に見えたのは白いウネウネした糸みたいな触手みたいなのが大量にファーディヤに絡みついている映像だった。
なんと気持ち悪い光景なんだろうか。
SAN値が確実に目減りした。
これ……例のチェック失敗するだろ普通! d一〇〇でSANが減る案件だわ!
俺は理解した。
神々の権能からくる「呪い」。
これが白く光るウネウネの糸の正体だ。
この糸は魂を縛るのだ。
見れば仲間たちにもこの糸は絡みついているし、俺にも多数絡みついている。
今まで気付かなかったのは、コレを見ようとしてなかったからか。
なんとも気持ち悪いものをみてしまい、気分が非常に萎えた気がする。
こいつは神々に動いてもらうしかないですなぁ……
とても俺がどうこうしていいとは思えない。
仕方ない。神々と連絡を取りますか……
俺はどっちかというと神界勢力となるべく関わりたくないんですけどね。
なぜかって?
だって、神様ってすごい力持ってるくせに気まぐれじゃん?
気に障ったら何をしてくるか想像もできんからな。
まあ、創造神の後継たる俺になにかして来るとは思いませんが「触らぬ神に祟り無し」という格言もあるように、関わる事で変な問題を引き起こされて尻拭いするハメに陥るのが嫌ってのが最大の理由ですかね。
すでにこの子を助けるという問題が発生していますので。
俺はゲンナリしつつも取り敢えず念話を繋げた。
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