第28章 ── 第6話
待避所に馬車を停め、昼飯を簡単に済ませる。
今日の昼飯はサンドイッチだ。
人気は肉多めのカツサンド、濃厚な旨味が楽しめるタマゴサンド、おにぎりの具でも人気のツナマヨネーズサンドが仲間たちには好評です。
ハム、レタス、トマト、キュウリといった具をコショウを効かせたマヨネーズを塗ってパン挟んだヘルシーなヤツも作ってみたが、俺ばかり摘んでいる気がする。
勿体ないなぁ。
君たち、もっと野菜も食べなさいよ……
昼飯を終え、再び馬車で走り出すこと数時間。
トンネルを抜けたのは午後三時を過ぎた頃だ。
出口付近には申し訳なさげな木々が数本あるだけで、その向こうは砂!砂!砂! の大砂漠が広がっていた。
西日に照らされ、砂の山が赤く輝いて見える。
「砂丘か、すげぇな」
生まれてはじめて見る大量の砂に俺は興奮する。
「ただの砂だぞ?」
「そうは言うけどね、トリシアさんよ。
君はこんな大量の砂を見たことあるのかね?」
「今世では無いが前世ではある。それに前世だとピラミッドがあったしな」
貴女……エジプトに行ったことがあるのかよ……
なんと羨ましい……
「スフィンクスの下に隠し部屋があると聞いて掘って怒られたっけな……」
前言撤回! 歴史的遺物になんて事をした!? 前世から自由人すぎんぞ、コラ!
「ピラミッドとは何じゃ?
スフィンクスなら、ほれ、あそこを飛んでおるぞ」
「ああ、ピラミッドってのは、巨石で積み上げた三角形の……
って、スフィンクスだと!?」
俺は慌てて空に目を凝らす。
確かに羽の生えた四足獣っぽいものが空を飛んでいた。
あれ? スフィンクスって翼あったっけ?
「アラクネイア。アレは合成獣とは違うのか?」
地球における人間などの動物は四足が基本なので、三対目の器官があるのは昆虫だという認識がある。
ティエルローゼには昆虫人間の甲虫族が実際にいるが、アレは宇宙起源らしいので別だ。
そんな理由から質問が口に出たわけだが……
「違います。あれはこの世界の生物です」
となると、グリフォンやペガサスもそうだが、この世界の生物には六本の四肢を持つ動物が祖先にいるモノが結構いるのかもしれない。
地球と同じ進化論で考えればの話だけどね。
実際に神がいて、生物を作り出したり、進化を促したりしたらしいこの世界では疑わしい学説になってしまうよな。
などと考えていると、スフィンクスがバサバサと羽の音を鳴らしながら旋回し俺たちの近くに降りてきた。
仲間たちは警戒して武器の柄に手をかけるが、俺はそれを制止する。
「こんなところに人間がいるとは珍しいわね?」
「スフィンクスって文献でしか知らなかったけど、人間の言葉を喋れるのね?」
エマが興味深そうに俺の後ろから顔を出してスフィンクスをしげしげと見やる。
「これはテレパシー、精神感応の一種よ。言葉じゃないわ」
確かにクチは動いているが、言葉と合っていない。
というか、俺の耳には同じ言葉として聞こえてきているんだけどね。
「スキルという後天的能力じゃなく、生物的、種族的な先天的能力ね」
「この世界の言葉としては難しい事を言うね」
「あら? 意外かしら?
私は道の障害として作られた生物なの。
小難しい事を言えなくては人間に問題を与えられないでしょう?」
なんと、そんな存在理由が貴女にはありましたか。
「という事は何らかの問題を出すつもりかな?」
「当然出します」
「おー、魔獣と戦闘以外での対決方法があるとは初めてじゃな?」
「失敬な。私は魔獣じゃないわよ。
幻獣……いや、人間的には聖獣かしら?
別にそんな事はどっちでも良いわよ」
「ほう、幻獣とな。
我にも幻獣の知り合いがおるのじゃ。
そう考えると、幻獣は人語を理解するものが多い気がするのう……」
マリスには幻獣の知り合いがいるらしい。
古代竜だから長い年月生きているし、色々と知り合いがいるのは当然だろう。
「では、問題です」
なんかテレビのクイズ番組みたいなセリフだな。
「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。その生物ってなーんだ?」
俺は額に手を当てて目を瞑った。
なぞなぞかよ。しかも地球でも超有名な例のヤツじゃねぇか。
「な、何じゃそれは!? そんな生物は我は見たこともないのじゃ!」
「難しいのです……神はそのような生物を作られたのです?」
「まって、四本足から変わるんでしょ? 変身能力かしら?」
魔族たちも顔を見合わせて首を傾げている。
「アラネア、君ならそんな生物を作り出せるか?」
「バカな事を言わないでちょうだい。
妾の作る生物は基本的に四肢の数が変わったりしません。
そもそも三本足という均衡の取れない足でどうやって歩かせるつもりですか?」
「ふむ。となると生物ではないのではないかと我は思いますぞ。
我が青い世界に召喚された時の事ですが、ディー・エクス・マーキナーという言葉がありましてな……」
フラウロスの話は興味深いが、今は別の話だ。
ちら見すれば、トリシアは前世の記憶が戻っているからだろう、呆れた顔でスフィンクスを見ている。
「そんな問題でいいのか?」
「これは私のとっておきなのよ。
今までで誰も解けた者はいなんだから」
「じゃあ、答えるとしよう。答えは『人間』だろう」
トリシアがとっとと答える。
「ま、待つのじゃ、トリシア! 人間は足は二本しかないのじゃぞ!?」
「そうなのです! 四本とかどう説明するのですか!?」
「これは、やっちゃったかしら?」
答えが間違っていた時、何かされるのではないかという心配から、慌て始める仲間たち。
ハリスは影に消えたのでスフィンクスを瞬殺する狙いがあるのかもしれんん。
だが、スフィンクスの顔が悔しげに歪む。
「せ、正解!!」
それを聞いて慌てふためいていた三人がピタリと動きを止めた。
「せ、正解なのですか?」
「え? 人間は二本足じゃが? 三本目と四本目はどこにいったのじゃ?」
「何? 比喩的な話なの? どういう事?」
スフィンクスが回答を出す前に俺が説明してやるとするか。
「人間は生まれた時はハイハイで歩き回るだろ? だから四本足だ。
そして成長すると二本足で歩くよね。
晩年、足腰が弱くなってくると杖を突く。三本足に見えるだろ?
だから答えは『人間』って事だね」
解説まで取られたスフィンクスが涙目になる。
「だ、第二問!!」
「は?」
悔し紛れにスフィンクスがとんでもない対応をした!
第二問は流石に知らんぞ!
「上は洪水、下は……」
「風呂か?」
あまりにも典型的で有名なナゾナゾが出てきたせいで反射的に俺は答えてしまった。
「うわぁ~~ん!」
スフィンクスは泣きながら飛び去ってしまった。
あまりの早業にトリシア以外の仲間たちから羨望の眼差しを向けられることに。
あの程度の問題しか出せぬとはスフィンクスも大したことがないな。
もしかしたら一族代々から伝わる伝説的問題だった可能性もある。
悪い事したかな……なんか申し訳ない。
「ケント、気にするな。一問目は問題が簡単すぎた」
「だよねぇ。日本人なら誰でも答えられると思うし……」
「いやしかし、二問目は普通無理だろう。
古い時代ならともかく、現代の大人でも答えられないぞ?」
「そうか?」
「完全給湯が当たり前の現代の地球に風呂のお湯を沸かすとかいう知識は普通に無い。
私はティエルローゼに転生したから『魔法の蛇口』以外での風呂についても知っているがな。
ケントはなんで知ってるんだ?」
いや、時代劇とか見てると風呂は薪で沸かすなんて描写もあるからな。
旅行で行ったところに五右衛門風呂とかいう伝統的な風呂があったのを見たこともある。
現代の日本は完全給湯時代ではあるだろうけど、昔ながらの風呂文化知識は一般的だと思うんだが。
まあ、あの問題は確かに日本人以外には難しいとは思うがね。
日本人的感覚だと簡単なんだが、トリシアは海外放浪生活とか半分ティエルローゼ人なので感覚が日本人からズレてるんじゃないだろうか。
「さすがはケント。人外には容赦がないのう」
「当然だ……」
いえ、友好的なら人外でも容赦しますよ。
マリスさんもハリスさんも酷いです。
「どうだ、見たか! なのですよ!」
アナベルさんはソレ誰の口真似なんです?
帝都のマリオン神殿の神官長か?
「なるほど。ああいう手合は有無を言わせず撃退するのが手なのかしら。
無駄な体力を使わないってのは冒険者にとっては重要って事なのね。
相手の流儀で打ち負かすのは真似の難しいところね」
エマまで!?
「ふふふ。獣風情が主様に挑戦とはおこがましいという事です」
「妾も主様を信じておりましたよ」
「このフラの知識を以てしてもあの即答は不可能。
さすがは我が主と言わざるを得ませんな」
お前らもいいたい放題だな。
まあ、スフィンクスを撃退したって事でいいのかね?
何の目的で出てきたのかは知らんけどな。
そもそも答えられなかったら、何をしてくるつもりだったんだろうか?
地球の伝承だと食われるんだっけ?
まあ、大人しく食われるほどお人好しではないけどさ。
その時は返り討ちにしてやりますがね。
ただ、昔このトンネルは旅の商人たちが行き来をする要衝だったはずなので、あんなのが出没しては傍迷惑だったはずだ。
流れのナゾナゾ生物だった可能性も否定できないところだが……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます