第27章 ── 第52話
俺は四大貴族を引き連れて各所を案内して回る。
定番の観光スポットはもちろん、俺が行ったことがない場所にも足を運ぶことにしようか。
まず足を運んだのはゴーレム部隊が駐機してある訓練場だ。
大抵の場合、五部隊あるゴーレム部隊のうち一部隊が待機状態で駐機されいる。
この待機状態のゴーレムは整備、点検などに回され、常にゴーレム部隊が完全稼働できるように管理されているのだ。
保守作業は魔法工房内で行われる為、ゴーレムの駐機場の隅には転移陣を設置した小屋がある。
俺たちが訓練場に馬車を乗り入れた時、保守のために転送小屋に入っていくゴーレムたちが目に入った。
「いま、ゴーレムが小屋に入っていったようだが……」
小屋の大きさに比べて入っていくゴーレムの量に奇妙なモノを感じたようでドヴァルス侯爵が目をまん丸にして囁いた。
「ああ、あそこは転移陣のある小屋です。ゴーレムを整備ために工房に転送する場所なんですよ」
それを聞いたハッセルフ侯爵が眉間にシワを寄せた。
「それだと、不届き者がその小屋を使って工房に侵入できるのではないかね?」
「ああ、無理です。あの小屋の転移陣はゴーレムのみ転移可能ですし、登録していない者が転移しようとした場合、アルテナ森林上空五〇〇〇メートルの地点に転移するようになっています」
「そ、それは落下して死ぬのでは……?」
「その通りです。許可なく軍用地に侵入、そして俺の工房に入ろうなんてヤツは死んで当然ですからね」
俺はニッコリと笑う。
好奇心に駆られて軽い気持ちで侵入したようなヤツが掛かったら気の毒とか思われそうだが、領主が管理する……それも秘密施設に侵入しようとした段階で誰であっても処刑案件でしょうよ。
「基本的にどこの転移陣も、同様のトラップを仕掛けてありますので、大貴族の皆様も興味本位で転移してみようなどと試みないことをお願いします」
ハッセルフ侯爵はコクコクと頷いた。
額に妙な汗を掻いているところを見ると、手の者に試みさせようとしているのかもしれんな。 いや、もう試みていて手下が帰ってこないとか?
まあ、俺や仲間たちに対して赤い光点になるヤツらの末路はそうなるって話であって、そうでなければ転移したとしてもトリエンのどこかにランダム転移するだけなんだけどね。
なので、普通は命に別条はないハズ……
もっとも野生動物や野盗、自然災害などに襲われた場合は命の保証はありませんが。
そこまで説明してやる必要はないので教えてやらんが。
馬車が止まったので大貴族たちと馬車を降りる。
兵舎から出迎えが出てきた。
現在、待機中のゴーレム部隊はゼイン・グローリィ率いる第三ゴーレム部隊だったようだ。
「ようこそおいで下さいました、領主閣下、並びに大貴族の皆様」
「出迎えご苦労さん、グローリィ隊長」
跪いたグローリィ隊長の肩をポンと俺は叩く。
「第三部隊の状況は?」
「はっ、現在は順次点検作業に送っております」
「この前の戦争の時の損耗はもう補填されてるよね?」
「はい。マクスウェル閣下より新たなゴーレムを補充頂きました」
俺たちのやり取りを大貴族たちは感心したように見つめている。
「先の大戦で大活躍だったそうですな?」
「ああ、彼らの働きで陛下の援軍が間に合ったのだ」
マルエスト侯爵の囁きにドヴァルス侯爵が力強く頷いている。
ドヴァルス閣下は「陛下の」ってところに力を入れて返答している。
よほど王自ら援軍に駆けつけたって事を誇りに思っているんだろうね。
まあ、王様の参陣ってのはよほどの事がないとありえないので、当然といえば当然なんだけど。
「辺境伯殿、私にも挨拶をさせて頂けないかね?」
「ああ、私も挨拶させていただきたい」
ドヴァルス侯爵が笑顔で前に進み出て、それに続いてマルエスト侯爵も付いてくる。
その言葉を聞いてグローリィ隊長は身を固くした。
大貴族から挨拶されるなんて緊張するに決まっている。
彼は元々帝国からヘインズに連れられてやってきた一兵卒の平民なんだからね。貴族が挨拶なんてしてくる事なんて想定してなかっただろうな。
「君が我々のために尽力してくれた事は記憶に新しい。本当に助かった」
「ああ、その通りだね。ピッツガルトの領主としてお礼を申し上げる」
「あ、いえ! 私だけでなくバトラーもいましたので……」
グローリィはしどろもどろになりつつも応えている。
「そうだな。バトラー君は今日はどうしているのかね?」
「はっ! 現在第二部隊指揮官バトラーは領地巡回に出ており、帰還は明日になります」
現在、ブリストル大祭のため領内の警備巡回を二部隊で厳しく行っている。
ケントズゲートも、帝国からの旅行者の応対で二部隊が出払っている。
フォフマイアー子爵が率いるゴーレム指揮小隊ですらトリエンの街内の巡回警備に出されているからね。
「そいつは残念だな。ではグローリィ君、バトラー君には君からドヴァルスがよろしく言っていたと伝えてくれたまえ」
「マルエストの分も忘れずに頼むよ」
「はっ! 必ず!!」
挨拶が済んだので、大貴族たちを連れ、駐機場のゴーレムの前に連れて行く。
「これが噂に聞くミスリル・ゴーレム部隊ですか……」
ハッセルフ伯爵はギラギラした目でゴーレムを見ている。
「我らも間近では初めて見るが……三種類いるようだな?」
ミンスター公爵は見るところは見ているね。
「その通りです。剣と槍を使うゴーレム・ナイト」
俺は前衛担当のゴーレムを一体前に出させる。
「こいつは前衛で戦い、敵の前進を阻みます
前回の戦争でその真価を証明したと言えますね」
俺の言葉にドヴァルス侯爵が大きく頷いた。
「彼らの防衛力は大変なモノだった。二〇万の法国軍を受け止められたのはゴーレム兵たちのお陰だった!」
マルエスト侯爵は都市ピッツガルト内で敵の工作員たちと戦っていたのでゴーレムの戦いは見られなかったので少し悔しそうにしている。
「私も、戦場に出られたら良かったのだが」
「何を言う、ハインリッヒ。君がピッツガルトの逆賊と侵入者に対処しておらねば、今頃我が国はドーガの餌食であったろう!」
「その通りだ、侯爵。貴殿は自分の都市の危機も顧みずちゃんと戦場に軍を派遣したではないか」
ミンスター公爵もマルエスト侯爵に優しい言葉を掛ける。
「あっ!」
そこでハッセルフ侯爵が大きな声を上げた。
「どうしたのかね?」
ミンスター公爵が怪訝な目をハッセルフ侯爵に向けた。
「あ、いえ……
クサナギ辺境伯殿にお礼を述べるのを忘れていたことを思い出しまして……」
「ほう?」
ミンスター公爵は面白そうに俺の方に視線を移した。
「先の戦争の時ですが、我がモーリシャス内に法国の工作員が潜伏しているとの情報を辺境伯殿には教えて頂いたのです」
ハッセルフ侯爵は俺の方に右手を差し出した。
俺はそんな事もあったかもと思いつつ、その手を握る。
「礼を述べるのが遅くなって申し訳なかった。
貴殿のお陰で我がモーリシャスにおけるドーガ被害は最小に抑えることが出来た」
今更そんな事に礼はいらんのだが、ハッセルフは真面目なようで他の大貴族がいる前で頭を下げた。
「頭をお上げ下さい。侯爵たる者が簡単に頭を下げては問題になりますよ」
「いや、誠意を持って恩に報いるのは貴族として当然の事だ。偉ぶる事なら誰でもできるのだから」
その言葉にミンスター公爵が笑い出す。
「その通りだな、ハッセルフ侯爵殿。しかし、覚えておくと良い。辺境伯殿は人が頭を下げると慌てる癖があるのだ」
公爵が「ははは」と笑うと、頭を上げたハッセルフが「そうなんですか?」と首を傾げている。
むう……もしかして、オーファンラントの貴族って、目下の者にも頭を下げる率が高いの?
現実世界の中世の王侯貴族とちょっと違くね?
俺の記憶では、頭を下げるというのは目上の者に対してだけで、目下に対しては自分の間違いは絶対に認めないもんだと思ってたんだが。
まあ、細かい事はどうでもいいか。
俺はハッセルフの礼の言葉を受け入れ他のゴーレムの紹介をした。
射撃型ゴーレムの変形機構に度肝を抜かれ、さらに魔導ゴーレムに至っては心胆寒からしめられたという顔の貴族たちであった。
魔法を使える者が希少な世界で、魔法が使えるモノを人工的に生み出したという段階で、貴族たちの想像など軽く超えるって事だね。
それだけ魔法兵ってのはエリート扱いされる存在なんですよ。
あの魔法が盛んだと言われている帝国でさえ、一五〇〇〇人もいる侵攻軍に五人くらいしか編成できてないんだから言わずもがなでしょ。
それが部隊に一〇〇体とか……「パネェ!」と叫ばれても不思議じゃないのです。
ハッセルフ侯爵にはストーン・ゴーレムを納品したはずなので、ゴーレムの有用性はよく解ってくれてるようだ。
他の大貴族たちもトリエン謹製のゴーレムを仕入れてくれると嬉しいです。
続いて向かったのは近くの第二庁舎。
「ほう。これが新しい役場ですな?」
「そうです。役人が大分増えましたので」
「この建築はドワーフの手によるものですかな?」
マルエスト侯爵は建築様式にも詳しいのかな?
まあ、石材などはドワーフの職工によって装飾されているのは間違いない。
「そうみたいですね。建てるにあたっては行政長官のクリスに任せっきりなんで、俺も詳しく解らないんですけどね」
実際、第二庁舎は他の都市の役場などに比べ大きくて立派な出来で、トリエンの観光名所の一つになっているらしい。
確かに周囲を見ると観光客の数が尋常じゃないね。
第二庁舎の前は大きく開けていて噴水はないけど、中央噴水がある中央広場っぽい雰囲気があり、露店が出ているし、休憩用のベンチなども備え付けてある。
エドガーが住民の憩いの場にと設計したらしく、当然のごとく使い勝手が良い広場になっている。
馬車を止めて大貴族たちに少し休憩させる。
テーブルと椅子を用意して飲み物を出しておく。
のどが渇いていたらしく、ハッセルフ侯爵がグラスを手にしてグィと呷った。そして目を剥いた。
「何という冷たさ!」
注いだのはただの水だが、水の入った水差しは魔法道具で冷却機能が組み込まれているんだよねぇ。
「お気に召しましたか」
「水差しの水が氷のように冷たいとは思いもしなかったのだ!」
「まあ、いつでも冷たい水を飲めるように水差しに氷魔法を付与してあります」
「素晴らしい……この魔法道具を是非我が家にも置きたいものだが……」
「抜け駆けはずるいぞ、ハッセルフ侯爵。私も是非欲しいと思うのだが?」
ハッセルフを制しミンスター公爵もニッコリ微笑んでお
こうなると、プレゼントしないわけにはいかないだろう。
「では、後ほど閣下たちの家の者に届けておきましょう。マルエスト、ドヴァルス両侯爵閣下にもお送りしますからご安心を」
俺が苦笑しつつそう応えると、大貴族たちは満足そうに笑った。
やれやれ、大貴族のお守りも大変ですな。
大した魔法道具ではないので苦にもならないけど、こういうお
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