第27章 ── 第47話

 実戦テストにおいて兵士たちに軽傷者は多数出たものの、死者は全く出なかった。


 仲間たちに協力してもらっている以上、ワイバーンごときで死者が出るはずないが。

 要所要所にハリスの分身を置き、貴族たちにはマリスの警護を付けていた。。

 万が一負傷者が出た場合、アナベルの神聖魔法で対処、緊急事態への対処と防衛指揮をさせる為に要塞の一番高い尖塔にはトリシアを配置していたので万全のサポート体勢だった。


 魔族たちはトリエンでお留守番。

 ワイバーンにハッスルされても困ると判断したためだったんだが、アラクネイアにワイバーン派遣を頼んだ段階で、ワイバーン側がはっちゃける事を想定しておくべきだった。


 一匹しか頼んでないのに、何故か二匹来たからな……

 まあ、二匹程度なら対処可能だったから問題はなかったけど。

 借りた兵士が殊の外有能だったってのもあるかもね。


 今回のワイバーン二匹は国軍が狩ったものだけど、俺の兵器提供があったという事で、素材売却代金の一割が俺たちに提供された。

 国からワイバーン二匹分で総額白金貨五〇〇〇枚ほど出たため、そのうち白金貨五〇〇枚が俺たちの儲けとなる。


 一人、白金貨一〇〇枚の収入だ。

 やはりワイバーン素材はやはり美味しい。

 金に困った時の収入源として申し分ない。

 ワイバーンを狩り尽くさせないように施策を打っておこう。



 今回の実戦テストでの兵器の威力が国中に瞬く間に広がった。

 見学に参加した有力貴族たちが証言しまくった所為だが、物凄い宣伝効果だった。

 王国の各都市から一〇セット程度の購入希望が舞い込み、友好的な国家からの販売希望も相次いだ。


 ワイバーンにしか効果がないと明言しているのに、ワイバーンの生息地とは全く縁のない国からも希望が来たりね……

 兵器を分解研究リバース・エンジニアリングしようって魂胆ミエミエなんですけど、精霊の媒介がある以上再現は無理だし問題ありませんな。


 今回の兵器は大矢の誘導ホーミング能力がミソだから、ここが再現できないと意味がない。

 ただ単に矢を打ち出すだけなら強力なバリスタを開発すればいいんだし、魔法道具である必要がない。



 それにしても、テスト一週間ほどで注文が各方面から舞い込んでいる段階で普通じゃない。

 この世界では諜報活動が殆どされてないと思っていたけど、認識不足だった可能性があるね。


 と、その時は思っていたのだが、これは貴族のご婦人方連絡網によって情報の交換が行われていた結果だった事が後に判明する。


 貴族女性の横のつながりマジパネェ……


 もちろんコレにはカラス便レイヴン・メールが威力を発揮したのだが、俺の知るところではない。



 さらに一週間が過ぎた頃、役場のエドガーから連絡があった。


「おお、もう出来たのか?」


 俺は早速、トリエンの南の大通りをアナベルと一緒に急いだ。


「うは。広いな」

「ここがマリオン教会のあった場所とは思えませんね!」


 アナベルも大興奮だ。


 小高い塀に囲まれている敷地には東と西に大きな門が設えてあり、以前教会として使われていた建物もまだある。


 しかし、東の門の正面、敷地の中心から東寄りの辺りにやや大きめの教会、いや小神殿が建ててあった。


 左右に小さい建物が付随しているが、これが寄宿舎だろう。


「一週間でここまで用意できるのか……すげぇな」


 建物を見上げていると、エドガーが小神殿から出てきた。


「閣下! お呼び立てしたようで申し訳ありません!」


 エドガーは膝が泥で汚れるのもお構いなしで土下座の勢いで跪く。


「汚れるから立ちなさい。誰が洗濯すると思ってるんだ?」

「ご、ゴメンかぁちゃ……はっ!?」


 エドガーが自分の口から転げだしそうになった言葉を飲み込んだ。


「かぁちゃんは大切にな」


 俺が含み笑いをしつつ言うと、エドガーは一瞬で茹でダコ状態になる。


「ケントさんはお母さんみたいですからね!」


 何故かアナベルがドヤ顔だ。


 それ、マリスっぽいぞ……


 エドガーも苦笑しつつ立ち上がる。


「では、ご案内させて頂きます」


 エドガーはそういうと俺たちを案内して少神殿裏の広い訓練場につれていく。

 普通は、神殿内を案内するもんだと思うが、マリオン教にとっては訓練施設の方が大事っぽいから間違いじゃないのかな?


「ここが訓練場となります。マリオン様を称える祭にも使える程度の広さを準備しました」


 マリオン教には女神を称える祭があるそうで、その祭を行うための広さを確保したという事らしい。


 祭は縦横五〇〇メートルの正方形内にて五〇〇人の信者が戦い合うというもので、この五〇〇メートル四方から叩き出されると負けとなる。

 最後まで残った者が強者として「神の伴侶」の称号を得るのだとか。


 これはティエルローゼ内で共通の祭らしく、五年に一回世界のどこかで行われる。

 毎回、各マリオン神殿の代表者が話し合ってどこで開くか決められるらしく、土地がない神殿では国に申請して場所を借りたりもするそうだ。

 オーファンラントでそういった土地を自前で持ってる神殿は、小都市エグリルのマリオン大神殿のみらしい。


 オーファンラント王国はマリオン教よりもウルド教の方が力を持っているので、広い土地を維持できる資金力を持つマリオン神殿は殆どないんだよ。

 役場や国から毎年貰える支援金が住民の信仰率で変わるんだけど、領主などの権力者が信仰していた場合なんかは多く支給されたりもする。富豪などの有力者からの寄付なども必要だろうね。


 維持ってのには金が掛かる。

 草を抜き、整地して見栄えを良くしておく為にも人手が掛かるし、その人手を養う為には金が要る。

 ただ土地やら大きな神殿を持っていても、草ぼうぼうで薄汚れた神殿に人が足を運びますかって事だよ。

 維持管理できなければ、人であれ金であれ集まるモノも集まらないもんなんだ。

 金は寂しがり屋で仲間のところに集まる習性があるとか比喩的に言われる事がるけど、こういう事も関係していると思うよ。


「アナベル、こんな広くて大丈夫か?」

「大丈夫です! 帝都の神殿からは一〇名ほど送られてくる事になっています!」


 一〇名程度で維持できるのか?

 いや、マリオン教は訓練場とかの整備とかを訓練の一環としてやりそうだな……神殿の修理すら訓練っぽい扱いにしそうだったし。


 現実世界の聖職者と比べて、行動原理がどこか可笑しい帝都のマリオン神殿にいた神官プリーストたちを思い出して納得してしまう。


 神が司る事象を体現しようと躍起なるのが信者っぽい感じだからねぇ。

 これは魔族も同じ傾向があると思う。


「役場から出る支援金だけど……

 トリエンにはマリオン教の信者は殆どいない。

 いても冒険者が殆どだろ? 運営については問題ないの?」

「私が払うのです」


 アナベルがドンッと胸を叩いた。

 胸も揺れました。


「ふむ……アナベルが払う分には大丈夫そうだけど、信者が増えないと大変そうだな」

「マリオン様がご降臨あそばされれば信者も増えそうですけど……

 そんな都合の良い事は起きません。これも試練なのです」

「確かにな」


 そんな都合のいい事を俺なら起こせない事もないが……止めておこう。

 安易な奇跡は神々の価値すら下げる事に繋がる恐れがあるからね。


 実際、一般には公言はしていないものの、あちこちで俺が関わっている事案で神の降臨が何度も起きている。

 国の上層部や俺の周囲の者たちは承知している者が多い。箝口令が敷かれているから表に出てこないだけでね。


 そういった出来事を漏らせば命の保証がないと思われているから漏れることがない。

 俺が関わってる事で「貴族案件」てヤツになるからね。


 一般に貴族案件に積極的に関わろうとする平民はいない。貴族の気分次第で人生狂わされるなんて堪ったもんじゃないと思うのは普通の事だ。


 まあ、一般的にはだ。

 俺は冒険者上がりってのもあるので、領民にはかなり気さくに接してもらっていると思うし、部下ウケも悪くないとの自負はある。

 なので恐怖心というより、過度な忠誠心から秘密が守られている気がしないでもない。

 俺に仕える者たちの忠誠心過多はキッチリと認識していますからねぇ。


 何はともあれ、本格的な運営が始まるのはまだ先だろうけど、アナベルがOKを出したのでこの件は終了とする。


 んでは次にしなければならない事を進めよう。


 今、俺が画策しているのは「花火」の作成だ。


 このティエルローゼには火薬というモノがまだ発明されていない。

 火薬の原材料は普通に存在しているけど、それを化合するだけの化学が発展していないのだ。


 血みどろの人類史において、火薬の発明は非常に評価される事柄だ。

 火薬なくして人類の発展はなかったのではないかと思っているヤツもいるくらいだよ。

 俺はそうは思わないけど、兵器や武器に簡単に転用できるってのが問題だよね。


 そんな理由から、花火は欲しいが開発に躊躇していたんだけど、俺が創造神の後継となった事で「伝播の抑制は可能」と思い直した。


・基本的に工房でしか作らない。

・消費分しか売らない。

・末端使用者の管理


 などの施策は必要だけどな。


 俺が管理する領地のブリストル大祭で使うのだし、作っても問題ないだろう。


 花火に似たモノがティエルローゼに無かったのかというと、そんな事はない。

 なんせ魔法が存在する世界だから、魔法で似たことを行うなんて朝飯前だ。

 だからといって「花火」が必要ないなんて俺は思わない。


 魔法使いスペル・キャスターが居るとしても、その存在が貴重な段階で。花火に似た魔法を盛大に打ち上げるって事の意味を考えてみると解る。

 王侯貴族などの一部特権階級でしか「花火」に似た魔法を打ち上げられないって事だ。


 俺はそんなのは嫌だ。

 簡単に、そして大量に、盛大に打ち上げられるのは「花火」以外にはないだろう。

 やはり花火ってのは庶民も楽しめてこそだと思うしな。


 定期的に目で楽しめる花火大会は開きたい。

 とすれば、俺の管理できる領地内で使用するのが好ましい。

 ブリストル大祭はその典型的な使用場所になる。


 大祭までに大量の打ち上げ花火を用意できるのかが最重要課題だ。

 発射のタイミングを管理したり発射装置などは俺の得意とするところなので何の問題にもならないけど、発射する「花火」の大きさや種類などは色々作りたい。ずっと単色とかじゃ飽きるからな。


 現実世界での花火知識が必須なのだが、俺にはその知識は殆どない。


 だが、安心するがいい。

 俺にはその知識を手に入れる方法があるのだ。


 本当にドーンヴァースへのダイブを可能にしておいて良かった。

 ドーンヴァースに入れば、内蔵ウェブ・ブラウザが使えるので、インターネットの情報が簡単に手に入るのだ。

 外部にメールすら送れるんだ。ウェブが見られて当然だろう?


 さあ、知識を手に入れてガッツリ花火を作ろう! 頑張るぞ!

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