第27章 ── 第41話
対ワイバーン兵器「ウルドの矢」は四日で完成した。
基本命中精度は八〇%を越えるトンデモ兵器だが、一つだけ問題があった。
ワイバーンにしかロック・オンできないため、試射することができなかったのだ。
流石に試作品を披露するのに模擬目標を狙えないんじゃ困った事になるんで今回の照準器だけは狙ったモノを何でもロック・オンできるような仕様にしておく。
ま、今回だけだ。
お披露目が終わったらノーマルの照準器に交換して納品する商品の中に紛れ込ませよう。
照準器、発射機構などをアタッチメント方式にしたので、部品の交換が簡単にできるのが良い。
設計思想の勝利だな。
道具やら何やらを作るときに独自設計にこだわる開発者は多いが、大量に作ったりするなら、設計は統一規格とかにした方がいい。
自分のところだけで製造するのなら気にする必要はないが、この世界が発展して俺以外の魔法道具開発者が現れはじめれば、サードパーティ製の追加部品とかが世に出てくる可能性だってあるからな。
エマやフィルが独り立ちしたいと言い出せば、自ずとそういう世界になっていくはずだ。
基本的に技術は秘匿しておくべきだが、仲間たちとは共有しておきたいからな。
館に戻り風呂で汗を流してから中庭に向かう。
実は数日前にマリスとハリス、アナベルにワイバーンのダミーを板で作るように頼んでおいたのだ。
看板みたいな板状で良いので、ワイバーンっぽい形に見えるヤツを作っておいてくれと言っておいたので、そろそろ出来ているはずだ。
中庭に入るとそれは目に飛び込んできた。
「おい……」
俺は地鳴りのような低い声で作業中のマリスたちに声を掛けた。
「あ、ケント! 見るのじゃ、ケント!」
マリスが得意げに頼んだワイバーン型の看板とやらの前で得意げに胸を張った。
だが、それはワイバーンではなかった。
ワイバーンの成獣の三倍はあろうか、巨大なブラック・ドラゴンの立て看板だ。
それも辛うじて「ドラゴンか?」って思う程度にメタ糞下手だ。
「マリス、それはもしかしてドラゴンじゃないのか?」
「そうじゃぞ。我の種族に似せて作ってみたのじゃ!!」
「得意げにしているところ、申し訳ないが……」
俺は一呼吸置いてから大きな声で告げた。
「ボツ!!」
俺のボツ宣言を受け、マリスは衝撃に顔を歪ませ、悲壮な顔になる。
「な、何故じゃ……! り、力作なのじゃが……」
力作なのは認めよう。とにかくでかいし、作るのは大変だったに違いない。
「やはりか……」
ハリスが看板ドラゴンの後ろから現れて肩を落とした。
「ワイバーンだと……言っていた……はずだからな……」
どうやらマリスはドラゴンを
あげくに自分の種族をモデルにした方がカッコいいと言い出したと……
「マリス、これは試射用の
「じゃから、ドラゴンを撃った方が強者に利くとアピールできるじゃろう?」
「いやいや……ドラゴンまでに利くと思われたらどうすんだ?」
「ドラゴンにも利くと思われたら……そうじゃなぁ……
下級ドラゴンが狙われるやもしれんのう……」
俺もハリスみたいにガックリと肩を落として見せておく。
「作った武器はワイバーン専用なんだよ。
ドラゴンに使っても絶対に命中しない仕様なの」
「じゃから?」
「
「むむ……?」
ようやく自分の間違いに気付いたか?
「あはは、マリスちゃん。裏は完璧です!」
汚れても良い野良着のアナベルが刷毛を片手にやってきた。
「アナベルよ……失敗じゃ……」
「何が失敗なんです?」
「ケントが気に入らんらしいのじゃ……」
「えー? でっかいドラゴンなんですよ!? こんなにカッコいいじゃありませんか!」
俺は目を閉じてこめかみを揉む。
「だから頼んだのはワイバーンでな?」
「でも、私たちドラゴン・スレイヤーじゃないですか?
こういう所でマリスちゃんが言っていた……アピール? ってやつをやっておくのです!」
「いや、アピールが必要なのは俺たちじゃなくて兵器。
ついでにドラゴンじゃなくワイバーンを
そもそもドラゴンが簡単に討伐可能になったら、ドラゴン系素材の価値が一気に暴落すんじゃん。ドラゴン・スレイヤーの名声価値すら落ちるわ。
それに俺たち、リンドヴルム討伐をどこのギルド支部にも報告してないから、ドラゴン・スレイヤーと声高に言えないんだけど。
コレはドワーフの王国だけが知っている情報だから門外不出。
古代竜を倒したなんて知られたら事だからな……
人類種で古代竜を倒せるなんて噂が立ったら、間違いなく古代竜が押し寄せてくる!
あいつらは
ドラゴン同士ならともかく、古代竜と戦える人間なんて
ドラゴン……それも古代竜がトリエンに押し寄せてくる映像が脳裏に浮かんで俺は苦虫を噛み締めたような表情になってしまう。
「とにかく作り直しだ」
俺は巨大な看板ドラゴンをインベントリ・バッグに仕舞った。
「ああ……」
マリスが切なそうに声を上げた。
「作り直しだからな。明後日には必要だから……
あー、やっぱ俺がやるわ……」
俺は自分用の道具を取り出してベルトに下げた。
材料はクリスが手配したのか、中庭に山と積まれているので作り直すのは問題ない。
「今日も徹夜だな……」
マリスとアナベルは「あうあう」と慌ててるが無視だ。
ハリスが無言で俺の作業を手伝い始める。
マリスとアナベルも真似しようとしているが、全く彼女らには不向きな作業だった。
俺とハリスの組、マリスとアナベルの組で競うような形で作業が進む。
ま、予測通り……数時間でマリスとアナベルは脱落です。
夕食を運んでもらい食べた後、彼女らは丸太の上をベッド代わりにして寝てしまった。
仕方ないので毛布を掛けておく。
風邪でも引かれたら溜まったもんじゃないからな。
夜中に一度休憩を入れ、ハリスに夜食を振る舞う。
通常なら匂いで起きてきそうなマリスとアナベルだったが、相当疲れてたのか全く目を覚ましてこなかった。
そういや、この三日ほど頑張ってたらしいからな……
確かに下手だったし
これが一般社会であるなら評価されようはずもないが、この世界で、俺の周囲では、報われない努力を評価されてもいいんじゃないか?
仕事はお蔵入りだけど、彼女らの仕事を、努力を少しは評価してやろう。
何故なら、彼女らは俺の役に立とうと頑張ったからだ。
ま、結果に結びつかなかったら意味はないんだけどね。
その気持だけ貰っておこうと思います。
空が白んで、小鳥たちが空を飛んでいく。
なんとか
途中ハリスが分身を二〇人くらい出したので間に合いました。
飛翔したヤツ、地上に下りたヤツ、尻尾の針で攻撃する体勢のヤツの三種類だ。
絵心はないので、それほど上手いとは思えないが、マリスたちのよりは幾らかマシって程度か。
作ってみて思ったけど、せっかく作ったのに
みんなで朝食を摂ろうと調理場で料理をする。
マリスとアナベルだけ特別料理……天丼とイクラ丼を付けてやろう。
他の人は普通にご飯、焼き魚、味噌汁、漬物くらい。
朝だから量はそれほど多くない。
もちろん足りない人にはお代わりもあるし、食べたい人用に野菜サラダなんかも用意したけどね。
メイドたちにカートで料理を運んでもらい、俺は作業着から平服に着替える。
食堂に入ると、マリスとアナベルがホクホク顔で出迎えてくれた。
「ケントは解っておるのう。ニクイ演出じゃ」
「イクラ丼は素敵なご褒美なのです!」
どうやら、ここ三日ほど頑張ってくれた二人へ俺からのお礼だとハリスが伝えたらしい。
「まあ、喜んでるみたいで嬉しいよ」
俺は席に着くと早速「頂きます」をする。
お預けを食らうと彼女らの気分が急降下するのでね。
え? ハリスへのご褒美がないって?
夜食でキッチリ労ったつもりなんですが?
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