第27章 ── 第37話
「
俺がそういうと、俺の周囲の風が渦を巻いて一箇所に集まっていく。
「主殿、お呼びですかな?」
相変わらず飄々とした爺さん姿で大精霊シルフィードが現れる。
アモンが一瞬身構えたが、その正体を悟ってか見て見ぬ振りに移行する。
さすがの魔族も精霊には手は出さないって事だね。
世界を作り出している存在だから、彼らに敵と認定されたら生きていけなくなるだろうしな。
「ああ、頼みがあるんだが……」
「心得ております。我らはいつでも主殿の傍らにおりますでな」
どうやら俺が魔法道具の設計をしていたのも見ていたらしい。
「んで、魔法の蛇口みたいに君たち風の精霊の力を使わせてもらいたいんだよね」
「仰せのままに」
随分とあっさりOKが出たね……
「シャーリーみたいに何か差し出さないと駄目だよね?」
「いえ、何も必要ありません。我らは主殿の下僕なれば」
しかし、それじゃ何か悪い気がするなぁ……
「強いて申せば……」
「お? 何か欲しい物ある?」
「時々で構いませぬが、主殿と酒を酌み交わせれば……」
そういや
「ああ、良いよ。良い酒が手に入ったら呼ぶよ。それでいいかな?」
「有り難き幸せ」
大天狗はニッコリと笑いつつ空に消えていった。
「よし、これで術式の問題は解決だな」
俺の言葉にアモンが肩を竦める。
「マルバスでは主様には勝てませぬな。精霊が味方についておられる。
我々魔族……いやカリス様が人魔大戦に勝てなかった最大の理由でしょう」
話によれば創造神が人格を与えるまで精霊の力に色はなかったそうだ。
基本的に世界を織り成す力たる精霊力は秩序勢だろうが混沌勢だろうが自由に使えるモノらしい。
地球であれ、魔族の世界であるプールガートーリアであれ、それは変わらない。
だが、ティエルローゼでは創造神に精霊たちは人格を与えられ、かつ創造神との誓約に縛られたので秩序勢たる神々の方が精霊力を上手く操れたんだって。
魔族も一応魔法を扱えはするが、精霊力を伴う魔法では威力や成功率が下がってしまう。
なので魔族は元来プールガートーリアで使っていた摩訶不思議な力「原初魔法」とティエルローゼで使われている通常の魔法を組み合わせるらしい。
そして原初魔法には詠唱が必要ない。
魔族が無詠唱で魔法を使っている理由がここにあるそうだ。
なかなか興味深い話だね。
原初魔法の使い方を身に着けられれば、ティエルローゼ人でも無詠唱魔法が可能になるかもしれない。
エマと色々研究してみようかね?
「魔族は全員が原初魔法が使えるの?」
アモンは目を瞑って首を横に振った。
「いいえ。基本的に原初魔法の理論というだけです。
原初魔法は神々の御業。例え魔法に長けた者であっても、神々に作られた我々魔族には完全な原初魔法を行使することはできません」
一部だけでも神の力を使えているのはスゲェと思うけどな。
ちなみに彼の言う神々は混沌の神々の事だよ。
「そういや……マリスが言うには太古の古代竜は原初魔法が使えているらしいよね?」
「そうですね。カリス様に最初に作られた古代竜たちは神々に匹敵する力を持っておりますから。
ティエルローゼの神々に対抗するために創造された存在ですので、原初魔法が使えるように作られたのではないでしょうか」
時系列が色々錯綜しているので面倒だが、ティエルローゼで作られた魔族たちの場合、原初魔法の完全な行使は難しいという事だ。
だが、アモンたちのように魔界であるプールガートーリア生まれの古い魔族たちは、彼らよりもいくらか原初魔法の行使が得意らしい。
アモンによればワイバーンのような魔獣には原初魔法は使えないそうだ。
古代竜ではない通常のドラゴンは炎を吐くそうだし、アレは原初魔法ではないのかな?
マリスはドラゴン・ブレスは原初魔法の一部らしいと言っていた記憶があるんだが。
「そこんところはどうなの?」
アモンは少し困った顔になる。
「私も詳しくは……アラネアに聞いた方がよろしいかと……」
確かに。
アモンは魔族といえど武人系の存在だからな。
アモンが魔法を使うところを見たことないし、フラウロスなりアラクネイアなり、魔法が使える魔族に聞くのが順当か。
そういや、アラクネイアは地球でミニ・ドラゴンを作る手伝いをしていたような話をしていたな。
「まあ、後で聞いてみるか。今はこっちだ」
俺はテーブルの上の設計図に目を落とす。
視界の端に影から頭を出すアラクネイアがチラリと見えた気がしたが、気のせいだろう。
三〇分程度で設計図は完成。
試算でも原価は白金貨四枚。利益を乗せて白金貨一〇枚で行けそうです。
「よし。ちょっとフンボルト閣下と話して来るかな?」
「お供致します」
「ああ、一人で良いよ」
アモンは肩をガックリと落とす。
役に立ちたい感が半端ないアモンだが、リヒャルトさんはそんなに俺にベッタリじゃないぞ?
君は俺の過ごす部屋を快適にする事に尽力しなさい。
それが執事の
一応、小型通信機で連絡を取ってからフンボルト閣下の執務室へと向かう。
もう夕方なのでフンボルト閣下は仕事を上がっていると思ったが、彼は園遊会やら何からの社交界での後始末で忙しくしているようだ。
トスカトーレ関係はオルドリン閣下がやっているそうだけど、社交界での経費とか諸々の雑務は宰相案件のようだ。
フンボルト閣下の執務室の扉をノックして中に入る。
「辺境伯殿は、まだ王城におられたのかね?」
「ええ、例の計画について詰めていましたので」
「例の計画?」
宰相殿はまだ何かあったのかという顔だ。
トスカトーレを潰す計画がまだ続いていると思っているのかもしれん。
「あれ? エドモンダール伯爵と話をしませんでしたか?」
「ん? エドモンダール伯爵? エルウィン王子が彼を連れて陛下に熱弁を奮われていたのは見ているが……」
「ワイバーン用の兵器についてなんですけど」
「ワイバーン? そういえば王子たちがそんな夢物語を話したらしい」
フンボルトは顎髭を撫でつけつつ首を傾げる。
「いえ、夢物語じゃないですよ。
俺がその兵器を作りますよと王子とエドモンダール伯爵に提案したんですよ」
フンボルトは「また君か」的な顔をしつつ溜息を吐く。
「一応設計図を作ってきたんで、財務も任されている宰相閣下にまず見てもらおうかと思いまして」
「ふむ。一応見せて頂こう」
俺は設計図をフンボルトの執務机の上に広げた。
「これがその魔法兵器です。ここにミスリルの大矢が入りまして……」
俺は対ワイバーン用携帯型地対空誘導弾のプレゼンを行う。
「という感じの武器です。一式で白金貨一〇枚ってところでしょうか」
「白金貨一〇枚……」
値段を聞いてフンボルト閣下の顔が厳し目に歪む。
「全ての兵士に持たせるには少々……」
「いや、そこまで必要ないですね」
「どういう事かね?」
ますます解らないといった顔のフンボルトに俺は兵器の運用について説明する。
「必要な数は一〇〇本程度でしょうか。
兵器を使うのに射手が一人、装填手が一人、魔導回路充填手が一人。合計で三人必要になります」
「一〇〇本? 三〇〇人程度でワイバーンを相手にできるとでも? 確かにそれは凄いが……」
「いえ、一本で一匹相手にできます。
ワイバーンが最大で一〇〇匹攻めてきても対処可能って事です」
フンボルト閣下は何を言っているのか解らないという顔だ。
「良いですか?
この兵器は一発でワイバーンを即死させるほどの威力になる予定です。
魔導回路は使い捨てになりますが、何千人もドルバートン要塞に駐屯させる必要がなくなります」
俺は五〇〇人程度まで兵力を圧縮できる事、大矢と魔法回路は使い捨てになるが、費用は一発毎に白金貨数枚にできる事を説明する。
フンボルト閣下は訝しげではあるのだが、俺が提案しているので「信じられない」とは言えないようだ。
「もし、それが可能だとすると、国王陛下に判断を仰ぐ価値があるのだが……」
「いきなり採用しろと言っても無理なのは解っています。
そうですね……
現物を五日後までに用意しようと思いますので、実際に見て判断してもらうってのはどうですか?」
「五日後!?」
フンボルト閣下は「できるのか?」って表情だったが「いやいや、辺境伯ならやりかねぬ」と一言呟いた。
「承知した。では五日後に見せて頂こう。して、その兵器……名は何と?」
「対ワイバーン用携帯型地対空誘導弾……長いですね……では『インドラの矢』とでも名付けましょうか」
「インドラ……とは?」
「ああ、私がいた世界で信じられていた神の名です。軍神とか言われている神なのでティエルローゼで言えば『ウルド』でしょうかね」
「ほう! ウルドとな!」
ウルドは軍神なので都市や国家で信奉されている事が多い。
オーファンラントも軍事色がそれなりに強い国なのでウルドは広く信仰を集めている。
トリエンもウルド神殿が一番で大きいし、発言力を持っているんだよ。
「ウルドの矢にしときますか?」
「うむ。その方が兵たちに受け入れられやすいだろう」
確かにティエルローゼの神の名前を冠した方が喜ばれるか。
俺としては「インドラ」って語感がカッコいい気がするんだけど。
まあ、矢というより槍っぽいから「ゲイボルグ」とか「グングニル」、「聖槍アスカロン」なんてのも考えたんだけどね。
「陛下には話を通しておく。五日後に城下にある練兵場で吟味して頂くことにしよう」
「了解です。よろしくお願いします」
フンボルトの執務室から出て自室に戻る。
「お帰りなさいませ。その笑顔から推察しますと、上手くいったようですね?」
「ああ、現物を見せられれば成功したも同然さ。
五日後に現物を見せる話でまとめて来たよ」
「それは良うございました」
俺はアモンにお茶を入れてもらい、ソファに腰を下ろす。
今日は夕飯を食べたら、とっとと寝てしまおう。
明日から兵器の開発だしな。
「コラクス、夕飯何が食べたい?」
「そうですね……私は主様が作ってくださったモノなら何でも好きです」
何でもと言われてもな。
「アラネア、フラちゃん出てきていいぞ」
俺が声を掛けるとアラクネイアとフラウロスが影から出てきた。
「御前に」
「参上仕りました」
仰々しいですなー。
「夕飯作るけど、何か食べたいものは?」
アラクネイアはアモンと同じような答えだった。
「そうですな……我は主様に初めて作って頂いたステーキなるモノが好物でございます」
「ん。ではステーキにしよう」
フラウロスはニンマリ笑ったが、直後にアモンとアラクネイアにゲンコツを落とされた。
俺は苦笑しつつ、客室に備え付けられている簡易な厨房に入った。
ちょっと
俺はインベントリ・バッグから牛のブロック肉を取り出した。
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