第27章 ── 第31話
俺たちはオルドリンを先頭にパリトン伯爵の屋敷に突入した。
屋敷内の家具などはパッと見た感じ非常に金が掛かっているように見える。
だが、俺の値踏みスキルは見た目の豪華さなどに騙されない。殆どはハリボテだった。
ただ、時折価値のある本物があったりもする。
そんな本物も古い代物ばかり、そして手入れとか保存状態が悪いのか品質は劣化し、価値が暴落していたりする。
しばらく屋敷内を探索していた近衛隊が順次報告に来る。
「使用人などはおりますがパリトンやその家族、それとこの屋敷にいるとされるトスカトーレはおりません」
「確かか?」
「はい。隠された通路や部屋などが無い限り確かです」
ミンスター公爵は「ふむ……」と小さく頷いて難しい顔で考え込んでいる。
「公爵閣下、エマは地下に捕らわれているはずです。
どこかに隠された階段があるはずですよ」
俺はこっそりと耳打ちして、秘密を教える。
「例の
「それもありますが、エマには秘密裏にハリスを護衛に付けてありまして、そこからの報告です」
「おお、ハリス殿が付いているのならマクスウェル女爵の身柄は安全であろう」
確かな情報を俺から与えられ、ミンスター公爵は嬉しげに頷くと近くにいた近衛兵に指示を飛ばして秘密の階段を探させる。
大体の位置も教えたので隠し階段は五分もしない内に見つかった。
隠し階段を前にしてオルドリン子爵は近衛兵を一〇人程集めた。
「落とし戸を開けたら二人ずつ地下に降りろ。
階段下に橋頭堡を築くんだ」
「了解しました!!」
オルドリンの合図で落とし戸が開けられ、近衛兵が順次階段を下りた。
その手際を満足そうに公爵も見ている。
「では、公爵閣下、私も地下へ降ります。
吉報をお待ち下さい」
「待つのだ。私も地下に降りよう」
「危険ですぞ」
「最後の詰めは私自身でやりたいのだ」
「しかし……」
「頼む」
貴族としての矜持ってヤツですかね?
王命も下っているのに後ろでふんぞり返っていたなんてのは外聞が悪いのかも。
公爵の私兵と襲撃しているならともかく、貴族の子弟も多い近衛隊と一緒だから、変な噂が立たないように用心している可能性もあるね。
「辺境伯殿、守りは任せた」
「承知しました」
ミンスター公爵に押し切られる形でオルドリンと俺、アモンとアラクネイアは石造りの階段を慎重に降りる。
既に階段したには一〇人の近衛兵たちが防備を固めていた。
見れば通路が正面に続いていてるのだが、壁に松明が煌々と燃えていて地下は比較的明るい。
通路の状況をマップで確認する。
通路は真っ直ぐに二キロメートルほど続いているようだ。
その先は城壁の外にある門外街の建物に繋がっているとマップに表示されている。
「これ、脱出用の隠し通路ですね。どうも城壁外に繋がっている気がします」
俺がそういうとオルドリンが頷く。
「その推測は正しいと思われますな。奥から風が流れてきているのを感じます」
そんな微妙な風を俺は感じてないが、オルドリンの肌感覚には顕著に感じているようだ。
子爵は貴族だけど結構野生児っぽいもんな。
「二人は階段の確保に残れ。残りは我々に付いてこい」
オルドリンの指揮の元、通路の奥に進む。
「これは……」
オルドリンが止まるようにハンドサインを出した。
少し進んだところでオルドリンがそう呟いたので俺は前の方を確認してみた。
武装した私兵が何人も通路に転がっているのが見える。
「何事であろうか?」
公爵もその光景を目に止め、眉間にさらに深いシワが寄る。
私兵が転がっている通路の横には扉が二つ、左右向かい合わせに付いていた。
左側は開いたままになっているが、右側は閉じている。
オルドリンが近衛兵の一人に開いた方の扉の中を確認させる。
「誰もおりません」
報告を受けて俺たちも部屋を覗き込む。
比較的広い部屋で、テーブルや椅子、木箱などがいくつも置かれている。
その奥には二段ベッドが幾つかあるので、簡素ながらも人が過ごせるような体裁を整えてある部屋なのは解った。
「ここは詰め所のようですな」
オルドリンは壁際にある武器がいくつか立て掛けてあるラックなどを調べつつ推測を口にする。
「もう一方の扉は何であろう?」
公爵が入ってきた扉の向こうに見える閉まっているもう一つの扉を見て口を開く。
あの扉の向こうにはエマとハリスがいますね。
ミニマップにも青い光点が確認できているので間違いない。
ついでに言えば、赤い光点も四つほど確認できます。
トスカトーレたちですなぁ。
確認のために光点をクリックするとトスカトーレ派の四人の貴族は、恐らく気を失っているみたいです。ハリスが何かしたのかも。
マップの検索機能でほぼ状況は掴めているんだけど、流石に全部俺が教えてしまうのでは興が醒めるというものだ。
ここは知らぬ顔で公爵たちに救出の手柄を立てさせておくことにしよう。
ミンスター公爵の言葉にオルドリンが振り向き、公爵が頷く。
オルドリンが向かいの扉に近づくと近衛兵が二人それに付いていく。
オルドリンが扉のノブに手を掛けて一気に手前に引いた。
──ガチャッ!
「あら、遅かったわね?」
ドアの開く音と共に、エマの間が抜けたような声が耳に飛び込んでくる。
「って、ケントじゃないの?」
「え? いや、私はオルドリン子爵だが……」
エマの怪訝そうな声にオルドリンが慌てたように名乗る。
ミンスター公爵も近衛兵たちと一緒にエマのいる隣の部屋に入る。
「マクスウェル女爵、無事だな?」
俺がミンスター公爵の後ろから部屋を覗き込んで見ると、突然顔を出した公爵にエマはキョトンとした顔をしている。
「公爵閣下が何故こんなところに?」
「う、うむ。私は国王陛下の命によりトスカトーレとその一味の捕縛に来たのだ。
クサナギ辺境伯配下である貴殿の救出も兼ねてな」
公爵の言い訳にエマは椅子から立ち上がると、公爵に淑女らしいお辞儀をして見せる。
「息災で何よりであった」
エマへの挨拶を終えるとミンスター公爵の目が鋭くなり、部屋の片隅に転がっている四人の貴族を一瞥した。
「マクスウェル女爵、これは貴殿が?」
「はい。私をここから無理やり連れ出そうと致しましたので
ミンスター公爵とオルドリン子爵は、それを聞くと呆れたように嘆息する。
「やはりクサナギ辺境伯の関係者は物差しで図れませんな」
「か弱い貴族の女性の行いではないが……」
エマは「あら、心外ですわ」と悪びれもしない。
「貴族は私が相手しましたけど、兵隊どもはハリスが片付けましたの。
バカな兵隊でしたわ。
人質にするとトスカトーレが言っているのに、私の肩を掴んで引き倒そうと致しましたから」
どうやら、バカな私兵がエマをぞんざいに扱おうとしてハリスの怒りを買ったわけか。
通路に転がっている私兵たちの理由が判った。
死体を部屋に置いたままだと見苦しいから、外に放り出されたんだろう。
「それで、ハリス殿は? 姿が見えんが」
「ハリスは影渡りのスキルで闇に隠れています」
周囲の暗がりをオルドリンや近衛たちも見回すが、誰もいる気配がない。
「ふむ……ハリス殿もさすがと言うべきだな。
礼を申したい。姿を現してくれぬか?」
ミンスター公爵が周囲にある影に声を掛けると、エマの後ろにある影からニュッとハリスの顔が出てきた。
ハリスの全身が現れたが、まだ公爵たちは気付いてない。
気配を断っていると本当に気付かんのな。
ハリスは公爵の前まで行くと跪いた。
見ていると公爵たちが突然驚いたような顔になり目の前に跪くハリスに視線を落とした。
「うお!? ハリス殿! そこにおられたか!」
「心臓に悪い。あまり驚かせんでくれたまえ……」
顔を上げたハリスがニヤリと笑う。
「ご無礼をば……
ケントに……影に潜んで……いるように……命じられて……おりました……ので……」
おい。俺のせいですか。
まあ、影ながらエマを守るように言ってあったのは確かですけど。
「二人ともお疲れ」
部屋に入って二人に労いの言葉を掛ける。
エマがパッと輝いた笑顔になったが、すぐに眉間にシワを寄せた。
「ケント、遅かったわね」
「ああ、すまんすまん。早めに来れるように開幕に魔法一発キメてきたんだけど」
エマはやっぱりって顔をした。
「何の魔法を使ったの?」
「
「やっぱり! 震動が普通じゃないと思った!」
エマは目を輝かせて術式を教えろとせがむ。
いやいや……
今まで拉致監禁されてたんだろうに……元気だなぁ、おい。
相変わらず俺の仲間は自分の戦闘力アップが大好きですなぁ。
その戦闘力、一体誰に使うつもりなんですかね?
「お疲れ。ハリスは分身の方?」
ハリスに目を向けると「どうだろね?」という感じに小首を傾げて悪戯小僧っぽい表情を作る。
「ま、分身でも本体でもどっちでも良いけど……
ハリス、エマの護衛は俺が引き継ぐ。
現在、冒険者たちは
君は冒険者ギルド組と合流してくれ」
「了解だ……」
「まだ逃亡中の奴らもいるだろうし、それらの摘発と捕縛を手伝ってくれるとありがたい」
トスカトーレの家族が逃げ出すのは確認したけど、ここには既にいないしね。
大マップ画面で調べられれば一発なんだが、生憎名前も顔も知らんのだ。
多分、検索条件に引っ掛かりそうだよね。
「報奨金を……ミンスター公爵が払ってくださる」
俺がチラリと見た時、公爵が苦笑しつつ頷いたので彼の名前で報酬を約束しておく。
ハリスはクスクス笑いながら影に沈んでいった。
やれやれ。
これで漸く終わりますな。
協力してくれた皆さん! お疲れさまでした!
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