第27章 ── 第24話
襲撃犯たちを仲間たちに集めてもらう。
ゴロツキが八人、冒険者が二人、そしてバカ息子。
バカ息子はアラクネイアの糸でグルグル巻にされていて、口もしっかりと塞がれている。ただ、諦めが悪いのかウネウネ動いている。
ゴロツキはブルックドルフ伯爵家の雇われ人らしいが、仲間たちに囲まれて非常に大人しい。
冒険者二人は正座して背中をピンとさせて神妙な顔つきだ。
「さて、申し開きはあるかな?」
俺がそう言うと、ゴロツキは顔を見合わせているが口を開かない。
沈黙は金なんて格言もあるが、時間が無駄に掛かるので勘弁して欲しいね。
冒険者の二人は「ありません!」と口を揃えるので扱いが楽でいい。
俺はゴロツキの一人を立ち上がらせる。
「名前は?」
「ペ……」
「ペ? ペって名前は珍しいな。子供の頃に虐められただろう」
「いえ、ペンスです……」
「ふむ、ペンスだな。お前はブルックドルフ伯爵家の庭師だな?」
「そ、そうです」
何故知っているのかという顔だが、大マップ画面で光点をクリックすれば全部解るんだよ。
「庭師風情が、何故子爵家を襲ったか聞こうか」
「あの……ルイス様から駄賃をやるから付いてこいと……」
「そうか。次、お前」
ペンスは座り、俺が指を指した男が恐る恐る立ち上がる。
「ハ、ハリスです……」
うは。ハリスと同名かよ。
「ハリスね。お前は……料理人?」
「ど、どうして解るのですか……?」
種明かしなんてしてやらん。
「質問に質問で返してんじゃねぇよ。自分の立場を弁えろ」
「すんません……料理人見習いです」
「襲った理由は?」
「ルイス様から駄賃をやると言われました。ペンスと同じです」
「ふむ。次」
顔が傷だらけの男が立ち上がる。
「オークスです……」
「下男だな。一番筋力がありそうだから選ばれたって所か」
「そ、そうです……」
「では、次」
目がヤラれてる男が立ち上がろうとしてふらついたので、少し支えてやる。
「お前はアルペジオだな。ん? お前は外町の人間だな?」
「仰るとおりの無宿人だ……」
「ふむ」
塀の外にいたヤツら四人も同様に外町の住人らしい。
本来なら王都の城壁内に入ることもできない人間たちだ。
外町は城外を不法占拠する貧民だが、国王の慈悲で排除されてないだけの奴らでもある。
こいつらには住民登録もなく人頭税などの徴収も出来ず、存在事態が非常に厄介だ。本来なら排除される対象なのだが。
ただ、数が多いので排除は手間だし、結構な費用も掛かる。
そんな理由だけで放置されている棄民なのだ。
王都の膝下だけあって、外町の住人たちは自分たちで自治組織を作ったりして城内へ迷惑がかからない程度の統率は取れているとは聞いていた。
こういう犯罪行為に金で雇われることも多いのかもしれない。
もっとも、こういう流民が溢れている状態が健全ではないんだが、それだけ今までの王国が不安定だったという事だろう。
リカルド国王の元に大分安定してきたというが、まだまだ改善の余地が残されているということだろう。
俺が矢面に立って行政改革するのも面倒だし筋が違うので、国王に何か提案する程度に留めておくべきだろうな。
「ハリス」
「はい!」
「いや、お前じゃない方のハリスな」
料理人のハリスが戸惑っていると、クックと笑いながらハリスが影から出てきた。
それを見てゴロツキたちも驚いた顔をする。
「同名か……笑わせる……な」
ハリスの影渡りを見て冒険者二人が「おお」と驚嘆した。
「世の中、あんなスキルがあるのか!?」
「世界は広いな!」
お前ら黙れ。立場を弁えろ。
「ハリス。この五人を外町の自警団に引き渡せ。
自治長をしているエヴァンスという男の所に連れて行かせるんだ」
俺は大マップ画面をハリスに見せ、エヴァンスという男がいる場所も教えておく。
「貴族の邸宅への襲撃容疑だと言えば、後の処理はやってくれるだろう」
「エヴァンス……了解した……」
ハリスは五人に分裂すると、五人を一人づつ連れて影に沈んでいく。
それを見た他の男たちは、もうポカーンとした顔しかできなくなる。
「さて、最後はルイス・ブルックドルフだな」
アラクネイアに目で指示するとルイスの口元の糸だけが消える。
「は、外せ! 私を誰だと思っているんだ!」
「ブルックドルフ伯爵のバカ息子だろう?」
「ブルックドルフの息子と知って、この仕打ちか!」
「そうだけど?」
「なんと……」
悪びれもせずに俺がそう言うと、ルイスはモゴモゴ動くのを止めた。
「貴殿の名を聞きたいが?」
「俺か? 俺はケント・クサナギ・デ・トリエン辺境伯だよ」
「へ、辺境伯だと!?」
「ああ、それがどうかしたか?」
ルイスは明らかに不味いといった顔になり、視線を反らした。
「ルイスだったな、バカ息子?」
「も、黙秘する!」
「黙秘? そんなモノは俺の前では役に立たないんだけどな」
俺はルイスにレベル三程度の精神魔法を掛ける。
「これで嘘も言えないし、俺が聞いたことは全て答える事になる」
「ま、魔法だと!? 何の権限があって……」
「権限? 俺の部下の家を襲っておいて権限だと!?」
俺の威圧が無意識に入る。
「話す! 何でも話すから……ひいっ!」
ルイスは必死に俺から逃れようと身体を捩りだす。
「誰の命令でここを襲った?」
威圧を軽くしつつ質問を開始する。
ついでにインベントリ・バッグから動画が取れる道具も取り出す。
ドーンヴァースのイベントで配布されたヤツだよ。
証拠固めの一貫です。
「ち、父上からシャーテンブルク子爵を派閥に引き入れる材料として、マーティンとの諍いを利用するように命令されたんだ!」
「ほう。俺の睨んだ通りだな」
「伯爵家の者を子爵家の者が害したとなれば、子爵家は普通はお取り潰しだ。
辺境伯に通じているなら、間者に仕立て上げる材料として利用できると!」
シャーテンブルク子爵を思う通りにスパイに仕立て上げられたら、次はメイナード子爵を切り崩す計画だったそうだ。
そして子爵たちを利用してシルレット男爵を引き入れる。
俺の陣営の貴族たちの切り崩して、俺の力を我がモノにする。
それがトスカトーレ侯爵のやろうとしていた事らしい。
ブルックドルフ伯爵はトスカトーレの重鎮を自称していたそうなので、息子にも計画を話していたそうで、ベラベラとトスカトーレの悪事を喋る。
エマの誘拐についてはバカ息子は知らないようで、突発的に実行された事が解った。
ただ、エマの誘拐が以前から考えられていたのは間違いない。
エマは工房に籠り気味で、トリエンの町に出てくることもないので、計画事態が殆ど決まっていなかったらしいが。
今回の社交界でエマが来ているのを知って前倒しに計画を進めたのだろう。
なんだか場当たり的な感じがするが、情報が何もない所でよくまあエマを攫えたものだと感心するよ。
まあ、誘拐を成功させて陥れる計画だったから上手く行っただけだけど。
それ以外にもミンスター公爵派閥の貴族への裏工作とか、エドモンダールを利用するだけ利用してグリンゼール公国との利権を奪う計画などもルイスの口から出てきた。
これだけの情報が出てくるとブルックドルフがトスカトーレの重鎮という言葉も嘘じゃない気がしてくる。
いや……バカなヤツがバカな妄想を息子に垂れ流しただけという可能性も否定できないか。
その時「ギイィ」と音がして門が開いた。
目を向けると、それなりに豪華な馬車と粗末な幌馬車が二台、ハリスの分身たちに操られて入ってくる。
「それどうしたの?」
ハリスに聞くと、この屋敷から少し離れた路地に停められていたという。
「こいつの……家の馬車だ……」
ハリスの分身は馬車の荷台から何人か男をおろしてくる。
二人は御者だな。残りの気絶しているっぽい三人は誰だ?
「テオール? ミンスクにエルアルドも!?」
「知り合いか?」
ルイスが気絶しているヤツを見て名前を言ったので聞いてみる。
「わ、私の学友だ。心配して見に来たのかもしれない」
ルイスによると、彼らは貴族の子弟たちが通う学校のクラスメートだそうだ。
ルイスはその三人と仲がよく、今日の襲撃計画を話していたらしい。
心配して見に来たようだが、ルイスが蜘蛛の糸に絡め取られたのを見て震えながら腰を抜かしていた所を関係者だと見たハリスに捕まったわけだ。
この三人も例にもれずトスカトーレ派閥の貴族の息子たちだ。
テオールはパリトン伯爵、ミンスクはロドル子爵、エルアルドはオルボア子爵の息子だとデータでも確認できた。
どの貴族家もトスカトーレでいえば中堅かそれ以上の家柄のようだ。
さて、こいつらは利用価値がありそうだが、どう扱うべきか……
こいつらを餌にそれぞれ貴族をぶっ潰すのは簡単だが、それでは陛下や公爵の出番が無くなってしまう。
それなら、こいつらの罪状やら何やらを国王たちに伝えて、あっちで処分してもらうのが得策か。
全員にルイスと同様の精神魔法を掛けておけば悪事がどんどん露見するし、陛下たちも楽ができるというモノだ。
よし、それで行こう。
「善は急げだな」
「素敵用語かや?」
「いや、まあ……慣用句ではあるね」
マリスの時々出る「素敵用語」発言に苦笑いしか出てこない。
「よし。こいつらを国王陛下に突きだそう。罪の自白という証拠と一緒にね」
俺がそう言うとルイスの顔は絶望に満ちる。
インベントリ・バッグからロープを取り出し全員を数珠つなぎにする。
ついでに三人にもルイスと同じように精神魔法を掛けておく。
ちなみにこの精神魔法は「
良い嘘も悪い嘘も関係ないから、死刑にならなかったら中々生きていくには大変になるだろうね。
ま、俺は知ったこっちゃないんだけど。
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