第27章 ── 第2話
とにかく、王子を担ぎ上げている派閥としては俺を社交界に引っ張り出したいって事だろう。
だったら話は早い。
俺は近々園遊会で貴族に向けて新製品を発表するつもりだからな。
この場で話を通しておいていいだろう。
「そうそう。王子、派閥に関してはともかくですね……
俺は近々社交界にご挨拶に伺うことになると思いますので、その時はよろしくお願いしたいのですが?」
王子は「え?」と短く聞き返し、側近たちの目がギラリと光る。
「何か予定があるのか?」
「ええ。陛下にお願いしているのですが、近々園遊会を開いて頂くように頼んであります」
「園遊会?」
「はい。そこでお集まりの皆さまに面白い物を発表したいと思っています」
「ほう。それは面白そうだな」
「ご期待下さい」
俺は王子とその側近、護衛たちにニッコリと満面の笑顔を向けた。
翌日、俺はシンジの店に行き、例の物の進捗を聞いてみた。
「うーん。まだまだ技術が追いつかないんだよね」
シンジは一応出来上がっているというドレスを何着か持ってきて見せてくれた。
貴族の婦女子がどんなドレスを好むかは知らないが、デザインは申し分ない気がする。
「これのどこが悪いの?」
「縫合が少し荒いんだ。
ミシンがあれば良いんだけどねぇ……」
流石にミシンは、この世界に無いなぁ。
魔法道具で再現は可能だろう。
だが、ミシンを開発するのはちょっと早すぎる。
現実世界でのミシンの発明は、同一デザインの服を大量に生産するために開発されたものだ。
シルク製品の製造がやっと整ったところでミシンなんか導入したら価格が崩壊する。
これは経済にもシンジにも為にならない状況だ。
折角頑張ってこの世界で生活しようとしているヤツの儲け口を減らすような真似はしたくないだろう?
それだけじゃなく、シンジの店だけで大量生産が可能になるのも不味い。
この世界の服は現実世界の古い時代と同じように非常に高価だ。
手作業による製造だから仕方ないんだが、それらの生産に従事する職人たちはどうなる?
より早くより良い製品が出回れば、従来のモノが売れなくなる。
どれほどの職人やら商人が露頭に迷うのか想像もつかん。
新技術というものは非常に大きな影響が及ぶんだよね。
シルク素材の出現も結構な影響が出るだろうけどミシンほどじゃないからな。
俺が他都市に売っている浄化装置類も相当な影響があるが、他に作れるヤツがいないんだから路頭に迷う人間はいない。
フィルが最近ギルド経由で流している回復系ポーションも影響はでかい。
だが、これもポーションで助かるヤツはいても不幸になるヤツはいない。
ポーションを売ってる魔法屋がトリエンにはフィルの店しかなかったし。
そもそも、この世界は
大きな都市に一人か二人いたら良い方なんだよね。
「ミシンは無理。
売出し前にいきなり価格破壊するつもり?」
俺がそういうとシンジは苦笑いを浮かべる。
「そいつは困るね」
「だろ? それでドレスの準備はいつ頃終わる?」
「そうだな。この程度の品質でいいなら、あと一週間も掛からないと思うよ」
「OK。その頃に受け取りに来る。
代金は前払いがいいかな?」
「別に金に困ってるわけじゃないけど……小銭が少なくなってきてね……」
ふむ。小銭ね……
「了解だ。両替が必要ならそれもやっとこうか。
シンジの手持ちのゴールドを全部、こっちの通貨にしとく?」
「二〇万あるけど、金貨でいくらになるんだ?」
「金貨八〇万枚だね」
「物凄い金額に聞こえる……現実世界に持っていければなぁ……」
「大金持ちになれるね。持っていくことはできないけど……」
例の装置を使えばドーンヴァース内でもゴールドを使えるんだけどなぁ。
シンジを連れて行ってもいいんだが、二億枚もの
純度一〇〇%金なんて現実世界にもないからね。
金相場が崩壊するよ、全く。
俺は金貨が詰まった革袋をいくつもテーブルに置いてく。
中身を確認したシンジがゴールドが詰まった袋を俺と同じように並べる。
「ケントも凄い金持ちだな」
「一応、領主やってるからね。魔法道具の商売も順調だし」
「マジックアイテムを作れるなんてチートだよな……」
「ドーンヴァースだったら完全にチートだね」
「そういや、ケントは『オールラウンダー』だったっけ……」
「ああ、そのぶっ壊れユニークの所為で、万年ソロ活動を余儀なくされたけど」
「俺も噂は聞いてる」
シンジは苦虫を噛み締めたような顔をしながら、革袋の紐を指で弄んでいる。
「俺はPKとか嫌がらせは嫌いだ。俺もソロで雑魚PKを狩ったりしてたよ。
だけど、君に嫌がらせをしてたのってウロボロスだったよな」
俺が頷くとシンジは肩を竦める。
「あいつら徒党を組んでたからね。なかなか手を出せなかったな……」
今度は俺が肩を竦める。
あんまり、奴らの事は思い出したくない。
俺は唐突に話題を変える。
「ところで、トリシアとはどうなってるんだ?」
「姉さんかい?
姉さんとお針子たちが微妙な雰囲気なんだよね」
「何かあった?」
「うん。追加の素材を届けてくれたんだけど……
ほら、姉さんって生まれ変わったのにあの美貌だろう?
どうもお針子の女の子たちが嫉妬してるみたいで……」
前世のトリシアの顔なんて知らねぇよ。
まあ、シンジの顔を見る限り、真莉亜もイケメンだったんだろうな。
転生したトリシアもかなりイケメンだからね。
美女にイケメンとか言っては失礼かもしれんけど。
進捗確認とゴールドと金貨の両替も終わったので、シンジと以前約束した事を実行に移す。
「シンジ、シルクの生産者に会いに行くか?」
「ああ、以前言ってたヤツだね。会えるのか?」
「少し前からトリエンに生産者は滞在中。
噂くらい聞いてるんじゃないか?」
「噂? アラクネーの事かな? 何やら街中の噂になってるらしいよ」
「それだ。アラクネーがシルク生産者だ」
「ドーンヴァースだとアラクネーって敵対種族設定のモンスターだよね?」
「ギリシャ神話の設定だな。アラクネーは絹を織るって伝説があるんだ」
「ケントって博学だよな」
いや、厨二病の為せる技だろう。
神話関連の知識は厨二病ネタの宝庫なんだぜ、北欧神話とかな?
シンジと街を歩くと衆目を集める。特に女の目が多い。
この超絶イケメンめ!
ハリスもイケメンだが、元々影が薄いのでこれほど人の目は集めなかった。
ファルエンケールへ行くとそうでもないけど。ハリスはエルフ女子に大人気ですからね。あ、あとペルージア女爵にもだね。
アラクネーの野営地に着くと、相変わらず見物人が多い。
俺たちが近づいていくと、森の入り口にいた衛兵が敬礼で答えてくれる。
「領主様! お疲れさまです!」
「ご苦労さん。異常はなさそうだね?」
「はっ! 見物人も大分落ちついてきてます!」
確かに無闇に柵を越えようとする奴もいなさそうだし、随分と安定してきているっぽいね。
俺は森の隣の建物の屋根を見上げると、そこには俺が派遣している監視と防衛用のガーゴイルが鎮座している。
ここには四体のガーゴイルを配備することにしている。
レベル三五のガーゴイル型ゴーレムなら一〇〇人規模の軍隊も相手にできる。
「あ!! 主!!」
前に相手をしてくれたアラクネーが俺を見つけて嬉しげにカサカサと走ってきた。
「よ。元気そうだね。名前は……」
「マリッジ! 教えてなかったっけ?」
「聞いたような聞いてないような……」
「ま、どっちでも良いけど、覚えておいてね!」
「覚えたよ。マリッジね?」
アラクネーは頬に手を当ててニッコリ笑った。
シンジはアラクネーをビックリ顔で見上げる。
「リアルで見るとアラクネーって大きいな……」
「おっぱいのこと?」
マリッジは両手で巨乳を下からゆさゆさと揺らす。
久々に眼福です。
「いや、背の高さだよ。
アラクネーって大きいんだね」
シンジは胸には全く目もくれず、アラクネーの頭の上から地面までを自分の手を上げたり飛び上がったりして測っている。
こいつ……おっぱいに無反応だと!? 信じらんない!
アラクネーも少し戸惑ってるな。
彼女にとっては男の気を引く仕草だったんだろうが……
シンジよ。無反応ってのは失礼だろうに。
「主……あの人って男が好きな感じなの? 主も私のおっぱいに目が行ったんだよ?」
「いや、普通に女が好きだと思うよ。というか俺が見たのは忘れてくれ」
「あはは。いつでも主の相手してあげるよ」
マリッジのニッコリ顔に俺も愛想笑いしておく。
「さて、今日は君たちが作るシルク布の加工を一手に引き受けてくれてるお店の主人を連れてきた。
顔合わせは必要かと思ってね」
「へぇ。この子が?」
色気を振りまいてたマリッジはキラリと光る鋭い目でシンジを値踏みするように見る。
「え? 何だい? 俺の顔に何かついてる?」
アラクネーと俺は顔を見合わせる。
「天然だね?」
「な? 天然だろ?」
「そこも可愛いところかも」
シンジは笑いながら頭の上に「?」マークを出してる感じだよ。
どうやらシンジのイケメン度はアラクネーにも有効らしい。
マジですげぇジゴロ・スキルだな……
これがリア充能力か。
つーか、ある意味チートかもしれん。
羨ましい限りですな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます