第26章 ── 第31話
出来上がった料理がどんどんと無くなっていく。
食いしん坊チームと神々、それとドワーフたちの食欲は尋常ではなかった。
「うめぇうめぇ!」
「てめっ! その肉はオレのもんだ!」
「おめぇはそこの瓦礫でも食ってろ!」
「なんだとっ!?」
あちこちで料理の取り合いが始まっている。
慌てなくても量は大量にあるのだが……
ドワーフは殊の外激辛カレー味の唐揚げを好むようで、飛ぶようにはけていく。
やはり酒のツマミは濃い味がいいようだな。
ブロック肉はベヒモスとマリスが大量に食いまくり、どんどんと焼く羽目に。
手が足りない!!
一人で捌ける量じゃねぇぞ!?
などと愚痴りつつも俺は猛烈な速さで料理を仕上げていく。
剣術に使う足さばきが、
手早く作らねばならないので、時間魔法も使い、料理時間を短縮しなければならばい。
それでもジリジリと料理の減る量に押されていく。
どうすれば……
そうだ……
ファルエンケールでトリシアたちとの模擬戦でやったアレを使おう。
千手防衛陣を応用するんだ。
俺は手を動かすことに集中する。
「千手料理陣!」
久々にカチリと脳裏で音がなった。
途端に腕が何本も生えたようになる。
物凄い速度で動いているから分身しているように見えるだけ……と思ったらマジで何本にもなってた。
うへぇ気持ち悪い。
自分で生やしておいて何だが傍から見たらタコ人間は相当キモいだろう。
コレ、元に戻るのか……?
ま、今はそんなことを考えても仕方ないか。
今はとにかく料理を作ろう。
料理速度が突然三倍に跳ね上がった。
よし、これで問題ない。
俺はガンガン作ってテーブルに並べていく。
テーブルに料理を取りに来たドワーフが俺の姿を見て驚いているが、ビビッて逃げ出すような事はないみたいだ。
「あの兄ちゃん、腕がすげえ生えてた」
「バカ! 失礼な言い方すんな! 親方の雇い主だぞ!?」
「へぇ……親方って人に雇われることがあるんかい?」
「バカか。おめぇトリエンに来て短ぇな?」
「まだ一週間だ。こっちの方が日当が多いって聞いたからな」
ふむ。彼らは石工は日雇い石工職人なのか。
「あの御方はな……領主様だ」
「ハァ!?
おめぇ俺を担いでんのか?
領主様が料理人みてぇな事して、給仕までしてんだぞ?
冗談も大概にしろよ?」
「いや、マジだ。
あの領主様は鍛冶は打つわ、魔法道具は作るわ……
ワイバーンだって倒したって噂だ」
大真面目に答えられ、新米ドワーフはポカーン顔だ。
「一時期街を騒がせた冒険者がワイバーン・スレイヤーだって聞いた事がある。
その冒険者が領主になったって話も聞いたぜ。
マジ話だったのかよ!」
俺の噂って流れてるんだねぇ。
あまり自覚はないけど、それなりに実績上げてきたからな。
「オマケにこの辺り一帯のダイア・ウルフを手なづけてるらしい」
「ダイア・ウルフを? ありゃ魔物だぞ?
俺の曾祖父さんの奥さんの弟が昔襲われたって話だ」
「そりゃ昔の話だろうが。最近、そういう話も聞かねぇだろ」
「確かにな。
まあ、俺ぁ日銭貰えてうめぇ酒飲ませてくれる領主様なら何だっていいや」
ドワーフはグビグビとジョッキのビールを呷った。
「ま、そうゆうこったな。
領主様はあのトリ・エンティル閣下も部下にしてるそうだ。相当のレベルだろうさ。
腕の生えてくるスキルを持っていたって不思議じゃねぇ」
スキルか何かで片付けられるくらいの事かよ。
ま、この世界にはどんなスキルがあるのか解らないからなぁ。
ドーンヴァースと違って決まったスキル以外のヘンテコスキルも色々あるからね。
ハリスなんて不思議スキルの塊みたいなもんだし。
そりゃ俺もか。
どんちゃん騒ぎは夜遅くまで続き、酒に強い呑兵衛は朝方まで飲んでいたらしい。
まだ誰もいない建築中の町だからできる芸当ですが。
俺は料理を作るだけ作ってから、仲間たちを回収して
ちなみに、グランドーラはマリスに付いてきたので俺の館でお泊りです。
次の日の朝食後、グランドーラを執務室に呼んで昨日の続き。
「昨日は色々あって話ができなかったけど」
「構いません。神々の用事では仕方ありませんので」
相変わらず事務的対応ですな。
「グランドーラは今後、オーファンラント王国にどう関わっていく積もりか聞いていいかな?」
「今後?
そうですね。ベヒモスさまに禁止されましたので、今後は人化状態で情報を集めるつもりです」
キリッとした顔でいう美少女に、メガネを掛けさせたい衝動に駆られる。
グランドーラは、どう見ても委員長タイプだろうし。
「ふむ。なら話は早い。
君の住処はアルシュア山にあると聞いているしこの地方とも近い。
情報を集めに来る時にはトリエンに寄るといいよ」
「ここに?」
「うん。この街にはトリエン情報局というのがあってね。
国内外の情報を集めてるんだよ」
「人の目線で集めた情報という事ですね?」
俺は頷く。
「言ったら失礼かもしれないけど君は情報を集めるのは得意じゃなそうだ。
人の文化や生活にも疎いだろう?
そんな状態で人化して情報を探っても、欲しい情報は手に入らないと思う」
グランドーラは素直に聞いていてコクリと頷く。
「確かにそうです。
昨日の宴会ですか? あれを見てもドラゴンとは全く生活様式が違います。
お酒と肉は大変美味でしたが」
あっさり自分の知識不足や欠点を認める素直さは若いドラゴンに共通する部分なのだろうか?
マリスもエンセランスも結構素直だったしな。
といっても俺はドラゴンの若者は三人しか知らないんだけど。
ま、大人のドラゴンもこの辺りは当てはまるヤツもいるね。ベヒモスとか。
年寄りも若いのも共通している性質としては約束は絶対に守ろうとするところだろうか。
逆に約束を反故にした時の怒りは凄まじいね。
あの戦闘力で怒られたら普通に恐怖と絶望に陥る自信がある。
まだ知り合いのドラゴンは一〇匹にも満たないけど、こういう種族的な特性を知れるのはいいね。
「君にはトリエン情報局へ出入りする許可を出しておく。
好きに情報を集めてくれて構わない」
グランドーラは少し疑い深い目をする。
「お世継ぎ……失礼しました。神々の指導者たるケントさまを疑うのも本当に失礼なのですが……」
「何だい?」
「私は情報というものを集めるのは大変だと気づきました。
それだけで情報には価値があると思います」
「そうだね。情報を制するものが勝つ。これは俺の世界でも言われている事だよ」
「その情報を私に包み隠さず開示して下さる……何か見返りをお求めでしょうか?」
そりゃね。
「もちろん、見返りは求めるよ。
それは当然だ。情報はタダじゃないからね」
グランドーラがゴクリと喉を鳴らす。
「君の名前を借りたい」
「は?」
グランドーラが素っ頓狂な声を上げた。
美少女らしからぬ表情に俺は少し噴き出してしまう。
「あはは。君は古代竜だから実感がないかもしれないが、ドラゴン……それも古代竜の庇護を受けているという情報、あるいは噂は強力な武器になるんだよ」
俺はエンセランス自治領の話を聞かせてやる。
ドラゴンの名前を利用して不安定な獣人たちの土地を平定した事。
その情報はすぐさま隣接する国や地域に広まった。
大陸の西側はドラゴン信仰が篤い。
その為、元々不安定な土地であった獣人の地は他国からの驚異もない。
そのドラゴンに庇護されているという状況は、地政学的に非常に凄いアドバンテージになるのだ。
「それは何かあった時にこの国の味方をせよという事ですか?」
「いや、出てくる必要は微塵もないよ。何かあっても俺たちが対処するからね」
グランドーラは少し戸惑う。
「名前を貸すだけでいいのですか? 貴重な情報を分けていただけるのですか?」
「ああ、君たち古代竜の名はそれだけの価値……いやそれ以上の価値があると俺は思っているよ。
情報以外にも欲しいものがあれば言ってくれていい。
できる限り提供するつもりだ」
グランドーラは「ふむ」と言いつつ顎に手を当てて思案する。
「何でも……とは、どの程度なのでしょうか?」
「あ、何か欲しいものある?」
「マリソ……マリストリアさんと時々会ってお話をさせて頂きたいと思いまして」
「ん? それは俺の許可は要らないでしょ。好きにしたらいい。
何なら、この館の一室を君の為に空けておくから、いつでも泊まりに来ていいよ」
グランドーラの顔の固さが少し解れて微笑みを浮かべたように見えた。
「マリストリアさんは私にとって大事な存在の一人です。
ここ一二〇〇年ほど会えていませんでしたが、久々に会えてとても嬉しかったのです。
彼女といつでも好きな時に会えるという権利は私にとって大変な宝なのです」
どうやらマリスはグランドーラに凄い慕われているらしい。
マリスのことを考えると、そこまで慕われる理由が定かじゃないんだが。
マリスと会えなかった時期、彼女が人間の友人を作ったのは、寂しかったからなのかもしれない。
グランドーラは結構寂しんぼキャラ?
外見はエンセランスやマリスより歳上に見えるのに、中身は結構子供っぽいんだな。
なかなか可愛らしいですな。
「あ、そうだ。名を借りる上でやってもらいたい事が一つあるんだけど……」
「何でしょうか?」
「オーファンラントの王都に一緒に行ってもらえないだろうか?」
「王都……? あの一番大きい都市ですね?」
「うん。古代竜と盟約を交わしたという事実をデモンストレーションしたいんだよ。
俺や国王がそう宣言したところで、周囲の国々がそれを信じるとは思えない。
だから、君がドラゴンの姿で王都に降り立ち、何の被害も出さずに帰っていく姿を国民だけでなく外国人に見せられたら、効果は絶大だと思うわけ」
グランドーラは少し首を傾げたが、コクリと頷いた。
「それがどれほどの効果的なのかは知る由もありませんが、ケントさまのご要望であれば即座に」
そういうとグランドーラは両の手を胸の前で交差させて頭を下げた。
よし。
グランドーラの許可は取れた。
あとは王様の裁可が必要だけど、許可が下りないなんてことはないだろう。
これでオーファンラントは末永く安泰だ。
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