第26章 ── 第30話
俺は広場の近くの資材置き場に簡易
アースラ、ベヒモス、イシュテル、レーファリア、タナトシアという神々や神使だけを饗すだけならこんなに要らない。
しかし、この街の建設に協力してくれているドワーフが大量にいる。
そのドワーフたちに慰労の意味も込めて料理を振る舞うのは悪くないだろう。
設置した簡易
残りの七基のうち四基は大火力が必要な料理用に連結して設置してある。
これは丸焼き料理のような、巨大なブロック肉の料理に使うのだ。
あと三基は通常の料理用だ。二基は揚げ物用に油の入った鉄鍋を置く。
最後の一基は炒め物などを作るために鉄板を敷く。
網焼き料理をする
俺が料理の準備をしているのをタナトシアとグランドーラが興味深げに眺めている。
「料理に
グランドーラの囁きにタナトシアが周囲を見回す。
「私たちだけならそうでしょうけど、ケントは作業しているドワーフたちも
「お世……ケントさまは、人間の指導者だと聞いていますが……」
「そうね。
我ら神々の創造神に後継と認められた方だけど、この周辺の領主という肩書きもあるわね」
グランドーラの目には疑問に曇る。
「支配者たる人間は自分で何かを成すことを殆どしないはずですが、あの御方は、自ら下々の者を
それを聞いてタナトシアはコロコロと笑う。
「貴女、巣に引き篭もりすぎね。
ケントは本当に面白い方よ。
神界から注意して見ていたけど、普通の人族とは行動原理が違うわ」
「行動原理?」
タナトシアは頷く。
「基本的に人族は私利私欲で行動するものよ。
だけど、彼は違う。
私的に見える行動でも、その裏では多数の幸福を考えて動いているのよ」
俺の聞き耳スキルにそんな会話が入ってくるが、そんな事はない。
基本的に俺が何か作るのは自分が欲しい物を手に入れる為だし、俺はただ単に冒険したいから、俺の手から離れても運営されるようにシステムを構築しているだけだ。
買いかぶりも大概にした方がいいと思うよ、タナトシア。
「そ、そうなのですか……?」
「ええ、その為なら彼は自ら働くことを厭わないわ」
あまりの褒めように俺はジロリと二人を睨む。
グランドーラはビクリと震えて固まったが、タナトシアはニッコリと笑いながら俺に手を振る。
処置なしですな。
俺が視線を反らすとグランドーラは金縛りから開放され、周囲を見回す。
「ケントさまのお仲間は、全く手伝っておりませんね」
「当然でしょう。彼らに彼以上の仕事が出来ると思って?」
「創造神さまの後継である御方のする事以上の仕事は無理という事でしょうか?」
タナトシアはフフと笑いながら頷く。
「確かにケントだけでは成し得ない事も多いでしょう。
それは神々とて同じ。
成す事を手助けする為に、神の使いや信者がいるの」
タナトシアは少し空に遠い目を向ける。
「もっとも……彼が創造神さまの真の力に目覚めれば、我々の手助けなど必要としないかもしれないわ」
「真の力……?」
「創造神さまの力は偉大よ。
貴女の身体を構成するもの、大地も海も空でさえ、すべて創造神さまが生み出されたもの。
それが偉大という事よ」
多くは語らないタナトシアの言葉に、俺も少し納得する。
物質はエネルギーと等価だ。
これは相対性理論でも証明されている事実だ。
それをハイヤーヴェルは作り出せる存在だったわけだ。
とんでもない存在だと思う。
今では神々も認識できないほど存在は薄まってしまったが、彼が作り出したティエルローゼは彼の全てであり、彼自身でもあるのだ。
その力の一端を俺が受け継いだし、俺も同等の事ができるんだと思う。
そこまで力をコントロールできているとは思わないけど、その力の片鱗を無意識に行使した事はあるだろう。
ただ、タナトシアの言うように、俺がその真の力とやらに目覚めたとしても、俺はその力を無尽蔵に使うつもりはないよ。
それは俺がハイヤーヴェルと同じように存在が薄れてしまう事に繋がるかもしれないし、自分が便利なように、思うように世界を創る、あるいは改変し続けてしまっては、そこに住む生物の成長も進化も望めないだろうからだ。
人であれ動物であれ、生物は何らかの困難が必要だと思う。
それが無ければ技術の革新も進化も起こり得ない。
便利に生活できてるのにイノベーションが起こるはずがない。
少々の不便さは必要なのだ。
何でも簡単に便利に問題を解決できるようでは、進化、発展が望めない。
そういう意味で、俺がタナトシアの言う「真の力」とやらに目覚めても簡単には使わないと思う。
今ある力、状況、物資、人脈でどうにも出来ないことが発生したら使うかもしれないけどね。
例えば、宇宙の果てから巨大小惑星がティエルローゼに落ちて来て、ティエルローゼが消滅する事が解ったとかなら考えなくもないって事だよ。
ま、その程度だと今ある魔法システムで何とかできる気がしないでもないが。
さて、料理に戻ろう。
まず、時間が掛かりそうな物から作っていこう。
今日は、大火力が必要な料理として、巨大な牛肉みたいなブロック肉を丸焼き風にしてみよう。
外はパリッと中はしっとりみたいな肉料理にしたい。
まず、最近帝国から手に入れた巨大牛類のブロック肉を取り出す。
クリスが面白がって仕入れておいたのが、このブロック肉。
最近、帝国は食糧事情が改善され、牧畜も可能になったらしく、バーロックという野生動物の飼育を始めたそうだ。
その食肉用のブロック肉の初出荷分がトリエンに持ち込まれたわけだね。
一メートル四方のブロック肉だけど、霜降りすぎず、赤み過ぎない美味そうな肉なのだが、どんな動物なのか気になるね。
この肉は切り分ければ分厚いステーキ何万枚分になるのやら想像もつかないのだが、今日のメンツなら十分食べ切れそうだよ。
もちろん、大量に残っても入れておけば何の問題にもならないのだからインベントリ・バッグは便利極まりない。
巨大ブロック肉に大量の塩と胡椒を刷り込む。
塩の入った麻袋をまるまる一袋、最近ファルエンケールが特産品としている胡椒も一袋使ってしまった。
でかいから調味料の消費も半端ないね。
さて、これにハーブ類の葉っぱとパン粉を混ぜた物をペタペタと塗っていく。 壁塗り用のコテが殊の外役に立ったが、壁塗りをしている気分になってしまった。
傍からチラチラと横目で見ていたドワーフが微妙な顔つきをしていたのが笑える。
料理をしているのに、建築作業をしているようにしか見えないからな。
これは香草焼きみたいにしたいんだよ。
俺は四基の簡易
このままだとブロック肉の下だけ真っ黒に焦げ、上は生のダメダメ料理になってしまう。
なので、俺は魔法を使う。
時間短縮は必要ないのでカットし、代わりに流動する熱のコントロールを行う術式を組み込む。
「
この魔法は火による熱を魔法の効果範囲内をぐるぐると回すだけの魔法だ。
外には熱が出ないので、効率よく熱量が全体に回るので効率よく焼き上げられるだろう。
じっくりと焼き上げられるように火を調整してからカレーの準備を開始。
今日のカレーはチキンカレーにします。
牛肉はブロック肉があるし、豚肉はトンカツにする。
魚介は刺し身や天ぷらにするから、鶏肉でいいよね。
これもじっくり煮込んでつくろう。
野菜を切って軽く炒めてから煮立った鍋の中に放り込んでいく。
灰汁を取りつつ弱火でコトコト。
アースラとベヒモスは既に酒を飲み始めているので、刺し身を切って大皿で持って行ってやる。
「やっと来たか」
「テレジアも絶賛の刺し身だな」
「これから揚げ物を揚げるからな」
「天ぷらか?」
「ああ。それとトンカツだな」
ニンマリと二人が笑ったので、俺は料理の続きをする。
そうそう。トリシアやハリスたちも呼ばないと後で文句を言われそうなので、念話の後に
来たのはトリシア、ハリスだけでなく、エマ、フィル、アラクネイアも一緒だった。
「私が頭数に入ってないとはケントらしくもないわね!」
和食大好きを公言するエマが憎まれ口を叩くが、フィルが「まぁまぁ」と宥める。
「主様、ご相伴に預かります」
アラクネイアは深々と頭を下げる。
「ああ、構わないよ」
俺は料理を続ける。
辺りにはカレーや焼き物の良い香りが漂い、作業をしていたドワーフたちも手を止めてフラフラと集まってきた。
そんなドワーフを見たマストールが大声を挙げる。
「よーし、お前ら!
領主閣下のケントから料理と酒宴を賜った!
ありがたく頂戴しろ!」
作業員ドワーフたちから「うぉーーー!」と歓声が上がる。
今日はビールが振る舞われると伝わっていたが、それ以上のモノが振る舞われると解り大喜びのようだ。
ま、話の流れでそうなっただけなんだけどね。
でも、こういう機会もあっていいし、悪くないイベントでしょ。
俺はこういう突発的な出来事も好きなんだよね。
冒険の一部っていうのかな。
こういった事も含めて、冒険者を辞められないわけ。
神やら貴族やらと堅苦しい規則やら何やらに縛られ続けるのは息が詰まるからな。
神々にもそういった息を抜ける場所があっても良いと思うから、この楽園を作ろうとも思ったんだ。
見ればタナトシアやグランドーラが仲間たちとテーブルや椅子を用意している。
楽しげな彼、彼女らを見て、俺も口角が上がってしまう。
こういうのが俺の求めていた人生なんだよな。
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