第26章 ── 第23話
夜、自室でエマたちの装備の魔法付与作業を行う。
基本的に杖には使用する魔法の魔力強度を上げる効果を付与する。
単純に魔力強度を上げる場合には二種類の方法が存在する。
一つ目は、単純に行使レベルを上げる方法。
一レベルの魔法を使うと、二レベルで行使される感じだろうか。
自身の魔法スキルレベル以上の魔法を行使できるという利点があるが、消費MPが爆上がりするのが難点になる。
以前、アルフォートに作ってやったミスリルの
二つ目は魔法の効果自体を強化する方法。
こちらは消費MPの増加は比較的少なく済むが、術式が非常に面倒だ。
魔法道具に組み込むならあまり問題はないんだが、呪文として行使する場合は詠唱が長くなるのでオススメできない。
今回は魔法道具なので二つ目の方法を使う。
杖に取り付けてある宝石は球状にして宝玉に加工し、宝石の中に光属性魔法『
こういう加工をする時は出力調節や形状変化を任意に変えられる詠唱魔法の方が便利だね。
杖に付いている宝玉は、エマの杖が赤いルビー、フィルには青いブルートパーズだ。
魂と魔力の性質から導き出された色だが、彼女ら専用の武器にするには大切な要素……のような気がする。
こういう「気がする」的な直感にも似た感覚は大切にすることにした。
どうも創造神的なにかな気がするからだ。
こういう世界の法則というかシステム的なものに関してはハイヤーヴェルが決めた事なんだろうけど、なんとなく心の中に流れ込んでくる感じで理解できてるっぽいんだよね。
さて、続いてローブだ。
ローブの付与加工は防御力アップが主な強化になる。
アダマンチウム製のアダマス糸(俺開発)を使用したローブってだけで、鉄のフルプレート並の防御力になるが、高レベルのモンスター相手には心もとない。
なので単純に防御力を上げる付与を行う。
これだけでは寂しいので、各種属性攻撃に対する耐性をアップする付与もしておこう。もっとも全属性に耐性を持つようにはできなかったので、基本となる火水土木金の五行属性と風、雷の七つ。
俺の覚えていない属性魔法とかは割愛してるよ。
覚えていない属性も付与できない事はないが、なんとなく効果が微妙になるんだよな。
この辺りもその内解決したいところだ。
創造神の後継なんだから全知全能くらいにして欲しいよね。
魔術師は大抵、知力度やらMPが上がるばっかりで腕力やら敏捷やらは軽視されがちだからな。
最後に指輪だが、エマには魔法を込められる指輪にした。
無詠唱魔法を羨ましがられていたので、込めておけば無詠唱で魔法を発動できる指輪を考案した。
フィルのはお古だが、シャーリーが残した例の指輪にした。
フィルは
研究に夢中になると飯も睡眠も疎かにするヤツだしな。
翌日、出来上がった装備をエマとフィルに渡すために研究室に顔を出す。
「今日も何かあるの?」
相変わらずエマは「ツン」気質だ。
「二人ともずっと頑張ってくれているから、ボーナスの支給に来たよ」
「ボーナス?」
「わ、私にもですか?」
怪訝そうな顔をするエマと自分も貰えると知って驚くフィルが対照的ですな。
「お金でとも考えたんだけど、それじゃ何の趣きもないからね」
俺はインベントリ・バッグから貫徹で作った装備品をテーブルの上に置いた。
二人ともテーブルの上の装備品に目が釘付けだ。
「君たち専用の武器と防具を用意してみた。気にいるといいけど」
「おお……」
フィルがワナワナと震えながら杖を手に取る。
「これが……私専用の……」
手にとった瞬間、杖はフィルの魔力を少し吸い取る。
そして先端にはめ込まれた宝珠の中に魔力の光が灯る。
ゆらゆらと揺れる魔力の炎が使用する者の登録完了の合図となる。
「おお……手に何かしっくりと馴染むような感覚が」
「君の魔力が登録されたからね。その杖の効果が発動するのは君が使用した時だけになったわけ」
「凄いですね!」
フィルに妙に尊敬の眼差しを向けられたが、君の方が錬金術の腕前は上じゃんか。
俺には特級HP回復ポーションなんか作れねぇよ。
見ればエマも杖を手にとって魔力登録してた。
「ま、ケントにしてはまあまあね」
口に出してる言葉は辛辣なのに、顔を妙に上気させてますがね。
「ローブのデザインは君たちがいつも着ているのに似せておいたよ。
ピンクがエマので、青いのがフィルのだ」
ローブの丈などはステータス画面に出てるからピッタリのはずだ。
「ありがとうございます!」
フィルが早速ローブに袖を通す。
「ピッタリです!」
エマがテーブルに置かれた指輪を手に取った。
「ゆ、ゆ、ゆび……」
エマさん、何で顔が真っ赤なんですか。
「指がどうかしましたか、姉さま?」
「指輪を送るのは……け、け、けっ」
「毛?」
「違うわよ! 結婚の申し込みでしょ!」
「は?」
俺の間抜けな声に場の空気が固まる。
「いやいや。結婚の申し込みじゃないぞ」
俺はプルプルと手を振って否定する。
「それは
エマが俺の無詠唱魔法を真似したがってたから作ってみたんだが」
エマは指輪をジッと見る。
「つ、使い方は!?」
「指輪に意識を集中して魔法を唱えるだけだ。そうすれば指輪に嵌っているエメラルドに魔法が充填される。
込められた魔法を使う場合は、指輪を使うことを意識して込められた魔法名を口に出すだけだ。簡単だろう?」
「ブラミス・モレス・ボレシュ・ソーマ・マスティア・ウータリス!
突然エマが呪文を唱えたのでフィルが身構えたが、エマの握りしめられた右手がピカリと赤く光るとすぐに消えてしまう。
「お……おお?」
フィルが俺のように間抜けな声を上げる。
「なるほど。充填できたみたいね。
ちょっと試射してくるわ」
エマは杖とローブ、
すぐに、振動と共にドカンドカンと轟音が響いてきたのは言うまでもない。
「私の指輪も同じものですか?」
「いや、違うよ。お古で申し訳ないが、それは『
「シャーリー叔母さまの……?」
「うん。作った人は別の人だけどね」
最近、よく顔を出してくれるソフィア作ですよ。
「え!? これを装備しておくと寝なくてもいいんですか!?」
指輪の説明をするとフィルの目がキラキラと輝く。
「いやあ、確かにご飯を食べるのも寝るのも必要なくなるけど、身体に良い印象はないな。
必要なくても適度に食料の摂取と睡眠はするようにしておけよ?」
「了解です! ですが調合で手が離せない時などには便利極まりない装備ですよ!」
確かにゲームでボス戦なんかしてる時にトイレ行きたくなったら超便利だよな。
などと考えていると、フィルは早速指輪を装備する。
女性用の指輪だったからだろうか小指に装着している。
「
まあ、
俺は使い方を教えてやる。
「何やら力持ちになったような?」
「そうだろう。腕力度が上がる魔法が付与してある。
「おお! 素材を大量に持ち運びでき、かつ素早く調合できるようにですか!?」
フィルは非常に嬉しそうだが、そうじゃないぞ?
戦闘で有利になるようにだぞ?
勘違い甚だしいが、フィルらしいって言えばフィルらしい発想ではあるな。
「喜んでもらえて幸いだよ」
「閣下はボーナスと言われましたが、これらは相当凄い代物です。
本当に頂いてよろしいのですか?」
「構わないよ」
「金額にしたら金貨数万枚……いや数十万枚の価値が……」
装備の総額を想像してフィルが目を回しそうになっている。
「俺が作ったからねぇ。大した材料費は掛かってないよ」
「い、いえ……材料費とかそういう問題ではなくてですね。
魔法道具はその存在だけで価値があるのです。
例えレベル一程度の付与効果であったとしても金貨数枚から数百枚ほどの金額になります」
さすが魔法店を経営していただけに、魔法道具やポーションなどの販売価格には詳しいみたいだ。
「あれ? でも魔法の蛇口って金貨六枚くらいじゃなかった?」
「そうですね。今は再び安定供給され始めてますので、トリエンでは金貨五枚程度になっておりますが、他の街へ行けば一〇枚程度らしいです」
ほうほう。
フィルは財務担当官みたいな見識を持っているな。
魔法工房の財務担当も任せてみるかね?
ま、この程度の装備で喜んでもらえて良かったよ。
コマンド・ワードの組み込みとかまでやると、もっと大変になるからね。
手間暇は、トリシアやマリス、ハリスにアナベルの装備の方が掛かってるからなぁ。
奴らの装備もそろそろオリハルコン系にするべきかもしれんな。
ま、ティエルローゼでは、そこまで強力な装備は必要ない気もする。
亜神レベルの強力な魔族や古代竜を相手にするなら考えておいた方がいいかもしれんが。
今のところ、そんな予定はない。
ま、色々仕事があるので、あと一ヶ月は冒険の旅は再開できないか。
楽園計画とかあるしな。
俺はまだまだ忙しい身だねぇ。
頑張らないとな。
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