第26章 ── 第22話
食事後、工房へと顔を出す。
研究室にはエマとフィルが詰めている。
フィルはHP回復ポーションの研究を終え、今では上級、特級のMP、SP回復ポーションの研究を始めている。
エマは魔法書を読んだり、魔法体系の研究などをしているようだ。
「エマ、昨日の事件は把握しているか?」
俺が確認するとエマは少し眉を上げる。
「ゴーレムが大量に破壊されたようね?」
「うん。マストールのアダマンチウム・ゴーレムまで壊されたよ」
エマは深い溜息を吐く。
「やっぱり作るのよね?」
「ああ、破壊された分は全部補充しておきたい」
俺は研究室の端末を操作し、行動が停止しているゴーレムの一覧を表示した。
「全部で二八一体だね」
「これ、本当に一人にやられたの?」
エマは呆れた顔で俺の後ろから端末のデータを覗き込んでいる。
「うん。敵はレベル一〇〇だったからねぇ。レベル四〇台のミスリル・ゴーレムじゃ太刀打ちできないよ」
「レベル一〇〇って神様じゃない……」
「いや、神じゃないよ。俺と同じところから来たヤツだ」
「あー、その事は私はよく知らないけど……聞いてもいいの?」
エマが少し眉を寄せる。
「そうだな。そろそろ話しておく方がいいか」
薄々は気づいているだろうけど、詳しい話をエマにはしていない。
エマもフィルも俺が直接雇っている家臣って立場だし、教えておいてもいいだろう。
「そもそも、俺やアースラ、最近きたシンジもだけど、この世界の人間じゃないんだよ」
「そんな気はしていたけど……あんたたち何者なの?」
「プレイヤー」
「プレイヤー?」
エマは怪訝な顔をし、フィルは研究しながらも耳をそばだてている。
「エマは魔神というのを知ってるかい?」
「魔神?
そう言えば、オーファンラントの歴史書を開くと四〇〇年以上前の事はあまり書かれていないの。
もっと古い文献を調べてみると『魔神』という強大な魔物の事が出てくるものがあったわ」
俺は頷く。
「その『魔神』ってのは魔物じゃない。『プレイヤー』という異世界からやってきた者の事なんだ」
「異世界……?」
「ああ、俺やアースラたちは『地球』という別の世界から『ドーンヴァース』という仮想世界を媒体にティエルローゼに転生者としてやって来た異次元人類なんだ」
俺は「何を言っているか解らないとは思うが、ありのまま起こった事を話すぜ」的に、エマたちに一気に語って聞かせる。
最初は懐疑的な目で見ていたエマだったが、話が後半になる頃には難しい顔になっていた。
「とまぁ、俺たちプレイヤーは、そうやってティエルローゼに転生してきたってわけだね」
研究室を沈黙が支配する。
最初に口を開いたのはフィルだった。
「神に匹敵する者たちがティエルローゼにやって来た……それも新しい技術を持って。それは神と何が違うのでしょうか?」
「いや、神とは違うだろ。神は創造神によって作られた存在の事じゃないか?」
フィルは首を横に振る。
「我々人類種、いやティエルローゼの全ては創造神とその子らである神々によって作られているのです。例え異世界といえど違うはずがありません」
んー。地球は生命が自然発生したところだからなぁ。
神という存在がいたとしても、霊長たる人間の進化に少し干渉しただけじゃないか?
魔界の神々とやらが色々と好き勝手した事はハイヤーヴェルから少し聞いてるけど、人間となる種自体を作り出したとは言ってなかった。
多少、知能の発達を助けたような気はするけど。
新人たるホモ・サピエンスが、肉体的にも優れていたネアンデルタール人に代表される旧人を駆逐し、地球を支配できたのは魔界の神々の力があったからだろうしね。
「確かにレベルも力も魔力に関しても、ティエルローゼの神々に匹敵するほどの力がある。だけど、それだけなんだ。
プレイヤーには神力はないし、何かを司るような力もない」
俺は肩を竦めて見せる。
「アースラはプレイヤーだったけど、神々に請われて神界の住人となり神力を得たみたいだけどね」
「閣下も神界に行かれれば神の一人になるという事ですね?」
俺は首を横に振って否定する。
「いや、その気はないね。
神って色々窮屈みたいでね。
好き勝手に地上に降臨できないし、人類種に干渉するにも色々とルールがあるそうだよ。俺はそういうのはゴメンだね」
プレイヤー出身の神は英雄神たるアースラだけで十分だろう。
俺が何の神様になるっていうんだ?
前にフィルが言ってた冒険の神様かい?
いやいや、冒険はするから面白いんであって、冒険を与えるような神様にはなりたくない。
ティエルローゼには俺が知らない事がまだまだいっぱいあるはずだ。
「地上に冒険する事がなくなったら神界を冒険するのもいいかもだけど、今じゃないなぁ」
何故かフィルは物凄く残念そうな表情だ。
「いいじゃない、今はそれで。
地上に飽きたら神界にでも行けばいいと思うわ。
でも、ケントにはまだまだ領主としてトリエンにいてもらわなきゃダメでしょ」
エマの声に振り返ると、エマはフフンと鼻を鳴らしている。
なんか俺が「神界に行く」といったら「ついて行く」と言わんばかりの表情なんですけど。
まあ、エマが死んだらイルシスが放っておくわけないし、ついて来る事も不可能じゃないのかな?
もっとも、俺の仲間たちの「神々の加護」具合を見ると、死後は全員神界に招かれる資格者かもしれないが……
「ま、今すぐって話じゃないね。何十年……何百年後だろうな」
「ケントは人族だから何十年でしょ。私とフィルはハーフエルフだから二〇〇年以上生きるわよ?」
「いや、プレイヤーに寿命はないらしいよ」
「何、その反則」
「反則と言われてもな……身体が劣化しないらしいんだよ。だから老化もしないわけ」
「じゃあ、ずっとそのままなの?」
エマが俺の頭の上からつま先までジロジロと見る。
「そうなるね。もう少し歳をとってロマンスグレーな俺ってのも見てみたい気もするけど」
「ケントはそのままが良いわよ。
私が妙齢の美女になるまででいいけど」
妙齢の美女ねぇ……
確かにエマは美人になる素質は十分だとは思うけど、性格がツンだからなぁ。
もっとデレると可愛い気がするんだが。
「ところで、閣下」
「ん?」
フィルが徐に口を開いた。
「とある錬金素材を実験に使いたいのですが、どうやって手に入れて良いものか全くわからないのです」
「何が欲しいんだ?」
「ドラゴンの汗というモノがあるそうなんです」
「ドラゴンの汗だと……?」
俺の脳裏に巨大なサウナに入ってダラダラと汗を掻くドラゴンが浮かぶ。
「そんなモノが出回っているのか?」
「はい。文献によりますと、世界樹の森の街などで少量出回ることがあるとか」
そんなモノが世界樹近辺の森に???
「効能は?」
「ひと舐めすると、MPが徐々に回復するとか……」
ドラゴンの汗にそんな力が……?
「マリスの汗じゃダメなのかな?」
「マリスさんのですか?」
フィルは何を言っているんだという顔をする。
あれ? フィルってマリスの正体に気づいてない?
食事の席とかでぶっちゃけてたりしてた気がするんだが?
研究以外にあんまり興味ない感じだからなぁ。
聞いているようで聞いてないのかもしれない。
「解った。とりあえず手に入るかどうか考えてみよう」
「ありがとうございます」
その後、俺はエマとゴーレム部隊再建計画を練っておく。
素材が少々足りないので、マストールかトリエンに移住してきたドワーフたち経由でファルエンケールに注文を出してもらおう。
「設計図は端末に登録してあるみたいだから、材料が入ったら私の方でゴーレムは作っておくわ。
ケントは他の仕事をしてて良いわよ」
新しい魔法道具や魔法装置を作るのでなければ、俺が工房に詰めている必要がなくなって来ている。
「了解。んじゃ、今日はちょっと鍛冶部屋に行こうかな」
「ごゆっくり」
俺は鍛冶部屋に行く。
鍛冶部屋ではマストールとマタハチが仕事をしている。
俺が入って行くとマタハチがペコペコと頭を下げる。
マストールは仕事に集中しているので無言だし、俺に反応すらしない。
この鍛冶場もマストール専用になりつつあるな。
マストールはゲストだったはずなのに、今では当然の顔で詰めてるからなぁ。
ま、ここほど高性能な溶解炉は、ティエルローゼを探しても見つからないだろうしねぇ。
鍛冶用の道具なんかもマストールがどんどん使い勝手の良いものを作ってるから、マストールが自由に使う分には文句はないんだけどね。
俺は鍛冶部屋に待機している作業用ゴーレムに指示してアダマンチウムとミスリルの素材をいくつか持ってきてもらう。
俺はエマとフィルの武器と防具の作成を開始した。
二人とも
全部をアダマンチウムで作ると凄い重くなるので、基礎素材はミスリルにしてアダマンチウムでコーティングする感じがいい。
それぞれに宝石を基礎とした防衛系の術式を組み込むのがいいかもしれん。
モノ自体は夕方までに作成が完了する。
後は魔法の付与だ。
どんな魔法を込めるか。
コレが一番重要な工程になる。
それぞれがどういう状況で必要になるかは、エマやフィルの戦闘スタイルにもよるので、後で彼女らのステータスを覗いて確認しないとな。
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