第26章 ── 第13話
クトゥルフの邪神像を見上げる。
ジーッと見ていると、微妙に振動しているように見える。
「なあ、この邪神像、振動していないか?」
みんなにも声を掛けて確認してもらう。
「揺れてます?」
「いや、私には判らんが」
「振動じゃから小刻みにカタカタしておるのじゃろうか」
「振動は……感じない……」
仲間たちは振動しているようには感じないようだ。
気のせいか?
「振動はしていませんが、嫌な感じはしますね」
アモンの言葉にフラウロスもアラクネイアも頷く。
ふむ。魔族連は嫌な感じか……
「こんな邪神の像なぞ破壊してしまえば良い」
考え込んでいるとマリスがそんな事を言う。
確かに邪神像は
破壊した場合、この世界での
ドーンヴァースにおいて、祈りの対象の力が及ばない場所や居ない場合、
シナリオなどの縛りだったようだが、そのルールがティエルローゼでも適用されるとすると破壊する意味は大いにあるだろう。
俺が考えているとマリスが
──ズドン!
突然マリスが右に吹っ飛んで壁にめり込んだ。
「ぐはっ……」
マリスのHPが一〇パーセント近く一気に減る。
「動き出した! 戦闘準備!」
振り抜いた形に変化した邪神像の左腕が目に入った。
「カバー・ムーブ! シールド・ディフェンス!!」
シンジは俺や仲間たちと邪神像の間にスキル移動し、盾の防御力を高めるスキルを使う。
俺は少し後方に下がり、大マップ画面で突如赤い光点として表示され始めた邪神像の情報を確認した。
『クトゥルフの邪神像
レベル:八五
まだ完全な神化には到達しておらず、
げぇ!? 神化だと!?
なんてもん生み出してんだよ!
──ガキン!
大きな音と火花が飛び散る。
動きたした邪神像は台座から片足を下ろし、右腕の大ぶりで目の前のシンジを攻撃した。
しかし、シンジは
マリスは小さいからシンジのような防御方法は苦手かもしれない。
「トリシア! ヤツはストーン・ゴーレム程度の硬さしかないハズだ。通常弾でも体力は削れるぞ。だが、レベルは八五だ。気を抜くな」
「了解! 前衛はシンジを上手く盾に使ってHPを削り取れ! 後衛は魔法支援を! ハリス! ヤツの動きを上手く誘導してくれ!」
アモンは抜いた剣を鞘に戻すと、鞘を腰から外してそのまま構えた。
ストーン・ゴーレムなどのモンスターは、斬撃系や刺突系の攻撃に耐性を持つことがあるので、効果が薄いと判断したようだ。
「行きますよ」
シンジの左側からアモンはスキルを繰り出した。
「
アモンの攻撃を邪神像は右手で受け止める。
──ガガガガガガガガ!
物凄い連打音が聞こえ、邪神像のHPバーが幾らか削れた。
アモンの攻撃でもあの程度しか削れないだと……?
俺は少し驚く。
やはり神になりかけている所為だろうか。
何らかのバフが邪神像に掛かっているのかもしれない。
俺は創造神の能力を使って目を強化する。
強化した目には、通常では見えないモノが見えるようになる。
グッと目を凝らすと邪神像の胸の中心あたりに赤黒いものが見え、そこから血管のように細い奔流が邪神像全体に伸びているのが解った。
「邪神像の弱点は胸の真ん中だ! そこにパワーの源があるぞ!」
俺が声を張り上げると、ハリスの分身が敵の攻撃を誘い、左右の腕がちょうど開くように動いた。
胸がガラ空きだ!
「
──ダダダダダダダダダ!!
トリシアのバトル・ライフルが火を噴き、邪神像の胸部分を削る。
しかし、普通のフルメタル・ジャケット弾では邪神像のコアを露出させる事もできない。
くそ。必要以上に硬いぞ……孔雀石に金鉱石が混じっただけの素材のくせに。
俺は思考を巡らせ、解決策を導き出す。
「アナベル! 前衛たちに魔法耐性の魔法を! フラウロス! ヤツに最大熱量の魔法をぶつけろ! 持続性の魔法がいい!」
「了解だ!」
「御意……」
アナベルが
フラウロスはアナベルが仲間たちに魔法耐性を付与するのを慎重に待っている。
「今ですね!
──ゴアッ!
無詠唱で発動した猛烈な火炎性の竜巻が、邪神像を中心として噴き上がる。
邪神像は突然の火炎攻撃に両腕や翼をバタつかせている。
「トリシア、氷系の魔法で使える最高のものは?」
「
「よし。フラウロスの火炎が消えた瞬間に
「何をしようとしているかよく判らんが、言われた通りにしよう」
トリシアは呪文詠唱を開始する。
──ドゴーン!
右手の壁が突然吹き飛んだ。
「おのれ……ケントに我の格好悪いところを見せおって……許さんのじゃ!!」
ハーフ・ドラゴン化したマリスが壁から現れる。
あらら、相当怒ってますよ……
ギロリと炎に包まれた邪神像を見たマリスだったが、周囲の状況を確認するように周りを見た。
「ほう。何かするつもりじゃな?」
ニヤリと笑ったマリスが、トリシアの魔法発動を待つように構えている。
指示もしてないのに俺や仲間の行動に合わせようってか。
やはりマリスは状況判断能力が高くなってきてますな。
その時、フラウロスの火炎が消えた。
「
今度は猛烈な氷の嵐が邪神像を捕えた。
「スパイダー・ハンギング!」
いつの間にか邪神像の後方に回っていたアラクネイアが、両の手の平からクモの糸のような物質を飛ばした。
そして、邪神像の両手と翼、足、首へと巻き付くとギリギリと引っ張って締め上げる。
──ピシリッ!
来た!
大の字に胸を開いた邪神像から何かが割れるような音がした。
「今だ! 派手に行け!」
「おうさ!」
俺の掛け声でマリスが突っ込んだ。
「ドラゴニック・ストライク!!」
何やら拳がほんのりと光っているように見えますな……
「おりゃあぁぁぁぁああぁぁぁ!!」
マリスの右正拳が邪神像の胸の真ん中に炸裂した。
拳はそのまま胸の中に吸い込まれる。
「爆ぜろ!!」
──ズドン!!
大きな爆裂音が鳴り響くと同時に邪神像が弾け飛んだ。
周囲に孔雀石の破片が撒き散らされたが、シンジの盾スキルによって仲間たちには被害は出なかった。
ハリスやアラクネイアは瞬時に影に沈んだようで、こっちも無事だ。
「やった! 破壊したぞ!」
シンジが嬉しげにガッツポーズを決める。
神になりかけだったし、ただのゴーレム以上に強かったな。
こんなモノを生み出すとは、
俺は崩れ落ちた邪神像を見ていた。
するとバラバラの石から妙な黒煙が立ち上って一つに集まって行くのが見えた。
仲間たちは気付いていない。
「アナベル。
俺が指差すと、アナベルは無言で邪神像が立っていた所に向かって聖印を切った。
「邪なるものに……マリオンの聖なる力による浄化を……ジェルス・カフ・ウーシュ・ブレージン・ファル・サンターナ。
崩れた邪神像が、どこからともなく差し込んでくる清浄な光にパァッと照らし出される。
光の中心あたりに漂っていた黒煙がゆらりと揺れ始めると、どんどんと薄くなり、そして最後には消えた。
これでよし。
あの黒煙が集まりきったら、また何か起こりそうだもんね。
生まれかけた邪神の塊が、本当にクトゥルフになったりしたらマジで困るからな。
データ調べた時、心底焦ったもん。
ハイヤーヴェルが言ってた通り、もう一人の転生者らしい
早急に葬り去る必要がありそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます