第26章 ── 第7話
俺は、ふと思い出してシンジの協力を仰ぐ。
「
「そんな事できるの?」
「俺はできるんだけど、インベントリ・バッグがない仲間はできなかった」
シンジはフムと言いつつインベントリ・バッグに
そして少し驚いた顔をする。
「表示されるね」
なるほど。やはり転生者はインベントリ・バッグ内からでも表示可能なんだな。
俺は歩きながら考察を続ける。
俺たちプレイヤーは転生時にインベントリ・バッグを持ったまま、こちらに転生している。
しかし、先日一緒にドーンヴァースに行った仲間たちが、ティエルローゼに戻った時にはインベントリ・バッグは追加されなかった。
やはり元の肉体がない状態でゲームキャラのデータからの再構築が行われないとインベントリ・バッグなどはティエルローゼに持ち込めないって事だろう。
レベルやスキルは情報でしかないので、こっちにも反映されるみたいなんだけどな。
あと確認しなければならない事は……
「シンジ、ステータス画面を俺にも見えるようにしてくれないか?」
「どうやるんだ?」
「ああ、見せたい人に許可を出すように心で思えばいいよ」
シンジが一つ頷くと、すぐに俺にも見えるように彼のステータス画面が現れた。
俺のステータス画面にはある例の「歯車」のアイコンを探す。
だが、シンジのステータス画面には俺にはある「歯車」のアイコンがない。
ふむ……という事は大マップ画面もミニ・マップ、ステータス・バーなども表示できないかもしれない。
以前、仲間たちと実験した時には、念じることで時間表示までは可能だったが、大マップ画面もミニ・マップもショートカット欄も出せなかったからな。
それら機能は俺だけの能力という事だろう。
アースラもステータス画面は俺のとは少し違うと言っていたしな。
シンジのステータス画面は見た感じ、仲間たちと変わらない。
ただ、インベントリ・バッグがあるからか、所持品などを一覧表示したりすることはできる。
ここはプレイヤーと現地人の差だろう。アースラもできると言っていたしな。
「んじゃ、人に見せるためのステータス偽装を説明するよ」
「ああ。言われてみるとやっとく方がいいと俺も思った」
ステータス画面の上にプレビュー・タブがあるので、それを選択させる。
「選択方法はそこをクリックするイメージで」
「お、できた」
俺はその表示の変更についても説明する。
自分のステータスを上限として数値を下げて表示する事はできるが、上限を越えた虚偽表示は不可能だという事。
持っているスキルを表示と非表示の変更が可能だが、持っていないスキルなどは表示できない事などなど。
「要は自分より強く見せかける事はできないって事だよね」
「簡単に言うとそうだよ」
ふむふむと言いながらシンジはこの世界で標準的なベテラン冒険者くらいのステータスに変更する。
「レベルは四〇くらいでいいかな」
「伝説級冒険者並だけど、俺の仲間たちもそれくらいに変更しているみたいだから大丈夫だろう」
シンジがチラリと俺やハリス、マリスに目を向ける。
「という事は、もっとレベルが高いって事だね?」
「うん。俺はレベル一〇〇だし、仲間たちは八〇から九〇代だねぇ」
「君のステータス、見せてもらってもいいかな?」
「ん? プレビューの方じゃないよね?」
「ああ。俺も見せたんだし……」
ま、確かに見せてもらってるんだし、俺も見せておくべきか。
「いいよ」
俺はステータスを表示させてシンジに閲覧許可を出す。
「おお、サンキュー。どれどれ……」
そして俺のステータスを覗き込んだシンジがピシリと固まる。
「なんか、ステータス、異様に高くない……?」
「だよね。俺もそう思う。神々の「加護」というのを与えられると、飛躍的にスキルが上昇したりするんだ」
俺はそう教えてやる。
「ドーンヴァースにはない要素だね……という事は神々に気に入られれば、手に入るって事かな?」
「あまいぞ、シンジとやら。神々は簡単に加護など与えぬ」
マリスが偉そうに口を挟む。
「マジか……」
シンジはマリスの答えに少し残念そうな顔をする。
「まあ、神に気に入られるっていうか、ティエルローゼ全体の為になるような行動を心がけると、神々の目に留まる感じだと思う」
「例えば?」
例えばと聞かれても一口には言えないが……
「地球の料理を再現するとか?」
「それ、もう君がしてるでしょ」
「してるねぇ……」
「俺、料理できないしなぁ」
「シンジの趣味は?」
ガックリ肩を落とすシンジが少し可哀想なので、彼の得意な事を聞いてみる。
「俺の趣味? ゲームだろ? プラモ作成、それと嫁の絵を描くくらいかな?」
「結婚してんの!?」
「え? プリティ・エンジェルの茜ちゃんは俺の嫁だけど!?」
ああ……
俺は右手でこめかみを押さえてグリグリと揉む。
シンジは普通にオタク系の人なのか。
俺もオタクだとは思うが、そっち系はやってない。
彼の言う「プリティ・エンジェル」とは今、現実世界で日曜朝にやっているアニメの事だったと思う。「プリエン」とか略称で呼ばれてたっけ?
多分、それの登場人物の一人だろう。
詳しくは知らないが、赤いキャラじゃなかったかなぁ。
そういえば……エマに雰囲気が似ているキャラだったかも……
館に到着しリヒャルトさんの出迎えを受けたので、シンジを部屋へ案内してもらう。
「んじゃ、少し休憩してくれ。夕食時にまた会おう」
「ああ、ありがとう」
執務室に行き、執務椅子に座る。
ハリスとマリスはソファに腰を下ろす。
「シンジはどうだった?」
「我が見るに、邪悪という感じはしなかったのう」
「マリスと……同じ……意見だ……」
ふむ。俺は腕を組んで某アニメのシンジという同名キャラの父親がやるようなポーズを取る。
「俺もそう思う。
俺に夢でお告げをしてきた神が言っていたティエルローゼに危機を与える感じはしないね」
そこから導き出される答えは「転生者はもう一人いる」だ。
シンジに脅威はないから、ハイヤーヴェルはシンジに言及しなかったのではないか。
「言葉足らず過ぎだな……
だとすると危機を呼ぶ人物は他にいる事になる……」
「そうなるかや?」
「厄介な……事だ……」
本当に厄介だな。俺の検索に引っかからなかった段階で、俺の推測はアタリだろう。
多分、「ロキの外套」だ。
これを使用する者を探し出す方法を考えなければならない。
しかし、どうしたらいいのかサッパリ思いつかない。
ロキの外套を使う者を探知する魔法道具を作るってのも無理だろう。
神すら検知不可能だと創造神自ら言ってた事だしな。
いくらティエルローゼの魔法道具でも、レジェンダリー・アイテムの効果を超えるほどの能力を付与するのはできないだろうと思う。
「うーむ」
あまりにも打開策が見つからず俺はお手上げ状態となる。
「今は考えても何も思いつかないな。
対象の気が緩んで尻尾を出すまで待ち構えるしかないかな」
俺はハリスに目を向ける。
「ハリスの探索能力に期待してもいいかな?」
俺がそういうと、ハリスの目がキラリと輝く。
「ああ……任せてくれ……」
「ただ、警戒だけは緩めないでくれ。多分、敵はレベル一〇〇のプレイヤーだ。
神に匹敵する能力を持っていると思ってくれ」
「了解……」
ハリスの能力は俺ですら計り知れない。
現在、ハリスのレベルは
前にも言ったが能力値の合計はパーティ内でも随一だ。
それに比べてシンジはレベル一〇〇なのだが、能力値の合計はハリスに遠く及ばない。
加護の脅威的なチートっぷりが窺えるね。
姿の見えない敵って事だし、アラクネイアやレベッカにも協力を仰ごうかな?
彼女らはシーフ系のスキルを多く持っているし、ハリスの補佐もできるかもしれない。
俺は紙に経緯や頼みたい事を簡潔に認め、ハリスに渡す。
「これをアラネアとレベッカに。ハリスの補佐をしてもらう」
ハリスは頷くと影に消えた。
「我には何もないのかや?」
「今の所はないかな。あ、ちょっと待った。あるかも」
「何じゃ!?」
マリスが目をキラキラさせる。
「ほら、例のチビ・ドラゴン」
「
「ああ、それそれ」
俺は頷く。
「あれって見えないモノを見たりできないかな?」
「うーむ。そこまでの能力はないのじゃが、気配くらいは探知可能じゃ」
「ふむ……いいね。んじゃ、マリスにも頼もうかな?」
「バッチこーい!」
尻を叩きプリッと腰を撚るマリスに目の前が真っ暗になる。
マリスよ……それ、どこで覚えた?
アースラか? それともドーンヴァースの無頼の男どもか?
後者っぽい気がする。
あいつら、ドーンヴァースで出会ったら覚えとけよ。
完全にハラスメント事案だし、管理者権限でアカウント凍結してやろうか。
「女の子はそういう事してはいけません!」
五分ほど小言を言ってから、敵たるプレイヤーの探索をマリスにも頼む。
もし、
マリスは一人でも突っ走る傾向があるので、これは必要な手続きだろう。
ロキの外套を使った者であろうとも、この鉄壁の探索体制で掛かれば、馬脚を現すはずだ。
俺も大マップ画面での検索を怠らないようにしよう。
ティエルローゼの危機には早めに対処したいしね。
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