第26章 ── 第6話
「さて、次は……」
「まだ何かあるの?」
シンジは今日は色々ありすぎて既に休みたいようですな。
「まだまだじゃ。やはり次といえばアレじゃな」
「アレ……だろうな……」
「アレ? アレって何?」
マリスとハリスがニヤリ顔なのでシンジが首をかしげる。
「まあ、アレといえば
「アレは……無いと……困る……」
「やっぱりじゃ!」
それは何? という顔のシンジ。
「
「ああ! 確かにそれは重要かも!」
シンジもウンウンと納得して頷く。
「表示できないと色々困るからね」
「この世界でもステータス画面を表示できるとは思わなかったよ」
何気に嬉しげですな。
「魔法道具は高いけど、ドーンヴァースの通貨を持ってれば問題ないね」
「こっちではゴルド金貨と言われておるのじゃぞ?」
「ゴルド金貨?」
「一枚で……金貨四枚分の……価値がある……」
おおとシンジは驚く。
「二億ゴールドくらい銀行に預けてあるけど、こっちに銀行はないよね……」
なんという金持ちか! 俺は三〇〇〇ゴールドくらいしか持ってなかったのにな……
「手持ちは?」
「んーと……」
シンジはインベントリ・バッグを漁るが、
「多分、二万枚くらいだと思う」
「凄いのう」
「凄いのか?」
「凄い……ぞ……」
ドーンヴァースの通貨「ゴールド」は純金製コインだ。
ティエルローゼの金貨は不純物が多く、同じ重さの金貨を用意しても価値は釣り合わない。純度一〇〇%とか現実世界でもありえないからね。
「
ゴールドで払うと二枚出せば、金貨四枚のお釣りが来る」
シンジは指を折ってティエルローゼの貨幣の価値を計算しているが、イマイチわからないといった顔だ。
確かに解りづらいよな。
異世界ファンタジー系のラノベなら、一〇枚で硬貨が変わる設定が多いんだけど、そんな都合のいい度量衡制度はない。
度量衡で思い出したが、俺がティエルローゼに転生してきた頃はティエルローゼにおいては「ポンド」や「フィート」といった単位が使われていた。
しかし、いつの間にか「グラム」や「メートル」などの単位が使われるようになっていた。
これは創造神であるハイヤーヴェルが後継として俺を召喚した所為で俺が使う上で最も馴染みのある単位を使うように世界が勝手に再構成された為らしい。
ハイヤーヴェルが夢でそんな推測を口にしていた。
俺にとっては都合がいいけど、世界の人々は勝手に変わってしまって困った事にならなかったのか非常に心配だ。
創造神の権能恐るべし。
不用意に「あんな事いいな。出来たら良いな」とか思わないようにしないと気付いたらとんでもない改変がされてたりするかもしれない。
もしかしたら、諸々の不思議現象って俺の所為じゃないかと不安になるよ。
例えば、ハリスのクラス構成とかな……
ハリスが
うん、本当に気をつけねば。
ウルド神殿に入ると、以前のように
「軍神ウルドの加護をお求めですか?」
「この人の
俺がそう答えるとシンジも頷く。
「左様で御座いますか。ではこちらへ」
対応もセリフも以前と同じ過ぎてゲームのNPCかと錯覚しそうになるね。
例の部屋に到着したので、シンジをテーブルの一つに向かわせる。
「
「ステータスが見られると聞いたけど」
「
例の注意事項が契約前に伝えられ、シンジは「はぁ」と気の抜けた挨拶を返している。
「
「解った」
シンジが頷くと
「それでは、この魔法板の上に両手を置いてください」
シンジが言われた通りに魔法板の上に手を置くと
『
例の気持ち悪い光の糸が
シンジも顔をしかめているが、手は動かさなかった。
一〇秒程度で光の糸は消え、儀式を担当した
「完了です……」
やはり普通の魔法道具とは違って、呪文行使者のMPをゴッソリと持っていくらしい。
儀式魔法にした方がいんじゃないか?
「これでこの
シンジが少し困った顔をしていたので、後ろから耳打ちしてやる。
「料金だよ。二ゴールド出せばいいよ」
俺にそう言われてシンジは慌ててインベントリ・バッグからゴルド金貨二枚を取り出した。
「ゴルド金貨でございますね」
まあ、一般的に流通している通貨じゃないので驚くのも無理ない。
金持ちの蒐集家なら価値以上の金貨を出すらしいしな。
「使い方はご存知ですか?」
ゴルド金貨に驚いたが
「いや、知らないけど」
「難しいことではありません。使いたいと念じるだけですので。詳しくはこちらをお持ち下さい」
シンジは興味深そうに説明書を受け取った。
「
「あ、はい。ありがとう」
「随分と簡単に手に入った。何かクエストでもやらされるのかと思ってた」
「まあ、ゲームだったらそういうチュートリアル・クエストが挟まるよね」
「おお?」
部屋を出たあたりでシンジが驚くような声を上げる。
使ってみたんだろうが、他人が見られるような設定にしてないから俺には見えない。
神殿から出てから
「シンジ、レベルに関してだけど、他人に知られないようにした方がいいね」
「何で?」
「この世界の人族のレベル限界は、およそレベル六〇くらいだと言われているんだ。
歴史上、それを越えた人類種は存在しない」
俺の仲間を除いてね。
「へぇ……でも何で知られない方がいいのさ?」
「人には抗いきれない者だと判断される」
「抗いきれない者?」
「神とか魔獣とか」
シンジが「マジで?」と言いながら微妙な顔つきになる。
「シンジはレベル一〇〇だろう? それってエンシェント・ドラゴンのエルダーとか、神々とかと同位のレベルと思われるんだよ」
「へぇ……でも街の人に知ってもらえば、頼りにされるんじゃ?」
「神として崇められたら自由に行動できなくなると思うよ」
現実世界で考えられる例えを示しつつ説明する。
もし、町中で超絶美形アイドルが変装もせずに出歩いてたら?
総理大臣が護衛もなしに街に顔を出したら?
大量のストーカーや報道陣が自宅前に陣取ったり。
突然、街角で「私と死んで!」と大量の女性が包丁を持って襲いかかってくる。
一つ一つ話すたびにシンジの顔が渋面になる。
「それは願い下げだね……」
「人知を超えた存在だと知られたら、そうなる可能性があるんだ。
特にココみたいな神が実在している世界ではね……」
「神様っているの!?」
「いるよ。さっきのウルド神殿は実在の神を崇めている所だよ」
シンジは「おおう」と妙な声を上げる。
「ウルドってドーンヴァースでも出てくる名前だよね」
「うん。ドーンヴァースのフレーバー・テキストに出てくる神は、ティエルローゼにもいると考えていいよ」
「マリオンとかいるのか?」
「ああ、いるね」
そう言った瞬間、マリスが俺とシンジの間に顔を突っ込んできた。
「マリオンはケントの姉弟子じゃな」
「姉弟子?」
マリスが得意げに言うと、シンジは困惑した顔になる。
「そうじゃぞ。ケントもマリオンもアースラに修行を付けてもらった弟子じゃからな!」
「アースラ?」
「英雄神アースラ・ベルセリオスじゃ。我も指導されたからケントの妹弟子なのじゃぞ。ハリスもじゃ」
シンジはポカーンとした顔をしたが、直ぐに俺に向き直った。
「アースラ・ベルセリオスがいるの!?」
「あー、うん。今、ティエルローゼにいる……」
「マジか! 最近見ないと思ってたら転生してたんか!」
アースラはドーンヴァースで最も有名なプレイヤーの一人だからなぁ。
シンジが知っているのは当然だ。
反応から見るとシンジも彼のファンなのかも。
「この世界で四万年くらい前に転生したらしくてね。
四万年前は神話の世界だし、彼は神々にスカウトされて英雄神って事になってるんだよ」
「すげぇ! さすがベルセリオスだね!」
俺はシンジの反応に苦笑するしかない。
会ってみると只のおっさんだし、酒ばっか飲んでるし、尊敬する英雄的プレイヤーとは思えないんだけどね。
アースラに会う機会もあるだろうし、その内紹介できると思うけど、ガッカリするのはその時でいいかも。
シンジにステータスの偽装方法について説明しつつ、俺たちは館へと戻る道を歩いた。
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