第25章 ── 第37話
「おー、この鞄は、こんな感じに中身が見えるのですね」
アナベルがインベントリ・バッグ内を覗きながら感嘆の声を上げる。
インベントリ・バッグは従来の鞄のように入っているモノがゴチャゴチャと見えるのではなく、バッグ内のアイテムがリストのように一覧表示される。
それらにカーソルを合わせると、アイテムの簡易的な説明が表示される。
この機能で表示されるアイテム説明には簡単なデータも表示されるし、アイテムを選択し詳細を表示とすれば、詳細なアイテム・データを呼び出すこともできる。
なのでドーンヴァースには鑑定魔法がなかったりする。
「これがドロップ・アイテムというヤツか」
「サラマンダー各種が出たから、皮とか入ってるだろ?
それら素材を使ってマントとかを作るわけだ」
「皮じゃないモノも入っておるが?」
「あとは骨とか肉とか……」
「これは宝石じゃろか?」
「どれどれ……」
俺はマリスにインベントリ・バッグから宝石らしいものを取り出して見せてもらう。
「なん……だと……」
マリスが取り出したモノを見て、俺は頭を抱えた。
キラキラと輝く水晶柱だった。そう、それはスキル・ストーンだった。
「マジか……モンスター・ハウスってスキル・ストーンが出るのかよ……」
「おお、これがケントが言ってたスキル・ストーンかや!?」
「ふむ。ティエルローゼでも時々見るスキル・オーブと似た物か」
トリシアが関心ありげにスキル・ストーンに目をやる。
マリスが出したスキル・ストーンは「戦闘:槍」で、基本戦闘スキルでも騎士などが初期に習得するスキルだった。
以前、マリスのスキルを確認した時、
「これはどうやって使うのじゃ?」
マリスはワクワクした目で俺を見て、グイッとスキル・ストーンを突き出してくる。
「使い方は手に持って使うと念じればいいよ。
基本的に念じれば大抵のアイテムは使える」
「槍を使うのは得意じゃなかったのじゃが、これで上手く使えるようになるのじゃろ?」
「そうだね。習得時はLv1だけど、使っている内に上がっていくはずだよ」
「しかし、我は槍を持っておらぬぞ?」
期待した目が俺を見た。
「そうだなぁ……
剣のコマンド・ワードで伸びるヤツ。あれが槍扱いにならないか?」
ティエルローゼに帰らないと槍は作れないと思うので、とりあえず提案しておく。
こっちでアイテム作成したらこっちのデータで作られるだろうし、ノーマル・アイテムにしかならない。
こっちに魔法付与された武器や防具などはないから、武器や防具を作るならあっちの世界でやるべきだ。
「ふむ。確かにそっちの方が使い慣れておるしな。フェンリルに乗って突っ込むのに良いかもしれん」
そう言ったマリスはポンと手を叩いた。
「こっちにフェンリルは連れてこれぬかや?」
「ああ、それは試してないな。やってみよう」
俺はインベントリ・バッグから預かっている騎乗ゴーレムを取り出してみる。
フェンリル、白銀、ダルク・エンティル、モノケロスを取り出してやる。
仲間たちは思い思いに自分の騎乗ゴーレムに乗り感触を確かめる。
「ふむ、問題ないようだな」
「まあ、ドーンヴァースの騎乗ゴーレムと性能は一緒だしね」
実際、転送プログラムはあっちの仮想空間上でも問題なく動いていたから、こっちに持ってきても問題なく動くとは思っていた。
ドーンヴァースとティエルローゼのリンクさえ切れなければ大丈夫だと思う。
俺もスレイプニルを取り出して準備する。
見れば魔族たちは立ったまま、俺の準備している姿をニコニコしながら見ている。
「アラネア、フラ、コラクス……お前たちにも騎乗用のアイテムが必要だなぁ……」
済まなそうに言うと、アモンが首を振った。
「いえ、我々が功績を立ててからで結構です。
主様のお役に立てないままに報奨は必要ありません」
アモンの言葉にフラウロスもアラクネイアも頷いている。
「そういうもんかな……
でも、仲間たちとの移動で足並みが揃わないのは問題あるし、何かリクエストはないかな?」
フラウロスがニヤリと笑う。
「我にはパンテーラがあります故、何の問題もありますまい」
フラウロスが手を一振りするとグランデ・パンテーラが一匹召喚される。
ドーンヴァースにも普通に呼び出せるのな……なんとも便利な召喚能力だ。
「まあ、それでもいいけど……
生物だとゴーレムと違って疲れたりするぞ?」
「ふふ。別のパンテーラに乗り換えれば良いので」
それも確かに手だな。
しかし、アモンとアラクネイアは召喚を使わないし、そういう訳にもいくまい。
「妾は本来の姿なれば、騎乗魔獣にもゴーレムにも負けませんが?」
「うーん、却下。折角人型美人なので、俺としてはそのままがいいな」
俺がそう言うとアラクネイアは両の手を顔に当てて頬をバラ色に染めた。
美の体現者なんだから、下半身クモ型にしたら少しゲンナリだろう。
まあ、クモも見方によっては美しいという人もいるだろうから、完全に俺の主観ですよ。
「では主様のお気に召すままに」
アラクネイアの真の姿を阻止した以上、何か考えておこう……。
「コラクスは?」
「そうですね。やはりカラスでしょうか」
このワタリガラスの悪魔め。
ふむ、待てよ?
俺はメニューを開き、オンライン・ショップの商品を確認する。
ゴーレムならばティエルローゼで作れば問題ないが、こっちで課金アイテムで用意すれば、ゴーレムと同じような性能で運用できるんじゃないか?
通常、ドーンヴァースの騎乗モンスターは疲れや空腹というパラメータは存在しない。
もちろん戦闘に参加させれば死ぬ事もあるが、神殿で復活させることもできるので、基本的に一度購入すればいつまでも使える便利アイテムだ。
ティエルローゼに持っていって使えるかどうかは別として、今はあってもいいだろう。
俺はアモンに騎乗用巨大鳥レイヴン、アラクネイアに地獄の黒馬ナイトメア、フラウロス用に背中に触手のある黒豹クァールを購入する。
オンライン・ショップで買うと
「面倒だから金で解決した。みんな受け取れ」
俺は三人にトレードを申し込み、騎乗モンスターを譲り渡す。
「使い方はインベントリ・バッグのアイコンをクリックする事で呼び出せる」
三人は教えたようにそれぞれの騎乗モンスターを呼び出した。
「グァー!」
「ヒヒーン!」
「に゛ゃー」
「ブホッ!」
俺は黒豹の鳴き声で吹き出した。
「マジでニャーって鳴くんだな。ガオーって鳴くのかと思った」
もっと濁った感じだけど、巨大な身体には似合わない猫のような鳴き声なのは間違いない。
それでもフラウロスは、パンテーラを元の世界に戻しクァールに跨ってご満悦のようだ。
「ありがとうございます」
アモンも早速レイヴンに乗り込み空を一周している。
快適そうですな。
考えてみると、空を飛ぶ騎乗モンスターはアモンだけか。
トリシアみたいな遠隔攻撃系の仲間は飛行モンスターの方がいいんじゃないか?
アモンが得意げにマリスたちの上を飛んで見せて、みんなは空を見上げていた。
「飛んでおる!」
「ずるいのです!」
「ふっ……撃ち落とすのは……簡単だ……」
「だが、ハリスの言う通り、敵ならば良い的だ」
なるほど。遮蔽物が全くない空中は射撃の的ではあるね。
流石は、
当てられればの話ではあるが、トリシアたちなら余裕で当てそうだしね。
フラウロスとアラクネイアの騎乗モンスターにも気付いて、仲間たちが集まって来る。
「おお、皆さんも騎獣を頂いたのです?」
「ええ、どうですか、中々可愛いでしょう?」
アラクネイアはアナベルに嬉しげに自慢する。
「黒いですね! その
アナベルに指摘され、アラクネイアがナイトメアの炎の
「全く熱くありませんね。騎乗主には影響が出ないのではないでしょうか?」
「ほえー、不思議炎ですね!」
アナベルがナイトメアの黒い炎に手をのばすが、ナイトメアはプイと頭を反らして触れられる事を拒否した。
「むむ。触らせてくれません!」
「駄目ですよ、アナベル様。嫌がっております」
ただのAIなので、そんな感情はないと思うが、そう見えなくもないしな。
「これで全員分の騎獣が手に入った訳だな。移動が捗りそうだ」
「フラのはデカイにゃんこじゃな?」
「マリス様、これはパンテーラですぞ。猫とは比べるべくもありますまい」
「いや、それはクァールだ。
ゲームによってはディスプレイサー・ビーストとか呼ばれることもあるね。
元ネタはヴァン・ヴォークトのSF小説に出てくるモンスターだろう」
そんな
「猫じゃな」
「猫ですね」
「猫で間違いない」
「猫……だ」
仲間たちの隙きのない連携にクァールがゴロゴロと喉を鳴らした。
うーむ。まるで感情でもあるかのようだね。
騎獣アイテムはスレイプニルしか持ってないので、生物系の騎獣アイテムがこんなにリアルなのを初めて知りましたよ。
ドラゴンとかの騎獣だと迫力ありそうだね。
一匹手に入れてみようかな?
「よし。移動の準備も整ったようだな。ケント、先を急ごう。
いつまでもティエルローゼを空けておく訳にもいくまい。
目的のドラゴンはどのあたりだ?」
ああ、説明してなかったな。
この世界が通常の空間よりも一二倍ほど早いんだ。
この世界で一日は、現実世界では二時間しか経過しない。
もっとも、ドーンヴァースで過ごす一日は、体感的にも二四時間と感じる。
感覚的にもブーストが掛かっているのだ。
だから、あまり慌てる必要もないんだよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます