第25章 ── 第35話
一通りゲームのシステムやメニューの使い方について説明は終わった。
「さて、ではドーンヴァースを案内してみようかな」
「待ってましたなのじゃ!!」
さっきから落ち着きのないマリスが一番に声を上げる。
「あー、すまん。俺はちょっと用事があるから席を外すぞ?」
「ん? ログアウトか?」
「いや、例のメールの件だ」
アースラはメール画面を見ているようだ。
もしかしたら家族と連絡が取れたのかな?
「ああ、いいよ」
俺がそういうとアースラは頷いた。
「では、お前ら、ケントに迷惑かけないようにな」
それだけ言うとアースラは手をヒラヒラと振ってポータルの方へ向かっていく。
その姿を見送ってから、俺は仲間たちに向き直る。
「んでは改めまして……
この世界にはティエルローゼと同じように色々な町や都市がある。
そんな所から説明しようかと思ったけど、趣向を変えてみようかと思ってるんだ」
「ほう。それはどんな趣向でしょうか」
アモンが珍しく少しウキウキしている。
「このステインの町は俺がティエルローゼに転生する間際に立ち寄った町だ」
「そういえば、ドラゴンと戦って死んだと言っていたが……」
トリシアが出会った頃の話を思い出したように言う。
「そうだ。
この町の近くにある山脈で俺はドラゴンとソロで戦って死んだ。
そして気付いたらティエルローゼにいたんだ」
詳しい転生の話は今までしてこなかったが、ドーンヴァースに仲間たちと来た以上、黙っていても意味はない。
「通常、ドーンヴァースで死んだ場合、最後に立ち寄った町の神殿で自動的に復活する。
もちろん、デスペナルティが存在するので死なないに越したことはないが、死んでも人生は終わらない」
「便利ですねー。さすがは神々の御技と言えますね!」
アナベルは嬉しげに聖印を切る。
「いや、アナベル。この世界に神々は存在しない。
いや名前だけは存在するよ。マリオンもウルドもイルシスもね。
ただ、いわゆる雰囲気として名前が出てくるだけでね。
プレイヤーは関わることができない存在なんだ。
世界のシステムとしてプレイヤーは復活するという風に出来ているので、神が出てくる必要もないわけだね」
「そうなのです? 復活の魔法はないのです?」
「いや、あるよ。
死んだその場で蘇生魔法を唱えれば、何のペナルティもなしに復活できる」
「でも儀式魔法は大人数必要になりますし、現実的じゃないですよね?」
俺はアナベルの言葉に首を振った。
「この世界における蘇生魔法は一人で行える手軽なものなんだよ。
「何なんです、それ!? 世界の摂理を無視しているんじゃないですか!?」
まあ、ティエルローゼ人からしたらそう思うだろうね。
「うん。あっちならそうだよ。でも、この世界ではそれが普通なんだ」
黙って聞いてたトリシアも呆れたように空を見上げた。
「では魔法もティエルローゼとは違うのか?」
「ああ。呪文は必要ない。覚えた魔法は音声入力で普通に発動する」
「駆け引きもあったもんじゃないな……」
トリシアは呆れたように首を振る。
「手軽すぎるだろ?
だが、ドーンヴァースにはドーンヴァースで制限があるんだよ」
「制限ですと?」
フラウロスが目を細めた。
「そうだ。この世界ではシステム側で決めた魔法しか覚えることができない。
それとプレイヤーが覚えられる魔法には、取得タイミングや取得数の上限などがある」
俺はドーンヴァースのレベル・システムや職業によるシステム制限などを簡単に説明する。
ティエルローゼには、こういった制限があまりないんだよね。
これはスキルにも当てはまるらしい。
もちろん、覚えているスキルが増えれば増えるほど取得は難しくなるみたいだけど。
ちなみに、オールラウンダーにはそういうペナルティみたいなのはないようだ。やっぱチートだよな。
「とまあ、ティエルローゼに比べて自由度は全くないと言っていい。
詳しくはメニュー画面にあるヘルプの項目を見てくれな」
みんながメニューの確認を始めた。
「ケント……俺のクラス構成についてだが……」
ハリスが不安げに俺を見た。
「ああ、ハリスのクラス構成はドーンヴァース内において本来は異常な状態だね。
それはドーンヴァースのシステムではありえない構成なんだ」
「世界の異物と……判断された場合……どうすれば……」
ハリスのステータス画面を見てみると、異常表示にはなっていない。
ティエルローゼの時と全く変わりはないようだ。
「表示がちゃんとされてるし、問題ないんじゃないかな。チートと判断されてBANされるかもしれないが……」
「BANとは……?」
「んー、アカウントの停止や削除だが、それは問題ない。俺の方で対処できる程度の問題だよ。
俺の管理しているアカウントは、この世界の最高権限のアカウントがあるんだ。
それはこのゲームの運営にもタッチできないみたいでね」
詳しく説明する必要はないだろうけど、一応伝えておく。
「それはこの世界の最高神ということなのでは!?」
アナベルの鼻息が荒い。
「まあ、そういうことだな。その権限を俺は受け継いでしまったようでね」
「創造神に祈りを!!」
「いや、それはやめてくれ……」
俺は周囲を見回しながら、シーッと口に指を一本当てる。
それを見たアナベルが自分の口を両手で押さえた。
「周囲のプレイヤーにばれたら事だからね。注意してくれ」
アナベルは口元を押さえながらコクコクと頷く。
「んでは、話を戻そう。
ステインの町の近くにはドラゴンが生息する山脈がある。
私事で申し訳ないんだが……今、ドーンヴァースに帰ってきた俺としては、俺を殺したドラゴンにリベンジしてみたいんだが、どうだろうか?」
ホント、私事で申し訳ない。
まあ、今のレベルならソロで勝てない事はないと思うけど、仲間と遊ぶってのも悪くないよね?
「異世界のドラゴンじゃ! 是非、我も戦ってみたいのじゃ!」
「私も~!」
「俺は……ケントに……付いていく……」
「やれやれ、またドラゴンか。仕方ないな」
マリスもアナベルもハリスもトリシアも付き合ってくれるみたいだ。
「ふふふ。我が主の行く所、我らも付いていきますぞ」
「主様を倒したドラゴンですか。身の程を教えるべきでしょう」
「妾の主様に仇なすモノは塵にかえしましょう!」
フラウロスもアモンもアラクネイアも、まだ見ぬドラゴンに殺気を漲らせる。
「いや、それほど強いドラゴンじゃないんだよ。その頃の俺はまだレベルもスキルも全然でさ。今なら多分瞬殺だよ」
黒いオーラ・エフェクトが魔族たちに普通に出てるんですけど……
めっちゃ怖いんですけど……
課金エフェクトのはずなのだが、もしかして魔族キャラには標準装備?
確かにボス系で出てくる悪魔モンスターには良くあるエフェクトですが。
「そのドラゴンは前に聞いたヤツじゃな?」
そういえば、マリスとハリスには話した事あったな。
「ああ、そう、それね。レベル四八の
山脈の上の方にいくと
レベルは七〇台だから、結構骨があるかもしれないな」
俺はドーンヴァースのドラゴンについて説明する。
「基本的にドラゴンは
例えば、マリスはニーズヘッグ氏族だが、この世界にもニーズヘッグを名乗るドラゴンがいる。
これはさっき言ったレイドのボス・モンスターでユニーク・ドラゴンだね」
「強いのかや?」
「ああ、強いね。
なんてったって世界樹ダンジョンに何匹かいるレイド・ボスの一角だからな。
多分、今の俺たちだけでは絶対に勝てない」
世界樹ダンジョンはドーンヴァースのエンド・コンテツ。
その中にいるレイド・ボスは別格だ。
通常はレベル一〇〇パーティが八組必要なフル・レイドで挑むボスなのだ。
一パーティが最大八人で構成されるから、最大六四人も参加するんだ。
一筋縄ではいかない。
そう説明するとマリスは胸を張って得意げな顔になる。
まあ、異世界でも自分と同じ種族が強いってのは嬉しいものなんだろう。
「では、山脈にドラゴンを倒しに行くでいいね?」
「異議なしじゃ!」
マリスが手を上げて宣言すると、他の仲間たちも頷いた。
「では、この町で準備をしてから出発しよう」
俺は仲間たちを連れてNPCショップを回る。
一応、この世界のゴールドは俺しか持っていないので、大した買い物はできないだろうけど、中級くらいまでのポーションは各種揃えておくべきだろう。
勿論、俺が前回のドラゴン戦に備えて買った備蓄はあるが、ソロでやるのが前提なので全員分は揃ってない。
まあ、全員八〇レベル以上だし、今回は回復役である
一応、頂上付近にいると言われている
ドラゴンが狩れるって事は、効率よくゴールドを稼げるし、ドロップもいいものが出るからねぇ。
まだ見ぬスキル・ストーンも手に入る事に期待しよう。
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