第25章 ── 第28話
相変わらずアリーゼのサポートが優秀で、予定よりも早くリスト・コンピュータが完成してしまった。
ついでなので自分の分も作っておくか。
工房以外でもサーバに接続して、自動翻訳装置機能も追加して総合統合端末にしてしまおう。
朝まで掛かってしまったが、二つのリスト・コンピュータを用意できた。
片方は俺の左腕に装備しておく。
自動翻訳機を大型にした見た目だが、未来ガシェット的ハイテク・ガントレットっぽくて厨二病心をくすぐるね。
しかし、これを付けていると左腕の
防御力が若干下がるけど、利便性を考えたら仕方ないよね。
ま、ドーンヴァースに行く時以外に使い処、全然思いつかないけど。
それと、お古になった小型翻訳機を分解整備。ゴーレム部隊など、不必要なログを表示する機能は削っておく。
欠伸を噛み殺しながら朝食を食べに館へと戻った。
食堂に入ると仲間たちは既にお茶を楽しんでいた。
「おう、ケント。研究三昧か?」
トリシアがニヤリと笑って手を挙げる。
「色々やることがあってね」
「ケントさん! それは何です!?」
アナベルが目ざとく俺の左腕に装備されているリスト・コンピュータを見つける。
まあ、小型翻訳機よりもデカイし平服にコレは目立つしな。
「ああ、これはリスト・コンピュータ。工房の端末を小型化した奴だよ」
「それは何に使うんじゃ?」
「それは、まだ秘密」
俺はアースラにチラリと目をやってから、不敵に笑う。
「また何か隠しておるのじゃ」
「まあまあ。これをやるから機嫌を直せよ」
俺はマリスにポイッとダウングレードした小型翻訳機を投げ渡す。
何の予備動作も無しに投げたのにマリスは瞬時に反応して空中でしっかりと受け取った。
さすが前衛盾役だな。反応速度が段違いだ。
「前に付けてた奴じゃな」
「ああ、フェンリルと話をする時使うといい。使い方は解るな?」
「ケントが使っていたのを見ていたから知ってるぞ」
マリスは小型翻訳機と小型通信機を換装し、外した方を投げ返してくる。
こいつもその内改造して双方向発信できるようにしないとな。
「私たちには無いのか?」
トリシアが不満げに口を尖らせる。
「贅沢言うな。トリシアのライフルにはそれ以上に手間がかかってるんだぞ?」
最近のトリシアはライフルの遠距離戦、ハンドガンの近距離戦をスイッチする戦闘を練習していて、それぞれの武器の戦術研究に余念がない。
使用弾薬を使い分ける事で様々な戦況に対応できるというのも彼女の戦闘スタイルの強みでもある。
パーティの司令塔としての役割は鉄板だ。
このところパーティを組んで冒険していないので、仲間たちは暇なんだろう。
「みんなは明後日あたり、暇か?」
仲間たちを見回しながら聞いてみる。
その頃にはドーンヴァースへの双方向転送実験も終わっているはずだ。
彼らにも俺が遊んでいたドーンヴァースを見せてやりたい。
「我は最近、いつも暇じゃ! イーグル・ウィンドをモフるくらいしかやることがないのじゃ!」
「私は訓練ばかりしているよ」
「私はマリオン神殿にいますけど、お客さんは少ないのです」
「俺も……大丈夫だ……」
魔族たちは何も言わず、ニコニコと笑いながら頷くばかりだ。
ここのところトリエン周辺は物凄い平和で事件らしい事件は報告が上がってきていない。
あったとすれば、例のダイア・ウルフ部隊に対する襲撃事件くらいか。
あれ以降、似たような事件は全くない。
俺や仲間たちが対処するような問題が起きてない以上、何の問題もないだろう。
朝食後、アースラ、エマ、フィル、テレジアと一緒に研究室へと向かう。
エマとフィルは日常業務だ。
テレジアは最近、フィルのポーション研究を教えてもらっているらしい。
中級、上級、特級のポーションについて興味があるそうで、フィルと激論を繰り広げている。
「ケント、リスト・コンピュータは出来たようだな」
「ああ、こいつがアースラ用のだ」
俺はもう一つのリスト・コンピュータをアースラに渡した。
アースラはリスト・コンピュータをあちこち確認する。
「出来は上々だな。外装のデザインも俺好みだ。
お前、こういうデザイン仕事に向いているんじゃないか?」
「いや、プロには負けるけど、昔趣味のプラモでフルスクラッチとかしてたから、こういうデザインはお手の物というか」
アースラは早速腕に装着し、起動テストを開始する。
「操作性も悪くない。音声入力は?」
「ああ、左の端にあるボタンでできるよ。ほら、ここ」
アースラはボタンを押すとコマンドを発する。
「コマンド、アイエヌ。リンク・ステータス・ログ」
「ふむ。問題ないな。ケントのクラフト・スキルは相当なもんだな。ヘパーエストとさして変わらないんじゃないか?」
俺はフルフルと顔を横に振る。
「そんな簡単なもんじゃないだろ。
確かにクラフト系はレベル・カンストしているのが多くなってきたけど、クラフト・レシピは無いんだぜ?」
スキル・レベルでは実際の経験や発想、センス的なモノはサポートされてない。
ヘパーエストは、何万年もこの世界で鍛冶などの経験を蓄積してきた匠中の匠だ。
俺には到底ソレに太刀打ちできる裏付けがない。
「そういうモンかね」
「そういうモンだよ」
俺も端末にリンクしておく。
あっち側での行動ログなどを収集して、こっちのサーバに記録できるようにしておきたいからね。
「よし、ケント。転送実験を開始する。
パーティを組むぞ」
「了解」
俺は仲間たちをパーティから外し、メンバーをアースラのみにした。
パーティ・メンバーであっても同時転送はされない。
それは、前日の実験で俺だけが転送された事で判っている事だ。
ということは、複数転送の条件は別にある。
それはそれとして、ティエルローゼのパーティ・システムは特殊だ。
パーティ勧誘ダイアログや、パーティ加入要請ダイアログも存在しない。
両者が心でパーティとして認めた場合のみパーティ・リストに追加される。
外す時はパーティ・リーダーが外すと思えば自動で外すことができる。
これが判らなかった頃は少々混乱したが、考えてみればそれほど難しいシステムではなかった。
アースラがパーティに加入したのを確認できた。
「よし、ではやるか」
アースラが頷いたので、複数同時転送の実験を開始する。
まずは同時に転送されるように考えつつ叫んだ。
「異世界転送!」
視界が瞬くとステインの街に転送される。
周囲を見回してもアースラはいない。
俺はティエルローゼに戻る。
「うーむ。パーティ・メンバーだからって同時に転送される訳じゃないか」
俺が戻ってくるとアースラは腕を組みながら考え込む。
「次は手を繋いでやってみるか?」
アースラがやれやれポーズで肩を竦める。
「そんな単純な訳あるか。
プログラムに問題があるかもしれん。
少し弄ってみるか」
アースラはリスト・コンピュータでソース・コードをチェックする。
「このパラメータがこの変数に……うーん」
ガシガシと頭を掻く。
頭を掻いたところで良いアイデア出るとも思えんが。
まあ、人それぞれアイデア出しの手法があるのかもしれないけど。
それから何度か実験を繰り返してみたが、中々上手くいかなかった。
もちろん、例のお手々繋いで作戦も実行したが、失敗したのは言うまでもない。
転送プログラムの基礎部分が単体用ということが原因だと俺は思うのだが、アースラによれば既に複数対応させているとのこと。
となると、俺の力不足って事だろうか?
ドーンヴァースに繋がっているリンクが細くて転送容量を越えてしまっているとしたら、俺が力を制御できていないって事のような気がする。
しかし、どうやったら転送数を増やせるんだろうか。
何か条件が足りてないってこともあるよな?
新たな条件か。
うーん。
俺たちがティエルローゼに転送される上での前提条件って何だろ?
ドーンヴァースに繋ぐにはVRダイブ用
まず、仮想リンクOS上でドーンヴァースを立ち上げ、そしてダイブするのが基本動作だった。
HMDと仮想リンクOS用の仮想空間が必要だったり?
魔導具でHMDを作って、そしてサーバ上に用意している仮想空間をリンクOSとして利用したら?
「アースラ、提案なんだが」
「何だ?」
俺は自分の考えをアースラに話して聞かせる。
「という感じにしたら、ドーンヴァースへ転送できたりしないかな?」
「ふむ。仮想空間を媒介にするわけか」
「そう。基本、あっちのVR技術って脳処理用の神経デバイスじゃん。
脳内によるデータ処理をネット経由でフィードバックしてるわけで」
「なるほどな。創造神の奴では転生してしまうが、俺たちはそこまで要求しているわけじゃない。
VRデバイス程度のデータ処理ができれば問題はないわけだな」
「ああ。本気で魂まで送り出してしまうと、こっちの肉体は死んでしまうって可能性がある」
「お前は死んでないが」
「俺だけの事象で大丈夫と考えるのも難しいだろ」
なんせ俺は創造神と破壊神の関係者で、その力も行使できるんだからな……
「了解だ。やってみよう」
「HMDデバイスの方は俺が作ってみる。
基本仕様は現実世界のHMDと同じ感じでいいよな?」
「ああ。仕様は解っているのか?」
「多分。例の追加装置に出力するなら、俺が作ったんだしポート関連の仕様は解ってる」
「よし。では、ハードは任せた。ソフトは俺の方で対処しておく」
「了解。それじゃ作業に取り掛かろう」
俺は研究室の作業台に向かい、アースラは端末に向き合った。
今度は上手くいくと良いな。
ま、ただ転送してアッチに俺一人が行くだけなら何の問題もなく成功しているんだ。
あと一歩だよね?
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