第25章 ── 第25話
ソースを読み解き、ゴーレムにプログラムがどう影響を与えているのかを調べ上げる。
しかし、ソースをトレースする限り、ゴーレム自体のパーソナル・データに影響を与えることはない。
だが、外部からの影響によって元のパーソナル・データは消去されてしまう。
作られた人格ですら消されてしまうので、これを人間でやった場合、結果は最悪だ。
どうしても元の身体が死んでしまう。
実験を繰り返して出せた結論は、生物による異世界転生は一方通行ということだ。
現実世界からティエルローゼへの転送には何の問題もないのだが、これも謎の一つだ。
転送先のティエルローゼに生身の肉体がないのに転送が成功している事実がソレだ。
俺たちプレイヤーの肉体はどこから来たのか。
俺の中ではハイヤーヴェルが司る創造の力があるからだと判っているが、アースラにどう説明するべきか、考えあぐねていた。
長年神界で暮らしてきたアースラや他の神々も、ハイヤーヴェルが何故姿を消したかは仮説しか立てられていないのが現状だ。
ハイヤーヴェルは身を削り、このティエルローゼを作り出した。
彼の身体や心は薄い空気のように世界を取り巻いている。
あまりにも広く、薄く広がってしまった彼の身体や精神は、他の神々にも感知できない。
これを神々に説明しようとしたら、俺がハイヤーヴェルから後継者と目された事も知らせねばならない。
そんな事をしたら神々は俺を神界へと拉致してでも連れて行くだろう。
俺はそれに従うわけには行かない。
前から言っているように、面倒事は勘弁願いたい。
ハイヤーヴェルの言を信ずるならば、俺の自由にしたらいいとの事だ。
カリスの死後、魔族の神々たちは現実世界に渡ろうと画策したり行動したりしていない。
魔界からやって来てないのだから当然だが。
なので現在のティエルローゼは、現実世界への侵略者からの防波堤という役割りは事実上消滅している。
そんな状態なので好きに弄り回しても良いという事なのだろう。
だが、俺にはティエルローゼを自分勝手に弄り回すような了見はない。
何万年も運用されてきた摂理を曲げてしまっては、この世界で生活を営んできたモノたちが大混乱に陥るだろう。
俺にだけ、俺が使い勝手がいいように法則が動いてくれればいい。
まさにチートなのだが、創造神の後継者にはこのくらいの特権があってもいいよね?
多分、例の反属性だけで作った魔導回路も俺が作ったから動いていたんだと思う。
俺の周囲で起きているあり得ない事の大半が、これに起因しているんじゃないかな?
そうでなければ、俺が関わっていないところからも、そういう事例の報告が上がってくるはずだからね。
しかし、そんな報告は何処からも来ていない。
こういう影響の範囲は、限定的なのが好ましい。
世界に混乱が起こるなんて面倒でしか無いんだから。
さて、現実世界への転生の可能性だが、俺の推測では先の結論通り不可能だ。
現実世界にハイヤーヴェルのような力を持つ何かが存在しない限り、転生はできないだろう。
一つ、可能性を見出すとするならば、まだ魂というものが定着しているかも疑わしい受精卵や胎児などに転生者のデータを書き込めれば、転生はできるかもしれない。
しかし、それはソレに宿ろうとしていたモノを抹殺するに他ならない。
そんな事はしたくないな。
何か解決策はないかと考えていて、もやもやとしたビジョンが段々と形になっていった。
俺たちはドーンヴァースを介して魂だけをティエルローゼに転生させられてしまった。
肉体と魂を切り離した場がドーンヴァースなら、ドーンヴァースを器にして魂を送り出したらどうだろうか?
ドーンヴァースなら電子の世界だし、魂の器になりそうなキャラクターは、無から作り出すことができる。
キャラクターIDとデータをストレージする場所を用意できれば、ドーンヴァースにキャラクターとして転送ができるのでは?
前にも考えたが、それによるメリットは大きい。
ティエルローゼにはない素材の採取、生態系に悪影響のない狩りや経験値稼ぎ、そしてやり甲斐のある冒険やクエスト。
これは元プレイヤーたる我々以外にも利益があるのではないだろうか?
ティエルローゼ人をドーンヴァースにプレイヤー・キャラクターとして転生させることができれば、前に考えていた冒険者の訓練用ダンジョンなどを用意する必要はない。
ドーンヴァースに転生させて適切な場所で適切なモンスターを相手に戦闘を繰り返せばいいからだ。
ただし、解決しなければならない事がある。
選択的、人為的に目的のキャラクターをティエルローゼに転生させる方法が必要だ。
住良木幸秀のプログラムは、彼のデータを転送するためだけに作られていた。
にも関わらず、俺やアースラのように、ハイヤーヴェルの末裔を勝手に転生させてしまうようなモノになっている。
この辺りを改善しなければ、全く実用に耐えられない。
俺は、一応ながらこの妄想をアースラに提案してみた。
「ドーンヴァースを器にか……」
アースラは何やら深く考え込んでいる。
「上手い方法はないものかね?」
「今はソース・コードの解析を完了していないから断言はできないが、創造神のリンクか? それを上手く使えれば出来ない事はないと思えるな」
キーボードを操作しながら、アースラの眉間に皺が深く刻まれる。
「それが可能なら……現実世界と連絡を取れるかもしれんな……」
「ほう……そんな事ができるのか?」
「ドーンヴァースにはゲーム外のアドレスにメールを送る機能があっただろ」
ふむ。確かにそんな機能があった気がする。
その機能は、待ち合わせ時間の連絡や、パーティ仲間やレイド・メンバーの招集に便利なように外部メール・アドレスにメールを送ることができる。
俺には仲間も友達もいなかったので使った事は殆どない機能なのだが。
「でも、外部にティエルローゼだとか異世界の存在とかを知らせるのは危険がないか?」
万が一、現実世界に異世界の存在やら、勝手に現実世界の人間が転生させられているなんて事が知られたら、その次元の穴を塞ごうとするんじゃないだろうか?
一番簡単な対処方法はドーンヴァースのサービス停止をさせることだ。
国とかに知られたら行政によって行われるだろうし、運営会社が賠償とか保証とかで大損害を被りそうだと判断したら、そういう事になりかねない。
俺がそういうと、アースラは少し泣きそうな顔になった。
「そうだな……それは考えられる危険だ。だが、嫁や娘にメールででも連絡してやりたいんだ……」
アースラの悲痛な声色に少し衝撃を受けた。
俺にはそう思える家族も友人もいない。
現実世界よりもティエルローゼでの方が守るものが多くなってしまった俺にはない感情だった。
だが、シンノスケも愛するものを奪われて魔神と化したように、愛というものを否定はしたくはない。
それが現実と異世界という絶望的な壁に阻まれていたモノだとしても。
「アースラにとって家族は大切な存在なんだな」
「俺の全てだった……よ。
それに手が届く可能性が今、目の前にある。諦めていたモノが目の前にあるんだ……
娘は大きくなっただろうか……幸せに暮らせているんだろうか……」
グスッとアースラは少し鼻を鳴らす。
自分の力で守ってやれなくなった大切な者たちの今を知りたいという気持ちは、理解できなくはない。
アースラは、四万年もそんな気持ちを抱え込んできていたんだろう。
俺なら気が狂うかもしれない。
「解った。その辺りは上手くやろうよ。
異世界の存在を知られないように家族に連絡を取れば良いんだよ」
「いいのか……?」
「ダメとは言えないなぁ。アースラにとってティエルローゼの存在より大切なことだろ?」
「しかし……」
「しかしもカカシもあるかよ。
知りたいんだろ? 家族と話したいんだろ?
その程度のワガママをお前が通したくらいでどうにかなる世界なら、壊れたって良いさ」
創造神の後継を指名された者として、何か不都合があれば俺が対処すればいい。
創造神たる者の力の使い方はさっぱり解ってないけどさ。
その辺りは俺の中で色々と試行錯誤して解き明かしていけばいい事だ。
無意識ながらその力を使ったりしている気がするしな。
俺としては、世話になっているアースラの希望は全力で叶えてやりたい。
その程度の事を叶える為に創造神の力を使ったってバチは当たらないよな。
つーか、俺が創造神の後継なら、誰が俺にバチを当てるんだって話だし。
ハイヤーヴェルにお墨付きを貰ってるんだから、何の問題もない。
そういや、ソフィアも大精霊たちも好きに生きたらいいと言ってたっけね?
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