第25章 ── 第24話
目を開けると例の真っ暗な空間に一人佇んでいた。
周囲を見回しても夢の中に侵入してきた神の姿は見当たらない。
「誰もいないのに、なんでここに来たんだ?」
俺は首を傾げつつも、さらに周囲を見渡す。
真っ暗で何も見えないし、外に出る光も見えない。
「おいおい。どうすりゃいいんだ?」
そう独り言を吐いた時、耳元で小さい声が聞こえた気がした。
その声は、今にも消え去りそうな声だったが、俺の名前を呼んでいた。
「ケント……」
「誰だ!?」
俺は周囲を見回しながら声の主を探す。
ふと、俺の目の前に小さい光が現れ始めたのに気づく。
「む……」
その光は少しずつ大きくなり、人の形になったのは一〇分ほど経ってからだった。
しかし、その人の形のモノは二〇センチくらいしかない小さいモノだった。
「ケント……我の呼びかけに漸く応えてくれたな……」
か細い声だが、何とか言っている事は解った。
「漸くって……声小さすぎないか?」
「すまぬ……しかし、もうこれが精一杯なのだ……」
「まあ、いいや。あんた誰? ティエルローゼの神さまだよな?」
俺は小さい神さまに顔を近づける。
「そうだ……我は創造神と呼ばれた存在……」
「おー。創造神が漸くお出ましか」
転生してからどんだけ経ったか。
元凶の主がやっと出てきた訳だ。
「確か、ハイヤーヴェルって名前だっけ?」
「その名は既に捨てた……」
「そう言われてもねぇ。神界の神々は忘れてるようだけど、ベリアルたち魔族は覚えてたようだけど?」
「……ベリアル……今はどうしている?」
「今は神界で破壊の神をやってるはずだよ」
ハイヤーヴェルは嬉しげにニコリと笑った。
「そうか……もう我が世界の細きところを見ることも叶わぬ……」
「んで……今日、俺の前に現れた理由を聞かせてもらおうか?
いや、俺を転生させた理由も聞きたいな」
ハイヤーヴェルは目を閉じ俯いたが、小さい声で話し始めた。
ハイヤーヴェルは、太古の昔、地球を他の神々と訪れた。
そして他の神々が地球を好き勝手に弄り回す様を見て心を痛めたという。
他の神々が自分たちの世界に全て戻ったところで、地球に繋がる次元門を閉じたそうだ。
この次元門は二度と開かないように細工をして。
そして、地球と自分たちの世界の間にティエルローゼを作った。
他の神々が再び地球に出てこられないように防波堤の意味があったという。
だが、二度と開かないはずの次元門をこじ開けた者がいた。
それが破壊神カリスだった。
カリスは再び地球へと向かうため、ティエルローゼに侵攻してきた。他の神々という軍勢を引き連れて。
この侵攻はハイヤーヴェルも予期していたらしい。
ティエルローゼに彼の子供たる神々を生み出し、その神々たちはティエルローゼに様々な生物や人類種を生み出していた。
こうして人魔大戦が勃発したのだという。
この頃、すでにハイヤーヴェルの身体は世界の法則や秩序として溶けていってしまっていた。
殆どの力を世界に継承してしまっていたハイヤーヴェルには、侵攻を止める力がない。
自らの生み出した神々たちと、その神々たちが生み出した生物、人類種たちで何とか侵攻を食い止めようとした。
しかし、侵攻を止める力のない身としては叶わぬ夢でしかない。
ハイヤーヴェルは自らの能力を駆使し、世界を守る力を求めた。
ある時、ハイヤーヴェルは、その力を見付けた。
住良木幸秀が作ったドーンヴァースをハイヤーヴェルは見つけたのだ。
その世界はティエルローゼによく似ており、そして強者たるプレイヤーが大量にいた。
そして、ドーンヴァースでは転送プログラムが動いていたのだ。
ハイヤーヴェルはそのプログラムに自らの一部を繋げる事で、強者たるプレイヤーを転生させる事に成功する。
それがアースラ・ベルセリオスだったという。
ハイヤーヴェルによれば、この転生システムに呼応できるのは、自らの子孫のみ。
やはり俺やアースラは太古の昔まで遡ると血の繋がりがあるそうだ。
「でもさ。アースラとかシンノスケとかタクヤとかセイファードとか、転送時期がそれぞれ違うよね?
それに魔法システムとか、そのまんまじゃん?
これはどういうことなの?」
俺の疑問についてハイヤーヴェルの説明によると、次元や時空間の繋がりにおいて、時間の概念などはあまり関係がないらしい。
ハイヤーヴェルを含む神々が最初に地球に現れたのは確かに太古の昔だったが、次に繋げた時には別の時間軸になる事が普通らしい。
そして、ハイヤーヴェルが何らかの危機を感じた時、ドーンヴァースから人間が転生されてくる。
「そのプログラム止めちゃったんだけど……今後何か危機があったらどうすりゃいいのかな?」
「ケント……お前が対処すればいい」
「俺が!?」
「お前は……既に我の後継者と認められた……精霊との誓約を思い出すのだ」
げぇ……という事はマジで俺は創造神二世って事かよ……
「神になどなりたくないなぁ……面倒そうだし……」
「ふふふ……この世界はお前のモノ。好きにしていいのだ……」
マジか……
「という事は、俺の思いのままに出来るわけだよね?
元の世界に戻るなんて事も出来るのかな?」
「…………」
ハイヤーヴェルは腕を組んで難しい顔になる。
「青い世界に肉体が遺っていれば……」
「おいおい……」
俺は少し考える。
何か方策はないだろうか?
「……魂が抜かれた瞬間に戻ったりすればどうだろう?」
「先程も言った通りだ……どの時間軸に繋がるかは解らぬ」
ぐぬぬ。
「あ、ちょっとまって。
ドーンヴァースに一部を繋げたって言ったよね?」
「左様……」
「今もつながってるのかな?」
一瞬ハイヤーヴェルが何かを探るように宙に視線を漂わせる。
「繋がりは……絶たれていない……」
「ふむ。となると、今でもドーンヴァースには繋がれるって事だよね?」
「我もそう思うが……」
となれば、例の転送プログラムをアースラに弄ってもらえば……
俺はニヤリと笑う。
「良いことを聞いた。これは使えそうだね」
「何をする気なのだ……?」
「上手く行けば、ドーンヴァースに逆転生できるってことでしょ?」
「逆転送……? してどうする?」
「いや、俺はまだ、ドーンヴァースはクリアしてないんだよ。
仲間とか連れてドーンヴァースにアクセスできたら、攻略簡単そうじゃん」
ハイヤーヴェルは良くわからないという顔をする。
まあ、解らなくていいんだけど。
ドーンヴァース製の素材とか、心許なくなったモノを仕入れに行くなんてのもできるって事じゃん?
それはそれでティエルローゼにとって、というか俺のティエルローゼ生活にとってメリットになりそうだ。
ドーンヴァースからの転送を改造して逆転送、あるいは双方向の転送技術を開発すれば、意図的にドーンヴァースとティエルローゼを繋げることが出来るだろう。
俺はこのティエルローゼを気に入っているし、現実世界に戻りたいとも思ってない。
だけど、ドーンヴァースとの繋がりはあっても良いと思う。
それが何を生み出す事になるかは解らないけど、デメリットはあまり無さそうな気がする。
ま、実現できればだろうけど。
「それで、ハイヤーヴェル。
今日の目的は?」
「我が後継者に一度は会っておきたかった……」
「そんだけ?」
「我が子孫の顔を見たいと思うのはいけないことだろうか……」
「俺以外のヤツに会わなくていいのか?」
まあ、それがこんな平凡な顔のどこにでもいそうなヤツってのは残念に思うかもしれないけど。
「我が呼びかけに応えられたのは、ケント、お前だけだ……」
ふむ。という事は、他のプレイヤーたちにも呼びかけはしていたのか。
俺だけな理由がサッパリだが。
「あ、もう一つ! NPCが一人だけ転生してきてるんだけど、あれはどういう事?」
「住良木幸秀もまた、我の子孫なれば、その者が手掛けた者は我が子孫と同様」
マジで?
ああ、それでか!
ゴーレムの仮想空間への転送ができたのは、俺が作ったゴーレムだったからって事だな!
なんとなく納得した。
えーと……あと何か聞くことあるかなぁ?
「そういや、何で俺だけ呼びかけに応えられたんだろう?」
「魂の問題だと我は思う……」
ハイヤーヴェルは目を細めてジッと俺を見る。
「ふふふ。そうか……解ったぞ」
「え? 何が解ったの?」
「お前は我とカリスの色を持っている……
カリスは我の対神……。
ヤツもまた、青い世界で子孫を残していたという事……
その色が混じり合い、お前に集約している……」
マジか……
俺はハイヤーヴェルの子孫であり、カリスの子孫でもあるって事?
創造する神と破壊する神の因子を持っているとすると、俺のデタラメなチート状態も納得できそうな気がする。
アースラや仲間たちの
ただ、俺が創造神、破壊神の子孫だとしても、ティエルローゼを好き勝手にしていいとは思ってない。
というか、神なんてゴメンです。
まあ、ちょっと便利にするくらいの事はしちゃうかもしれないけど、大きく変容させたいとは思わないね。
俺は今のティエルローゼのシステムは悪くないと思うし、好きだしね。
ただ、この情報は、神々にも仲間にも秘密にしておいた方がいいかもしれないね。
色々面倒な事になりそうだし!
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