第25章 ── 第23話
旧ホイスター砦における建物や施設の建設についてドワーフの石工や大工などに任せる旨の伝言をマストールに頼んだ。
「まかせろ。我らが神のお望みとあれば、どんな事でもやってやるわい」
マストールは今回の楽園計画がヘパさんとの約束だと聞いて二つ返事で請け負ってくれた。
「費用は俺持ちだから心配するな。好きなだけ技工を凝らすといいよ」
「当然じゃ。我らの神に日頃の研鑽をお披露目する格好の機会じゃ。ワシも腕を
ヘパーエストはドワーフの創造主なだけあって、彼らにとって今回の計画は、神聖なものと思ったようだ。
ヘパさんにとっては、単に地上の料理を食べたいってだけの話なんだけどなぁ。
ちなみに、鍛冶の神ヘパーエスト神の下には複数の弟子神がいて、それぞれが職工関連の神だったりする。
多分、そういう意味では石工や大工などのドワーフにとっては腕の見せ所になるのかもしれない。
仕事の手配も済んだので俺は自分の作業に没頭することに。
俺の作業にテレジアやエマ、アリーゼも興味を持ったようで、ジッと観察してくるので、簡単な部分は手伝わせてみた。
エマは雇って以降、俺の設計した魔法道具を数多く作らせているので、魔導回路の作成はお手の物になりつつある。
テレジアも研究肌の古代竜と聞いただけあって相当な腕のようだ。
アリーゼには魔導回路の作成は無理なので、組み立ての方を担当させる。
これなら少々作成時間を短縮できそうだぞ。
自分の作業をしつつ、三人の作業を監督する。
「そこの部分気をつけて彫り込んで。ああ、そうじゃない」
「中々面倒な工程ね。何の装置なの?」
「んー。疑似仮想空間を作り出すための装置だよ」
「疑似仮想空間とな? どういうものなのだ?」
手を止めずに装置の概要を簡単に説明する。
「ケントよ。それは世界の構築を行っているということか?」
「普通に考えるとそういうことよね?」
「えーと……まあ、仮想空間に世界的なものを用意できるのは確かだけど、実体があるわけじゃないしなぁ」
もちろん、仮想空間内にアバターを用意し、それを操作するという意味では間違いじゃない。
現実世界のVRMMOはそういう構造のゲームなわけだし。
「となるとその空間内の生命たちにおける、我々の存在は神と等しいものになる」
「そうだね」
「創造神と同じ事をしている自覚はあるのだろうな?」
「いや、コレはシミュレータなので、そこまで複雑な事をするわけじゃないんだ。
この装置で動かすプログラムの仕組みを解明するのが目的なんでね」
俺の言っている事をテレジアもエマも完全には理解できないようで首を傾げている。
「基本的にはゴーレムのパーソナル・データをこの仮想空間に複製、転送してみる事を実験するので、中に生命が生まれるってことじゃないんだよ」
「ふむ。ではゴーレムの人格の複製が仮想空間に移されるだけなのだな?」
「そう。元のゴーレムには何の影響もないはずだし、コピーはコピーでしかない」
と、仕様書上ではそうなっている。
ただ、この仕様書ではありえない不可思議な現象が起きているので、それを検証するのが本来の目的だ。
俺やアースラというプレイヤーがティエルローゼに転生したという現象は、この仕様書からは窺えないのだ。
だとすると、プログラムに何らかのバグが存在し、それが作用して俺たちの転生が発生したとしか思えない。
その仕組みを知りえれば、現実世界に戻れる可能性があるんじゃないか?
俺はそう考えている。
まあ、現実世界に戻りたいのかと問われれば、今の俺は否定したい気持ちの方が大きいんだけどね。
俺自身は戻りたい訳じゃないけど、アースラはどうか? セイファードは?
この二人が戻りたいなら現実世界に戻るための手段を開発しておいてもいいじゃないか。
俺はそう思っている。
こうして、二日後の朝、装置は完成した。
アースラ呼び出し、装置の試験運用をしてもらう。
「悪くない。俺の指定したとおりの性能が出ている」
「上手くいったようでなりよりだ」
「早速、例のプログラムの起動実験をはじめるとしよう」
データベースからICEへプログラムを転送し起動実験を開始する。
俺の作ったゴーレムのパーソナル・データの一つを複写、転送してみる。
複数の
「成功しているようだが、内部のゴーレムに動きはないぞ」
「そりゃ命令しなければ動きようがないだろう。ゴーレムには基本的に自由意志がない」
「命令か。ちょっと手を加えるか」
アースラは端末のキーボードを操作し何やらプログラム入力を始めた。
ものの一〇分もしないうちに出来上がったプログラムを実行する。
「よし、この入力欄に対象IDと命令を入力すれば中のゴーレムに命令を出せるぞ」
「おお、凄いな。念話みたいなもんかね?」
「効果は似ているかもな」
俺は、キーボードで「前進せよ」と入力した。
するとゴーレムが仮想空間上でガシンガシンと動き出した。
「おー、上手くいったな」
「当然だろ。俺がプログラムしているんだからな」
アースラがニヤリと笑いながらもICE上のデータをチェックしている。
「もう一体転送するぞ」
「おう」
アースラが二体目のパーソナル・データを転送し、転送時のICE上の数値の移り変わりをチェックする。
「ん?」
一瞬、変な数値が見えた気がしたが、一瞬で変わってしまって数字の内容まで確認できなかった。
「何か一瞬、想定外の数字が出た気がしたんだが?」
俺がそう言うとアースラがログ・ファイルを呼び出して確認し始める。
「何だこれは?」
表示される数字群に想定外の数字が記録されている。
「これ、転送時の数字とは根本的に違うよな?」
「ああ、どうみても違う。なんでこんな数字が出るんだ?」
アースラは頭をガシガシと掻きむしる。
「よし、もう一度だ。一ステップ事に実行してみよう」
三体目のパーソナル・データを転送する。
実行中のステップが表示され、エンターキーを押す事に次のステップが実行される。
そして、あるステップへ差し掛かった瞬間。
意味のわからない文が表示された。
それはプログラムの実行命令ではなかった。
『我が子孫たちよ。我の創造せし世界のために応えよ』
「何これ……?」
俺は怪訝な表情でアースラに問う。
「解らん……ソース・コードにはこんな文言は無かったぞ?」
アースラはソース・コードを調べ始めるが、検索しても何も出てこなかった。
「どういうとこだろう?」
「解らんが……外部からの干渉かもしれない」
「は? このデータベースに外部から干渉できるわけないだろ?」
「そうだ。どこにも繋がってないからな。
というより、繋がるようなデータベースは、このティエルローゼには存在しない」
その時、俺の腕に装備している小型通信機から呼び出し音が鳴った。
「もしもし?」
「領主閣下でありますか!?」
「ああ、その声はアーベントだね?」
「左様です」
「何かあったの?」
「はっ。ご報告致します。
私がお預かりしているゴーレム部隊の内、三体が突然動作を停止致しました。
故障したのかもしれません」
「マジで?」
「はっ。突然でしたので、故障なのかどうかも……
初めての出来事でしたので、早急にご報告させて頂きました」
報告を聞いているアースラと目が合う。
「解った。ゴーレムについては今は放置してくれ。少し調べてみる」
俺は端末のキーボードから転送したゴーレムのパーソナル・データをチェックする。
転送した三体のデータが完全に消失してしまっていた。
「これは……転送プログラムの所為だよな?」
「それ以外に考えられないだろ?」
このプログラムには間違いなく欠陥がある。
いや、データの転送には成功している。
データの転送時に転送元のデータが消えてしまうというバグが発生しているのだ。
ソース・コードにはないはずの挙動が悪さをしているとしか考えられない。
これは一体どういう作用で起きているのか……
「我が子孫たち……? 我の創造せし世界?」
「それがどういう意味だか解るか?」
俺は「うーん」と唸る。
「これは俺の予測だし断言はできないんだけど……創造神に関係ありそうな気がするな」
「創造神だと? 姿を隠した創造神のことか?」
「そう。例の一文には『我の創造せし世界』とあった。これってティエルローゼの事じゃないか?」
「となると、子孫とは俺たちの事か?」
「そうなるな」
そう聞いてアースラは「あはは」と気の抜けた笑い声を上げた。
「という事はだ。俺とお前は遠い親戚ってことか?」
「そうなのかな……」
「しかも、俺達は創造神の末裔って事になるぞ?」
マジでそうだったとしたら、一体どういう事になるのだろうか。
俺にもサッパリ解らないが……
マリオンが以前言っていたっけな。
俺について「創造神様の力を感じる」と……
ということは、俺やアースラたちを転生させたのは創造神という事になる。
そして、転生者は創造神の子孫たち。
仮説が正しいとすればの話だけどな。
この仮説が正しいとして、俺はこの仮説をどう扱っていいのか解らなかった。
何の事情も説明されずに転生させられた身としては、ひいひいひい……(何個続くか解らないけど)じいさんに文句のひとつも言ってやりたい気分になった。
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