第25章 ── 第22話

 次の日から、エマと共に業者から納入され始めた鉄からゴーレムを量産。

 一〇〇体作るのに一週間も掛かったが、この一週間の内に二体の重機ゴーレムだけで地上部分の瓦礫はあらかた整理できてしまった。


 一〇〇体も必要なかったね。

 ま、数があればレンタルとかに回せるな。


 南の草原の開発もまだ完全に終わったわけじゃないし、帝国の作業員に貸し出せそうだな。

 後でアルフォートに書簡を送って提案してみるか。


 まず、出来上がったゴーレムを使い、砦の地下部分を掘り起こす。

 ボコボコになった土地を整地ゴーレムのタンパー・レッグでガンガン固めていく。


 やっぱり一日も掛からず終わってしまった。


 数の暴力って凄いよね……


 建築用の素材はまだ全部集まっていないが、跡地解体で手に入れた石材で城壁くらいは作れそうな量だな。


 俺は早速、建築ゴーレムに指示を出しておく。


 俺自身の作業はないので街に戻る。

 館に戻ると、昼時なので昼ご飯を作ってから食堂に行く。


 既にみんな集まっている。


「今日の昼は何じゃ?」

「ああ、今日はホワイト・シチューがメインだよ」

「どんな料理だ!?」


 ウルドが興奮気味に席から立ち上がる。


「んー。基本的にはカレーに似ているけど、辛い料理じゃないね。

 野菜を白いソースで煮込んだ感じかね?」



 一同から「「「おお」」」と声が上がった。


「カレーに似ておるそうじゃぞ、トリシア!」

「ほほう。では、あの料理と戦闘力は互角ということか」

「楽しみなのです!」

「カレーと似た……? 凄いな……」


 仲間も興味深げですな。


 ま、ホワイト・シチューならカレーみたいにご飯に掛けて食べてもいいし、パンとだって合う。

 付け合せは人参とほうれん草をバターソテーにした。

 パンは黒パンだけど焼き立てだし、ご飯もふっくら銀シャリだ。


 俺はご飯に掛けて食べるのが好きだ。洗い物が少なくて済むしな。


「パンかご飯で食べると良いよ。どちらでも合う」

「むむ……? どっちでもいいのかや?」

「そう言えば、以前ケントが作ったカレー・パンなる物があったな。

 あれもパンの中にカレーを仕込んでいたな」

「あれは……美味だった……」

「でも、ケントさんの言葉から考えると、パンの中に入ってる料理じゃなさそうです」


 その通り。アナベルさんは時々鋭いね。


「それとサラダとかデザートも大量に用意してあるから、いっぱい食べてね」

 サラダはオーソドックスなヤツ、それをフレンチドレッシングで。

 デザートはサッパリとしたオレンジを使ったアイス・クリームにした。


「って……聞いちゃいねぇ」


 見れば、もう既に食事が始まってた。


「カレーとは一味も二味も違うぞ!」

「白い! 美味い! 辛くない!」


 ウルドとアルテル、アイゼンが、ガツガツと口に運んでいるが、ラーシャは上品に食べている。

 マリオンは他の神のがっつき具合に呆れながらも普通に食べてた。


 実はマリオン、戦闘の神の中じゃ一番まともな神なんじゃ?



 アースラに呼ばれたので午後から研究室に顔を出す。


「アースラ、出来たのか?」

「ああ、これが仕様書だ」


 テーブルの上にドサリと置かれている仕様書に目を通す。


「アースラが俺のメシを食べに来ないのも珍しいな」

「ま、こういう研究も大好物だからな」


 アースラはニヤリと笑う。


「しかし……なんとも複雑な魔法回路だな……」


 仕様書は集積回路の設計図のようなとんでもない代物だった。

 導線が素麺のように入り組んでいて、作るのは至難を極めそうだ。


「なあ、こんなに複雑な装置が必要になるのか?」

「通常のアーキテクチャじゃ、あのプログラムをシミュレータの中で再現するのは不可能だ」


 アースラが黒板を出して、何やら図をかき始めた。


「魔法効果が複数絡み合っているが、この属性と属性。解るか?」

「ああ、相反する属性を複合させると反作用が発生する」


 例えば、生と死の属性は相反する為、両属性を絡めると対消滅してしまう。

 なので術式を構築する際には相反する複属性の魔法は作ることは出来ない。

 しかし、それを可能にする方法がないわけじゃない。


 仲の悪い属性同士を仲良くさせるには別の属性を挟めばいい。

 ま、効果は低くなってしまったり、挟んだ属性の影響が出たりと、思った結果がでない事が多いのだ。


「俺は魔法は専門外だが、この手の理論はお手の物だ」


 アースラは理系のプログラマだけあって、クラス的に魔法行使はできないようだが、魔法の仕組みは完全に理解しているらしい。


「この仕様書通りだと、このページの装置でこっちの属性の装置で中和させるのか」

「そうだ。効果は限定されるが」

「うーむ」


 俺は赤いペンを取り出して仕様書の添削を始めた。


 ここをこうして……こうする。


「お、おい。何してんだよ」


 アースラが俺の添削した仕様書を眺める。


「おいおい……これじゃ動かないだろ……」

「んー、そうかな?」


 俺は簡単な魔導回路をミスリルの板に彫り込む。

 これは生と死の魔法循環回路だ。


「で、これに魔力を通す」


 一瞬、バチバチとスパークしたが、白と黒の円環経路に二つの白と黒の光が円の対角線上を等速で動いていた。


「はあ!? 何だこりゃ!?」


 アースラが目を丸くする。


「ありえねぇだろ!? なんで動いてんだ?

 どんな手品だ? 他に仕掛けがあるんだろ!?」


 食いついてくるアースラの顔が近すぎる。


「離れろ! おっさんに迫られる趣味はねぇよ!」


 迫るアースラの顔をグイグイと押し返す。


「仲が悪いなら仲良しにさせればいいだけだ」

「はあ!? 何だそりゃ!?」

「魔法ってのは魔力に属性という色を付けるわけだろ?

 元は色なんてない。属性って色は精霊が付けるわけだ。

 なら精霊にお願いして仲良くさせればいいんじゃねぇか?」

「意味わかんねぇ……」


 ガシガシとアースラは頭をかく。


「俺にもよく判らん。

 シャーリーの研究資料にもアースラが言うように書かれている。

 俺も最初はそう作ってたんだが……」


 いつの間にか、そういう無駄を省いても支障がなくなった。

 魔法自動車の作成あたりからだな。


「ま、詳しい事は解らないけどさ、動くんだから仕方ない」


 俺はやれやれポーズで肩を竦める。


「ま、まあいい……お前の添削通りで動くってんなら、装置の作成はできるよな?」

「ああ、この分量なら二日だな」

「は?」

「舐めんなよ。ここ一年以上魔法道具を作ってるからな。製作スピードだけは誰にも負ける気がしねぇ」


 俺はインベントリ・バッグから材料と工具を取り出して作成を開始する。

 ガリガリと魔導回路を削っていると、アースラが呆れ顔をする。


「そんな速度で作るのか……神でもそのスピードは無理だわ。イルシスもビックリだろ」

「そういや、イルシスは身体を失ってないよな? あいつ降臨とかしねぇの?」

「あいつは神界ニートだからな。下界に降りることはないな」


 おー、神にもニートがいるのか。

 見た目は美人なお姉さんだったのに残念な女神だな。


 神界の神との一次接触がイルシスだったのを考えると同じニート仲間だったからってのは考えられるね。


「それで下界で手下を動かしてるわけか……神の権限ってやつかね?」

「下界での使徒の行使権限には制限はあるけどな。そこそこ自由に動かせるんだよ」

「アースラにも使徒いるんか?」

「ああ、何人かいるぞ」


 へぇ。アースラの使徒ってのはやっぱり強いんだろうな。


「そのうち紹介することもあるだろうが……」


 アースラが何故か遠い目をして黄昏れている。


「ん? 何かあるのか?」

「いや……何でもねぇよ」


 アースラはハァと深い溜息を吐くと無理やり笑顔を作った。


「ま、二日で作るから、アースラは休んでてくれ」

「じゃ、ゆっくりさせてもらうぜ」


 アースラはピラピラと手をふると転送室へと歩み去る。


 俺はフロルに頼んで他の神々に例の場所の浄化作業の指示を伝言を伝えてもらうことにする。


 ついでに街に移り住んで来ているドワーフたちにも伝言を頼んでおこうか。

 浄化が終わった後の施設作りを彼らに任せたいのだ。

 ドワーフ石工たちの技術は人間では太刀打ちできないほど優れている。

 神々が降臨する器を作るなら彼らに任せるのが適任だろう。


 ちなみにヘパーエストはドワーフを土の神と共に作り出した張本人だったりするんだよ。

 だからドワーフの石工に頼んだら気合の逸品を作り出す気がするんだよね。

 この伝言はマストールでいいよな?


 俺は鍛冶場に顔を出す。

 最近、神々が降臨しているせいでマストールは、あまり鍛冶場から出てこなくなった。


「おい、マストール」

「ん? なんじゃ、ケントか。神かと思ってヒヤヒヤしたわい」

「なんでヒヤヒヤすんだよ?」

「下手に相手して神の鉄槌でも落とされたら……」


 マストールは顔に似ず怖がりだな。

 神々はそれほど怖い存在じゃないよ。


 どっちかってーと結構扱いやすい。

 メシで釣ると一発ですからな。

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