第25章 ── 第21話

 五柱の神が浄化を了承してくれたので、俺は次の作業に移る。


 まず、重機ゴーレムや建築ゴーレム、整地ゴーレムの量産だ。

 全部で一〇〇体くらい作ろうか。


 瓦礫除去用の重機ゴーレムを一〇、建築ゴーレムを三〇、整地ゴーレムを六〇くらいでいいかな。


 以前作ったものはミスリル製だし蛮族の地に貸し出し中なので、今回は鉄製で作ろうかな。

 大量の鉄が必要になるのでエマードソン商会に頼もうか。


 俺はクリスに鉄や鉄鉱石を大量に仕入れてもらうように指示しておく。


 そして手持ちの鉄でゴーレムを作る。

 ゴーレム作成にはエマにも協力してもらおう。


 エマは最近、色々作らせてるせいだろうか更にレベルを上げ、レベル五九の魔術師ウィザードだ。いつの間にかクラス・チェンジしているし。


 ちなみにフィルはまだレベル四四の魔法使いスペル・キャスターだが、もう少しでクラス・アップしそうだね。


 彼が作る上質なポーションは、フィルの魔法店で売り出されており、最近では冒険者ギルド御用達になっているらしい。

 利益の一部はトリエンの収入として上納されている。


 トリエンの収入の六〇%近くが工房から生み出されているので、俺は非常に金持ちだ。

 今、集まってくる金の大半を周辺地域や国のインフラや福祉、環境問題へと投資している。そのうち大陸西方の方まで巻き込んで、大陸全体で金を動かせればいいと考えている。


 こういった収入の一部を今回の神々の楽園に使うつもりだ。


 仕事に戻ろう。

 重機ゴーレムの作成は簡単だ。

 データベース内に前回作ったヤツの設計図もあるので、モノだけなら生産ラインで製造できる。

 その後、魔法の付与を行うだけで出来上がりだ。


 まずは瓦礫除去用のデカイやつを二体ほど作ろう。

 鉄の手持ちがそんくらいしかないし。


 生産ラインでゴーレムのパーツを出力し、ライン横の広い空間でゴーレムを組み立て、エマと一緒に魔法の付与を行う。


「この作業ももう慣れてきたわね」

「エマはもう一流のゴーレム製造者だなぁ」

「まあね。もう食いっぱぐれる事も無さそうだわ」


 フフンと鼻を鳴らすエマをマジマジと見る。


「工房から出ていくつもりか?」


 思わず俺はエマに問いただすも、エマはキョトンとした顔をする。


「なんで? 出ていってほしいの?」

「いや、そうじゃない。逆だ逆。さっきのセリフは出ていくつもりで言ったんじゃないのか?」


「私が? なんでよ?

 ここから出ていって、どうやってやってけると思ってるの?

 ここほど設備が整ってて、ついでに材料費の心配もない工房があるわけないじゃない。

 私はバカじゃないんだから、死んでもココを離れるつもりなんて無いわよ。」


 安心していいのやら複雑な気分だ。


 エマは気づいていないかもしれないが、今の彼女の技量と腕があれば何処の国に行っても引っ張りだこだし、ここと同じ程度の工房なら喜んで用意するだろう。


 もし、ウチの工房のアドバンテージがあるとしたら、工房のどこかにあるサーバやデータベース群の存在だけだろう。

 このサーバやデータベースがあるお陰で、ゴーレムの人格の保存や制御などが非常に簡略化できるのだ。


 これらを使わずにゴーレムを作ろうとしたら、ゴーレムはもっと大型化させないとならないだろう。


 エマは気づいていないようだが、それでもゴーレムを作れるという能力は絶大だ。


 もう少しエマを、この工房に縛り付けられるようなメリットを増やしてやらないとマズそうだ。


 それほどまでに今のトリエンにおけるエマの重要度は高い。

 もう少し給料を上げてやるべきかもしれんな。

 クリスと相談しよう。


 二体のゴーレムが完成したのでインベントリ・バッグに仕舞っておく。


 もう、午後も遅いので館へと戻ろう。

 ここのところ神々の要望もあってメシの用意は俺がしている。


 メニューを考えるのが非情に面倒なんですけどね。


 今日はミネルバの所の新蕎麦が届いていたので、これを使って天ぷら蕎麦と天丼にしますかね。


 蕎麦が定期的に輸入できるようになり、安定した蕎麦料理が可能になってから、トリエン地方においても蕎麦が結構食されるようになった。

 蕎麦のレシピも街の料理店などに流したため、小麦よりも少し高いが、美味しいと評判になりつつある。


 そのうち領土内でも作られるようになるかもしれない。


 また、海の幸と川の幸もニンフたちからガンガン入ってきている。

 冷蔵、冷凍技術を作っておいて良かった。


 エマによれば馬車を冷蔵・冷凍車に改造して欲しいという依頼が引っ切り無しに入ってくるらしい。

 これもその内もっとコンパクトにして、取り付ければ直ぐに使える商品に改造した方が売れるかも。


 ちなみに、鮮魚は俺だけで消費できる量じゃない。

 なので、今では王都やドラケンなどにも流通し始めている。

 内陸部では鮮魚は凄い金額で売れるんだよ。生食はともかくな。

 ニンフたちに渡している小粒の宝石程度の金額なんか、簡単に取り返せるレベルですよ。


 やはり流通が未発達というのは、流通品の価格を高騰させる原因のようです。


 蕎麦を打ち、天ぷらの具材も用意する。

 つゆも作っとかなきゃな。


「相変わらず素晴らしい腕前ですね。私ではこう鮮やかに衣が広がりません」


 料理長のヒューリーが残念がる。


「コツを掴めば出来るようになるよ」


 副料理長のナルデルは獲物を狙うような目で俺の作業を見ている。


 技術は目で盗めを実戦していますな。


 出来上がった料理は、メイドたちによってどんどん食堂に運ばれていく。


 やはり俺を待たずに食べ始めたな?

 ま、別にいいんだけど。


 俺はどんどん蕎麦と天ぷらを作る。


 今日の俺は蕎麦と天ぷらの職人モードだ。


 調理場は三時間ほど修羅場と化した。


 俺の仲間もだが、神々もやたら食う。

 とにかく食う量が半端ない。

 何処に入るんだと思うよ、まったく。


 ラーシャなんか上品でめちゃ可愛いのに、仲間たちの倍食うもんな。

 彼女曰く、真の美を体現する身体を維持するのには、そのくらい栄養が必要だとか。


 修羅場が終わった後に、残った食材で簡単にメシを食べておく。


「こんな質素な食事を摂られる領主さまも、王国内にはおりませんでしょうね」


 ナルデルがクスクス笑う。


 確かにな。

 神々が相手だし接待しないわけにもいくまい。

 ま、後々神々に仕事させると思えば安いものだ。

 胃袋を掴んでおくのは神々にも有効って事だろうね。


 食費は五倍くらい増えた気がするが。

 古代竜もまだいるしな……

 守護の仕事って暇なのかな?



 翌日の朝、スレイプニルを駆って旧ホイスター砦へと出向く。今日は一人だ。

 朝だしアンデッドの心配はない。


 俺は早速、重機ゴーレムを取り出してホイスター砦の解体指示を出す。

 ゴーレムは直ぐに作業を開始する。

 巨大な腕が崩れかけた城壁を持ち上げ、片隅へ石材を積み始めた。


 砦に使われていただけあって、石材は結構しっかりしてるな。

 楽園計画に流用してみるか?


 ドラゴン・ブレスに焼かれた石は使えないだろうが、崩れただけなら利用できそうだ。


 俺も解体を手伝おうかね。


「魔刃剣!」


 オリハルコンの剣から放たれた剣閃が壊れた尖塔を斬り裂く。

 ガラガラと簡単に尖塔が崩れてる。


 ああ、そうか。全部ぶっ壊してから重機に片付けさせるのが楽だな。


「魔刃・破山剣……!」


 一〇レベルの魔神剣。

 山をも斬り裂く迅速の剣閃がホイスター砦の残骸を大きく斬り裂く。


「飛燕斬・乱打!」


 落ちてくる無数の石材を的確に迎撃していく。


「うぉぉぉ! 滅殺十文字斬り!」


 適当に剣撃風の必殺技を叫びつつ剣を振り回す。


 ものの一時間もしないうちに、数十ものカチリ音が脳裏に響いた。


 多分、殆どの技を二度と使わねぇだろうな……


 大きな瓦礫は、あっという間に大方崩れ去った。


 よし、後日、重機を増やして片付けよう。


 二台の重機が絶え間なく、瓦礫の石材を片付けていく。


 そういや地下部分もあったっけな……


 エマを助け出したところ以外にも結構広範囲に地下部分が存在していたはずだ。


 ま、重機ゴーレムが増えれば一気に掘り返してしまえるだろう。


 ボーッと重機の作業を見ていると、後ろに気配を感じた。

 振り返ると、四人の仲間たちがいた。


「ここが、楽園予定地か」

「ああ」

「ここに来たのも、もう一年以上前じゃなぁ」

「ケントが……ぷっ!」


 ハリスが顔を背けて吹き出している……


「あれじゃな。グールに大騒ぎしておった」

「え? え? なんですソレ?」


 あの時はアナベルは居なかったからな。


「前に来た時より、派手に崩れているようだが」

「ああ、さっき剣技使って吹き飛ばしまくった。

 崩れてた方がゴーレムが片付けやすいだろうしね」

「剣技だと!?」


 猛烈な勢いでトリシアが食いついてきた。


「あ、いや。普通に壊しやすいかと思ってな」


 あれこれ聞かれたが、新技については黙っておこう。


「ケントさんの剣技見たかったですね、残念です」

「ケントの技は全部見ておかないといかんからな」


 そんな大層なもんじゃなかろう。

 君たちのスキルも凄いと思うんですが。

 特にハリスが。

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