第25章 ── 第16話

 二時間後にはマリオンの身体が無事に出来上がった。


 夢で見たマリオンが少し成長した感じだが、これはこれでいいかもね。


「よっと!」


 降臨したマリオンがベッドから飛び起きる。


「いいっすね! バッチリっす!」


 ウルドの時と同じように身体をグリグリ動かしているマリオンは少し恥じらいを覚えて欲しいです。

 何せ素っ裸なので。


 身長はアナベルくらいだから、降臨してきている時と比べて違和感がないのかもしれない。

 もちろんアナベルより胸は小さいけど。


「はい。服を着てねー。ここにはフィルも俺もいるんだぞー」

「ああ! そうっすね! 服着るっす!」


 異空間から服を取り出したマリオンはバタバタしつつも服を着る。


 なんでこの部屋で着替えるかな。

 神々は他人に裸見られても気にしないのか?

 ま、自分たちが生み出した生物たちに対する羞恥心はないかもしれん。

 人間もペットの前で素っ裸でも気にしないもんね。


 その後、マリオンはやっぱり模擬戦の現場へと走り去った。


 身体ができた神たちは戦闘系の神だけあって、本当に戦闘が好きなようですな。


 無かった身体が手に入ったんだし、すぐさま動かしたいのは解る気がしないまでもない。



「アースラ、次の神を教えてくれ」


 マリオンの培養は終わったので次の神の準備をしておこう。


「次か、炎の神プロミテアだな」

「炎の神?」

「そうだ。太陽の神の眷属神だな。人間に炎を与えたといわれる神だ」


 どう聞いてもプロメテウスですな。


「んじゃ、準備もあるのでイメージ映像を送ってもらえると助かるね」

「言っとくぜ」


 そういってアースラは念話を切る。


 炎の神か。


 脳内に送られてきた映像を参考に俺はモデリングを開始。


 炎だけに、こう腕とか頭とか足あたりに炎のエフェクトがあるようなイメージだ。


 神力が通る導線のようなものが身体の芯から繋がっている感じだな。

 となると、この導線や炎が吹き出している部分には耐火性能が必須だよね? 身体組成用の物質に難燃性のものを採用しよう。


 データベース内のチャットでアラクネイアを相談しつつ身体構成のモデリングを続ける。


 これからは、こういう類の特殊な身体の培養が増えるかもしれない。


 試行錯誤を一時間ほど続け、アラクネイアも納得のデータに仕上がった。

 すぐに骨格フレームが作られ培養槽に入れられた。


 スイッチを入れて培養が開始されたが、身体が作られていくうちに培養槽内の温度が急上昇していくのが解った。


 少しマズイ。


 培養液が熱で蒸発し上部にある蓋の隙間から湯気が漏れていく。


 俺は慌てて熱量の調整を魔法で行う。


 基本的には「冷気チル」の魔法の応用だ。

 魔法によって内部熱を中和するだけだから、難しいことじゃない。

 発熱量も許容範囲だからね。


 ただ、今までと違って培養中に目を離せない。


 二時間経ち、なんとかプロミティアの身体が完成し培養槽からベッドの上に引き出した。


 他の精霊と違って、胸や局部、腕、脛部分に赤い結晶体が覆っている。

 こうやって見ると、プロミティアは女神だな。胸が比較的大きいし。


 じっと見ていたら、プロミティアの目がパチリと開いき、ジロリと俺の顔をみた。


「ケントだな? 我の身体の生成、しかと上から拝見していた。

 他の神のモノより丁寧に扱ってくれたようで感謝する」


 プロミティアは起き上がると、腕や足の部分を入念にチェックしている。


「ファイア」


 プロミティアがそう言った途端、五本の指先からボウッと炎が吹き出す。


「うぉ! ビックリした!」


 見れば天井が焦げてる。


 俺はバシッとプロミティアの後頭部に平手打ちをぶち込む。


「アウチッ」

「ウチの研究室を燃やすんじゃねぇ!」

「それはすまぬ」


 シュンとしたプロミティアは炎を素早く消す。


「思いきり炎を出してみたかったのだが……」

「それならウルドたちの模擬戦に参加してみればいいんじゃないか?」

「ふむ。そんな催しが?」


 プロミティアは自分の身体デザインに夢中であまり下界を見てなかったのかもしれないな。


「そういやプロミティアは服を着ないの?」

「我か? 我は素っ裸が基本だ」


 素っ裸が基本って……

 実はエロい神?

 まあ、大事な部分は赤い結晶で隠れてるけど。

 でも、真っ白な大理石みたいな腿や腕、健康的な腹部、たわわな胸の谷間は隠しようがありませんが。


「あ! ちょっと! それ見せて!」


 プロミティアが異次元の切れ目から取り出した長剣に俺は目を奪われた。


「ん? 我が愛剣が気になるか?」


 プロミティアが剣を自分の前にグィッと突き出してきたので、俺は早速観察してみる。


 仄かに赤く光り、熱を発する刀剣は、金属という何らかの結晶に近いかな?

「もしかしてコレ、炎を発したりする?」

「それはそうだ。これは神器「魔装フレイム・タン」、ヘパーエストが精霊石より鍛えし逸品だ」


 フレイム・タンきたーっ!


 それと精霊石!

 ハンマールで算出される精霊が作った魔法鉱石は、まさにコレの原材料なんじゃないか!?

 早い所、神々関係の仕事を終えて採掘しに行きたいよな!



 そこから一ヶ月、ようやく最後の身体が培養を終わろうとしている。


「よーし、ゆっくり取り出せよ」


 一八~二〇歳ほどの細マッチョな身体を培養槽から引きずり出しベッドに横たえる。


「ふー。終わったなー」

「領主閣下、おつかれでさまでございました」

「ああ、フィルもご苦労だったね。それとテレジア。部外者なのに長い間申し訳なかった」

「気にするな。我も興味があったのでな」


 テレジアも大変満足そうだ。


 一ヶ月も守護者の仕事、ほっぽりだしておいて問題なかったのだろうか。

 手伝ってくれたことは、本当に助かったんだけどね。

 何かお礼できたらいいんだけど。


 ベヒモスは一ヶ月、ずーっと降臨中の神々と模擬戦だった。

 暴れん坊なだけあって、ウルドと共に全戦参加とかありえないレベル。


 身体を手に入れた殆どの神は、比較的早い段階で神界に戻っていったのだが、戦闘系列の中心にいる神々は、なかなか神界にも戻らなかった。


 神界って思った以上に暇なのかもね。


 後ろのベッドがカタリとなった気がして振り向いた。


 そこにはアイゼンがベッドの影に隠れなから、逃げ出そうとしていた。


「おい。どこ行くつもりだ?」

「ひっ! シーッ! アルテルに感づかれるだろ! 静かにしろよ!」


 そう、最後の神は戦の男神アイゼンだ。


 例の浮気がバレてから、奥様方に色々と折檻されまくっていて、肩身の狭い事になっているそうな。


「自業自得だと思うんだけど」

「あ、ケント! お前、なんで俺の擁護をしてくれなかったんだよ!」

「擁護? いつの話だよ!」


 そんな一年以上前の話を持ち出されてもね。

 神にしたら一年とか二年はあまり関係ないのかもしれない。


「ケントは神々に優しくない! だから男は嫌いなんだよな!」


 いや、単に女好きの神なだけだろ?


「ま、結婚もしてない女性を孕ませたら問題になるのは当たり前だろ?」

「あ! あれはちゃんとあいつの祖先と契約してたんだ!」

「いや、孕ませる当の本人に承諾を得ていない段階で強姦と代わりねぇな」

「ぐぬぬ……」


 男として本当にクズですな。


「そこまで言うんだ。ケント、俺と勝負しろ!」


 ビシッと俺に指を刺すアイゼン。


「マジで言ってんの?」

「ああ、大マジだぞ!」


 神が人間に勝負を吹っかけるとはなぁ……


「その勝負、受けなかったら?」

「お前が死ぬまで、嫌がらせしてやる!」


 うわー、ただのガキにしか見えん。

 しかも相手は神だから最悪だ。


「仕方ねぇ。で? もし俺がその勝負勝ったら?」

「ぶはは。勝ってから言え。お前が負けたら、きっちり俺の奥さんたちに取り持ってもらうからな!」


 俺が負けた時のペナルティは、なんともショボいな。

 勝負を受けなかった時の方が恐ろしい。


 勝った時の褒美に何がもらえるか解らないが、勝負してもあまりデメリットはなさそうだな。


「良いだろう。ここ一ヶ月、模擬戦をしてた入り口の広間に行こうか」


 相手は神だし、手加減は無用かな。

 最強の武装、最大の戦技でお相手しよう。

 神界の神々の力ってのも興味あるし、自分の実力がどの程度なのか試してみたい!


 ということで、俺はオリハルコンの鎧、オリハルコンの刀、攻性防御球ガード・スフィアをインベントリ・バッグから取り出して身につける。

 厚手の革製手袋、つま先に鉄板を入れた革の長靴、一応サラマンダーのマントもしておこう。


 これら装備には、俺の魔法付与技術の粋を施してある。

 鎧や剣などはともかく、パッと見た目はただの冒険者にしか見えない。


 だからといって舐めるなよ、アイゼン。

 ヤマタノオロチとすら互角に戦えたんだ。

 俺は負けねぇ!

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