第25章 ── 第11話

 マルレニシアは何かに酔ったように話しているが、俺としては少し解せない所が幾つかある。


 まず、ゴブリンの装備だが……


 確かにクリスに対し、ゴブリンの軍装を支給するように指示を出したことはある。

 しかし、魔法の武具をとは言ってない。

 そんな数の魔法の武具を用意するほどの財源あったっけ?

 後で聞いてみないと。


 それと、俺の加護とやらが、マルレニシアに与えられたっぽい感じだ。

 神でもない俺の加護って何だよ。

 前に仲間たちのステータスで見たけど、アレってかなりのチートユニークなんですけど……


 俺も欲しい……ケントさん俺にもプリーズ!!


 でも、そんな加護が俺に与えられる気配はない。

 やはり本人に本人の加護は与えられないらしい。

 ぐぬぬ……解せぬ!


 それとレッド・ゴブズという存在は話から、赤い三角帽を被っているゴブリンらしい。


 それって、イギリスの伝承にあるレッド・キャップスとか言う妖精じゃ?

 殺した旅人の血で帽子を染めるという凶悪な奴らだと読んだ事がある。

 アレってゴブリンだったのか……


 そんな奴らが一〇万もアルテナ大森林に潜んでいたとは……

 トリエンに殺到したら被害甚大だっただろう。


「その戦い、どうなったの?」


 俺が聞くと、マルレニシアはキョトンとした顔で首を傾げた。


「勝ちましたよ? じゃなかったら、私たちここにいません」


 まあ、そりゃそうだ……


 いやいやいや、そういう事を聞きたいんじゃないよ!

 二〇〇匹のゴブリンと、一〇〇匹のダイア・ウルフ、そして薔薇の閃光の面々で、どうやって一〇万を撃退したのかって事を聞きたいんだよ!


「ゴブリンたちが奮闘したようだね。もちろん君たちも」


 俺がそういうと、マルレニシアはニッコリ笑って頷いた。


「いやいや、そういうレベルじゃないんだよ、ケントさん」


 アーヤがアマンダとの戦いを一時中断して、会話に割って入ってきた。


「あの頃から可笑しいんだが、私の剣の一振りが、なぜか三連撃になったり、とにかく戦闘力が跳ね上がった感じなんだよ」

「そうそう! 私もそう」


 アマンダも手を止めてアーヤに同意した。


「戦士の技として、敵の攻撃を鎧で弾くなんて事もするんだけど……

 同じように弾いたら敵の剣が爆ぜたりしたのよ」


 は? 敵の武器が爆ぜる?


「それ何てスキル?」

「鎧防御。とにかくスキルが一気に様変わり!」


 鼻息荒いアマンダの様子に、メリッサがケケケと笑い声を上げた。


「今更、興奮する事でもない。領主閣下の加護を舐めすぎだ」


 盗賊のメリッサも何かパワー・アップしていたらしい。


「私の場合、もっと前からだよ。皆には黙ってたけど」

「「「え!?」」」


 薔薇の閃光の一行の目がメリッサに集中する。


「いつから!?」

「前の領主の男爵をとっちめた次の日」

「「「えええ~~~!?」」」


 なんと……そんな前から……?

 どうも俺には何の自覚もなかったが、結構前から俺の加護とやらが発動していた人物がいたらしい。


 なんなんだよ、ホントに……



 その後、レッド・ゴブズとの戦いの詳細を聞くと、戦闘力爆上がりの面々と、ガルボ率いるゴブリン軍団で一〇万の大半を殲滅した話を聞いた。


 敵は爆散し、寸断され、吹き飛び、すり潰されたという。


 残った数百のレッド・ゴブズはほうほうの体で森に逃げ帰ったそうな。


 生き残りの軍勢では、もう悪さもできないだろうと薔薇の閃光たちは言う。


「がはは。面白い話を聞かせてもらった。

 ワシもいっちょ、人間ケントに祈りでも捧げてみるか!」


 いや、ベヒモス。貴方はそれ以上強くならなくてよろしい。

 どんだけの破壊の権化になろうと言うのか。


「ぬふふ。ベヒモスおじじよ。ケントの加護は我のものじゃ。そう安々と与えられぬのじゃぞ」


 何故かマリスが偉そうなのはいつものこと。

 ベヒモスもマリスの妄言にガッカリしないように。


「それでマルレーンはミスリルに昇格したんだね?」

「そうなんです。

 どう考えてもトリエンの危機って状況でしたし、トリエン支部が一応本部にお伺いしたらしいのですが、すんなりと認められたようです」


 薔薇の閃光の他のメンバーもプラチナ・ランクに二階級特進したそうだ。


 彼女らのレベルを調べてみたけど、マルレニシアは現在レベル四二、出会った頃のトリシアを越えてた。

 アーネはレベル二八、アマンダはレベル二七、メリッサはレベル三一だった。

 こいつらも他の冒険者に比べて凄いレベルだ。プラチナ・ランクより上でも不思議じゃない。

 いや、彼女らにもミスリルを与えるべきだろう。


 それとリククとサラだが……

 リククはレベル二六、サラはレベル二七と、俺が知り合った頃より遥かにレベルが高くなっていた。

 彼女らもプラチナ・ランクまで昇格したらしい。

 一度、降格処分を受けた彼女らの努力が目覚ましい。


「みんな、良くやってくれた。トリエンの領主として礼を述べさせてもらいたい。

 本当にありがとう!」


 俺がニッコリ笑ってそういうと、マルレニシアたちも笑った。

 一人を除いて。その一人はメリッサだ。

 立ち上がって棒立ちになるとダバーッと涙を流し、そして俺に土下座なみの平伏し様を見せた。


 うーむ。初めて会った時のサラの号泣を思い出すな……



 食事後、デザートなどのお土産をもたせて、馬車で彼女らを家に送り届けた。

 銀の馬の馬車に彼女らは感激していたが、トリエンではそれほど珍しい光景じゃない。


 ここ一年くらいは見かけなかったかもしれないけど。



 次の日の朝、いつものように神輝石探索のメンバーを魔法門マジック・ゲートで送り出し、俺は工房に籠もった。

 既に手に入れた神輝石を錬金術で他の素材と調合し、培養槽での培養を始める事にする。



 念話をアースラに繋ぐ。


「よう。順調そうじゃないか」

「ああ、順調だぞ。それで聞きたいんだけどさ、どの神から肉体を作るべきだ?」

「それか、今、神界で誰が一番かと戦いが起きている」

「は?」


 俺は顎がカクーンと落ちる。


「いや、戦いは言い過ぎか。俺の提案でジャンケンでの戦いが起きている」

「ジャンケンかよ!」


 全く、アースラは人が悪い。ビックリさせないでくれよ。

 神界大戦争なんてのを想像して肝を冷やしたじゃんか。


「で、誰が最初だ?」

「ウルドだな。次はナータ。三番目はアルテル」


 最初はウルドか。二番めのナータって誰だっけ? アルテルは名前だけ知ってる。エルフの神だろ。


「って、事でウルドから念話させるから待ってろ」

「ああ、どんな素体にして欲しいか、希望も聞きたいしな」

「では、しばし待て」


 アースラからの念話が切れると、数分もしないうちにウルドから念話がかかってくる。



「ケント、よろしく頼む」

「ああ。で、どんな素体がいいんだ?」

「………だ……」

「聞こえないぞ?」

「美少年……だ!」

「は?」


 確かに夢であったウルドは少年といった感じだった。

 でも、美少年だと?

 まあ、美少年だった気もするが、イタズラ小僧ってイメージだったんだが……


「ケントは失礼だな。我が失われた身体は創造神様が美しく作ってくれたのだ。それを曲げる訳にはいかん」


 ふむ。思い入れがあるのは解った。思い出補正もあるだろう。

 望み通りの美少年にしてやろう。

 軍神なんだから、マッチョ巨体を希望するのかと思ったんだがな。



 俺はウルドとの念話で感じた彼のオーラというか波動を覚えておき、それを素体培養のパラメータに反映させる。

 その他の形状などはデータベースの中にあったCADソフトみたいなヤツを使ってモデリングする。


 ゴボゴボと培養液が培養槽を満たし、そこに神輝石を芯に使った人工の骸を浮かべる。


 培養速度を五〇倍にセットして、培養実行ボタンを押す。

 これで後は自動生成されるのを待つだけだ。

 お手軽でしょ?


 ものすごい速さで骨に筋肉などが生成されていく。


 うーむ。やはり培養の過程は気持ち悪い。


 理科室なんかにある人体模型の皮が剥がれた方のような気持ち悪さだ。

 俺としてはあまり直視したくないね。

 リヴァイアサンとフィルは培養槽に釘付けだけどね。


 シャーリー図書館から暇つぶし用の魔法書を持ってきて、読書をしながら暇を潰す。


 上級時間魔法書を開いているのだが、これとフラウロスから教えてもらった重力魔法を使うと、時間の壁をかなり簡単に破れそうな気がしてくるな。

 ついでに現実世界における一般相対性理論とか量子力学的な発想を盛り込めば、形にできそうだぞ。


 それよりも時空に働きかければ、時空連続体に穴を開けることもできそうな?


 問題は、繋ぐべき他次元に何らかの要因を用意しなければならない事だろうか。

 その問題をクリアできないと、繋がる次元はランダムの様相を呈することになる。


 強力で凶悪な異世界人がいる世界に繋がったら大変だろう。


 この何らかの要因というのがまた問題だ。

 繋がりを持つ要因という意味だが、他次元に繋がる要因など何だか判らん。


 繋がりと考えれば、何らかの物体だが……


 ふむ。魔族がティエルローゼに存在している段階で、魔界「プールガートーリア」との繋がりのある物体は確保できそうだが……


 しかし、魔界とティエルローゼを繋げる意味はないな。

 余分な騒乱を起こすだけだろう。

 このアイデアは却下だな。


 次のアイデアを妄想しよう。


 俺というプレイヤーがいるんだから、現実世界に繋げられないか?

 いや、肉体はドーンヴァース製だ。

 現実世界ではなく電子の世界だけに、現実世界に繋げられるとは思えない。

 これも駄目か……


 まあ、虚空の向こうとやらが現実世界という場合だからな。


 次元門ディメンジョン・ゲート構想は、原案として心にしまっておこう。


「……冒険者ケント!」

「うわ!?」


 いきなり耳元で叫ばれて俺は飛び上がる。


「テレジア、どうした!?」

「見ろ!」


 リヴァイアサンが指差す培養槽に目を移すと、ガラスの壁面をゴンゴン叩いている素っ裸の少年が目に映った。


「あ、できた? っていうか、もう降臨してんのかよ!」


 俺は慌てて培養液排水ボタンを押した。


 ったく、ティエルローゼの神ってのはせっかちだよな。

 出来上がった途端に身体に降りてくるとか……溺れるぞ?

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