第25章 ── 第7話
午後に街を回って仕入れてきた食材を使い、色々な料理を作る。
基本的には今まで作ってきたモノだが、ファルエンケールで食べたようなエルフたちが食していたモノに似た料理も作っておく。
マルレニシアの好き嫌いまでは解らないので、彼女に連れて行ってもらった食堂の料理を参考にしたわけだ。
料理スキルの凄い所は、昔食べた料理の材料や調味料、料理法などが、パッと思いつく事だね。
日本にいた頃のものまで、アレはこういう料理法でこういう感じに作ってたようだと「気づく」んだよ。
大学を卒業してから世界を飛び回った一年間で、色々な国の料理を食べた経験から、引き出せるレパートリーは多い。
問題があるとしたら、手に入らない食材を使う料理が作れない事だろうか。
例えばだけど、世界三大珍味なんとか言われている「フォアグラ」はない。
もちろん、ガチョウやアヒルはティエルローゼにも存在するし、食用として飼育もされている。
しかし、ティエルローゼには飽食という文化は見当たらないので、アヒルに肝臓が肥大化するまで食べさせようなんて考える現地人はいないようだ。
あれは確かに美味いとは思うが、製造法が動物虐待くさいし、動物の言葉すら解るようになった今の俺では作るのは怖い。
売られている食材を買う分には良いんだが、自分が飼育した家畜を屠殺して食べるという事に今は忌避感が出てしまう。
野生の動物を狩る事には抵抗感がないので問題はあまりないんだけどね。
矛盾しているって?
いや、野生の動物とは正々堂々と戦っているので罪悪とは思わないよ。
家畜は逃げることも戦うことも許されずに捕食される対象で、野生とは全く違う。
野生の動物は逃げることも立ち向かうことも許されているんだからね。
ただ、他者を狩る行為は、弱肉強食という原則があるので、畜産による精肉に文句言うつもりはない。
この最も単純なルールが神の元にティエルローゼでは許されるからな。
だから精肉されたものは買ってくるし、食べもする。
意思疎通できるという段階で、自分の中で罪悪感が酷いから忌避しているだけだよ。
無抵抗に縛られて「助けて! 殺さないで!」って懇願する動物を屠殺する事を考えてよ。
普通はできないよ? それができるとしたら、精神壊れてるでしょ。
久々に会った友人をもてなすので、張り切ってしまったせいか、大量の料理が出来上がった。
ま、仲間たちと使用人たちもいるから、残すような事はないだろう。
うちは食いしん坊チームもいるしな!
夕食時期になって、リヒャルトさんが厨房にやってきた。
「旦那様。お客様がお見えになっております」
俺は料理を盛りつけていた皿から顔を上げて、リヒャルトさんに頷いてみせる。
「解った。ヒューリーさん、後は頼んだよ」
「畏まりました」
料理長たち料理人が頷いたので、俺はエプロンを外して玄関ロビーへと向かう。
ロビーに到着すると、エルフ風の貴族服を来たマルレニシアと周囲をキョロキョロしまくる数人の冒険者がいた。
あれ?
「よう。久しぶりだな」
女
「あ! 若さま! いや、ごめん。違う、領主様! お久しぶり!」
「ご無沙汰しておりました、領主閣下」
見たことのある巨乳
「ケントさん! 私たちも来ちゃったけど、迷惑かな……」
「ははーーっ! リーダーに付いてきたらまさか領主閣下の館とは露知らず!」
女
ロビーが混沌状態です。
マルレニシアが今組んでいるチームがあのチームだったとはな……
そうです。リククとサラを仲間にした、例の女性だけのチームですよ。
最後に会ったのは、いつだったか……ベルパと同盟を結んだ頃か?
「やあ、みんな久しぶりだね。元気そうでなによりだ」
俺は女性の大所帯に一瞬たじろいたけど、なんとか笑顔を作った。
このティエルローゼは美人が多いので、相変わらず緊張してしまう事があるね。
この女性パーティもそれぞれ個性的な感じではあるけど、美人ぞろいですからなぁ。
って言っても俺の基準でだぞ?
他の男がどう思っているかは知らん。
「本当に知り合いだったんですね。
このチームに入った時、ケントさんの知り合いだって聞いてたんだけど、今の今まで信じてませんでした」
マルレニシアは、トリエンに出てきた頃、ファルエンケールの英雄たちの知り合いだと言う彼女たちに請われてチームに参加したんだそうだ。
「今では、ウチのリーダーやってもらってるよ」
女
「マジでか。さすがはトリシアの薫陶よろしいマルレニシアだな」
「ケントさん。外界ではマルレーンですよ」
「あ、ごめん。忘れてた」
釘を差されたので謝っておく。
故郷と外では呼び名を変えるのがエルフの習わしなんだろうかね?
いや、シャーリーは内でも外でも変わってなかったよな。
やはりトリシアの影響かもしれん。
ちょっと人数は増えたが、ちょうど料理を多く作ってしまったところだし、何の問題もないな。
「みんな、よく来てくれたね。ベルパたちの様子も聞いておきたいし、今日は食事を楽しんでくれ」
女性パーティから歓声が上がった。
リククもサラも出会った頃とは違って生き生きしてんな。
収入が安定したのかもしれないな。
あの頃は、二人ともカツカツの生活してたからなぁ……
食堂にみんなを案内してくると、仲間たちは既に席についていた。
上座を空けてあるのを見ると、リヒャルトさんから彼女たちの事を聞いていたのかな?
「……久しぶり……だな……」
ハリスがニヤリと笑ってリククとサラに声を掛けた。
「あ! ハリス! 活躍は聞いているよ! やっぱりハリスは凄かったんだね!」
リククがハリスに走りより、肩をパンパンと叩いている。
サラは、しずしずと歩いてハリスに近づいた。
「ハリス、あの時の事を謝ります。
私たちは間違っていました」
そういやハリスは、ウスラのチームとは険悪になってたっけ。
ハリスが一方的に彼らに怒りを向けているんだと俺は思っているんだが。
「いや……それはもう……いい。今は……ケントに……敵意のある者は……全て排除した……から……な」
どうやらハリスはリククとサラを許したようだね。いいことだ。
ま、ハリスのサラッと言った文言が微妙に物騒な感じがしたけどさ。
全員が席につくと料理が運ばれてきた。
それら料理を見た女性パーティのメンバーは目を丸くする。
「凄い豪勢な料理ばかりなんだけど!」
さすがに、いつもは冷静沈着な元リーダーの女
「ケントさん、私こういう正式な晩餐は経験がなくて……」
女
「いや、作法とかは気にしなくていい。俺もそういう正式な場の作法なんて知らないよ」
ニヤリと俺が笑うことで、周囲も安心したように笑った。
ま、作法は知ってるし、やるべき所ではちゃんとするけど、ここでは必要ないだろう。
俺は冒険者からの成り上がり領主だしな。
ついでに言えば、マリスとかが作法なんか気にするはずないので、慣れてますよ。
「おう。もう食べたいのじゃ。エマもウズウズしておるぞ?」
「失礼ね。私はそんな無作法じゃないわよ」
マリスとエマは割と仲がいい。
前はマウントの取り合いが激しかったんだが。
エマ的にはマリスのお姉さんになったつもりで世話を焼いているって感じだろうか。
ようやく出会えた生き別れの弟が、いきなりおじさん(エマ談)になってたからねぇ。
お姉さんキャラのエマが世話を焼ける対象じゃなくなってたんだよ。
「そういや、リヴァ……いや、テレジアは?」
「研究室。フィルとああだこうだと素材をいじくり回してるわ」
エマが肩を竦めてやれやれポーズをする。
ふむ。リヴァイアサンも研究者体質でしたか。
「あやつは放っておけ、研究になるといつもああだ」
ベヒモスもガックリと肩を落としている。
いつもの事なんだ……リヴァイアサンとは話が合いそうだな。
「ケントさん。私の知らない方々も増えているようですけど、ご紹介下さいます?」
マルレニシアが微笑みながら爆弾発言をした。
知らない方が身のためと思うが、請われた以上紹介しないわけにもいかない。
まず、新しく仲間になった魔族連を紹介する。
彼らの名前はコラクス、アラネア、フラと人間としての偽名があるのでさした問題は起こらなかった。
俺の仲間なので、相当な手練なのだろうと彼女らは思ったようだ。
そして一番最後、この中でも最も大物であるベヒモスを紹介。
途端に場の空気が凍りつく。
さすがに破壊の権化たる最上位古代竜の名前を知らない冒険者はいない。
ベヒモスは気さくな中年戦士という感じで自己紹介しているが、彼女らの顔には明らかな恐怖が滲んでいる。
「そう堅くなるなよ。結構気さくな人だよ。
俺の故郷では彼は草食動物に例えられるほど温厚だと伝わってたし」
俺がそういうとベヒモスが目を輝かせた。
「ほう。お主の世界にも我が一族がいるのか」
「いや、伝説でね。そういやジスって空の支配者もいたっけな」
「おお、お主はジースも知っておったのか!
あやつは、ほとんど地上に降りて来ぬからな。
ティエルローゼでも殆ど知られておらぬのだが」
なんと、世界の秩序を司る古代竜は三匹いたようです。
空を覆うほどの巨大な鳥の姿だとも言われるジスは、どこを飛んでいるのか。
ティエルローゼをぐるりと回った時にも見てないから、海の上とか北半球でも飛んでいるのかもしれないな。
ちなみに、俺たち人類種が住む大陸は、この惑星の南半球にある。
北半球にも大きな大陸が存在するのだが、前人未到の地で人類種は存在していないらしい。もちろん魔族もね。
海が魔獣やら怪獣やら大型生物に支配されているので、人類種が到達できるような場所じゃないんだろう。
いつか行ってみたい気もするが、そういう秘境には手を出したくないかな。
こちら側には存在しない風土病とか持ち帰って来ちゃったら、大航海時代の南北アメリカ大陸の先住民みたく、大変なことになるかもしれないからね。
とまあ、こんな感じで食事会が始まったんだけど、招待客はビビリまくってカチンコチンになってるよ。
彼女らはちゃんと料理の味が解るかな?
こればかりはマルレニシアの所為ですからね!!
俺の料理はきっと美味いはずですから!
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