第25章 ── 第5話
食事が終わり、工房へと戻る。
今度はリヴァイアサンが一緒だ。
ふと気づいたのだが、リヴァイアサンにしろベヒモスにしろ、レイやフロルに利用者登録をしていないのに、工房から排除されるようなことはなかった。
神々に仕えし古代竜だからだろうか。
少々、セキュリティがザルな気がしないでもない。
この工房は魔法の神イルシスの協力で作ったと聞いている。
工房のどこかにあるサーバとかオリハルコン・ゴーレムのレイは神々の手によるモノだ。
神々の使徒や従属する者を排除するような機能は付けられなかったのかもしれない。
イルシスは神界の神々の中では新しい神様だ。
以前、レベル八〇だと聞いているし、神格序列第一位である秩序の神ラーマに仕える古代竜二人を排除できようもないのは自明の理だろう。
既に神を越えてるウチの仲間たちのレベルがパネェ。
リヴァイアサンは、フィルとアラクネイアに協力するようだ。
俺は引き続き培養槽の増産を続ける。
外装部品を作るため、鍛冶場へ出向いてマストールたちの協力を仰ぐ。
「素材は何にするんじゃ?」
「そうだなぁ。魔力が漏れ出るのを防ぎたいから……鉄かね?
鉛で裏打ちしておけば完璧だろう」
「おい、マタハチ」
「了解です、師匠!」
マタハチが鍛冶場を出ていき、しばらくして荷運び用のゴーレムに鉄と鉛のインゴットを運ばせて持ってくる。
ふむ。ゴーレムの使い方も覚えたか。
マタハチは手際よく鍛冶の準備を進める。
「こいつが来てから、作業が楽になったわい。
ウチの種族の奴にも見習わせたいものじゃ」
そりゃ無理だ。マタハチはユニーク・スキル持ちだぜ?
普通のヤツの倍近くの成長率になるからな。
もちろんステータスの振り方、本人のやる気やら数値にできない素質なんてのも関係してくる。
マタハチのレベル・アップ状況からして、二倍以上の効率と言えそうだ。
「マタハチ、頑張っているようだね」
俺はそう声を掛けるとマタハチが嬉しそうにニヤリと笑う。
「兄弟子に追いつこうと必死です。
あ、ここでは旦那様と言うべき?」
ペロリと舌を出したマタハチは年相応の年齢に見える。
リヒャルトさんの教育が良いので、東方語の言葉遣いは丁寧だ。
だが時々、子供っぽい言い回しをするので、場がちょっと和む。
「鍛冶の腕だけで、ケントに追いつくなど土台無理じゃぞ。
木工、彫金、裁縫、料理……数えたら切りがないわい。
それも、それぞれが一流じゃ」
いやぁ、それほどでも。
照れつつ頭を掻く。
「褒めとらんわ。変人め」
マストールが悔しげな顔で睨んできた。
「ま、スキルのレベルはともかく、高ステータスによる補正がバカにならないっぽいね」
「高ステータスのう。お主、レベルは幾つになったんじゃ?」
「ん? この前レベル一〇〇になったよ」
マストールが額に手を当てて上を見上げた。
「何でお主が下界におるのじゃろうな?
どう考えてみても、神界の住人たる神々のレベルじゃぞ……」
「そう言われてもねぇ……
トリシアもレベル九〇に到達したし、ハリス、マリス、アナベルも八〇の大台だぞ?」
「お主に関わるモノたちは急成長が恐ろしいぞ? マタハチ然りじゃ」
何なんだろうね?
確かにドーンヴァース時代に比べてレベル・アップが容易すぎる気はしている。
「ワシにはその加護は無いのかのう……」
マストールは自分の両の手をじっと見ている。
加護だと?
俺は慌ててマタハチ、それと仲間たちのステータス画面を呼び出す。
ユニーク・スキル欄を調べた瞬間に目の前が真っ暗になった。
仲間たちのユニーク・スキルの欄に『ケントの加護』という文字が見えたからだ。
思わずクリックしてみるとユニーク・スキルの説明ダイアログが表示される。
『冒険者ケントの仲間に与えられる加護。
・取得経験値増加
・対抗ロール成功率上昇
・能力値上昇
・スキル取得判定成功率上昇』
何だ、このチート能力は!
俺のユニーク・スキル欄を参照してみたが、俺には「ケントの加護」は無かった。
あるのは……
・イルシスの加護
・マリオンの加護
・ヘパーエストの加護
・タナトシアの加護
・レーファリアの加護
・ラーシャの加護
・アルテルの加護
・ウルドの加護
なんか……関係ない神様の加護まで増えてるよ……?
ラーシャとかアルテルとは面識もないのだが……
つーか、タナトシアよ。いつ俺に加護を与えたんだ?
レーファリアってのも判らん。
マリオンが言ってた死と闇を司る神だよな?
コイツはタナトシアの関係者だろうか。
死と闇を司るところはタナトシアと同じだしな。
俺はタナトシアに念話を繋げてみた。
「貴方の声を聞くのも久しぶりね。
ちっとも念話してくれないんだもの」
「いや、そういうのはいいんだけど……
聞きたいことがあるんだ。
レーファリアって神様は知ってるか?」
タナトシアが言葉に詰まったように少し沈黙した。
「……お母様がどうかしたの?」
訝しげな声のタナトシアの言葉に俺は顔を上げて目を瞑った。
「お前の母親かよ!」
「そうだけど……お母様がどうしたのよ?」
「俺のユニーク・スキル欄に『レーファリアの加護』ってのがあったんだよ」
「ちょ、ちょっとまって!」
少し声がくぐもり、タナトシアが他の誰かと話しているのが聞こえてきた。
「お母様! ケントにちょっかい掛けるつもりなの!?」
ちょっかい……?
死とかを司るの神にちょっかい掛けられるのは怖いんですけど。
つーか、タナトシアも死の神だったな。
「あらあら、貴女のお気に入りだもの。
お母さんが気に掛けるのも当たり前でしょう?」
おっとりした優しげな声が漏れ聞こえてきた。
「もう! そうやっていつも私の邪魔するんだから!」
「うふふ。タナトシアは趣味が良いから、お母さんもつい夢中になっちゃうのよ」
「もーーー!」
なんて会話だ……
目眩がしそうだよ。
「待たせたわね」
不意にタナトシアが戻ってきたので、頭を振って意識を切り替える。
「やっぱりお母様だったわ。
私がケントに加護を与えたのを知って、同じように加護を与えたようね」
「マジが。どんな相乗効果になるのか気になる……」
セイファードみたいにノーライフ・キングになるのは困るんでな。
「そうねぇ……多分、死ななくなるわね」
「プレイヤーだけに元から不死なんだが?」
「うん。そうじゃなくて……
ほら、即死系魔法とかあるでしょ?
まず、あれは無効ね」
ほう。それは便利。
その他にも、石化無効、毒無効、老化無効、闇や死霊魔法の成功率上昇、アンデッドの完全支配などなどの効果があるだろうとタナトシアは言う。
俺は
それと……アンデッドの完全支配については、セイファードに任せておきたいところ。
「あ、そうそう。
今、私たちの肉体を作る準備をしているでしょう?」
「あ……ああ、鋭意準備中だ」
「生体を作るのに地母神のイシュテル様が協力してくれるそうよ?」
「イシュテル……?」
シュメールの神じゃねぇか? イシターとかイシュタルに語感が近いんだが。
「詳しいわね?
そうよ、彼女の軍勢はシュメルと言うの。
今はもう解体されちゃったけど、昔戦争で使ってたのよ」
シュメル軍は半獣半人の軍勢だったそうで、陸海空の三領域で大活躍したんだそうだ。
空も? ……鳥人系獣人種族かな?
「魚人族、鳥人族、馬人族よ」
なるほど。魚人族ってのはニンフとは別なのかねぇ。馬人族っていうとケンタウロスとかだろう。鳥人族は獣人の森にもいたね。
「ニンフは別だけど、同じようなものね。海の神が魚人族を真似て作ったのがニンフたちよ。ケンタウロスもそうね」
ふむ。獣人族の原型を作った神か。生命の神って言うくらいだから、人類種や植物などにも関係している偉い神様に違いない。
「当たり前じゃない。
ラーマ様と一緒に創造神様が作られた三神の一人だもの。
ちなみに、お母様もその一人よ」
ティエルローゼの最初の神は三人なのか。
秩序の神ラーマ、死と闇の神レーファリア、生命の神イシュテル……か。
「イシュテル様は生命と光の女神よ? お母様の対になる神なんだから、間違えないで」
ふむ。覚えておこう。
となると秩序の神と対になる混沌の神とかは?
秩序勢たる神界の神々に混沌の神はいないのかもしれんな。
「それがカリスよ。ま、創造神様の対なる神だったんだけど……」
神界事情を教えてくれてありがとうよ。
となると、消えゆく自分の代わりとしてラーマを据えたと考察できるな。
中々、深慮遠謀に長けた神様だったようだ。
姿を消してから久しいようだが、一度は会うなり話してみるなりしたかったかも。
「私たちが会えないのにケントが会えるわけないでしょ!」
むう。神との念話は俺の心を読んでくるのが玉に瑕だな。
「私は面白いけど?」
「いや、もう聞きたい事は終わった。サンキューな」
「どういたしまして」
フフンと鼻を鳴らしてタナトシアは念話を切った。
これ以上、俺の脳内をだだ漏れにさせておくつもりはない。
俺も念話をオフにしておく。
それにしても、神々の間でも子が生まれるんですなぁ。
世界の多様化に合わせて増やせる機能があるって事かもしれん。
現実世界の日本でも、神々は時代に合わせて分離、集合したりするし、そういう概念をシステム化したって事かもな。
何はともあれ、神界は複雑怪奇な状態になっているやも。
どんだけ肉体を作らなくちゃならないのか解んないね。
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