第25章 ── 第4話

 その時、バンと扉が開いた。


「ケント! ごめんなのじゃ!」


 開いた扉からマリスとトリシアが古代竜二人を連れて入ってきた。


「何だ?

 何かあったのか?」


 俺がそういうと、申し訳無さそうな顔をしたベヒモスが頭を下げた。


「済まぬ。

 つい調子に乗って其方のゴーレム部隊を壊してしまった……」

「「は!?」」


 エマとクリスが素っ頓狂な声を上げた。


「そんだけじゃ解らないよ。どのくらい被害が出たんだ?」


 そんな事は予測通りですよ。

 どう考えても脳筋のベヒモスが大量のゴーレムを見てジッとしていられるわけないからな。


「……それがのう……アーベントの部隊が全滅じゃ……」


 エマは虚空を見つめ、クリスは指折り被害額を計算し始める。


「ははは。気にするな。予測通りだよ」


 俺は苦笑してしまった。


 ミスリル・ゴーレム一〇〇〇体程度じゃベヒモスが止められる訳がない。

 一〇〇〇〇体いたって無理だ。


「しかし、ケント。凄い損害額だぞ……

 というか、その人たちは誰なんだ?」


 ああ、クリスには紹介してなかったね。


「えーと、こちらの人は『ベヒモス』。陸の守護者ね。

 こちらの女性は『リヴァイアサン』ね。海の守護者だよ」


 クリスが真っ青に……いや、顔色は土気色になった。


「一〇〇〇体作るのにどれだけ手間が掛かると思っているのよ。

 ちゃんと賠償してもらってよね!」


 エマはプリプリ怒っている。

 解るよ。二人で苦労して作ったんだからな。


「うむ。償いはするとしよう。

 人間は何を欲しているのか?」

「うーん。あのゴーレムを一〇〇〇体だからなぁ。

 金銭的には大したこと無いね。金貨一〇万枚程度だよな?

 あとは労力と魔力の分を加算する程度だ。

 金貨四〇万枚くらいか?」


 俺は今までの費用を指折り計算する。

 西方への遠征で、その程度の金貨は稼いできたつもりだ。


 ベヒモスが「ふむ」と鼻を鳴らし、懐に手を突っ込んで弄っている。

 そして、ゴトリとテーブルの上に取り出した何かを置いた。


「これで賠償にならぬだろうか?」


 見れば、青緑色に光る大なモノだった。


 直径三〇センチはあろうか。

 それは巨大なスター・エメラルドだった。


「デカイな!」

「そうだろう?

 ワシが地中で見つけたモノだ。

 これを譲るからゴーレムの事は許してくれ」


 このスター・エメラルドは、通常のモノとは違うようだ。

 内部から微かに光っている気がする。

 その光が白味掛かった星型の文様をエメラルドに浮かび上がらせているようだ。


 ただのエメラルドだとしてもこの大きさだ。

 損害分以上の価値になるだろうにな。


「面白そうな代物なので、それで良いよ」


 俺がそういうとベヒモスは少しホッとした顔になった。


「悪ノリが過ぎるのだ、お前は」


 リヴァイアサンもベヒモスを諌める。


 ベヒモスはテーブルの上のスター・エメラルドを俺の方に転がしてきた。

 俺は慎重にスター・エメラルドをキャッチしてインベントリ・バッグに仕舞った。


「ケント、私は役所の執務室に戻るよ。

 まだまだ仕事が溜まっているからね」


 クリスは俺たちのやり取りが終わると、そそくさと食堂を後にした。

 やはり破壊の権化たる古代竜の近くには居たくないのかもしれん。


「で、どうするの?

 第一部隊がなくなっちゃったら困るでしょ?」


 エマがそう言うので、少し考える。


「申し訳ないけど、エマは第一ゴーレム部隊の再建の作業をしてくれるかな?」

「えー!? 神々の肉体創造の方が面白そうなのに!?」


 エマが心底嫌そうな顔をする。


手間賃ボーナスは弾むからさ」


 俺の言葉にエマが少し顔を和らげる。


「そう?

 じゃあ、後で私の装備を作りなさいよ。

 杖とローブと……」


 どうやら魔法使いスペル・キャスター用の装備一式を強請るつもりらしい。


 まあ、そのくらいなら良いか。

 レベルに合った素材で作らんといけんし……

 エマのレベルは今、幾つだ?


 調べてみたら、エマは今レベル五二まで上がっていた。


 凄いな。


 ちなみに、フィルはレベル三八だ。


 二人とも俺がいない間も本当に頑張ってたんだな。

 よし、二人に装備を作ってやるとしよう。


 エマはもう、アダマンタイト製がいいレベルだね。

 フィルはまだ、ミスリル製だろうか。


 などと考えていると、リヴァイアサンが俺の右の席に座った。


「神々の肉体を再創造するのか?」

「ああ、神々との約束なんでね」

「ふむ。それは面白い研究になろうな」

「ま、あまり時間は掛けられそうにないんで、ここ数日で目処を立てるつもりだよ」

「そんなに早く?

 普通なら一〇〇〇年は掛かろう題材だと思うが」


 そんな時間掛けてたら神が痺れを切らしまくる未来しか見えない。


「既に作るだけなら設備はそろっているんだよ」

「ほう」


 今問題なのは神輝石の用意が一番の問題だろう。

 それと今ある培養槽の改造を少し。


「神輝石か。それを核とするのか?」

「核は二つ。闇石と神輝石だね。

 心臓の部分に闇石を使って身体全体の不死性を維持させて、神輝石を骨格の芯に使おうと思ってるんだ」


 リヴァイアサンは頷いた。


「合理的であるな。

 我ら古代竜が作られた製法に似ておる」


 ほう。古代竜も似たような構成なのかな?


「素材は違いますが」


 アラクネイアもリヴァイアサンの言葉に頷いている。

 彼女から「カリスの竜族創造の助手をしていた」と爆弾発言が飛び出した。


 うわー。この空間、神話レベルの存在が多すぎませんかね?


「カリス様が最初に竜を作られたのは青い世界での事なのです」


 なん……だと……


「その頃はもっと小さい竜族でありました」


 とアラクネイアは手を広げて見せた。

 大きさは一メートル程だ。

 それらの竜が、古代の地球上で大きく育って伝説を生み出したのだろうか。


「私は受肉の手伝いをしたに過ぎませんが、あの作業をしていた場所が青い世界だったのですね……

 最近アモンから、そう教えてもらいました」


 様々な神の如き存在が、地球で色々な怪物を生み出している光景が目に浮かんだ。


 うーむ。

 当時の地球人類は大変だったろうな。


 そりゃ神話という形で怪物などの寓話や逸話が残る訳だよ。

 もしかして、オカルト系で人気のUMAとかって、それの生き残りだったりしないか?


 否定したいところだが、完全に否定もできない。


 何にせよ、そういった異界の神々がいなくなり、彼らの創造した生物たちは急速に力を失っていったんではないだろうか。

 魔力の源であった異界の神々の喪失が、創造された怪物の滅亡に繋がった。


 地球に魔力と呼べそうな不思議成分はないからなぁ。


 今は亡きティエルローゼの創造神にグッジョブと親指を立ててやりたい気分です。


 もし、伝説の生物たちが今も地球上にいたなら、現在の科学発展はなかっただろうからね。

 もちろん、前にアモンが言っていたように、科学の礎として魔族が関わっていたとするならば、彼らの存在がなくても科学発展はないんだけど。


 異界の神々が振りまいていた魔力が緩やかに消失していったからこそ、今の地球があるのだろうと思っておこう。


 色々と因果が絡んでて否定も肯定も難しいところだね。


 今の俺は人間を進化させたのが、カリスたち異界の神々だったと言われても驚かないよ。

 人類進化のミッシング・リンクなどを考えると有り得そうだよね。

 謎多きシュメール文明とかの説明も簡単になるし。


 でも、こんな考えを考古学とか生物学の学会で発表しても笑われるだけだろうなぁ。

 証明のしようがない異世界人の仕業なんてねぇ。


 笑いものにされて終わりそう。

 ま、異世界に転生してしまった俺には関係のないことだけどね。



 食事中に明日からの事を仲間たちと話し合った。


 神輝石については、トリシア、マリス、ハリス、アナベル、アモン、フラウロスに頼んだ。


 おおよその位置はマップ画面の共有で知らせてあるので簡単に見つかるだろう。

 ただ、アナベルの身体を調べて解ったように、肉体の中で形成される物質のようなので、手に入れる方法は限られる。


 神輝石を持つ人間を殺して採取するのは不味い。

 なので、死んだ聖人を探すのが順当だ。

 古代の聖人たちの墓を荒らす事になる気がするが、神々の為なので仕方ない気がする。


 もともと聖人だったのなら、神々の為なら喜んで朽ちた肉体を差し出すに違いないと思いたい。


 呪ったり祟ったりしないよね?


 俺は今、それだけが心配です。

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