第24章 ── 第32話
国王は、二人の古代竜をソファに案内して座らせた。
「それで今回……我らオーファンラントにご足労頂いた故は何でしょうか?」
国王は少し震える声で二人に質問をする。
城の召使いが入れてくれたお茶にテレジアは手を伸ばした。
「ケントが面白いと聞いてな。
ちょいとケントに付いて回る事にしたのだ」
ベヒモスは茶菓子を貪りながら答える。
「辺境伯殿が……面白い……?」
宰相閣下の視線が痛い。
「あー、我が少々言った事にじゃな……
ベヒモスおじじたちが興味を持たれた。そういう事なのじゃ」
マリスが少しバツの悪そうに言った。
「マリス殿……何を言われたのです?」
宰相はマリスに視線を移した。
「ハリスがよく言っているのじゃ。
ケントはびっくり箱なのじゃと。
そう言ってやっただけじゃ」
矛先をハリスに擦り付けるマリスの姑息さよ。
当のハリスも一瞬で表情が固まったぞ。
「ハ、ハリス殿……?」
「ケ、ケントは……俺たちの……予想を……簡単に……超える……びっくり箱……だ」
もうちょっとマージンを取って予想してくれよ。
そしたら驚かないだろうに。
「あ、うん。そうですな。
辺境伯殿は、こちらの予想通りには行きませんな……
ブレンダ帝国との折衝、ウェスデルフの属国化、ルクセイドとの同盟……
こちらの予想など、毎度鼻息でいつも吹き飛んでいる気がします」
「だからこそ、我が国の貴族に迎え入れられた事は重畳であったと言えような、フンボルト」
テレジアが口に運んでいたお茶をテーブルに戻した。
「其方ら、ケントの価値を知っているようだな」
「もちろんでございます。
本当なら、この国の王権を譲り渡したいと思っているくらいです」
国王が額の汗をハンカチで拭う。
「いや!
それは断ります!
以前にも言った通りです!」
好きに表に出られないような国王なんて職業にはなりたくない!
国王ってのは、ちょっとトリエンに来たくらいで大騒ぎになるんだぞ?
「国の主ってのは何でも自由になるそうだが、ケントはそれを望まぬと?」
「当然でしょ! 何でも自由? そんなのまやかしだよ!」
国王も宰相も俺の言葉に肩を竦める。
「本人が、こう申しております故、こちらも押し付けるような事はできません」
「ふむ。ケントは確かに面白いな。
人間と言えば欲に溺れ、堕落していく生き物だと思ったのだが」
ベヒモスが面白げに俺を見た。
「いやいや、俺にも欲はあるよ。
美味しいものを食べたいし、欲しいものは欲しいと思うんだ」
「じゃが、ケントの欲しいモノはティエルローゼには無いモノばかりじゃろ?」
マリスが含み笑いをしながら口をはさむ。
「そうだな。ケントは自分の欲しいものは自分で作り出すからな」
トリシアまで相槌を打つ。
「米が……欲しければ……大陸西方にすら……足を運ぶ……」
ハリスの兄貴、お前もか。
「ケントさんは凄いのです! 何でも出来るのです!」
アナベルが得意げに胸を張る。
まあ、オールラウンダーだから、スキルさえあれば何でも出来るのは事実です。
というか、貴女は胸を張るとプルンプルンの魅惑のウォーター・メロンのインパクトが凄いのですが。
魔族連が三人の言い草に凄い嬉しそう笑顔で頷いています。
うーむ。俺にも出来ないことはあると思うけども……
みんなの称賛に値するほどの実力があればいいんだけど、期待されるほどではないだろ。
「ふふふ。確かに神々が気に掛ける人物のようだな」
テレジアが笑う。
「美味しいものなら直ぐにでも用意できるぞ?
シュノンスケールが滅亡したなら、本当に戦争は終わったと言えるだろう、クサナギ辺境伯?」
法国に行く前に「まだ戦争は終わってない」と俺が苦言を呈したことを国王は言っているんだろうな。
「確かに。戦争は本当に終わりました。後は法国の領土をどうするか決めるだけでしょうね」
「それは後でも良いのではないか?」
「まあ、そうですね」
「では、本日は宴を催すとしよう。
ロゲール、他の貴族たちを早急に集められるか?」
また、貴族総出で園遊会ですかね?
あれはも肩が凝るんだよなぁ。
「待つが良い。
ワシらはお忍びだ。
そのような大げさな催しは困る」
「では、ここにいる者だけのささやかな宴にしますかな」
国王がニッコリとベヒモスに笑う。
しかし、仲間たちは微妙な顔つきだった。
「城の食事はそれほど美味しくないですよね?」
「そうじゃのう。量も味も落第じゃ」
「確かにな。私もそれは思う」
食いしん坊チームから城の料理にダメ出しが出る。
「それはどういう意味ですかな、トリ・エンティル殿?」
宰相が驚いた顔になる。
「あー、ケントに出会う前の私であれば、城の料理はご馳走だったと思うが……」
トリシアはチラリと俺を見る。
「ケントの料理を知ってしまうと、他の料理は色褪せる」
トリシアがそう言うと、国王がポンと手を叩いた。
「あの料理は辺境伯の料理人が考案したのではないのか?」
「あの料理?」
宰相が怪訝な顔で国王に問いかける。
「そうだ。辺境伯の館に出向いた折、非常に美味な料理が出されたのだ、ロゲール」
国王は、俺の館で出たステーキやサラダの美味さを熱く語りだした。
「それにはワシも同意する!
ケントの料理した肉の芳醇なること、あれば絶品だった!
ワシは今まで肉は血の滴る生が最高だと思っておったのだが!」
国王とベヒモスがハイタッチを決める。
一瞬で打ち解けたよ、この二人。
「魚を料理させたなら、ケントの右に出る者は人の間におるまいな。
ケントのような料理人が人間におるのであれば、人に海の者を捕る事を許そうと思うほどだ」
どうも雲行きがあやしい。
「ああ、魚の料理ですか。
辺境伯は鮮度が重要と申しましてな。
素材が凍るほどの魔法道具を作ってくれました」
テレジアが目を細める。
「氷を使った時の封印とな?
ケントはその技法を知っておるのか」
テレジアは二つのブレスが吐けるらしい。
一つは法国で見た炎のブレスだが、もう一つは冷気のブレスらしい。
「私の氷の吐息で凍らせたモノを水に漬けると生き返る事がある。
私は、時の封印と名付けたのだが」
それ、金魚を液体窒素で凍らせてから水槽に戻すと息を吹き返すって実験のアレですかね。
金魚なんかだとできるけど、人間などの高等生物では実現不可能な技術だよね。
コールド・スリープにつていは二〇世紀くらいから研究はなされていたようだけど、冷凍された細胞が膨張して破壊されてしまうので不可能だとか聞いた記憶がある。
「うーむ。
対象の時間を止めるなら、時間系と空間系の魔法を使った方が安全だよ。
冷気による氷結では生物は普通完全に死ぬんだ」
「ほう、そうなのか?」
「魚などの構造が単純な生物では息を吹き返す事が偶にあるんだけど、人間とかの恒温動物は基本無理だね」
テレジアと生物の構造などについて現代人的知識の見地から意見を交わす。
「見ろ。博識のテレジアとあれだけ話せる人間は、早々おらん」
「はぁ。内容がチンプンカンプンですな」
ベヒモスと国王がヒソヒソしているが、丸聞こえだ。
「辺境伯殿、領民で実験するようなことは控えてな」
宰相が心配そうに言うので、俺は手をブンブンと振る。
「人体実験なんかしませんよ!
大丈夫です。俺が昔いた所で、昔そんな実験をしていたなんて話があった程度ですよ!」
それにしては詳しいようだが……と宰相は首を捻っている。
まあ、SFとか一般的な情報で知っている程度の知識なんですけどね。
話は途中で脱線したが、こうして内輪の宴が開かれることになったのであった。
王城の調理室では、貴族の俺が料理をするということで、城の料理人たちは緊張した顔になってたが、「貴族に料理ができるもんか」という雰囲気の料理長をギャフンと言わしめた事は語っておいて良いかもしれん。
宴に参加したのは国王リカルド、宰相フンボルト、近衛隊長のオルドリン、それと古代竜二人と俺の仲間たちだけだった。
みんな料理に満足したようで何よりだ。
料理に国境も種族もないことは、この二年で証明済みですからな。
最近は日本食ばかり作ってるけど、もう少しレパートリーを増やすべきかもしれないな。
フランス料理、イタリア料理なんかも美味しい料理体系ですから、少し研究してみるとしますかね。
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