第24章 ── 第30話
まだ法国の人間全部を抹殺したわけではないので、空中から虱潰しに殲滅することにした。
一応、法国を滅ぼせってリヴァイアサンに言われているしな。
飛行自動車を出して全員で乗り込む。
もちろん古代竜の二人も一緒だ。
リヴァイアサンはともかく、ベヒモスは車の内装を興味深げに眺めている。
「その丸いのは何だ?」
「その棒は?」
「天井の扉は緊急用の脱出口か?」
運転と索敵に集中したい。
しかし、詳しいことはマリスが得意げに答えていたので任せよう。
「しかし、翼のない者が空を飛ぶ時代になったか」
「まだ三台だけじゃな。世には広まらんじゃろなー」
そりゃそうだ。
俺しか作れないし、おいそれと広められるような技術じゃない。
「欲しいのかや?」
「いや、見たこと無い馬車なのでな。
それほど移動も速くないようだし、自分の翼で飛んだ方が速い」
小さい翼はあったが、ベヒモスは地上の竜らしいので飛べないのかと思ったよ。
一応飛べるんだな。
リヴァイアサンは、普通に空の旅を楽しんでいるようだ。
水棲竜なので彼女は空は飛べないのかもしれない。
マリスは近所のおじいさんと気さくに話している
「ベヒモスのおじじよ。さっきの話ぶりじゃと、最近我のおじじに会ったのかや?」
「おう。つい
「元気じゃったかや?」
「そうだな。身体は元気だったろうが、お主が家出した所為かしょんぼりしておったぞ」
俺は運転しつつ、マリスとベヒモスの会話を聞いておく。
古代竜の巣にそんな気さくに訪問するってのは理解できないが、古代竜同士だからなぁ。
あと、ベヒモスの人化した姿は、おじじというより、アースラ風の中年男性です。
ま、破壊の権化である古代竜にしては気さくなおっさんのようだが。
いくつか赤い光点を発見したので、空から
その次に発見した奴らには
精霊と誓約してからの魔法の威力実験を兼ねてね。
案の定、俺の想定している魔法の威力とは明らかに違った。
もちろん威力が増す方にだ。
うーむ。通常のレベル一〇魔法よりも威力が高い気がする。
ティエルローゼは魔力が豊富で威力が増すってのなら納得だが、他の
ちなみに、同じ魔法を使えるトリシアは、他の
キャラクター・レベルの所為にしてはなぁ……期待値を上回っているんだよね。
もしかすると精霊の加護的なモノも隠しパラメータとして存在しているのでは?
トリシアはエルフだけあって精霊への感謝や祈り、他の人間より多いしな。
本当に謎が多い世界だよ。
「よし、今日はあそこにしよう」
俺は下部カメラに放棄された村を映しながら、ゆっくりと飛行自動車二号を着陸させていく。
「ここで野営か?」
リヴァイアサンがようやく降りられるといった雰囲気を醸し出す。
飛行能力がないから長時間の空の旅は大変なのかも。
「疲れた?」
「ああ。これほど長い時間、海から離れるのは初めてなのだ」
既に陽が半分以上稜線に沈んでいる。
早めに飯の用意をしないといかん。
自動車が着陸し、トリシア、ハリス、アナベルは外に出ると大きく伸びをした。
やはり古代竜たちに緊張しっぱなしで身体が縮こまっていたのだろうね。
「今日は何じゃ!?」
「何がいい?」
マリスの問いに俺は聞き返す。
質問に質問で返す云々は置いておけ。
「てんぷり?」
「カツ丼だ」
「なんでも……いい……」
「赤いつぶつぶです!」
ハリス以外は相変わらずわがまま放題だ。
用意する手間なんて考えてねぇな。
ついでに毎回同じものばかりリクエストしてくるからなぁ。
飽きないのかね?
今日はゲストが二人もいるので、彼らにもリクエストを聞いておくか。
「お二人は食べたい物はあるかな?」
「人間の食べるモノは良く解らぬ」
リヴァイアサンは水棲竜なのであまり人間の食べ物には詳しくないようだ。
「肉。肉がよかろう」
地上竜だからよっぽど人間の食べ物を知っててもいいはずのベヒモスですらコレですからな。
仕方ないな。
「よし、みんなのリクエスト通り、海鮮丼、寿司、天ぷら、天丼、トンカツ、カツ丼、ステーキあたりにするか」
仲間たちの歓声が上がった。
「今日は何かの日かや!?」
「何かの日って何だ?」
「神の恵みの日です!」
「何の日……でも……ない……」
仲間たちは何かのコントでも展開しているのだろうか?
「やれやれ、主様の前だというのに」
「相変わらず愉快なお仲間ですな」
「まだ若い子ばかりですから、多少の喧騒は多めに見ましょう」
アモンは肩を竦め、フラウロスは猫顔ながら笑っている。
アラクネイアも母親のような慈悲深い笑顔だ。
魔族連は
二時間ほど待たせたが皆のリクエスト通りの物を用意した。
「お二人の口に合えばいいけど」
俺はリヴァイアサンの前に刺し身、寿司、海鮮丼を並べた。
食いしん坊チームを筆頭に、ベヒモスも既にがっついていて、こんな事を聞く暇もなかった。
「これは私のために?」
目の前に置かれた料理を見て、リヴァイアサンの目が輝く。
「リヴァイアサンは海の古代竜だし……
多分、魚とかが好きなんじゃないかと思ってね」
「ふ。私の事はテレジアと呼ぶが良い。許すぞ」
どうやら生魚が彼女のハートを鷲掴みだったようだ。
美人に喜んでもらえると嬉しいものです。
トリシア、マリス、アナベルも大喜びですしな。
「では、頂こう」
リヴァイアサンがフォークを手にとり、海鮮丼に手を付けた。
「ほほう……これは美味い。
この下の白いものは地上の物、この海の物の上に乗っている緑色の物も地上の物……
なのに何であろうか、この親和性は」
全部水の中で育った物ですからなぁ。
そいうのも関係してるのかな?
「テレジア! こっちのコレが美味いぞ! 食ってみろ!」
ステーキを大きく切った肉片を突き出すベヒモス。
「行儀が悪いですぞ」
アモンが眉間に皺を寄せる。
「うははは。これほど美味い肉は初めてだ!」
アモンの小言など聞いてないベヒモスは、俺の焼いた和風ステーキに大興奮だ。
「ベヒモスおじじよ。こっちのてんぷりも美味いのじゃぞ?」
「今日の天ぷらは鶏肉、海老、鱚、かき揚げ……海と山の幸の天ぷらにしたよ」
リヴァイアサンも天ぷらには興味を持ったようで、フォークを突き出した。
「海の幸の料理とな。私にも頂こうか」
「はいはい。いっぱいあるから慌てない」
俺は苦笑しつつ天ぷらの盛り合わせをリヴァイアサンの前に置く。
今まで彼女は努めて上品だったが、海鮮丼で火が付いたのか?
これが地かね?
それからのリヴァイアサンは、海の幸系料理をばんばん口に放り込んでいく。
殊の外、寿司が気に入ったらしい。
海鮮丼はドカンと盛った感じだけど、一つずつ丁寧に握った寿司はシャリとネタのバランスがいいからな。
「人間の料理は初めてであったが、これは良い。
海の命をこのように極限にまで高めた食し方をしているのであれば、これからも人間の漁を許しても問題ない」
俺以外が、こういう料理をしているかどうかは判らんけどな。
元来、日本人は食材にすら敬意を持って接してきた民族だ。
余すところなく美味しく、美しく料理してこそ、日本の料理人なのだ。
もっとも、俺が料理スキルを手に入れたのはティエルローゼに来てからだから、日本の料理人と言っていいものかは謎だけど。
人間の料理を初めて食べた古代竜たちは非常に満足そうだった。
まあ、今のところ、俺の料理に満足しなかった奴はいないから、少しくらい自信を持ってもいいかな?
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