第24章 ── 第28話

 閉じた目にも感じていた閃光が消えたらしいので、ゆっくりと目を開けてみる。


 展開したままの次元隔離障壁ディメンジョナル・アイソレーション・バリアが視界に入るが、半透明の障壁内はどす黒い煙とも霧とも思えないものが渦巻いている。


「すごい光じゃったの!」

「世界が光に覆われたのかと思いました!」

「何はともあれ……あの障壁がなかったら世界がどうなっていたか解らないほどの威力だな」

「やはり……びっくり箱だ……」


 マリスとアナベルは笑顔だが、トリシアとハリスは顔が引きつっていた。


「当然です。天地創造の力ですよ? そして破壊の力でもあるのです」

「さすがは妾たちの主。お仕えできこれほど光栄に思える方は、カリス様以外にはケント様しかおりません」

「ふふふ。我が主には、ただただ畏敬の念のみでございますな」


 魔族連の言い草が、俺を既にカリスの代わりの神として見てる気がしてならない。


「みんな大げさだな。ちょっと空の彼方にある隕石を引き寄せただけだよ。

 ついでに壊滅的破壊力を障壁で隔離して被害を押し留めたってところか」


 消費MPも壊滅的なので神々でも行使は難しいかもしれん。

 これなら従来の隕石落下メテオ・フォールの方が汎用性も消費MPコスト・パフォーマンスも良い。


 下でドラゴンの咆哮が聞こえた。


「うははは。これほどか!

 なるほど! ラーマの言っていた男がアヤツであったか!」


 咆哮にしか聞こえないだろうな。

 ドラゴン語で喋っているのでマリスにしか理解できてないと思う。


 彼女の言う「ラーマ」って秩序の神だろ?

 どうやら秩序の神ラーマから俺の噂を聞いていたらしい。

 マジで神界で話題になっているっぽい。


 よって今回のこの攻撃魔法も神々によって監視されていると見ていい。


 みんなは褒めてくれるが、ここで気を許して天狗になるようでは先が怖い。

 驕る者は大抵の場合、現実でも小説でも古今東西例にもれず、神々によって不幸に陥る。


 慢心は身を滅ぼす。

 今こそ自重が必要です。


 ふと見ると、地面が小刻みに運動している。


 ん? 地震か?

 地殻に影響出ちゃった?


 徐に地面に亀裂が走った。

 その亀裂から二本のねじ曲がった角が生えてきた。


──ズドン


 大きな音と共に亀裂付近の地面が吹き飛び、巨大な影が地中から立ち上がる。

 それを見たマリスが大声を上げた。


「ベヒモスじゃ! 我も初めて見るのじゃ!」


 マジか。

 リヴァイアサンに引き続き、ベヒモス登場かよ。


 伝説級を飛び越えて神話級が立て続けに現れるとは……


「待たせたな!」

「遅い。もう全て片付いたわ」


 ベヒモスの気さくな声にリヴァイアサンが呆れ声で返事をした。


 しかし、マリス以外にはドラゴンの咆哮。

 トリシアもアナベルもハリスも真っ青になる。


「神話級の戦いが始まるのか!? 世界が保たないぞ!?」

「この世の終わりなのです?」

「大丈夫……ケントが……いる」


 いえ、もしあの二匹が喧嘩を始めたら、速攻で逃げます。


「何を言っておるのじゃ?

 あの二匹は知り合いのようじゃぞ?」


 マリスは窓から乗り出すように二匹のエンシェント・ドラゴンを眺めている。

 目がキラキラしているのを見ると、あの二匹はドラゴン界のアイドルなのかもしれない。


「片付いた? 随分と早いではないか」

「当然だ。神々の加護を受けし人間が協力してくれたでな」

「人間だと?」


 ベヒモスは怪訝そうな声でリヴァイアサンを見る。

 そのリヴァイアサンは俺たちの方に首をもたげて見ている。

 その視線の先をベヒモスも見上げる。


「むむ? そこにある小さき物は何だ?」

「あれに乗るのが神々の噂する人間よ」

「ほう、面白い。どの程度の力量か試してみるか?」


 ドラゴンの会話が響いてきて、俺の眉間に皺が寄る。


 アレに攻撃されたら確実に死ねる。


「止せ。神々を敵に回すことになるぞ」


 俺たちの方にクワッと口を開けて迫ろうとしたベヒモスをリヴァイアサンが止めた。


 ありがとうリヴァイアサンの姉御! 助かります!


「降りてくるがいい。冒険者ケントとその仲間たちよ」


 今度は人間の言葉でリヴァイアサンが言う。


「呼んでいるようだな?」

「大丈夫でしょうか?」

「従う……しかない……な」


 俺は飛行自動車二号を隔離障壁の近くに残っている地面へと着陸させる。


 俺とマリスが降りると、他の仲間たちも恐る恐る降りた。

 魔族連ですら、彼女ら神話級エンシェント・ドラゴンを畏れているようだった。


 カリスに作られた最強の生物なんだから仕方ないね。


「お初にお目にかかる。冒険者のケント・クサナギだ」


 俺は気さくにベヒモスに挨拶をする。


 ベヒモスが頭をグイッと地面に近づけ、俺たちに鼻先を近づけてみた。


「ふむ。ただの人間にしか見えぬな。

 そちらの小さいのは変化したドラゴンであろう。

 そちら三人は魔族か?」


 さすがは神話級エンシェント・ドラゴン。一瞥で正体を看破するか。


「おう! 我はマリソリア・ニーズヘッグ!

 人間名はマリストリア・ニールズヘルグじゃ!

 ケントの盾なのじゃ! よろしくしてたも!」


 恐れ知らずのその名乗りにベヒモスがグルグルと喉を鳴らす。


「ぐはは。ニーズヘッグの末娘であろう。

 お前の祖父殿が嘆いておったわ」

「おじじが? 何と言っておったのじゃ?」


 マリスがコテリと首を傾ける。


「住処を出て人間に加担しておるらしいとな」

「加担などしておらぬわ。ケントの元で修行中じゃ!」


 マリスはプリプリ怒ってみせるが、ベヒモスには通じない。


「ふむ。ケントとやらが其方を外に連れ出したか」


 ジロリと俺は睨まれるが、強烈な威圧をサラリと躱して微笑んでおく。


「いや、俺じゃないよ……な?」

「そうじゃのう。最初はトリシアじゃな」


 ニンマリと笑いながらマリスはトリシアに振り返る。

 トリシアは「バカ! 話しを振るな」と言わんばかりの迷惑そうな顔をしたが、ベヒモスとリヴァイアサンの前に出てくる。


「お初にお目にかかる、いにしえの古代竜たちよ。

 私はファルエンケールがエルフの一人、トリシア・アリ・エンティル。

 魔をあやつりし野伏レンジャーである。見知りおけ」


 二匹のドラゴンが目を細める。


「グランドーラに挑んだ者たちの筆頭だったか。

 話は聞いている。人類種ながら天晴な心意気。

 覚えておこう」


 リヴァイアサンが優しい声でそう言い、トリシアが少し安堵したように肩から力を抜いた。


 何やら自己紹介的流れができている。


 それぞれの仲間たちが名乗りを上げる事になった。


「ハリス・クリンガム……ケントの……影にして……隠された……刃……」


 なんか名乗りが格好いいですね、ハリスの兄貴。厨二病的センスを感じます。


「アナベル・エレン! 戦神マリオン神さまの信徒にして、アースラ神さまの孫弟子なのですよ!」


 その孫弟子って必須事項なの? まあいいけどさ。


「我はフラウロス。カリスに連れられし魔族が一人。炎と剣の使い手」


 豹顔で堂々としたものです。最近はその剣を使うことがあまりない気がしますが、アモンの所為ですかね。彼の十八番ですからな。


「私はアモン。カリス様の四天王が一人、武の体現者。新しき主、ケントさまの執事でございます」


 アモンは剣を抜き、手短に剣舞のようなものを披露した。

 剣舞か。かなり格好いいですなぁ。俺もああいうのした方が良かったか? 出来ないけど。


「妾はアラクネイア。カリス様の四天王の一人。美の体現者として作られました」


 貴婦人らしくスカートの裾をつまんで、お辞儀をするアラクネイア。

 美の体現者だけあって、非常に洗練された美しい仕草だった。


 それにしても、魔族たち三人は、この二匹の古代竜よりも前にカリスによって生み出された歴史の生き字引的存在なんだよな。

 ティエルローゼが作られる前に地球に召喚されていたらしいし。


 人魔大戦などの話からもティエルローゼが四万年以上前から存在しているはずなのは間違いないのに、一万数千年前の地球に直接召喚されているという矛盾にお気づきだろうか?


 俺はこの問題に早くから気づいていたんだけど、アースラやセイファードなどの例から、時間はあまり重要ではないと最近は思っている。


 時空の繋がりが不安定な所為でもあると思う。

 なので、地球やティエルローゼのどの時間軸と繋がって転生したのかはバラバラで曖昧なのだろう。


 ドーンヴァースと繋がったのも偶然なのかもしれない。

 そのあたりの謎は、追々調べたいと思う。

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