第24章 ── 第27話
さて、大神殿内にまだ、多数の光点が残っている。
これらを排除することは容易い。
順次、光点を潰しつつ、外の街にいる法国民の処理について考える。
現在、残存人口はおよそ三〇万人ほどいるようだ。
これらを一人ずつ処理するのは現実的ではない。
エンシェント・ドラゴンならブレス攻撃で大量に処理できるんだろうけど……
とはいってもリヴァイアサンに出馬してもらっては恩を売ることができそうにない。
ヤマタノオロチも好感度アップは成功しているし、秩序勢に加担するエンシェント・ドラゴンとは好を結んでおくに越したことはないだろね。
基本的にドラゴン種は中立だとマリスから聞いている。
秩序勢に従属しているドラゴンは稀有な存在なのだ。
西のセイリュウ、ヤマタノオロチ。
そして海の守護者リヴァイアサン。
彼女によれば、ベヒモスも秩序勢らしい。
マリスの種族であるニーズヘッグや、エンセランスの属するファフニールは中立勢だ。
他の種族もごまんといるんだろうけど……
俺は頭を振り現実的に考えることにする。
基本戦闘で近接および遠距離における広範囲スキル攻撃では、一度の攻撃で多くても数百人程度の排除しかできない。
それらを連発したとしても、殺傷数はたかが知れたものだ。
一〇万人単位の群衆を相手には時間が掛かりすぎる。
となると魔法による攻撃しかないだろう。
しかし、そんな大規模破壊用魔法なんてあったっけ?
ドーンヴァースにおける最強の範囲攻撃魔法は
どちらの魔法属性もレベル一〇ないと覚えることはできない。
これが使えれば非常に楽に掃討できたんだろうけど、俺の土属性魔法は現在レベル7だ。
足りないな。
隕石を虚空へ召喚する手順が土属性の魔法が必要な条件なのだろう。
その隕石が地上へ落ちてくる時に火属性によって爆発的なダメージを追加するってのがドーンヴァースの
現実的じゃないか。
いや……
考えてみると、現実世界の隕石落下って、自然現象じゃんか。
普通にあるアステロイドを引っ張って来れられれば、ただ落とすだけで壊滅的なんじゃねぇか?
惑星引力圏外の小惑星を魔法で何とか引っ張ってきて……
ティエルローゼの引力で徐々に加速……
そしてお誂え向きに二つある月でのスイングバイ……
十分な加速が付いた所で、強引に大気圏に引っ張り込めれば……
大マップ画面を最大縮小して隕石に使えそうな丁度よい大きさの小惑星を探す。
大マップ画面はティエルローゼの惑星系近辺の宇宙空間まで表示できた。
この機能は非常に助かる。白金貨二枚程度では申し訳ないほどだね。
では「小惑星」で検索してみよう。
ズトトトと大量のピンがマップ上に突き立っていく。
お、凄い数あるねぇ。
この惑星系はティエルローゼ本星の他に二つの月、ザバラスとシエラトが存在する。
その更に外側の軌道上に小惑星帯が存在していた。
これなら手頃な大きさの小惑星の一つや二つは見つかりそうだね。
それにしてもこの小惑星の量を考えると、昔もう一つくらい大きい月が存在していたのかも。
俺はさらに検索の条件を追加して小惑星を絞り込んでいく。
よし、この二つを使おうか。
残った二つの比較的小さい小惑星のデータをマップ画面で確認し、頭の中で必死に計算する。
大きさと隕石の素材や密度、地上に落ちてきた時の運動量と衝突エネルギー……
多岐にわたるパラメータから、俺の使える魔法で
俺がニヤリと笑ったのを見た女性陣がヒソヒソと話しているのが聞こえた。
「笑ったのう」
「ああ、何か策でも思いついたようだな」
「主様は時々、背筋が凍るような素敵な笑顔になります」
「アラネアちゃん! あの笑顔をモノにするのです!」
何を騒いでいるんだコイツらは。
「我が主よ。良い思案でも考えつかれましたか」
「ああ、外の連中を一網打尽にする効率の良い方法を考えていたんだけど、何とかなりそうだ」
フラウロスに聞かれて少し黒い笑いで答えた。
「楽しそうな方策のようですな」
「ま、科学実験みたいなもんだからね」
「科学ですか。青い世界で我らが教えた些細な知識にそんな名前を付けていた者がおりましたね」
アモンよ……お前らがアヌンナキだったのか……?
突然現れたシュメールの高度な科学知識が現実世界では長年謎とされてきたんだけど、召喚魔族が関わっていたのだろうか?
夢のある話だけど、実際はどうなのか解かんねぇな。
当時では高度だったんだろうが、現実世界の現時点の科学知識は魔族が伝えたかもしれない知識の比じゃないからな。
ただ、本当に基礎的な科学知識を魔族が人間に教えたんだとしたら、それは非常にありがたい事だったと思う。
魔法もない現実世界に科学文明の芽を植え付けたのは魔族だったということになる。
地球への再臨を熱望したカリスたちと魔族は、人間を本当に好きだったのかもしれない。
でなければ、プロメテウスのように人間に火の使い方など教えなかっただろうから。
その科学の芽がぐんぐん育って、枝葉を広げものすごい大樹に成長したからこそ、現代の地球があるのだ。
もっとも、核兵器なんてとんでもない技術を作り出したりしたけど、それは魔族の責任じゃない。
科学を平和利用できなかった人間の
今回、その核に匹敵する
失敗してティエルローゼに深い傷を負わせたら、神々が黙っていないだろうしね。
俺の算定した小惑星が法国の首都に落ちた場合、直径にして二〇キロメートル四方は跡形もなく吹き飛ぶ。
大気に巻き上げられる噴煙が周囲の国々に影響を与えるのは目に見えている。
これを「
複雑な魔法行使の手順や計算なども必要なので、この世界の住人では絶対に使うことはできない。
俺だけが行使できればいい技術だから後世に伝える必要はないしな。
多分、消費MPは八〇〇〇を超えるだろう。
イルシスの加護がなかったら大変なことになるところだったよ。
加護を貰っておいて助かったな。
大神殿内の掃討が終了し、俺たちは大神殿の中庭から飛行自動車二号で海上へと脱出する。
飛行自動車を見つけたリヴァイアサンが鎌首をもたげた。
念話が掛かってきた。
「はい、もしもし?」
「ケントよ。まだ滅ぼし終わっておらんぞ?」
「ああ、これから滅ぼす魔法を使うんで、海の上に避難してきただけだよ」
「ほう。魔法か。あれを滅ぼせる魔法を、其方は知っておるというのか」
「ああ、少し時間掛かるけど、もう少し待ってくれるか?」
リヴァイアサンは港の方に顔を戻して頷く。
「構わぬ。お手並み拝見しよう」
では、遠慮なく。
俺は少し前にフラウロスから片手間に教えてもらった重力系の魔法の呪文を再構成して、小惑星を牽引する魔法を作る。
「
非常に長い呪文だが、距離が宇宙空間まで及ぶんだから仕方ない。
その代わり、小惑星をゆっくりながら自由自在に牽引することができる。
俺は大マップ画面で確認しつつ、上手く小惑星を操る。
ちなみに、このマップ画面でゆっくりなだけで、現実的には時速数万キロって速度だからね。
一度スイング・バイさせた方が運動量が稼げるので、隕石が地表に落ちてくるまで、およそ数時間掛かる計算だ。
「一体、何が起こるんだ? 魔法は使ったようだが、何も起きていないぞ?」
運転席の後ろからトリシアが不安げに顔を覗かせる。
「ま、我らの想像を超えるとんでもない魔法に違いないのじゃ」
マリスが何故か得意げに答えている。
「んー。事が起こるのは今から……三時間くらい後かな。
それまでゆっくりしててよ」
「効果が現れるのにそれほど掛かる魔法なのです?
伝承に聞く蘇生魔法の行使のようです」
ほう。蘇生魔法はそんなに効果が現れるまで時間が掛かるんですか、アナベルさん。
蘇生魔法が使えたら、万が一仲間が死亡しても助けられるんだけどな。
アナベルはまだ使えないっぽい言い草だな。
「アナベルは、そろそろ覚えられるんじゃないのか?
もうかなりのレベルだろ?」
「無理ですよ? 蘇生魔法は儀式魔法と伝わってますし。
私、一人の魔力ではとても賄いきれません」
ふむ。イルシスの加護でも受ければ行けるんじゃないか?
ま、マリオン信者だからイルシス教に改宗するはずもないから無理か。
神の加護がそうホイホイ与えられるわけもないし、現実的じゃないな。
しばらく雑談しながら隕石の到着を待つ。
お、そろそろ来るな!
マップ画面の尺度を変えつつ、やってくる小惑星を確認する。
フロントガラスから上空を見上げる。
空に掛かる雲がオレンジ色に染まっているのが見えた。
「来るぞ」
俺がそう言うと、仲間たちが窓から俺の見る方を見た。
「な……何だ……あれは……!?」
「昼なのに空が染まる……だと?」
「おー、我の言ったとおりじゃな! 想像を越えた事が起きておるようじゃ!」
「ほへー、綺麗な橙色なのです!」
仲間たちは大興奮です。
「おお……これぞ神の一撃です!」
「流石は我が主、創造と破壊の神のみが使えるという伝説の力をお使いになられるとは」
「ふふ。二人とも、主様を侮り過ぎですよ。当然の御力です」
魔族連が何やら嬉しげなのが気になるが、「
早すぎても遅すぎても駄目だ。
まだだ……
大気との摩擦で猛烈に表面を焼いて隕石が落下してくる。
それは強烈な光を放ちながら一直線に地表へ向かう。
まだ……よし、今だ!
「
地表に落ちるか落ちないかという刹那、隕石は破壊不可能な絶対障壁に地表共々覆われた。
その瞬間、猛烈な閃光が周囲を包み込んだ。
さすがの俺もあまりの強烈な光に目を閉じるしかなかった。
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