第24章 ── 第26話

「はははっ! 任せな!」


 最初に飛び出したのはアナベルだ。


 先日、最前線に参加することを許したが、まだ許されていると思っている気がする。

 ここのところ、神官的な役割ばかりで鬱屈しているのかもしれない。


「おらっ!」


 アナベルは強烈なステップで前進し、ウォーハンマーを敵の一人にお見舞いする。


──ギン!


 アダマンチウム製の巨大ハンマーの攻撃を、敵は辛うじて受け流した。


 ほう……中々やるね。


 青いオーラを纏った護衛神官は、受け流しには成功したものの、強烈なノックバックで態勢を崩した。


「もらったぁ!」


 すかさず追撃をかけようとしたアナベルだったが、何かを感知したように身体を後方に反らせた。

 アナベルの上半身のあった場所に赤いオーラを纏ったハルバートの穂先が通り過ぎる。


「ぬう! これを避けるか!?」

「そんな攻撃、当たらないよ」


 アナベルはかなり余裕らしい。


 仲間たちも手出しをせずに見守っている。

 あまり戦闘での技量を見せる機会のなかった彼女に花を持たせるつもりかな?


「ハルバートの使い方がなってねぇ。

 ハルバートはこう使うんだ」


 アナベルはウォーハンマーをハルバートを使う要領で戦い始める。


 ハンマーヘッドで一人を牽制し、長い柄の部分で反対側の一人の足を払う。

 ぐるりとハンマーヘッドが足を払われた敵に戻ってきた途端に頭を叩き潰そうと軌道を変えた。


 地べたに膝をついていた敵は、あわやというタイミングで黄色いオーラを纏ったハルバートでウォーハンマーを止めようと閂に構えた。


 アナベルはニッと笑うとそのままハンマーヘッドを叩きつけた。


「うがぁ!?」


 土の槍斧で受けたのはいいが……

 受けきれずに腕が折れたようだ。


 すげぇ痛そう……


 普通のウォーハンマー程度ならいけた防衛行動だっただろうが、アダマンチウム製だからね。

 重さが通常とは全く違う。


「おのれ! よくもジーンを!」


 え!?

 じゃあ、お前さんはデニムさん!?

 ついでにあっちはスレンダーか!?


 緑のオーラを纏うハルバートの男が叫んだ内容に伝説のロボットアニメのいちシーンを思い描いてしまった。


「ジーンは任せろ。お前はあの女を止めておけ!」


 炎のハルバートの男が腰のポーチに手をやりつつ、腕をへし折られたジーンとやらの救援に向かった。


 ポーションを飲ませるつもりかな?


魔力消散ディスペル・マジック


 俺はポーションが入っているらしいポーチの中に魔法を打ち込む。

 俺の魔力消散ディスペル・マジックは、ポーションにも有効なんだよね。

 普通、ドーンヴァースでは、この魔法をそういう使い方ができない仕様だが、ここはティエルローゼなので制限はない。

 錬金ポーションは化学っぽい所も多いが、最終的に魔力を注ぎ込んで作られるので、魔法による結合を消散させてしまうと効力が失われるのだ。


 炎のハルバートの男は取り出したポーションを腕の折れた男に飲ませた。

 ジーンも貪るように飲んだが、腕の骨折は全く治らない。


「こ、効果がありません! ベンゼル殿!」

「馬鹿な!?」


 そのやり取りを見ていたトリシアが顔をそむけ吹き出した。


「怖い怖い。ケントを敵に回すと、回復すらまともにさせてもらえんとはな」

「再生能力がない人間じゃと致命的じゃな」


 トリシアとマリスのやり取りにハリスは肩を竦める。


「主様に武器を向けた以上、当然の報いです」

「全くですよ、アラネア。もっと痛めつけてやるといいと私も思います」

「あれ以上痛めつけると死にまするぞ。お二人がそれほどお優しいとは我もしりませなんだが」


 魔族連の言い草にマリスやトリシアも振り返る。


「我はコラクスの言い分に賛成じゃな。ケントに武器を向けるものは我の敵じゃ。もっと惨たらしく苦しめてやってもいいじゃろ」


 マリスさん、熾烈です。


「魔族……ドラゴンもか? 主の敵対者に慈悲はないんだな。

 まあ、私もこの国の奴らに慈悲を掛ける気は全くないが」


 トリシアは例の計画第二段階とやらがお気に召さなかったらしい。


 モーリシャスの南はアルテナ大森林の北側に接している。

 ドーガがあの付近で蔓延するということは、ファルエンケールにも影響がでると考えたのかもしれない。


 トリシアの所属するファルエンケールにとってアルテナ大森林は聖地だ。

 許せるものではないのだろう。


「おらぁ!!」

「ぎゃっ!」


 青いハルバートの護衛神官が空中に舞った。


「オルフェス!?」

「脇がお留守だよ!」

「ごふっ!」


 緑のハルバートの男が壁に吹き飛ばされる。


 ぐるぐるとウォーハンマーを回してからアナベルが柄の石突き部分を床の大理石にドスンと突き立てる。


「これじゃ、私たち全員を一分も歓待できないよ」


 アナベルは少々不満げだ。


「信じられぬ……我が国最強の槍斧使いが、こうも容易く……」


 法王モドキがワナワナと震えている。側仕え神官も後ずさる。


「こんなもんか、法国の最強とやらは?

 オーファンラント最強の男の方が、ずっと強かったね。

 もっとも、今のオーファンラント最強はケントだけどね」


 ジーンとやらを必死に治そうとしていた男──ベンゼルって言ったか?──が精悍に立ち上がる。


「我一人となろうとも法王猊下には手出しはさせぬぞ!

 来い!

 四柱最強の槍斧さばきを見せてやる!」


 気を取り直したベンゼルが炎のハルバートを下段に構える。


「そうこなくっちゃな!」


 アナベルが嬉しげにウォーハンマーを構える。


「武技! 柄突旋風槌!」


 猛烈な勢いで柄の石突きがベンゼルに襲いかかった。


「とう!」


 綺麗にハルバートが円を描き、その石突きを払い除けた。


「ははは! 狙い通りだ!」


 アナベルが笑う。


 払われた柄が反対側にくるりと周り、相手の力を上乗せした速度でハンマーヘッドがベンゼルに叩きつけられた。


「う……」


 ベンゼルは呻き声を上げる瞬間に「ぽきょ」と変な音を立てて胸の部分が完全に潰されて吹き飛ばされる。

 口、目、耳、鼻……穴という穴から血が吹き出しつつクルクルと空中を飛んでいって壁に叩きつけられた。


「ひいぃぃぃ!」


 まだ意識のあるジーンが、その光景を見て両手両足をバタバタと動かし、必死にアナベルから距離を取ろうとしている。

 腕がぐしゃぐしゃなのに必死さが尋常じゃない。


 他に抵抗しそうなやつは?


 俺が周囲を見渡していると、ハリスの分身が一人、影から出てきた。


「ケント……戦利品だ……」


 その分身は四本のハルバートを手にしていた。


 ハリスの兄貴わかってるう!


「貰っていいんかな?」

「構わん……だろう……滅ぶ国だ……」


 俺はハリスからハルバートを受け取り満面の笑みになる。


 これは後でどんな魔法が掛かっているのか調べたい。

 太古の技術と今の技術で違いがあるかとか気になるじゃん?


「ま、待て! それは我が法国の秘宝であるぞ!」

「は? 最初に言ったろ。この国の滅亡は決定事項だ。

 神の手の者たるリヴァイアサンからの御下命だし、諦めるんだな」


 俺の処刑宣告に法王ホーンライトが唖然とした顔になる。


「オーファンラントは……リヴァイアサンと手を組んだと……?」

「俺が直々に頼まれただけだ。オーファンラントとは関係ないよ。

 もっとも、こんな麻薬中毒国の人間など、最初から一人も生かしておくつもりはなかったけどな」


 俺はジロリとホーンライトを睨む。


 途端にホーンライトと二人の側仕えが金縛りにあったように動かなくなる。


「ハリス、頼む」

「承知……」


 ふっとハリスが影に消え、法王たち三人の後ろにそれぞれハリスが現れる。


「お前は……俺自らの手で……滅」


 三人のハリスが同じように動き、短刀で三人の首を掻き切った。

 ブシュッと鮮血が飛び散り、白い大理石をあけに染める。


 どうやら法王自身はハリス自ら手に掛けたらしい。

 義理堅いというか何というか。


 こうしてシュノンスケール法国の最高支配者、説法師ホーンライト・ミトランダルは死んだ。


 後はこの地の法国民を殲滅するだけだ。

 これが一番面倒くさい気がする。


 でも手は抜かないよ。

 ドーガ大量生産国の完全滅亡はティエルローゼに必要不可欠だからな!

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