第24章 ── 第25話
悔やんでも仕方ないので、南の地下通路の先に進む。
マップで確認した限り、幾つかの支線はあるものの、通路自体は英雄教の最高神殿とやらに続いている。
そろそろ法王とやらの顔を拝んでおくのも悪くないか。
ただ、魔族がバックにいたワケだし、どんな隠し玉を用意しているか解らないので慎重に行こう。
三〇分近く歩いて、ようやく神殿地下の接続路に到着した。
ドワーフでもあるまいし、首都の真ん中まで堀り抜くとは見上げた根性だな。
通路から出ると円形の部屋で、四方八方に同じような通路が続いている。
最重要施設とやらの地下に続く地下通路なのだろう。
さっきみたいに延々と続く地下通路を想像してウンザリする。
全部が全部、そう長いとは思わないけど、本当にご苦労なこった。
円形の部屋の真ん中には大理石を使った立派な螺旋階段が上に続いている。
天井を見ると、悠々と二階分はありそうなほど高い位置に天井がある。
「あれを登ると最高神殿の地上階っぽいね」
「敵地のど真ん中じゃな」
「腕が鳴るな!」
マリスのワクワク声と、いつの間にかダイアナ・モードのアナベルが舌なめずりをする声が聞こえてきた。
「あんまりはしゃぐなよ。
何が飛び出してくるか解らないからね」
「邪教の神殿だぞ。心置きなく暴れられるだろ!」
まあ、そうなんだが。
この神が実在する世界において、存在しない神を信奉する邪教を潰すのはマリオン教徒にとっては聖戦なのかもしれない。
「よし、何が起きても大丈夫なように俺が支援に回る。
ダイアナは好きに暴れていいよ」
アナベルは太陽のような笑顔で飛び跳ねた。
「話がわかるな! よし、お礼に後でコイツを揉ませてやろう!」
アナベルはたわわなおっぱいを下から手でゆさゆさと揺らす。
いえ、申し出は大変うれしいのですが、マリスとトリシアの視線が痛いので遠慮しておきます。
なぜかアラクネイアも自分の大きな胸を見下ろしながらアナベルのようにゆさゆさ揺らして首を傾げております。
非常に眼福なのですが。
はしたないので、貴女はそういうのを真似てはいけません。
「とにかく! 無理は禁物!
全員、俺の目が届く範囲で行動するように!」
鼻血が出そうなので視線を螺旋階段の上に移して言い放つ。
「「「了解!」」」
螺旋階段を登り上の広間へと出た。
広間の北と南に大きな扉がある。
人影はない。
マップ画面を見ると、南北ともに扉の外側に警備しているらしい赤い光点が二つずつ表示されている。
目的地は北だろう。
北には巨大な礼拝堂のような構造がある。
立体表示してみると、高さ二〇メートルはあろう戦士の石像がある。
巨大なシンノスケ像なのだろうが……
剣や鎧は俺が見た
あれではシンノスケを崇めているのか解ったものじゃないね。
戦闘隊列を維持したまま進み、マリスが北の扉に手を掛けて開け放つ。
直ぐに警備していた神官戦士がハルバートを交差させて誰何してきた。
「許可なく神殿内に入ることはできません」
「あー、グレッグ・ミドランダル様に言われてきたんだが……」
俺がそう言うと神官戦士たちは怪訝な顔をする。
「太子様は今日は面会はないと仰せでしたが?」
「えーと、計画の第二段階の指示書を取りに来るように言われたんだけどな」
俺はグレッグの満足そうな顔を思い出す。
明日の朝一だとは言われたけどね。
アモンが電光石火で細剣を抜き、ほぼ同時に突きを二発放った。
突きは正確に神官戦士二人の喉を貫いた。
「あ! コラクス、ずるいぞ!」
アナベルがお怒りですよ、コラクスさん。
「何たる不敬。主様にいつまでも武器を向けているのは許せません」
あ、こっちはこっちで静かに怒ってた。
崩れ落ちる神官戦士をハリスの分身が静かに後ろから支えた。
「おい……やるなら……一言……云え……」
神官戦士が倒れこむのを防いだハリスもご立腹です。
ハリスが分身を出さなかったら、神官戦士の装備しているブレストプレートが大理石の床にぶち当たって盛大に音を立ててただろうね。
「お前ら、いい加減に落ち着け。ここは敵地だぞ」
トリシアがイライラしたような声を出す。
久々に緊張感のある潜入作戦に皆ピリピリしてるんですかね?
「はいはい、そこまでね。みんな静かに。先に進むよ」
そういうと、みんなは静かに隊列を組み直す。
ハリスの分身は例のごとく、影に死体ごと沈み込んでいった。
比較的広めの廊下をずんずんと進む。
これだけ大きな神殿だというのに神官の姿が全く見えない。
廊下の左右にある扉の向こうの部屋にもいないようだ。
それでも時々部屋の中に光点はあるので、無人状態というワケでも無さそう。
ようやく礼拝堂らしき巨大な部屋へ到達した。
入り口に警備の神官戦士はいたが、ハリスとアモンによって瞬時に無力化され闇に葬られてしまう。
早業もここに極まれりって感じですな。
マリスが得意げに礼拝堂の扉を開け放った。
目に飛び込んできたのは、さっき立体映像で見た巨大像だ。
マップ画面で見るのと、実際に目の前にするのでは驚きが違う。
なんか、日本のどっかで見た巨大観音像みたいだな。
総大理石の巨大像なんて、建築費用一体いくら掛かってんだ?
こんな所に国の金を大量につぎ込むなんて、頭痛くなる所業だな。
これもドーガ目当てのお布施が大量にあったお陰なんだろうけど、見るに堪えないね。
視線を巨大像の足元に移すと、四人の護衛神官、二名のお付きの神官を従えた豪華なローブの白髪の男が像に向かって跪いているのが見えた。
「あれが法王かな?」
俺はマップ画面の光点をクリックして確認してみる。
『ホーンライト・ミドランダル
職業:説法師、レベル:二二
英雄教法王を自称する説法師。
言葉巧みでカリスマ性に富む』
む? 法王じゃねぇの?
ああ、そうか。
ニセの神の信奉者だから神官じゃないんだよな。
なるほど、だから説法師なのか。
説法師って戦闘職じゃないよな?
一般職なのかね?
色々考えている内に、護衛や側仕えの神官モドキどもが俺たちに気づいた。
「法王様、なにやら怪しげな者たちが……」
一心不乱に巨大石像に祈っていたエセ法王がくるりとこちらに振り向いた。
威厳たっぷりの白い髭に大きな金糸で刺繍がビッシリの背の高い帽子をかぶった老人だった。
「あやつらは何者だ?」
エセ法王の言葉に四人の護衛神官モドキが素早く動き出す。
「許可の無いものが、何故礼拝堂にいるのか!? 警備の神官戦士どもは何をしている!?」
外にいるはずの神官戦士モドキどもに聞こえるように大声を出しているが、聞こえるはずはない。
ハリスの分身に闇に葬られてるからな。
返事がない事に警戒色を強めた護衛神官二人がハルバートを構えて法王モドキを護るように展開する。
「どうも、みなさん。
俺はオーファンラント王国の使者。ケント・クサナギ・デ・トリエン辺境伯と申します」
俺は貴族さながらの優雅な礼をしてみせる。
「ケント・クサナギ……? 辺境伯……?」
法王モドキが俺の名前を復唱するように囁くのが聞き耳スキルで聞こえた。
「この度の戦争の決着を付けに参りましたよ。
本当なら降伏勧告から入るところですが、皆さまには全員死んでもらうことになりました」
俺がそういうと、護衛神官も側仕え神官も法王モドキに顔を向ける。
「ははは。何を申すか、この邪教徒どもめが。
四〇〇と有余年、ようやく我れら最高神様の意趣返しに対し、死の宣告とはな」
どう見ても戦闘専門職である冒険者姿の俺らを相手に余裕綽々なのが気に入らない。
「死ぬのは其方らだ。オーファンラントよりも先にあの世へ送ってやろう。
やれ! 我が護衛神官よ!」
「「「「はっ!」」」」
法王モドキの号令に勢いよく返事をした護衛神官モドキどもが前に進み出る。
「炎よ!」
「風よ!」
「水よ!」
「土よ!」
四人がそれぞれ別のコマンドワードを唱えると、各々のハルバートがそれぞれの属性のオーラを纏い始める。
あらら。四大元素系の武器ですか。珍しい。
「ふふふ。これらは我が家系に太古より受け継がれし伝説の武器。ティエルローゼ広しと云えど、この伝説の槍斧使い四名に勝てる者などおらぬぞ?」
ふむ。
どうやらティエルローゼという惑星の黎明期に作られた武器らしい。
それが事実だとしたら神器だと思うんだが……本物ならだけど……
サクッとぬっころして、俺のコレクションにしちゃおうか?
そのくらいのボーナスもらってもリカルド陛下は怒らないよね?
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