第24章 ── 第23話
この研究所とやらは、倉庫の影になっていてリヴァイアサンからは見えなかったようだ。
三次元マップで地下があるらしい事が確認できているが、外から見たら平屋の地味な建物にしか見えない。
そんな建物を警護する衛兵は、どうみても先日の法国兵のような一般人ではない。
武装はプレートメイルに槍や剣、ハルバートなどで、先日戦った法国の軍隊よりも良い装備だ。
一体、何から守っているのだろうね?
五〇人ばかりではリヴァイアサンからは守れないだろうし。
衛兵たちは倉庫の影から走り出た俺たちに気付くのが遅れた。
倉庫の向こうの港あたりで巨大な古代竜が暴れているんだから、そっちに注意が向いているのは当たり前だとは思うけどね。
俺は走りながら無詠唱の「
バタバタと眠りにつく衛兵たち。
眠りを免れた数人はトリシアのライフルによって一瞬で眉間を撃ち抜かれていく。
マリスとアモンが無防備に眠りに落ちた兵士の喉を素早く切り裂いてく。
ハリスが骸と化した衛兵を影に引きずり込む。
ものの一分も掛からず警護任務に付いていた一小隊が消えた。
既にハリスの分身の一体が、研究所正面入口に取り付いている。
「罠は……ない……」
いつの間にか鍵開けスキルをモノにしていたハリスが、扉の錠前を外しつつニヤリと笑った。
早業ですなぁ。
俺はマップ画面を確認し、扉の向こうに敵がいないのを見て頷く。
「いいぞ。開けろ」
空いた入り口から素早く建物内に侵入する。
「何だこりゃ?」
入った先は木箱が所狭しと積み上げられた薄暗い倉庫だった。
ご立派な建物の正面入口が倉庫だと?
怪訝に思いながらも木箱の一つを開けて中を確認してみる。
木箱の中は小ビンがビッシリと入っていた。
あー、そういう事か。
俺は瓶の一本を取り出し魔法で鑑定する。
うむ。間違いない。
「なるほど……ここはドーガ倉庫だな」
俺がそう言うと仲間たちが嫌な顔をする。
法律で禁止されてる麻薬が倉庫にビッシリとあるんだからねぇ……ワカランでもない。
俺はマップを確認する。
奥に少し大きめの昇降機があるようだ。
その横には階段があって、地下に繋がっている。
地下は全部で三階分あり、光点が一〇〇人分ほど忙しそうに動き回っているのが確認できる。
多分、ここ……ドーガ製造工場だわ……
この研究所とやらは破壊決定。
ここに詰めている光点はドーガの作成に手を染めている錬金術師たちに違いない。
一人でも逃がすと逃げた先でまたドーガを作りかねないと判断する。
俺はマップ画面で施設の構造を事細かに調べ上げる。
地下一階は製造工場だろう。
地下二階は職員の居住区画とか原材料保管庫っぽい気がする。
そして地下三階は、なんか鉱山っぽいんだよな。
網の目のように地下坑道が広がっている。
露天掘りの鉱山をドーガ工場に転換したのかね?
にしても、地下坑道らしき所にも忙しそうに動く光点が見えるんだが。
「よし、地下に進もう。
ハリス、分身を二~三人、この建物の出入り口の見張りに立ててくれるか?」
「了解……」
見張りの分身を残して地下への階段を降りる。
案の定、地下一階はドーガ製造工場だ。
俺たちが降りてきたというのに、ガン無視で作業に没頭するローブ姿の作業員たち。
ま、関係者以外、絶対に立ち入れない場所に堂々と来てる段階で、関係者だと勘違いされているんだろうな。
俺は急ぎ足で俺の前を通り過ぎようとした男に声を掛けた。
「おい。どうなってる?」
突然、声を掛けられて男は目を瞬かせつつ足を止めた。
「えっと……何ですか?」
「外の喧騒はここにも届いてるはずだろう」
「え? 確かに地震かと思うような揺れはありましたが……」
男は「あの程度の揺れで作業を止めてはどんな罰を与えられるか解ったもんじゃない」と苦笑いする。
俺も話を合わせて笑っておく。
「住民の大半が焼かれてしまって、俺たちも危なかった」
「さすがの私らも地下に逃げざるを得なかったな」
トリシアも俺の意図に気づいて話を合わせてくる。
「貴方たち、オーファンラントに潜入してた密偵部隊でしょう? よく船で帰ってこれましたね」
「ああ、
その言葉で男は納得したらしい。
「なるほど。例の潜入作戦は上手く行ったみたいですね」
男は俺たちを密偵部隊と勝手に認識してくれたようだ。
「ああ、モーリシャスの商船を拿捕して帰ってきたんだ」
「お疲れでしたね。二階の休憩所で休んで来られたらどうです?」
「そうしたい所だが……」
俺がどう返答しようかと少し言葉を濁すと、男はニカッと笑った。
「大丈夫です。もう第二段のドーガは用意済みです。一階に山積みでしたでしょう?」
「ああ、もう用意できたのか。しかし、海路で運ぶのは不可能だぞ?
俺たちだけではあの量は運べない」
男は首を傾げた。
「グーシオン様が魔法で運ぶとか聞いてますけど?」
「マジか。前線にグーシオン様が出向いているのか?」
「モーリシャス方面に行ってらしたようですし、知らされていなかったのでしょうね」
どうやら俺がゴーレム部隊などを派遣したため、アルバランでの戦闘が思いの外長引いた事をドーガ製造工場の人員は知らないらしい。ついでにグーシオンが負けた事も。
「なるほどね。なら安心だな。
次の指令が出るまで、少々休憩させてもらおうかな。
外の街じゃ命が幾つ合っても足りないからな」
男は頷いた。
「あの古代竜、三日も前から断続的に襲ってきているようですけど、こちらには見向きもしてないようで。この分だと、これからも大丈夫でしょう」
そういって男は足早に歩いていった。
ここの職員は外の状況を全く見てないに違いない。
オーファンラントとの戦争が始まってから、ずっとドーガ作りに精を出していると見た。
俺たちは地下二階へと向かった。
「随分と簡単に私たちを仲間だと思ったようだが……」
「あれだけの兵士に守られていたんだ。
敵対者が入ってくるなんて思ってないんだろうね。
おまけに地上はリヴァイアサンで火の海だったしな」
ぞろぞろと地下二階に降りてきた俺たちだが、やっぱり地下二階の連中も俺たちを全く怪しんでいない。
「休憩所はどこかな?」
「あ、そこの角を曲がった突き当りですよ」
通り過がりに聞くと簡単に教えてくれるんだから困ったものだ。
教えられた休憩所に行くと、広い空間にテーブルと椅子がたくさん並べられており、手の空いた者が食事や休憩をする姿が見て取れる。
マジで社員食堂っぽいな。
俺たちはテーブル一つを陣取って、個々別々に飲み物などを失敬してくる。
そして周りのお喋りなどに耳を傾ける。
「おい、第二製造工程の作業が遅れ気味だぞ」
「ああ、それは目処が立っている」
とか
「随分静かになったようだ」
「上の戦況はどうなっているんだろうな?」
などと聞こえてくる。
そんな中、どうみても職員ではない俺たちに興味を持った奴が話しかけてきた。
「冒険者みたいな格好だな。
潜入部隊か?」
「ああ、そうだ。ついさっき帰ってきたんだが、あのデカイのは何なんだ?
首都が丸焼けだぞ?」
「さあな。
一ヶ月以上前から、アイツの所為で海路は壊滅状態らしいな」
どうもこの施設の職員は、外の騒ぎにあまり関心はないようだ。
それと、この施設の職員の待遇は非常に良いように見える。
捕虜からは食糧難だと聞いていたのに、ここで提供されている食料などは非常に美味そうだし、ちゃんとした量が出されている。
ドーガ中毒患者のような目の色もしていない所を見ると、特権階級に属する奴らなのかもしれない。
「どこに潜入してたんだ?」
「モーリシャスだ」
「おお、ではあの計画は上手く行ったんだな?」
男が嬉しげにニヤけた。
「ああ、お陰様でな」
どの計画だ?
モーリシャスでも何か起きているみたいだな。
男はニヤニヤしながら計画の第二段階について話し始めた。
どうやら、この男が立案者らしい。
情報は力だ。
話しを合わせて、今モーリシャスで進行している計画とやらを上手く聞き出しておくとしよう。
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