第24章 ── 第21話
国境を越えた辺りから大マップ画面と並行して、車体下部モニタの映像を注意深く見ておく。
一応、シュノンスケールと法国を結ぶ街道を辿るように飛行自動車の飛行経路を調整する。
この街道から敵軍が侵入したようなので、後続の敵軍などを警戒する意味もあるのだ。
もし後続の軍隊がいた場合、俺たちで対処しておかねばならない。
戦前、王国と法国の国境には、入国管理所のような建物があったはずだが、綺麗サッパリ破壊されて跡形もなかった。
その後も街道を監視しているが、敵軍の姿は確認できなかった。
普通なら軍隊への補給品を載せた馬車の列などが見られても良いのだが。
数十万人を導入した侵略軍だったはずなんだけど、捨て駒にでもするつもりだったのかしら?
数十万の軍勢を動かすとすると、大量の物資が必要となる。
こういった補給物資、いわゆる兵站が確立されていない戦争は必ず負ける。
これは第二次大戦時の日本を見れば容易に解るはずだ。
戦闘の結果ではなく餓死や病死による軍隊の消耗で数万人が簡単に死んでしまうのだ。
それなのに、そういった兵站を担う補給部隊が全く見られないなど、負けるのを前提に開戦したとしか思えない。
勝つ気のない軍事作戦に、王国の精鋭部隊があれだけ手こずったとするとジャンキー軍は侮れない。
しばらく法国の上空を飛んで解ったことだが、国土の七割が農業に従事する土地のようだ。
二割が森林、そして一割が都市などの人が住んでいる場所だ。
見渡す限り耕作地なのだが、これが酷い。
殆どか荒廃していて、作物など全く育っていないようだ。
一体、法国国内で何が起きていたのだろうか?
敵の工作員たちの証言から、食料などが不足したのが攻め込んできた理由だと言っていたが、そんな生易しい状態じゃないだろう。
日本でも江戸時代とかの記録にある大飢饉で相当死者が出たそうだが……
ティエルローゼの大陸は惑星の南半球に位置しており、北に向かうほど暖かくなる。
北に位置する法国は、農作物を育てるには適していたはずなのだ。
それでコレだとすると、治癒不可能な植物の病気でも流行ったのかもしれない。
警戒事項として記憶しておこう。
農耕地が荒廃しているとしても、普通なら必死に働く農民の姿が見られるはずだが、コレも全く見られない。
こういった農業地帯の住民も動員された可能性が高い。
街道沿いにある農村も人っ子一人いないんだから不気味極まりないね。
飛行自動車を運転しながら大マップ画面を拡大し、法国全体が表示されるようにしてみる。
目的地の法国の首都は最北の海岸沿いに位置していて海の便は良い。
検索して法国民の光点を表示させてみる。
例外を除けば、ほぼ全ての住人が首都に集められている事が解る。
女子供は首都に集めたのかね?
それなら街道沿いの農村に人が全く見られない理由も納得だ。
軍事疎開が行われたのだろう。
検索した現時点での法国民の件数が画面右下に表示されている。
これが法国の人口になるのだが、残りはおよそ八〇万人。
全人口が先の戦いで数十万人死んでるので、一〇〇万ちょいの人口の国だったってことだろうか。
随分と少ないね。
しかし、その人口が一〇〇人単位でどんどんと減っているのが確認できた。
王国との戦争が別の場所で継続しているのだろうか?
マップ画面で調べてみるが、国境付近に戦闘の形跡は全く確認できない。
法国民は首都に集まっている。そこで何か起きているということだろうか?
まだ、首都は遠いので首都を大きく拡大して調べることができない。
早急に敵の首都へ向かう必要があるかもしれないな。
俺はアクセルを深く踏んで飛行自動車二号の速度を上げた。
途中、法国内でもかなりの大都市の上を通り過ぎる。
規模としてはミンスター公爵が治める都市ドラケンの三分の二ほどだろうか?
現在のトリエンの三倍程度の規模と考えると解りやすいかな。
にしても、やはり人っ子一人見当たらない。
破壊された跡もなく綺麗なものだが、ゴーストタウンといった様相だ。
管理する人間もいないとすると、あっという間にこの見事な都市は崩壊するに違いない。
一〇年持たないだろうね。
これは賠償交渉時に、この都市あたりも割譲させれば、入植させる王国民に手間がなくていいかも。
先の農耕地の荒廃理由などを考えると、入植希望者が来るかは解らないけどね。
でも、あれだけの規模の都市なら三〇万人くらいは住める気がするんだが、推察した法国の全人口を考えると大きすぎない?
一時間ほど飛び、ようやく法国民たちが集まるシュノンスケール法国の首都が前方に見えてくる。
既に八〇万人いた人口は七五万まで減っていた。
大マップ画面を拡大して詳細を調べてみる。
どうやら首都の海岸沿いで戦いが起きているようだ。
他国の海軍とでも戦っているのかと思ったら、そうではないようだ。
巨大な白い光点と無数の赤い光点が戦っていると思われる。
そして、その白い光点によって赤い光点は、どんどんと減っているのだ。
巨大な白い光点をクリックしてみて俺は驚いた。
法国はエンシェント・ドラゴンと戦っていたのだ。
この光点の存在は見覚えがある。
ドワーフたちのハンマール王国に入る直前に検索に引っかかったあの古代竜だよ。
そう……リヴァイアサンだよ……
旧約聖書によれば、冷酷無情、全ての武器を跳ね返し、口から炎を、鼻から煙を吹くという。世界すら簡単に破壊できるほどの危険な怪獣だ。
しかし、このティエルローゼでは海の秩序の番人として海を統括する神に恭順したとか何とかあったな。
その古代竜と法国民が戦っているようだ。
「どうしたのじゃ? 難しい顔をしておるようじゃが?」
俺は眉間に自然と皺が寄っていたようで、マリスが不安げに俺の顔を見つめていた。
「ああ、法国は王国以外とも戦争をしていたみたいだ」
「ほう。あの程度の軍隊しか組織できぬ国とは思えぬ勇猛ぶりだが、その王国以外の対戦国はどこだ?」
トリシアが面白げに会話に口を挟んできたが、全く面白くない存在だ。
「国でも軍隊でもないな……法国のもう一つ、いやもう一匹の相手は……」
「一匹……?」
ハリスが怪訝な顔になる。
「そう、一匹だ。それも敵に回すには人間では少々……いや盛大に無力だろうな」
「まさか、ドラゴンでは? いかに人間が魔獣に無力といっても、軍隊でどうにか出来ないほどの存在はドラゴンくらいしか考えられないのですけど」
アナベルもそう判断するよね?
「その通り」
俺が即座に頷いたのを見て、魔族連も含めて難しい顔になった。
「またドラゴンですか。主様はドラゴンと対峙する機会が多いですね」
可笑しげに笑うアモンだが、あまり歓迎したくないんだが。
「法国の相手だが、ただのドラゴンじゃないぞ? エンシェント・ドラゴンだ」
「おおう! 古代竜なのかや!? アホじゃのう。人間の国が勝てる存在ではないのじゃ」
マリスもビックリです。
「法国はバカの集まりなのか?
それとも意図せずしてエンシェント・ドラゴンの怒りでも買ったのか?
王国も七〇年も前にエンシェント・ドラゴンの怒りを買ったようだが、堅固な砦があっという間に破壊されたんだぞ」
「あー、グランドーラは怒って砦を破壊したんではないのじゃ。遊びじゃ」
ほう。エマを救出したあの砦は遊び程度の力で破壊したのか。
やはりエンシェント・ドラゴンは規格外の破壊力を秘めているようだな。
もしかしたら、ヤマタノオロチは手加減してくれていたのだろうか?
前方の首都の向こうに巨大な爆炎が吹き上がるのを確認したのはその時だ。
いっきに検索件数が二万人分減った。
うへぇ。すげぇ威力。多分、今のはドラゴン・ブレスだよ。
「凄いのう……ブレスの威力が我とは桁違いじゃが……本当に戯れる程度の古代竜なのかや?」
俺はマリスの顔を見て、苦笑を浮かべた。
「いや、ただのエンシェント・ドラゴンじゃないよ。前にマリスが言っていた長老格だ」
「オロチ殿クラスなのかや?」
「そう言っていいだろうね。相手はリヴァイアサンだよ」
マリスの顔が驚きで硬直する。
「ケント、その名は戯れで人間の都市、いや国を攻撃する者の名ではないのじゃ。
法国とやらは、リヴァイアサン殿にどんな怒りを買ったのじゃ?」
リヴァイアサンは海の秩序を守る大魔獣。
何匹か神々に恭順した第一世代の古代竜の一匹。
古代竜種の中でも最強の個体。
マリスは早口でまくし立てるようにリヴァイアサンという存在を仲間たちに聞こえるように説明した。
「そ、それは流石に私にも手に余る相手ですね」
武の化身と自負するアモンも引きつった笑いになる。
フラウロスもアラクネイアも同様だ。
「ケント、どうするんだ? 伝説の古代竜の怒りを買ったとすると、法国に未来はない。
確実に滅ぶぞ」
トリシアの言葉に俺は頷く。
「ああ、その通りだ。
俺たちは法国を降伏させるために来たが、計画は変更せざるを得ないだろう。
法国に未来はないのは確定した。
リヴァイアサンに俺たちが法国の味方だと思われては、オーファンラントすら危ない」
俺は問題の解決方法を考える。
ここはリヴァイアサンに協力して法国の滅亡に手を貸すのが順当ではないだろうか。
しかし、リヴァイアサンにそれを理解させられるだろうか?
どうやって荒ぶる伝説の古代竜と話し合えるのだろう?
しかし、シュノンスケール法国め……
一体全体、何をやらかしたんだ?
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