第24章 ── 第18話
防衛一辺倒だったゴーレム三部隊と都市部隊たちが神々の加護を受け、動きが変わる。瞬く間に攻勢に転じた。
ジワジワと相手の軍勢を潰し始め、圧され気味だった戦線は前進傾向になる。
とりあえずだけど、戦場の危機的状況は何とか払拭できたんではないかな。
俺は仲間たちに前線を任せ、とりあえず国王たちがいる最後方の本陣へと戻る。
「これで、何とか危機は脱したと思います」
陣幕テントの前で戦場を眺めるリカルドたちにそう報告したが、彼らはポカーンとした顔をしているばかり。
「どうかしましたか?」
近衛隊を率いてきたオルドリン近衛団長も呆れた顔だ。
「さすがは辺境伯殿……一瞬で戦場の状況を一変させてしまうとは……」
「ううむ……まさか又もや神がご降臨召されるとはな。余も驚きを通り越しておる」
呆然としたドヴァルスが、何とか口を開く。
「……どうかとか……そんな問題では……」
神々が戦場に降臨するなど、人魔大戦以来あった試しはないという。
「確かに俺もビックリしましたけど」
「辺境伯殿も驚きだが」
ドヴァルスは戦場を指差した。
「あれは一体なんなのだ。巨大な豹が何匹も現れておる。それと……大狼の大群?」
そこかしこにフラウロスが呼び出したであろうグランデ・パンテーラが敵の軍勢に襲いかかり、その間をちょこまかとダイア・ウルフ部隊が動き回っている。
レベル一〇以下の平民部隊には荷が重い相手だろうなぁ……
それが俺の正直な感想。
グランデ・パンテーラ一匹でも一万人程度を普通に相手できる強さですからね。
そして撃ち漏らした敵ごとゴーレム兵たちが戦線を前に押し上げている。
その時、ゾワリと背中に寒気が走った。
俺は瞬間的に近くにいる全ての人間が範囲に入るように
案の定、背後の森から隠密行動をしてきたであろう敵の部隊が姿を現した。
戦線に行く前に、他と違う動きをしている少人数の敵部隊が大マップ画面で確認できてたんだよね。
こんな事だろうと思ってた。
敵の少人数部隊は、魔法の障壁に行く手を阻まれて右往左往している。
「敵が背後から!?」
敵部隊の存在に気づいたドヴァルスが慌てている。
オルドリンは逆で、慌てずに近衛隊を動かし、国王を守るように防衛陣形をとっている。
「ドヴァルス侯爵閣下、慌てずに。
奴らには俺が対処します」
俺は防衛をオルドリンたちに任せて、敵の部隊の方へと向かった。
敵部隊はおよそ二〇人ほどだろうか。
全員が正気の目をしている。
こんな巧妙な作戦はヤク中には無理だからな。
「木々の精霊たるドライアドよ。我らの敵の自由を奪え。
無数の太いトゲトゲの茨が現れて、次々に敵を拘束していく。
以前使った時より、茨が自由自在に動いている気がする。
茨の数も多いし……
茨の触手に捕らえられた敵が無益な抵抗を試みて、必死に剣を持った腕を振り回そうとする。
茨がゾワリと動いて、敵の腕をきつく締め上げる。
ボキリと嫌な音が聞こえてきたのは無視しておこうか……
俺は苦痛に歪めた敵兵の前に立った。
「で、闇討ちは失敗に終わったわけだけど……」
「異教徒に死を!」
異教徒って……神でもないシンノスケ信者が何を言っているのか。
それに、この世界は多神教だ。
他の神の信者を異教徒呼ばわりしていては、丸く収まる物も収まらないんじゃないか?
「いやいや、救世主信者の君たちこそが異端者だろう。神界の神々はシンノスケを神としていないぞ?」
「その神界の神々が我らの救世主様を神として認めない事こそが異端なのだ!」
いや……認めなかったとは聞いてない。
スカウトしたけど断られたって言ってたしな。
救世主信者が勝手にそう推測して勝手に神々を恨んでいるって構図だろうなぁ。
どうして、ここまでねじ曲がっているのやら。
大陸の西側でも、シンノスケは神と扱われてはいなかったけど、神々に準ずる程度に祀られてた。
フソウには神社もあったしね。
しかし、ここまで捻じくれ曲がってはいなかった。
ミンスター公爵の情報では大陸西側全体が東側に恨みを持っているという話だったけど、実際は東側への恨み言など全くといっていいほど聞いたことがない。
大陸の北部の西側諸国あたりが恨みに思っているらしいなんて情報はあったな。
ルクセイドの有力商人たちの話だったけ。
でもコイツらは東側諸国のみでなく、神々まで恨みに思っているらしい。
よく神罰が下らないものだな。
それが正直な感想だ。
麻薬を使った人心掌握までやってる奴らなのにね。
ただただ神々を恨み、東側諸国を恨み続ける彼ら程度では神々は動かないって事だろうか。
俺に関する事には随分と気軽に降臨してきてる気がするけど、こっちは放置ってのが解せぬ。
アースラ曰く、俺は神々の関心の的らしいから、その所為かも。
「ま、君らは麻薬に侵されてないようだし、色々と後で聞かせてもらおうかね。
それまでゆっくりしていってよ」
俺は敵兵を放置して国王たちの元へ戻る。
「辺境伯、すごい魔法ではないか。あの自由に動く茨は貴公が育てているのか? 魔法は育てている茨を召喚できるのだな」
ウネウネ動いている茨を見て、リカルドが妙に食いついてくる。
動き回る茨の触手なんて気味が悪いと思うんだが。
「余は城の庭園に薔薇を育てているのだ。薔薇が動いたら何をしてほしいか解るのだがなぁ」
感慨深げに国王が宣う。
そんな趣味があったとは。
というか、
「いや、あの茨は、俺もどこから来ているのか解らないんですよね。
多分、木の精霊が送ってきているのではないかと思いますが」
ほうほうと国王が相槌を打つ。
「ということは木の精霊に祈れば、植物はよく育ってくれるのであろうか?
薔薇は枯れやすくてな。手入れを怠るとすぐに元気がなくなるのだ」
うーむ。普通に精霊に祈っても言葉は届かない気がする。
トリシアが言うには何らかの特殊能力が必要っぽいんだよね。
俺はにはそんな能力ないはずなんだけど。
つーか、人間を拘束するウネウネする茨を見つめながら、植物談義で和気あいあいしている事態ではないんだが。
「オルドリン子爵閣下。奴らを捕縛願えますか?」
興味深そうな国王を放置して、俺はオルドリンに頼む。
「承知した」
オルドリンは頷くと、近衛隊を指揮して茨に拘束された敵部隊を捕縛しに行った。
「宰相閣下と約束していた魔法を使うことにしましょう」
俺は
これは、ノミデスがリンドヴルムに張っていたヤツと同等のモノといって良い。
だけど、さらに
味方なら自由に出入りできるわけです。
ちなみに、味方の物理、魔法問わず遠距離攻撃も通り抜け可能なので、絶対無敵空間からの狙撃というチート戦闘も可能です。
また、
こういった目標の選定や効果範囲の変更、各機能のオン・オフなどが可能な魔法にした事から、神々か、あるいはイルシスの加護を受けた人間にしか詠唱不可なくらい消費MPが激しいモノになってしまいました。
儀式魔法程度では賄いきれないだろうと思います。
持続的にMPが消費されていく魔法なので、より一層、普通は行使不可能ですなぁ。
ちなみに戦闘で使うには、イルシスの加護ありのエマでも無理じゃないかな。
無詠唱で使えないといけないので。
戦闘中、詠唱に一〇分以上掛かる魔法に使い所はないだろうね。
で、今回は国王を
これでティエルローゼにおいて国王は、ほぼ無敵の状態となったのであった。
俺が魔法を解かない限りはね。
無敵国王リカルドとドヴァルス、オルドリンと共に戦場の推移を見る。
ものの一時間ほどで約半数の敵軍が崩壊した。
「すごいな、オルドリン」
「は。陛下の言う通りです。もう戦争というモノではありませんな」
俺もそう思います。
俺の仲間たちは既に亜神クラス。
それが全力を以て叩き潰しているんだから。
一方的蹂躙としか言いようがないです。
後世、虐殺と言われますかね?
でも、俺に麻薬患者に手加減するほどの慈悲心はありません。
虐殺者の汚名は甘んじて受けます。
あれは不治の病なのです。諦めてくださいな。
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