第24章 ── 第16話

 午後、近衛隊練兵場でアモンたちが訓練と称する模擬戦をやっていたが、アナベルはともかく、オルドリンは惨敗だった。


 アモンの戦闘能力は英雄クラスのオルドリンですら赤子の手を捻るレベルなのだから仕方がない。

 アナベルは勇戦したが、単騎だとまだアモンには到底勝ちようがないみたいです。


 ちなみに、現在の仲間たちのレベル。


 トリシアがブッチギリのレベル九〇。


 マリスはレベル八八の仲間内では二位。


 アナベルはレベル八七です。


 ハリスですが、他の仲間より低いけどレベル八三と八〇となっている。


 ただ、彼は能力値で言うと仲間内ではトップです。反則ですなぁ……

 アナベルはマリオンの加護が付いているので、能力値は高めの第二位でした。

 トリシアは能力値的には第三位ですね。

 マリスは能力値的にはドベですが、ドラゴン化したらレベル一〇〇の人間の能力最大値なんか振り切ってるでしょうから問題ない。


 俺?

 俺は念願の一〇〇レベルになりました。

 能力値も断然トップですよ。三神の加護まで貰ってますからねぇ……


 魔族連もレベルアップしてまして、魔族もレベルアップするんだなと思いました。


 だって大マップ画面のステータス・チェックだとモンスター表示でしたからね。

 今は人間みたいなステータス値が確認できるようになりましたが、もしかすると仲間にするとモンスター表示ではなくなるのかもしれない。


 で、レベルは、フラウロスがレベル七六、アラクネイアがレベル八四、アモンはレベル九六ですね。


 上がり方がバラバラなので、経験値は戦闘経験値だけではないと思われる。

 本当によく解らないシステムだよ。


 夜は王に招かれて王族や貴族たちと晩餐会に出席した。


 その晩餐で今後の事も話し合われたんだが……


「陛下。明日より我々は主戦場となる王国北西へと出向きます。

 ドヴァルス侯爵と合流して戦に決着をつけたいと思います」


 俺がそう言うと、リカルドは頷いた。


「頼む。もう一ヶ月近くも膠着状態になっているのだ。

 兵たちも疲弊しておろう」


 一ヶ月も戦場で敵と対峙している兵は限界に違いないと国王は眉間に皺を寄せた。


 それについては俺も同意する。

 戦場でのプレッシャーやストレスは兵に多大な負担を掛ける。

 精神的に弱った軍は脆く、一点突破などされたら一瞬で負け戦となりかねない。


 今回の戦争は負けてはならない戦争だ。

 麻薬が絡んでいるとなると余計そう思う。


「では、兵たちを鼓舞するためにも陛下、主戦場に一緒に行きませんか?」


 俺が何気に提案すると、フンボルトがガタリと大きな音を立てて立ち上がる。


「な、何を言うのか辺境伯殿!? 陛下に戦場へ参陣せよと申すか!?」


 あ、ゴメンなさい。

 軽い気持ちで言っただけなんで、怒られると思いませんでした。


「失礼しました。

 陛下のお姿と王旗を見たら兵たちも心強く思うのではないかと愚考しただけです」


 俺が言い訳じみた弁明をするとリカルドが静かに手を上げた。


「この王国の危機に王自らが戦場に出向く。

 その光景を貴公たちも思い浮かべてみよ」


 晩餐に参加する貴族たちは少し上を見つめたり、料理を見てグッと眉間に皺を寄せたりしている。

 思い思いに脳裏にそのイメージを浮かべているようだ。


「余は辺境伯の提案を受け入れたいと思う」

「陛下!!」


 王の宣言に宰相たるフンボルトが大きな声を上げる。


「考えても見よ。

 神々の加護篤いクサナギ辺境伯と共に行くのだ。

 命の危険などある由もない。違うか?」


 謹厳な風を装っているが、素はあの子供っぽい国王リカルドのことだ。

 戦場など見たこともないに違いないし、その目でそういう現場に立会いたいってのもあるのではないかしら?


「しかし……万が一という事もあります……」


 フンボルトは心配性だ。


「陛下、口を挟んでもよろしいか?」


 トリシアが王に許可を求める。


「良い。申してみよ」

「ケントの魔法には、神々ですら打ち破る事が難しい範囲型防衛魔法がある。

 陛下はケントと共にいて、その魔法の範囲で観戦されたらいかがか?

 命の危険など微塵もないことは、このトリ・エンティルが保証しよう」


 ニッと悪戯小僧よろしくトリシアは笑う。


 まあ、確かにアレを使うと俺の魔力に勝つほどの強度がある攻撃を仕掛けねば打ち破る事はできない。

 ティエルローゼでそれが出来る存在は古代竜エンシェント・ドラゴン種の成竜クラスじゃなければ、存在しないだろうな。


「ふむ。では、余から命じる。

 ケント・クサナギ・デ・トリエン。その魔法を以て、戦場では護衛せよ」


 どうやら、そういう事になったみたい。

 さすがのフンボルトもトリ・エンティルに言われては口を閉ざすしか無かったようだ。


 トリシアの威光は、このティエルローゼの東側諸国では未だ絶対的な威力があるのだ。

 伝説の冒険者の肩書は伊達じゃないね。




 王城に泊まった翌朝。


 朝に謁見の間まで行くと王の紋章が入った御旗が、何十本も用意されていた。


 夜のうちに、王城の召使いたちに王旗を何十枚も用意させたフンボルトの手腕は凄い。


 色々な所から集めたんだろうけど、何十枚って数は凄いよ。

 王の紋章入りってのは、そんなに数はないはずだからね。


 何せ王の紋章が入ったハンカチを持っていたりしたら、ご落胤と名乗って出られるほどの代物だったりするんだよ。

 本当にやっかいな代物なんだ。


 そう考えてみれば、旗にできるほどの大きさの物を、大きさは大小様々だが、何十枚ってのがどれほど凄いか解るよね?


 悪用されないようにキッチリ管理しているんだろうけど、フンボルト閣下もよくやるよ。


「辺境伯殿、これを貴殿のゴーレムたちに掲げさせるように。

 それと、こちらはトリ・エンティル殿が馬上にて掲げるように」


 一際大きい王旗をフンボルトは指し示す。


「我も掲げるかや?」


 興味深げにマリスが旗を見て回る。


「マリス殿にはこれを盾に被せるように」


 王の紋章入りの大きな布をフンボルトは出してきた。

 布の四隅に金のモール地味た紐が縫い付けてある。


 マリスは無限鞄ホールディング・バッグから大盾を取り出して布を被せて結わえ付ける。


「これでいいかや?」


 フンボルトは神経質っぽく、布のズレを直し、縛り方も少し派手な感じに縛り直す。


「これで良かろう」


 マリスは壁に大盾を立て掛けて見栄えをチェックして満足そうに頷いた。


「辺境伯殿、くれぐれも陛下に危険が及ばぬように尽力してくれ給え」

「御下命、承りました。

 宰相閣下のご心労がこれ以上深まらぬように目を光らせておきますよ」


 俺の言葉にフンボルトが重苦しく頷いた。


 あの悪ガキ風の素のリカルドに散々振り回されてきた宰相だから、心配を尽くしても足りないのだろう。


 しばらくしてリカルドとオルドリン、それから近衛兵一〇名がやってきた。

 全員が完全武装だ。


 陛下の出で立ちは金の装飾でビッシリと彩られたハーフ・プレート・メイル。

 それに赤字に王の紋章、金モールで結えた派手なマントを纏っていた。


 マジで派手ですな、陛下。


「準備は万端のようだな、辺境伯」


 リカルドの表情はピクニックにでも行く前のように晴れやかだ。


 やっぱり、外へ行くのが楽しくて仕方ないようだ。


 王城に閉じ込められてきた者としては当然の反応なのだろうけど、王様としてはどうなのかね?


 俺がプレゼントしたゴーレム・ホースでトリエンまで遊びに来ちゃうレベルの人だからねぇ。


 飛行自動車をプレゼントしてからは、フンボルトとオルドリンを連れて、よくトリエンの館まで遊びに来ているらしいって報告があったし……


 うちの料理を週一で楽しみに来る王様ってのも困ったものです。


「貴族にして貰ってはいますが、冒険者ですからね。

 冒険の準備は万端ですよ」

「そうだろう。冒険者の暮らしも面白そうではないか。のう、ロゲール」


 そう聞かれたフンボルトが大きな溜息と共に首を盛大に振る。


「陛下が冒険者におなりになったら、三日で死亡通知が発行されますぞ。

 冒険者とはそれほどに過酷な職業なのです」


 トリシアがクックと笑う。


「ああ、その通りだ。

 一瞬の気の迷いが仲間を、そして自らをも傷つけ、そして命を奪うのが冒険なのだ。

 陛下稼業すら周りの者に心配を掛けるリカルド陛下では、到底三日も持つまい」


 ひどい言われようにリカルドはむくれるが、文句を言うつもりはないようだ。


「解っておるわ。言ってみただけだ」


 王様のお守りも中々に大変そうだね。

 何十年もやってきたフンボルトの苦労は計り知れない。

 本当にご苦労さまです。

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